敗戦国の末路
オペレーションルーム
そこに日比野を倒したアルギラが立っていた。アルギラはゆっくりとラッセル議長のいたところに行くとモニターを操作し始めた。
正門前
進行を止めた怪獣達に佐古水達が不審に思っていると佐古水達の後ろの空にモニターが映しだされた。そこには拘束されているラッセル議長達とアルギラが写っていた。
「な、何故怪獣がオペレーションルームにいるんだ!」
真っ先に驚いていたのはテレサだった。郷田達もモニターを見て驚愕のあまり、言葉を失っていた。佐古水もただじっとモニターを見ていた。すると、アルギラが口を開いた。
「・・・皆さん、武器を捨てて投降してください。」
「え?その声、溝霧君!?」
「どうやら、最悪の予想が当たったらしいな。」
アルギラの声に礼崎達が驚いていた。
「おい、お前は本当に溝霧なのか!?」
「はい、僕は溝霧ケイです。怪獣名はアルギラ。そして昼森達を殺したのは僕です。」
アルギラの告白に佐古水達はただ見るしか出来なかった。すると、スパンダーが笑った。
「聞こえただろ?全員、武器を捨てて投降しろ。さもないと、議長の命はない。」
スパンダーの降伏勧告にその場にいる者は従うしかなかった。
武器を捨てた佐古水達は全員、スパンダーが吐く蜘蛛糸に拘束されていた。友子はその様子を黙って見ていた。
その後、友子はスパンダーの方を向いた。
「ねぇ、どういうこと?」
「見ての通り、溝霧ケイはアルギラとして我々の仲間になった。」
「まさか、昼森達を殺したのはあんたの命令?」
「いや、彼自身が自分で考え行動した結果だ。俺が命令したのは施設の破壊、細工、それとオペレーションルームの制圧だけ。」
「でも、怪獣になったら自我を失って暴れるんじゃ?」
「それは失敗作。君達三人は成功だ。もう自我を失うことは無い。」
「どういうことだ!?そんなの私達は知らないぞ!」
スパンダーの発言にテレサが驚いていた。
「当たり前だ。もし成功作がいたら勧誘するか殺害している。事実、勧誘に成功した者がいれば、失敗して殺した者もいる。都合がいいのは死んでも縄張り争いで怪獣が死んだぐらいにしか思われないことだ。」
テレサは黙って下を向けてしまった。スパンダーは友子を見た後、モニターのラッセル議長に話かけた。
「さてと、既に夢宮勇輝の救出には向かわせている。その間にラッセル議長、降伏宣言をしてもらおう。」
「・・・」
ラッセル議長は黙ってスパンダーを睨んでいた。その様子を見てスパンダーは友子の方を向いた。
「ラッセル議長の決断の前に決めておこう。どうだ星雲寺友子、君も我々の仲間にならないか?」
「え?」
「君も見ただろ?いや、体験しただろう。この国の人間が君に何をしたのか。クラスメート達が君に何をしたのか。怪獣となった君に手を差しのべたのは誰だ。」
スパンダーは友子を見た後、クラスメート達を見ながら笑い話を続けた。
「誰も差しのべれなかっただろ。この世界は怪獣を差別し、いじめ、迫害した。俺達なら差別も迫害もしない。当たり前だ。同じ存在なんていない。それが多様性。俺達はその多様性を受け入れる。どうだ?我々と共に来ないか?差別や迫害のない世界を見たくないか?」
スパンダーは友子を勧誘している。そこに礼崎が友子に語りかけた。
「待って、友子ちゃん!私、嫌だよ。友子ちゃんと戦うことになるの!私は友子ちゃんと仲良くなりたい!」
「そう言ってお前は彼女を助けたか?夢宮勇輝を助けたか?」
「そ、それは・・・」
スパンダーの言葉に何も言えなくなった礼崎は涙をこぼしながら黙って下を向いた。スパンダーは再び友子に勧誘した。
「俺達は仲間を決して見捨てない。夢宮勇輝も必ず救出する。星雲寺友子、君も助ける。我々はこの戦争に勝つつもりだ。来い、星雲寺友子。」
「・・・分かりました。」
「おい、星雲寺!」
「友子ちゃん!」
クラスメート達が叫ぶ中、友子はスパンダーの勧誘に乗った。
「但し、条件があります!」
「聞こう。」
「今後、クラスメートに、この国の人達に手は出さないでください!」
「いいだろう。」
「え?」
「但し、こちらも条件を出す。その場合、この国の領土の半分と200億円の賠償金と軍事に関する全ての権利をこちらに渡してもらおう。」
「な!?そんな!」
「これでもかなり譲歩したのだ。本来なら領土は8割、賠償金は500億もらう予定だったのだ。」
「はっ。随分、強欲じゃねぇか?」
「それが戦争だ。」
スパンダーは悪態をつく飛鳥崎やクラスメート達に説明を始めた。
「勝てば欲しい物が手に入り、敗ければ失う。それが戦争、そうだろ?例えば、第一次世界大戦で敗戦国となったドイツは連合国に領地を盗られただけでなく巨額の賠償金に軍の収縮など多くの物を失った。日本だってそうだ。第二次世界大戦で敗けた後、連合国に沖縄を6年以上軍事占領されている。」
「おい、なんで怪獣が俺達の世界を知ってるんだよ?」
「召喚する世界の歴史ぐらいは学ぶ。歴史を学べばその世界の弱点も自ずと分かる。」
スパンダーは飛鳥崎達に得意気に話した。
「さて、そろそろ時間だ。答えを聞こう、ラッセル議長。このまま戦争を続けるか、降伏するか、好きな方を選べ。」
ラッセル議長に詰め寄るスパンダーの前に友子が立ちはだかった。
「待って。その条件じゃ私は仲間になれない。戦争を体験したことないからわからないけどそんなの私は許したくない。」
「なら、どうする?その失った翼で俺達と戦ってみるか?」
友子は震えていた。テレサは自分が切った友子の翼を見て、うつむいた。
その時、オペレーションルームで爆音がした。