河童伝説に御用心
ある日、夢宮達は長閑な山林を歩いていた。サメマンタの襲撃以降大した襲撃は来ずタイタンホークのガウマシステムの連動も順調に進んでいる。そんな中休暇をとって近くの温泉に旅行に行っているのだ。
「なぁ、ホントにこの先に秘湯があるのかよ?」
「そうだよ!滅多に人が来ない名湯と呼ばれる温泉があるの!その名も•••」
「「その名も?」」
「カッパの湯!」
「「•••は?」」
先頭を歩いていた礼崎の発言に疑問符を浮かべる郷田達。
「なんで河童?」
「この辺りでは100年ぐらい前にでっかい河童の目撃情報があってから河童にまつわる伝説が数多く残っているの!」
「いやなんで異世界に河童がいるんだよ。」
「大方、河童に似た怪獣かモンスターを見間違えたんだろう。」
一緒に歩いていた飛鳥崎が割り込む。飛鳥崎は後ろをチラリと見て指を差す。
「それよりあいつらをどうにかしろ。」
飛鳥崎が指差した方を見ると既にバテている朝比奈や小石川、エメラナ達を佐古水達が抱えていた。
「この調子だとその秘湯とやらに着くことにはくたばっているぞ。」
「••••っていうかルージュさんの背中に乗って行けないの?」
「駄目だよ!こういうのはちゃんと自分の足で歩いてこそ意味が•••」
「温泉ぽいのあったよー!」
礼崎が熱弁しているといつの間にか空から探していたウルトラレックスとキュアリアスが例の秘湯を発見したことを報告した。
「あ、あれ?」
「行くぞ。これ以上付き合ったらあいつら瀕死になるからな。おいルージュ!さっさとドラゴンになれ!」
「命令するな!」
礼崎の熱弁も虚しくみんなルージュに乗って河童の湯に向かって行った。
「ここが河童の湯か。」
例の河童の湯に着いた夢宮一行。河童の湯は宿泊施設というより簡易的に作られた脱衣所と大きな露天風呂があるだけのシンプルなものだった。
「混浴かよ。」
「俺は大歓迎だ。」
「私達は却下よ。」
ガッツポーズする郷田と拒絶する朝比奈達。南が近くにあった看板を見る。
「にゃににゃに〜”河童の湯 錦•小•••竜に封印されし河童。この•••“読めにゃいにゃ〜。」
看板は大部分が壊れたり削れていたりしたためよく読めなかった。そんなことを気にせず橘達は脱衣所と露天風呂の周りに囲いを作り始めた。
「何してんの?」
「覗き対策だ。特にあそこの性欲怪獣に対してだ。」
堀垣の質問に橘が郷田を睨みながら答えた。その郷田はドローンやカメラの整備をしている。そこにキュアリアスが来てドローンやカメラを踏み潰した。
「あぁ〜!マイフレンド〜!」
「覗いたらボルケーノギロチンね。」
キュアリアスは笑顔で郷田を牽制すると星雲寺に変身して囲い作りの手伝いを再開した。
囲いが完成した時にはもう夕方になっていた。夢宮達も囲い作りに参加させられヘトヘトになってる。
「結構、立派なのが出来たな。」
「てか、俺達男は木を切り倒す、運ぶ形を整えるの重労働なのにお前ら女は組み立てだけって狡くない?」
汗をダラダラ流して倒れている郷田が文句を言う。
「何よ。私達はか弱い少女よ。少しは私達のために頑張ろうと思わないわけ?」
「お前らのどこがか弱いんだよ。」
郷田の発言にイラッときた朝比奈は杖をゴルフクラブのように振り回し郷田をかっ飛ばした。
「あ、それと露天風呂に先に入るのは私達だから。覗きしないように。」
「ふざけるな!疲れてんのはこっちだぞ!そっちこそ俺達を労れ!」
「レディファーストよ!あんた達は後で入りなさい!」
「それにもし、先に入ったあんたが隠しカメラを仕掛けないとも限らないから。」
橘のゴミを見るような目で言われた郷田は何も言い返せずに沈黙してしまった。
それからちょっと時間が過ぎ夕日も沈み静かな夜になった。夢宮達は露天風呂がある崖の下で待機している。もちろん、郷田が覗かないか見張るためでもある。
「ふざけるなぁ!てめぇらは女王様か!高飛車にするのもええ加減にせぇ!」
「凄い暴れてる。」
「まぁ、気持ちは分かるが女ってのはあんなもんだ。」
