戦争のために作られた存在
クヴァイ王国滅亡から数日後
とうとうこの世界の全ての国からグランバレス帝国に支配された。もうグランバレス帝国に歯向かう国はない。
ザドリノフ王がこの世界の王として君臨する。全ての国に勝利したという報告は国民全てを大いに喜ばせた。しかし、そこにグランウィザードの名前は無い。
「これで全ての国は私の物。」
ザドリノフ王はグランウィザードを呼び出す。
「見事であった。」
「はい。」
「そなたには何か褒美をやらねばな。」
ザドリノフ王がグランウィザードの後ろにいるドーバに目線で指示する。ドーバは剣を振り上げ斬ろうとする。
「それでは欲しい物があります。」
「な、なんだね?」
「その前に1つ質問です。」
グランウィザードが珍しく質問するので2人は戸惑った。
「言ってみろ。」
「俺は何のために産まれた?俺の存在意義はなんだ?」
グランウィザードの質問にザドリノフ王はなんて言えばいいのか分からなかった。しばらく悩むと変に言い訳をせずに正直に答えた。
「お前は戦争のために産まれた存在だ。戦争がなくなればもう必要ない。」
ザドリノフ王が再びドーバに指示する。ドーバが振り下ろそうとした瞬間をグランウィザードが笑った。
「なるほど。なら欲しい物が決まりました。戦争です。戦争こそが俺の生き甲斐と分かった。」
グランウィザードがバリアを張りドーバの剣を防ぐ。ゆっくりと立ち上がりザドリノフ王にハサミを向ける。
「な、何の真似だ!?」
「この時、この瞬間、俺は貴様ら世界に宣戦布告する!」
グランウィザードが叫んだ瞬間、後ろで爆発が起きた。その爆発は城の前で起きた。なんだなんだと近づいて見るとそこからカイザーキメラが現れた。
「フハハハハハ!やっと出番か!」
突如現れたカイザーキメラに人々は驚き慄き逃げ始めた。カイザーキメラは全身から光線を放ち辺り一面を一瞬で地獄絵図に書き換えた。
「おっと、やりすぎた。まだまだこの体に慣れてないな。」
カイザーキメラがチラッと見ると兵士達が足が震えながらも槍や剣を向けていた。
「やる気か。いいねぇ、こいよ。」
カイザーキメラは兵士達を徴発する。兵士達は叫びながら突撃する。それを一瞬で斬り裂いた。それから逃げ遅れた女性を見つける。
「いいねぇ。やっぱり裕福な国の女は見た目もいい。」
カイザーキメラが暴れているのをドーバが窓から見る。
「大変です!怪物が暴れ回ってます!」
「な!?どういうことだグランウィザード!?」
「言っただろ。貴様らに宣戦布告すると。」
グランウィザードが一歩、また一歩とザドリノフ王に近付く。
「な、何故こんなことを!?」
「俺は戦争のために産まれた。なら、戦争の中で生きる。それだけだ。」
「待ってくれ!あの時の優しいマギウスはどこにいったのだ?」
「貴様が消しただろ。」
ザドリノフ王に答える声がした。その声の主は扉を破壊して現れた。その体は赤くまるで大量の返り血を浴びたようだった。その手には見覚えのある薙刀が握られている。
「その声、その薙刀…まさか…ゲリュガか!?」
「そうだ。」
グランウィザードが宣戦布告する少し前
地下牢で1人座っていたゲリュガのところにグランウィザードが現れる。ゲリュガはグランウィザードの尻尾の先にある宝石を見てすぐ気付いた。それはメリア達がマギウスにプレゼントした杖に着いている魔法石と同じだからだ。
「マギウス…」
「誰だ?」
(自分のことが分かってない…マギウスの記憶がないのか?)
