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呪われた殺姫  作者: 雛月深藍
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第2話 死なないターゲット

そして任務当日


俺は下校中のターゲットを狙う予定だ。


朝から入念に愛用の針やナイフを磨く。


何本も何本も、投げる用、刺す用、毒針、罠用、用途に分けて使いこなしている。


鋭さがイマイチだとターゲットに刺さる前に折れてしまったり、上手く刺さらない場合がある。


暗器の手入れ不足で殺し損ねたり半殺し、なんて殺し屋としては素人以下だ。


プロを名乗るなら、その意識があるなら全てに全力を注ぐ。


俺が使う暗器は針。


細く強度はそこまでだが、鉤爪よりも目立たないし、片付けも簡単。

針は暗殺にはもってこいの暗器。

素材に拘り太めの針にすれば何度も使えるし、手軽に持ち運べる。


ターゲットの下校ルートを何パターンも想定して、その周辺の監視カメラをハッキングして現在進行形でミカゲが監視している。


服は身軽に動ける伸縮性のあるもの。

スポーツ用品店で手軽に購入出来るものを自分で改造している。


動きやすいし強度もあるが、体のラインが分かりやすく、遠目から見て性別が分かってしまうところが玉に瑕だな。


まぁそもそも目撃者なんていない場所で殺すのが基本だから俺にとってはこの格好が1番いいんだがな。


そして滑り止めや衝撃吸収効果のある特注の靴。


腰には何百本もの針を入れた手製のケースを付ける。


首元にはスカーフのような布を巻くが、これも針やナイフなどの刃物を通しにくい特殊素材で作られているし、何かあったら口元を隠しマスクのような役割も果たす。


そして呪具の針は封印の札で念入りに封じて懐にしまってある。


他の針の倍近い長さを持ち、太さは医療用でもあまり見ない太さだ。


この針は1度封を解いて触れれば手に染み付いて離れない。


しかも殺した相手の血を吸って赤くなる、と聞くし…


この針は今は真っ黒で全然赤くはない。


血を吸えば吸うほど強くなるのが呪具、と聞いているが…使えば使うほど寿命が縮む。


使い方には気を付けなくてはならない。


「ナオ君」


ミカゲが手入れ中の俺の元に来る。


「どうした?」


「呪具の使い過ぎには気を付けて。あとターゲットの登校ルートは日常と同じだったわ。」


「分かった。ありがとう」


ミカゲなりに心配してくれているのだろう。

それだけ危険ということか…

いつも以上に肩に力が入る。





俺はターゲットの下校を待つ。


倉橋紗津は肩下20cmの黒髪と目元が隠れるほどの長い前髪、身長は165cm程度で華奢な体付き。


写真や動画を見ていたからか、遠目からでもすぐに見つかった。


下校のタイミングはちょうど辺りに人がいない時で普段から人目を避けているのが分かる。


呪使は変わってるいるのか、やはり学校内でも浮いている様子だった。


極力人と関わろうとしていないし、人と話す事も無い。


まぁ俺にとっては好都合だがな。


ターゲットが人目につかない、防犯カメラの完全な死角に入ったのを確認して俺は近くの木から飛び降り、振り向く隙も与えず背後に回り、後ろから手を回し、首を掻っ切った。


首からは大量の血が流れ出し、ターゲットはすぐさま倒れる。


どくどくと首から血が流れ、ヒューヒューと苦しそうな呼吸はどう考えても普通の人間で呪使には見えなかった。


そしてターゲットの呼吸が止まった。


俺はそれを見るとすぐさまその場を後にした。






その夜、ミカゲから思わぬ言葉を聞いた。


「ナオ君、掃除屋からターゲットがいなかったって連絡が入った。」


「!?いない?どういう事だ?確かに首を切ったぞ?」


「分かってる。ナイフにはしっかり血がついていたもの。ただ生き延びただけじゃない。やっぱり呪使って死なないのかしら…」


「どういう事だ?」


呪使は死なない?