「そうそう。女のワガママはアクセサリーみたいなものさ。」
暴れる郷田にベルッドと新庄が声をかけて宥めている。それでもイライラが収まらない郷田はまだ持っていたカメラを取り出した。
「•••こうなったら何がなんでも覗いてやる。行くぞ勇輝、哲平!」
「「嫌だ。」」
すぐに断る二人。
「なんでだよ!俺達の友情はこんなものじゃないだろ!?」
「犯罪を助長させるのは友情じゃないと思います!」
「もうボルケーノギロチンはくらいたくないです!」
全力で断る二人。断られた郷田がそこら辺を歩きながら次の作戦を考えていると、崖下の窪みに小さな祠があるのを見つけた。
「なんだ?“錦田••••竜 胡•を食べ荒••••た••••をここに封•する。•••”ここにもなんかある。」
「おーい!それに触るなよ!」
「分かってる!どうせこれに触ったり壊したりすると怪獣が出てくるオチだろ!」
「分かってるならさっさと戻れ!」
上から追ってきた姫樹が注意喚起する。郷田も祠に触らずに引き上げようとする。すると、姫樹の足元が崩れ姫樹はバランスを崩してしまう。その時に堀垣の腕を掴んでしまい二人一緒に転がり落ちる。
「え?」
そのまま郷田を巻き込み落ちて行く。やっと止まったため郷田が起き上がると夢宮達が青ざめた顔でこっちを見ていた。なんだと思い周りを見渡すと壊れてしまった祠が下敷きになっていた。
「•••あ。」
「なぁ、これ俺が悪いのか?」
郷田達も冷汗流していると何処からかゴゴゴゴゴゴという地響きと共に崖が崩れ始めた。
一方、温泉を満喫している星雲寺達はというと•••
「気持ち良いね。」
「ああ、極楽じゃ。」
「なんか郷田達に悪いことしたような•••」
「気にするな。あんな変態はお灸を据えた方がいい。」
久しぶりの露天風呂を堪能したり胸の大きさを調べあったり橘の胸を睨んでいたりしていた。すると、ゴゴゴゴゴゴという音と共に露天風呂が揺れ始めた。
「え?何々!?」
「ちょっといきなり何よ!?」
突然の揺れに露天風呂を出ようとすると何故か出れない。ネバネバした膜が突如温泉全体に張られ動けなくなってしまった。
「ちょっと動けないんだけど!」
「ルギリナさん!なんとか出来ない!?」
ラフィが急いでルギリナに頼むがもう遅く突如崖から怪獣が現れた。見た目はもろ河童と同じ姿をした怪獣がよっこらしょと立ち上がる。そして、河童の皿にあたる部分が露天風呂になっていた。折角作った囲いも脱衣所も全て壊し怪獣は立ち上がる。
「え〜!」
あまりの事態に星雲寺達は言葉を失っていた。それもそのはず、怪獣の頭で全裸になって動けずいるのだからとんだ間抜けである。
下にいる夢宮達も全速力で逃げていた。
「ごめーん!」
「マジでふざけるなよ!ベタなオチ通りになってしまったじゃねぇか!こうなったらお前カメラ付けて露天風呂に突撃してこい!」
「それもふざけるなよ!」
「ねぇ!その露天風呂ってどうなってるの!?」
夢宮の一言に気になった郷田達が後ろを振り向く。崖の上にあったはずの露天風呂が消え村に向かっている怪獣の頭から湯気が立ち昇っている。
「•••あそこだな。」
「•••あそこですね。」
しばらく思考停止して見る夢宮達。そして、今の状況をもう一度確認した。
「え〜と、星雲寺さん達が露天風呂に入っていて•••」
「その下でいかにもな祠を壊して•••」
「そのせいで怪獣が出て来て•••」
「その頭に星雲寺達がいるな。」
「「「•••••」」」
「あいつを止めろー!」
やっと状況が飲み込めた夢宮達は急いで怪獣を追いかける。
「レックスー!」
その途中で夢宮がウルトラレックスに変身、巨大化して怪獣の前に着地する。後ろには田畑広がる農村がある。ウルトラレックスは怪獣が村に行かないように両手を拡げて立ち向かう。すると、怪獣が突然頭突きの体勢で突進してきた。ウルトラレックスはそれを受け止めると露天風呂で動けなくなっている星雲寺達が目に入ってしまった。露天風呂に入っているためもちろん全裸なうえに透明度の高いお湯がプラスして星雲寺達の裸を見てしまった。
