当たり前をみんなに
日比野達が地下室に連れて行かれる頃
堀垣は肩に天谷を寝かせて星空を見ていると一人の少女がやって来た。その子も他の人達と同じように痩せ細っていて覇気がなかった。
「・・・」
「・・・これ、いる?」
じーっと見つめる少女に持っていたチョコレートを渡すと少女は嬉しそうに手に取り食べ始めた。すると、少女の母親らしき女性がやって来た。彼女は嬉しそうに食べている我が子を見て涙を浮かべた。
「すみません。恵んでもらいまして・・・」
「え~と、何があったのですか?」
堀垣が聞くと女性はおそるおそる話し始めた。この街にいきなり現れたダークサイズという怪人が牧場や畑を破壊して街を支配した。そして、食糧が欲しければ自分の言う通りにしろと脅してきたのだと。
「ひどい・・・」
「うん。そうだね。」
堀垣が憤っているといつの間にか起きていた天谷も同じように憤っていた。すると、後ろから市長達が現れた。
「・・・どうしたんですか?」
堀垣が聞くと市長達が捕まえようと襲ってきた。しかし、栄養失調なため動きが悪く二人はあっさり逃げることができた。すると、市長は膝をついて泣き出した。
「私達はどうしたらいいのでしょうか?君達を騙して仲間をダークサイズのところへ運んで行った。でも奴の言う通りになりたくない。」
市長に続いて他の人達も泣き出した。
「けど言う通りにしないとみんな餓死してしまう。そうしないために人を殺して食べたこともある。でももうこんなことしたくない・・・」
「「・・・」」
市長達の告白を聞いた二人はさらに憤った。
「なら、僕達が倒して当たり前を取り返してみせます!」
「わ、私もが、頑張ります!」
「あ、ありがとうございます・・・」
市長達はお礼を言うと堀垣達は立ち上がって市長に聞いた。
「今、みんなはどこにいますか?」
「分かりました。今から案内します。」
市長は堀垣達を地下室へ案内するために死体を入れた箱があるところにきた。
「これは・・・」
「ダークサイズはここに来た旅人達を生け贄に捧げるように言ってきたのです。もしかしたら、この箱に入れば中に入れるかと・・・」
「いえ。でしたら・・・」
そして、今に至る。
「強さだけで全てが決まるわけじゃないよ。けど、僕は支配からみんなを救うためにに全力でお前に立ち向かうよ。」
堀垣は杖を強く握りしめダークサイズに言い放った。
「その程度で私を倒せると。」
「思ってないよ。けど戦わないと、逃げたらダメな時があるから。」
堀垣は杖を向けると再び土塊を放って攻撃した。しかし、今度は剣で全て切り捨てられた。
「無駄ですよ。君のデータは既に収集済みです。君は他の奴らと比べると圧倒的に実力不足。戦闘が出来る人間じゃない。」
「そうだよ!僕は全く強くない!みんなみたいに活躍できない!でも何もしなかったらもうここにはいられない!」
堀垣は攻撃を続けているとダークサイズはみるみるうちに体を変えていった。
「!」
背中から大きな突起物が生え、鎧みたいな殻が付き左腕の剣が鎌に変化した。
「何それ・・・」
「これが本来の私、ダークサイズですよ。いや、名前も変えよう。今から私はグランゴーネと名乗ろう。」
ダークサイズ、いやグランゴーネは鎌を振ると土塊を一瞬で全て破壊し堀垣の杖も真っ二つにした。
「!」
堀垣は下がりながら土魔法で槍を作ると再び攻撃した。しかし、それもグランゴーネは鎌で全て破壊すると顔の発光体から火炎弾を発射した。堀垣は壁を作って防ぐとグランゴーネの下からトゲを繰り出した。
「やっぱり未熟。」
グランゴーネは地面に火炎弾を繰り出して破壊すると大きく鎌を振り回した。鎌は壁を切り裂き、堀垣の頬をかすった。
「痛っ!」
堀垣は頬を抑えて下がった。後ろでは天谷が必死に鎖を解こうとするが全く解けなかった。
「どうしよう・・・」
「天谷・・・」
後ろの天谷に攻撃が来ないように壁を張った堀垣。彼の前には悠々と近付いてくるグランゴーネ。すると、堀垣は折れた杖の先をグランゴーネの真上に向けた。
「何の真似です?」
「ここ、地下ってこと覚えてる?」
「は?」
「《創成》。」
堀垣が呟いた瞬間、周りがグニャリと曲がり堀垣とグランゴーネを隔離した。
「堀垣!」
