表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

薄羽蜉蝣の唄

作者: なと

海の見える裏路地に

能面を被った通り魔

娘に花をあげようと

彷徨う夢幻能の幽霊

紐で辻の怪を結んでいって

海に還そう

夕べの鬼退治を誰に話したら

上手に小指の赤い糸をたどって

極楽へ辿り着けるのか

人は自分以外の人間が死ぬと悲しむ

しかし他人の死には冷たい

と鬼は讒言。


暑さ寒さも彼岸まで

お彼岸に

仏壇の饅頭を賽の河原のように

積んでいく遊び。

火車に載った娘が燃えていく様を只

眺めている山神賽

山茶花の咲いている池で

娘の肉の味を思い出している金魚姫

由良由良と灼熱の太陽が

ジリジリ首の後ろを焼かれて

陽炎がゆらりめらり立ち昇る夏の運命


夕陽を閉じ込めた摺り硝子に

黒マントの影。秋ですね

不思議とは何ぞと

鏡に問いかける家鼠

夢の中で、檜扇が燃えていく様を

眺めていくだけの娘

どぶ川に、一筋の赤

お祭りの時の金魚がまだ生きて

お風呂を覗いてはいけませんよ

と鶴の娘にしつこく念を押される

夢幻能の面を付けたいかさま師


お冷の中に氷と共に

小さな向日葵が。

郷愁はすぐ其処に

お風呂に入ってゐると

そおっと覗いてくる海坊主

鏡の奥にある勿忘草を取ろうとして

閉じ込められる、夏

静かに本を読んでいると

決まって脛を齧ってくる鬼蜘蛛

庭の日溜まりを捕まえようと

水盆を構える娘

盆暮れには帰ってくるよ



田舎に帰った時、満月が

煌々と微笑んでゐました

女人の様に

田舎は、いつも雪洞提灯を飾っていて

秋になると猩々虫とお祭りで酒くさい男ども

祖母危篤にて

還りました

薄羽蜉蝣のように

影が薄くなっていく呪いは

帰郷してから。

お餅が焼けたと

仏壇に石を積むように置いてゆく賽の河原


夢の後先

硝子の唄には、妖怪は居ませんでした

電灯を消そうとして

躓いた指先に、爪を噛む小鬼

海辺の唄を唄おうとして

喉が緑色の錆びでやられていたので

味噌を塗って直した。

人魚を犯しながら

乳を食む男を隣の部屋で見ている自分

夢の鏡には

自分を映すと

死んだあとの自分が映る



昔の香りは

線香の匂い

数珠繋ぎに

辻道を赤い紐で結んでいく遊び

曲がり角に、曲がり路

人生の岐路

柳行李に、線香花火を忍ばせる

忍ぶ恋。

手紙に金魚の硝子細工を忍ばせる

匂い袋も

月が真っ暗な海に落ちていったので

太陽を、瓶に詰めていく

緋色の研究にて

命が千代に染まる



古き調べが

漣と鳴って

夢うつつかな

悲しみは

人の営み露知らず

娘が、軽やかに通りを走ってゆく

足には鈴と赤い紐を結んで

山の鬼が燃えさかりながら

虫籠窓から童を捕っていくぞと叫んでいる

嗚呼家のお兄さんの成れの晴れ

狂人の、鬼勾引かし

胸の勾玉が鳴っている

オンオンと


庭のある家に

誰もゐないのに嗤い声がする怪

貝合わせ

九相図の絵が描かれた貝が

海の音色を奏でる悲しみ。

捕って食うぞ

小さな童が走り回るは跫はせず

阿弥陀堂で取ってきた彼岸花が

仏壇で咲く頃

亡くなったはずの祖母が

布団から起き上がった

げに此の世は真に不思議である

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