「きゃー!」
「えー!」
悲鳴を上げる礼崎達。ウルトラレックスはつい目を反らしてしまい怪獣のパンチをもろにくらってしまった。ウルトラレックスは倒れるがすぐに起き上がり向かってくる怪獣を食い止める。
「なんとかして!」
「待て!もし仮にここから脱出出来たとしてどうするんだ。」
もう少しで露天風呂から抜け出せるようになったルギリナが汗を流して喋る。服は怪獣が脱衣所ごと破壊したため着ることが出来ない。それを知った橘達は青ざめてしまう。すると、エメラナとルージュが逆上せてしまった。
「マズいにゃ!エメラナちゃんとルージュちゃんが!」
「あの、私も少し酔ってしまいました。」
二人に続きエルシアナも体調に異変が起きた。突然現れた怪獣が頭に乗せて暴れているから無理もない。隣にいた風間がエメラナ達に我慢するように言う。すると、怪獣がバランスを崩して仰向けに倒れた。
「いやぁ〜!」
怪獣は倒れ周りに土煙が立ち昇る。しばらくして土煙が晴れると星雲寺達の前に郷田達がいた。
「•••」
「え、えっと、助けてくれない?」
朝比奈が恥ずかしそうに頼むと郷田はニヤニヤしながらカメラを取り出した。
「ちょっと待って。何しようとしてるの?」
「いやね、汗水垂らして頑張ってたのに何の報酬もないのは納得出来ないのですよ。」
そう言って郷田はカメラのシャッターをきって撮影を始めた。
「「「いやー!」」」
「起きて!怪獣起きて!」
空咲が必死に怪獣に呼びかけるが怪獣は手足をバタバタさせれだけで一向に起き上がる気配がない。ウルトラレックスもどうすればいいのか分からずただじっと見ている。
「いいよなぁお前ら女は。ワガママ言えば何でも許されると思ってるし自分勝手で配慮の欠片もない。」
「ごめん!ごめんなさい!謝る!さっきの謝るから許して!」
「口だけじゃ信用出来ないなぁ〜!」
「分かった!後でいくらでも謝罪するから撮影を止めてくれ!」
「うわぁ、クズー。」
朝比奈と橘が涙目になって謝っているのを撮影し続ける郷田に堀垣達はドン引きしていた。さすがにやり過ぎと判断した新庄が郷田を落ち着かせ風間を引っ張り出そうとした。
「おい。これ全然抜けねぇぞ。どうなってんだ。」
「分からないわ。固まっているというよりゼリーみたいになっていると言った方がいいかしら?」
新庄が風間を引っ張っていると日比野達が応援にきた。何故か大量のキュウリを持って。
「大丈夫か!?」
「まずそのキュウリ何!?」
「いや、河童ならキュウリ食べるだろ。」
「安直過ぎないか!?」
飛鳥崎がキュウリを持って怪獣に向けると怪獣は手足をバタバタさせるのを止めてこちらを見た。試しに飛鳥崎がキュウリを怪獣の口に投げ入れると普通に食べた。
「本当に食べた!マジで河童だ!」
「よし。村のみんなから貰ったことキュウリでみんなを救出するぞ!」
「字面だけで見たら状況が全く分からんな。」
日比野達が必死にキュウリを投げ入れる。すると、怪獣がだんだん大人しくなった。
「《コスモストライクウェーブ》」
ウルトラレックスが虹色の光線を怪獣に当てる。怪獣は暴れるのを止めウルトラレックスに元いた場所に戻されると大人しく眠りについた。それからすぐに露天風呂が元通りになり星雲寺達は解放された。しかし、脱衣所が破壊され服が無くなったため怪獣化した星雲寺以外はタオルや佐古水達の服でなんとか裸体を隠していた。
「う〜。まさかこんなことになるなんて。」
郷田達が祠を立て直しているうちに星雲寺達は逃げるように先に帰って行った。
後日、怪獣温泉”河童之湯“は隠れた秘湯としてキュウリを持ってきた観光客達に人気となるのだがそれはまたのお話である。
今回大人しくさせた怪獣
怪獣名 かぱのゆ
別名 温泉河童
全長 57m
体重 75000t
特徴
100年以上前に封印されていた怪獣というより妖怪。頭の皿にあたる露天風呂は膜を張って水が溢れるのを防ぐことができる。特に攻撃方法はなく封印された理由もキュウリなどの作物を食べられるからである。