永遠の美
私にはずっと探しているものがあるの。
――――"永遠の美"。
物心ついたときから、私の周囲には色んな人がいたわ。
家族、友達、近所の大人の人。
その人たちが私に向かってこう言うの。
『あなたは本当に可愛いね』って。
皆が皆、私を見て嬉しそうな顔をしていたの。
最初は可愛いって何か分からなかったけど、その日から私は可愛いって言葉が大好きになったわ。
だから私、決めたの。世界一可愛くなって皆を笑顔にするんだって。
お母さんに可愛いを教えてって言ったら、笑いながらたくさん可愛くなる方法を教えてくれたわ。
でも可愛いは長くは続かなかった。大きくなるにつれ、可愛いは私の下から離れていったの。
それに気付いたとき、私は泣いたわ。それはもう大泣きよ。
そんな私を慰めてくれたのはやっぱりお母さんだった。
『それはね、貴女が美しくなったからよ。大人になったのよ』
可愛いは無くなった訳じゃなくて、大人になった私の為に美しさに変わったのよ、だって。
次の日から私は美しくなる方法を学んだわ。目指すのはもちろん世界一よ。
見た目の美しさはもちろんの事、礼儀作法やダンスに歌。美しくなる為ならなんだってしたわ。
他の子が私を見て妬んだりもしたけど全部無視したわ。そんなことより自分を磨くことの方が有意義ですもの。
そしてとうとう、私の努力は実を結んだわ。
だってこの国で一番の人……そう、王の妻として迎え入れられたのだから!
後妻なのは少し引っかかるけど、正室の王妃様は既に他界され王女様はまだ子ども。
つまり私の美しさは国一番と言うことよ。いいえ、世界一と言っても過言ではないわ。
盛大な結婚式にパーティー。皆が私に笑顔でこう言うの。
『王妃様、とてもお美しいです』って。
その中にはあの王女様も居たわ。黒髪に白い肌を持ち、笑顔を向ける女の子。私がもう持っていない可愛らしさがあったわね。
でもまだまだ子ども、私の美しさの足元にも及ばないわ。
まぁ、そうね。もう少し大人になったら、それなりにはなるんじゃないかしら。
毎日美しい私を一番見ているのはこの私。だから審美眼には自信があるの。
……でも、その時気付いてしまったの。
この子がそのそれなりに成長するとき、私は世界一美しいままでいられるの?
見なさい、この会場の女性達を。昔はまだそれなりだったでしょうに、年齢を重ねるごとに醜くなるその姿を。
私もいずれああなる? 冗談じゃないわ!
私はあんな風にはならない! 世界一の美しさを保ち続けるのよ!
でも、どうやって? こうしている間にも老いは少しずつ迫ってきてる。
もしかしてすでに私より美しい人がいるのでは? 今この時にも私よりも美しくなった人が生まれているかもしれない?
私から美しさが消えたら何が残るの? もしかして王に捨てられてしまったり……?
考えれば考えるほど不安で胸が苦しくなったわ。夜眠れずに王に心配されることもあった。
睡眠不足は美しさの大敵なのに……本当にダメね。
そんなある日のことだったわ。私に贈り物が届いたの。
ある高名な魔法使いからの魔法の道具。
その魔法の道具のお陰で私の心は軽くなったわ。だって悩みの一つが解決できたのですもの。
それは私が世界一であると言うことを証明してくれる素敵な素敵な贈り物。
だから私は今日もそれを使うの。
残りの悩みの永遠の美しさを探し当てるまで、私は世界一美しい人間でいなければならないのだから。
「鏡よ鏡。世界で一番美しいのは誰?」
『それは王妃様でございます』