狂った正義
日比野と空咲が戦線を離脱した後
佐古水達が怪獣と交戦していると正門から一際大きい怪獣が現れた。蜘蛛の見た目をしているが龍のような首と蟷螂のような鎌があるあの怪獣だ。
怪獣は現れると口を四つに裂けて破壊光線を放った。破壊光線はビルを砕き、上空にある空港や軍事施設を破壊した。
「嘘・・・」
「マジかよ。」
朝比奈や飛鳥崎が驚愕していると飛鳥崎達と戦っていた怪獣とグランドファングが蜘蛛型の怪獣の隣に並んだ。
「いきなり、何?」
「どうやら、あいつがリーダーみたいだな。」
「あれ?委員長がいないよ。」
「え?麗奈ちゃんもいない!」
「嘘。さっきまでいただろ!」
礼崎と南が二人がいないことに気付いた。それに反応し郷田も周りを見渡した。佐古水も周りを見るが確かに二人はいない。そして、もう一人いないことに気付いた。
(ま、まさか。)
「なぁ、橘。」
「いきなり、何だ?」
オペレーションルーム
「議長さん、僕からお願いがあります。」
「なんだ?言ってみろ。」
「夢宮さんを解放してくれませんか?」
「溝霧君。」
天谷が心配して見るがラッセル議長は即座に拒否した。
「ダメだ。」
「そう、ですか。」
「溝霧君、話が終わったら君も戦闘に参加しなさい。」
溝霧はラッセル議長に近づいている。護衛の女が前に立ってきた瞬間、溝霧はその女とラッセル議長に向けて光線銃を撃った。
撃たれた二人の体の周りに光の帯が現れ、二人を拘束した。周りのオペレーター達が驚いているうちに溝霧はその場にいる全員に向けて撃った。
「え?溝霧君!?」
天谷やエメラナも拘束され、その場に倒れてしまった。
その中でも護衛の鬼の男は光線を避けて、溝霧の光線銃を切り溝霧を抑え込んだ。
「血迷ったか。友達を助けるためにこんなことするとは愚か。何を考えている。」
「仕方ないんです。こうしないと夢宮さんの濡れ衣を晴らせないんです。」
「何?・・・!」
護衛の男は溝霧の言葉に違和感を持った瞬間、体を貫かれた。
「いきなり、何だ?」
「お前、夢宮がどうやって出たか知っているか?」
「は?昼森が扉を開けたからだろ。」
「その様子をお前は見たか?」
「え?見てないけど。」
「じゃあ、何で知っている。」
「それは・・・あれ?誰か言ってたよな。」
「確か、麗奈ちゃんだったよ。」
二人の会話に南が割り込んできた。その後に郷田や姫樹もきた。
「確かにあの時、空咲が言ってた。」
「てか、なんで空咲が知っているんだよ?」
「いや、空咲は自分の考えを言っただけ。問題はその前だ。あの時、研究所にいたのは所長、テレサ、委員長、空咲、中島先生、俺だ。じゃあ、扉が開いていたと言ったのは誰だ?」
「あれ?麗奈ちゃんはそこにいたし、私達は言ってないよ。」
「けど、確かにあの後誰か扉が開いていたって言ってたよね。」
「あぁ、今やっと違和感の正体に気付いた。あの時、研究所にいなかったのにそのことを知っていた人物がいる。・・・溝霧だ。」
オペレーションルーム
「な、何だ・・・と。」
腹を貫かれ、倒れる護衛の男。溝霧の左腕には細長い鋭利な刃物が生えていた。
「嘘・・・溝霧君、何それ?」
「僕は溝霧ケイ。怪獣名はアルギラ。」
「怪獣だと。」
「はい。僕は怪獣です。」
溝霧は衝撃の告白をした。そこに、日比野と空咲が駆けつけた。二人が見ると拘束され倒れているラッセル議長達や血塗れで倒れる護衛の男、そして、腕から刃物を生やした溝霧がいた。
「溝霧、腕のそれ、何?」
「溝霧、これをお前が?」
「はい。」
溝霧は静かに答えた。
「それと、昼森達を殺したのは僕です。」
溝霧の告白にその場にいた全員が唖然とした。
「最っ低。」
「その言葉、夢宮さんにも言ってましたよね。」
「あ。」
溝霧の言葉に過去を思い出し、目を反らす空咲。溝霧はそのまま続けた。
「違うと必死に訴えていた彼に、本当のことを言っていた彼に、何もしていない彼に、最低と言っていたじゃないですか!」
「そ、それは・・・じゃ、じゃあなんであの時自首しなかったの!」
「怖かった。」
「え?」
「もし、僕が怪獣とばれたら島君や夢宮さん、星雲寺さんのようになるのが怖かった!」
溝霧の告白を聞いた空咲は急いでその場を出ていった。
「空咲!」
「多分、夢宮さんのところだと思います。でも、そこに行っても駄目ですよ。あれは議長さんじゃないと開かないんですから。」
「なぁ、溝霧。迎撃システムや軍事施設に細工したのは溝霧なのか?」
「はい、僕です。」
「バカな!あれは来たばかりの君が扱える代物ではないぞ!」
「スパンダーさんの言う通りに動いただけです。」
「スパンダー?」
「はい、この戦いの指揮をしている怪獣です。」
そう言って溝霧はモニターを操作した。モニターには戦っているクラスメート達と怪獣達がいた。溝霧はモニターを動かし、蜘蛛型の怪獣に焦点を合わした。
「彼がスパンダーです。僕がこの世界に来て、怪獣になって初めて会ったのがスパンダーさんです。スパンダーさんはこの世界のことを教えてくれました。」
溝霧はゆっくり階段を降りながら話を続けた。
「怪獣と人間が戦争をしていること。怪獣になった人間は元に戻ることはできないこと。そして、怪獣は人間と共存できないこと。彼は誘ってくれました。行き場のない僕には選択肢がありませんでした。だから、スパンダーさんのところに行くことを決めたんです。」
俯いて語る溝霧に日比野は質問した。
「溝霧、なんで昼森達を殺した?」
「・・・笑ってたんです。」
「え?」
「あの人達は笑って夢宮さんと星雲寺さんをイジメてたんです!正義を振りかざして二人をイジメていた!正義って言って自分を美化しながら笑ってイジメていた!」
溝霧は話すごとに荒々しく、どこか悲しげな声になっていた。
「二人を助けたかった。だから、あの時必死に昼森達を殺して、扉を開けた。・・・でも、駄目だった。助けるどころか二人に殺人の濡れ衣をきせてしまった。僕もあいつらのような卑怯者になってしまった。・・・正義って何!?他人を貶めて自分を美化するのが正義!?自分の自己満足のために他人を傷付けるのが正義!?もう僕には何もわからない。」
溝霧は泣きながら告白した。その様子を日比野達は黙って見ていることしか出来なかった。
「・・・スパンダーさんから頼まれたことはまだあるんです。そのために日比野さん、あなたを倒します。」
「溝霧、お前の気持ちはわかった。でも、俺達も命懸けで戦っているんだ。すまない、お前を倒す。」
みんなが見守っているなか、日比野と溝霧がぶつかり合った。