日比野が叫ぶが既に壁に阻まれ声は届かなかった。堀垣の魔法で天井と繋がっていた鎖も取れある程度の自由がとれるようになった。
「早くこれ取らないと・・・」
「堀垣・・・」
日比野達はすぐに鎖を外そうとしたりそのまま堀垣のところへ行こうとしたりした。すると、壁の向こうから爆発音とドンッという鈍い音がした。
「まさか、もう・・・」
「早く!」
日比野達が急いでいると壁が破壊され傷だらけの堀垣が吹っ飛ばされた。
「堀垣!」
郷田達は驚き鎖を引きながら堀垣に駆け寄った。そこにグランゴーネが追撃しようとすると日比野達が前に出た。
「無駄なことを。魔法も武器もないのにどうやって私に敵うと・・・」
グランゴーネが調子に乗って近付いてきた瞬間、山瀬がグランゴーネの顔を蹴り上げた。
「!」
「悪いけど、私達は元から魔法なんてない世界で生きてきたの。だから、魔法が使えない程度じゃ大したハンデにほならないよ。」
グランゴーネがよろけていると山瀬の次に皇凰院が現れグランゴーネの懐に入り体重をかけて弾き飛ばした。
「一応、僕も軍学校に通う学生です。魔法に慣れ過ぎて最初は焦りましたけど。」
「す、すごい・・・」
以外と体術が使える皇凰院に礼崎が感心していた。その間に郷田達が堀垣を起こすと堀垣はケホッケホッと咳き込み立ち上がった。
「大丈夫か、哲平?」
「うん。大丈夫だよ。」
即座に天谷が傷を癒した。堀垣はお礼を言うと再びグランゴーネに立ち向かった。それに続くように郷田達も走り出した。
「わ、私も・・・」
天谷も一呼吸おくと郷田達について行った。グランゴーネは山瀬と皇凰院の連撃に手こずっていた。
「ええい!魔法が使えないような状態の奴に殺られるわけがない!」
グランゴーネは右腕から魔法で炎を出して攻撃すると左腕の鎌で切り裂こうとした。そこに、堀垣が折れた杖の先に土魔法で作った即席ハンマーでグランゴーネを殴り飛ばした。
「《メテオハンマー》!」
吹っ飛ばされたグランゴーネはすぐに起き上がり胸部の発光体から光線を発射して攻撃してきた。
「その程度で私が殺られるわけがない!」
日比野達はとっさに光線を避けると左右に別れた。グランゴーネは右にいる日比野達を攻撃しようとすると足が動かなくなっていることに気付いた。下を見るといつの間にか氷が張っていて足を凍らせていたのだ。
「《氷結》。」
グランゴーネが先を見ると天谷が地面に手を置き魔法で水を張らせた後に水の温度を下げて凍らせていた。そして、堀垣が土で斧を作るとそこに氷でコーティングした。
「アメイジングアックス!」
(これで僕もみんなのように・・・)
堀垣はアメイジングアックスを強く握りしめて走り出した。グランゴーネは堀垣に向かって炎魔法を放とうとすると日比野達が右腕を抑えた。次に火炎弾を放とうとした瞬間、左腕も掴まれて倒れた。火炎弾は天井に当たってしまい慌てたグランゴーネが左を見るとそこには郷田達と佐古水がいた。
「!」
「恥ずかしい限りだ。さっきまで寝てた。」
佐古水は光魔法を左腕に纏うと頭の発光体を殴って破壊した。そこに堀垣がアメイジングアックスを振り上げてジャンプした。
「まだだ!私がこんなところで!」
グランゴーネは諦めようとせずに再び胸部から光線を発射した。光線はアメイジングアックスに命中すると真っ二つに斬られた。
「!」
「いけぇぇぇぇぇぇぇ!」
「《必殺・氷斬隕石》!」
みんなの声援と共に振り下ろされたアメイジングアックスは光線を切り裂きグランゴーネを一刀両断した。
「バカな・・・あの方に支える私が・・・こんなところでぇぇぇぇぇぇぇ!」
一刀両断されたグランゴーネは断末魔の叫びをあげ大爆発した。その様子を見届けた堀垣はその場に仰向けに倒れた。その時の表情はやりきったという清々しいものだった。
怪獣名 ダークサイズ
別名 策謀怪刃
全長 3.0m
体重 250kg
特徴
シャーネイドを支配していた怪人。戦闘に関してはキングプレスよりは下だが直接戦わずに仕留める方法をとるのが得意。左腕の剣”ザンパーサイズ“は鎌“ゴーネサイズ”にもなる。普段は戦闘はしないが戦闘になるとグランゴーネと呼ぶ戦闘体になり炎魔法の他に頭部の発光体から放つ火炎弾 《ゴーネファイヤー》、胸部から放つ光線 《ゴーネビーム》などを使って戦う。




