おつきさまのお社
あれは幼い娘との散歩中、地元で「お月様のお社」と呼ばれている社の前を通った時のことだ。
「可愛いお嬢さんですね」
振り向くと、袴姿の老人が笑いかけていた。神職の方だろうか。娘にも挨拶を促したが、咳き込んでしまった。
「すみません、この子、身体が弱くて」
「ちょうどいい。このお守りはおつきさまのものです。病弱な子にお渡ししているのですよ」
夜、娘は高熱を出した。意識も朦朧として、おつきさま、おつきさまとうわ言を繰り返す。気休めでもと思いお守りを持たせると、すぅっと熱がひいていった。
その日を境に、病弱だった娘は見違えるほど元気になった。
今日はお月様のお社へお参りに行く。
「あなたはここでお守りを頂いてから元気になったのよ。だから神様にお礼を言わなくちゃね」
「言わなくていいよ。私はずっと昔から元気だったもん。お母さんに出会うより、ずっと前から」