ゲリュガがグランウィザードをまじまじと見ているとグランウィザードはゲリュガの首に触手を刺した。苦しむゲリュガを見てグランウィザードはニヤニヤしている。
「お前はこれに耐えられるか?」
苦しむゲリュガを他所にグランウィザードは冊手行く。
(このままでは…マギウスが…)
ゲリュガはこのまま死ねないとグランウィザードの後ろ姿を追いかけようとする。その時、体に異変が起き瞬く間に怪物の姿へと変わっていった。
そして、今に至る。
「ゲリュガ!いいところに来た!さっさとそいつを始末しろ!」
「断る!」
ゲリュガの回答にザドリノフ王は唖然とする。
「な、なんだと…ゲリュガ!貴様、誰に口を聞いておる!」
「心優しき少年を怪物に変えた無能にだ。」
ゲリュガはグランウィザードの隣に並ぶ。
「俺はマギウスにつく。もうこの国に忠誠などない。これからはゲリュガではなくマスターオロチと呼んでもらう。」
「マスターオロチ…」
「カインが討伐したオロチ。それに似ているからそう名乗ることにした。」
マスターオロチはドーバの前に立つ。
「ゲリュガ、貴様…ザドリノフ王に楯突くか!」
「そうだ。言ったはずだ。もうこの国に忠誠などない。」
ドーバは剣を振り上げマスターオロチを斬ろうとする。しかし、それより早くマスターオロチが薙刀を振りドーバの右腕を斬り飛ばした。一瞬のことで反応が遅れるドーバ。後から痛みと共に自分の腕がないことに気付き叫ぶ。
「それが貴様らがマギウスに与えた痛み…その100分の1にも満たない。」
マスターオロチはドーバを蹴り飛ばし城から出す。ドーバは落下し全身を強く打ち動けなくなってしまう。なんとか動こうと顔を上げるとカイザーキメラが女性達を犯していた。
「ん?なんだ?グランウィザードにやられたか?」
初めて見るカイザーキメラにドーバは漏らしてしまう。そこにマスターオロチが着地した。カイザーキメラはマスターオロチを見てニヤリと笑う。
「おっ。また成功したか。初めましてだな。俺はカイザーキメラ。あんたの先輩にあたるな。」
「興味ない。」
「武人タイプか。」
マスターオロチはドーバにゆっくりと近付く。カイザーキメラはマスターオロチをほっといて再び女性達を犯し始める。
「ま、まて!話し合おうではないか!」
「話すことなどない。」
必死に命乞いをするドーバをマスターオロチは無慈悲に首をはねた。首から血飛沫をあげ倒れる。その血はマスターオロチにかかりさらに赤く染め上げる。
一方、グランウィザードは腰を抜かして動けないザドリノフ王に近付いて行く。ザドリノフ王も必死に命乞いをしようとしている。
「待て!金でも権力でもなんでもやる!だから私の命だけは…」
「欲しいのは戦争。俺が存在する世界。俺が必要とされる世界のみ。」
グランウィザードはハサミを広げ触手をザドリノフ王に刺した。ザドリノフ王は倒れ藻掻き苦しむ。そして、体がみるみるうちに醜く変化し腐っていく。
「失敗か。」
グランウィザードは悪臭を放ちながら溶けていくザドリノフ王を背に城を出る。首都はまさに地獄絵図と化していた。マスターオロチが見守る中、カイザーキメラが破壊、凌辱を繰り返している。
「成功したのは2体だけか。」
グランウィザードが降り立つ。それに気付いたマスターオロチは膝を着いて忠誠を示す。対するカイザーキメラは犯した女性を投げてグランウィザードの前に立つ。
「これからどうする?」
「そうだなぁ…魔王というものが見たい。」
グランウィザードはカインが討伐しに行った魔王が気になると言った。
「なら、私が案内いたしましょう。」
マスターオロチが立ち上がり北西へと向かう。グランウィザードとカイザーキメラもその後を追ってグランバレス帝国を出ていった。
この日、この瞬間、グランバレス帝国は滅亡した。それを夢宮はただ見ることしか出来なかった。