「掃除屋が言うには、ナオ君が殺した場所には血痕一つ残ってなかったそうよ。」


「えっ?」


そんなはずない。首を切ったんだぞ?大量に血が溢れてた…ナイフにも血がついていたし、ターゲットの制服にも血が染み込んでいくのをこの目で見た…


「呪使はその身に呪いを宿す。簡単には死なない。やっぱり喉掻っ切っただけじゃ、死んでくれないか…」


分かっていたような口調でため息を着く。


「簡単には死なないってどういう事だ?強いだけじゃなかったのか?」


「呪使はその身の半分を呪に堕としているの。というか、半分呪と同化しているのよね。だから普通の人間なら死ぬ事でも呪が半ば強制的に体を再生させる」


「なんだよそれ…聞いてねぇぞ…」


「私だって半信半疑だったの。だってまさか、殺しても死なないなんて思わなかったんだもん。」


「……………確かに…」


ミカゲには沢山の情報が入る。

その莫大な情報量を正しく活用するには圧倒的な知識が必要となる。


どの情報が正しいか、見極めるのは全てミカゲだ。


その莫大な仕事量を当然のようにこなしているが、普通は無理だろう…


「悪かった。完全に心音が止まるまでとどめを刺し続ければ良かった。」


「ナオ君のせいじゃない。呪使が如何に常人離れした存在か分かって、且つナオ君には怪我ひとつないってだけで充分な収穫よ。」


「ありがとう…」


だが俺は素直に喜べなかった。





それからしばらく倉橋紗津の様子を観察していた。


奴は当然のように翌日も登校し、狙われたことを誰かに話すこともなく、周囲を警戒することもなく平穏に過ごした。


あまりに平然としているからこちらが首を傾げたくなるほどだ。


「なぁ……明日もう一度狙っていいか?」


監視カメラで倉橋を監視しているミカゲに話しかけた。


「…………えぇ。今度は呪具を使ってみる?」


「………そうだな…それしかなさそうだ。」





翌日、俺は学校付近の木の影に隠れる。

倉橋が下校するのを待つ為だ。


だがこの日は6時になっても7時になっても倉橋は出てこなかった。


どこかから帰ったのかとミカゲに連絡したが、どこの監視カメラにも倉橋の姿は確認されておらず、おそらくまだ校内にいるはずだ、と言われた。


そして8時を過ぎ、9時をすぎた。


教師が段々帰宅を始めているが、それでも倉橋の姿はない。


一体どうした?俺達が狙っていることに気付いたのか?


そんな不安を感じていると、10時過ぎにミカゲから連絡が入った。


「ナオ君、屋上に行って。そこに倉橋紗津が居る。」


無線でそれを耳にし、思わず屋上に目を向ける。


するとそこには屋上の上で1人立っている倉橋紗津の姿があった。


そこまで視力に自信がある訳では無いが、華奢なシルエットと風に靡く長い黒髪がそう判断させた。


「すぐに向かう。」


俺は躊躇うことなく校門を通過し、体育倉庫を登って2階の窓に飛び移る。


そこはミカゲが事前に”いつも鍵が空いている窓”と、調べていてくれたのだ。


何があるか分からないけど情報だけは頭に入れておけって言うのがミカゲの口癖だが、こういう時に役に立つのだと実感する。


校内に誰も人は残っておらず、屋上の鍵は開いていた。


そこには倉橋紗津の姿があった。


「あぁ、貴方ですか。」


待っているのは貴方では無い、と言わんばかりに冷めた声が耳に届いた。


「もう少し待ってください。あと3分で刺客が来るんです。」


倉橋は俺が誰かと問うことも無く、俺の登場に驚くことも無く、淡々と刺客という言葉を口にした。


「刺客!?何の話だ!」


「刺客は刺客ですよ。あぁ、そういう意味では貴方方も刺客にはいるんですかね?」


初めて見る倉橋の目は大きく真っ黒で、吸い込まれそうな漆黒だった。


「なんなんだ?一体…」


「刺客の視界に入ったら狙われるかもしれないんでちょっと隠れていて下さい。」


倉橋は屋上の隅を指さした。


俺は訳が分からないままミカゲからの通信を待った。


「あぁ、分かったよナオ君。うち以外にも依頼が来てたんだ。そしてその依頼の実行日が距離がなんだ。」


ミカゲから早口で説明される。


「他とこんなにガッツリ依頼が被ることあるか?」


「わざと被らせてるんじゃない?とにかく早く殺さないと先手を取られる…」


「分かってる!」


俺は呪具の封を剥がし、両手に構える。


「あぁ、貴方から来るんですね。」


倉橋は別に驚くことなく俺の方を見た。


そしてあっさり俺の針を心臓で受けた。


「えっ?」


あまりの無抵抗さに逆に俺が驚いてしまった。


突き刺した針から呪いがじわじわと流れ込む。


そして針を抜くと、針は瞬間的にだが赤く染っていた。


倉橋は苦しそうに胸を押さえ、血が流れる胸元に手を当て、その場に膝をつく。


傷口から広がるはずの呪いは全然広がらず、むしろ倉橋に吸収され、傷口もすぐに塞がってしまった。


どうしてだ?ナイフで首を掻っ切った時よりも回復が早い…呪具が全く効果を発揮していない…


「あぁ…やっぱりこれでもダメですよ」


愕然としている俺のことは露知らず、つまらなさそうな声を発した。


すると屋上の扉が開き、そこには機関銃を構えたスーツ姿の男がいた。


ここの教師だろうか?俺は直感的に動いていて、その男が俺を認識する前に死角に入り込み、毒針で首を突き刺した。


致死毒ではなく一時的に神経を麻痺させる毒で動きを制限して話を聞こうと思ったのだ。


「何故殺さないの?」


倉橋が生気のない声で首を傾げる。


「お前、狙われてるのに余裕だな。ぱっと見た感じ銃奪って動きを封じれば簡単に扱えそうに見えたんだよ。」


40代くらいの細身の男は別に体を鍛えてそうな様子もなく、体が痺れて、銃に手を伸ばす力もなく地面に伏せっている。


だが倉橋が何気なく機関銃を手にするとその機関銃が爆発した。


火力はそこまでだが、至近距離では大火傷を負うほどの火力だ。


「おい!!」


俺は倉橋の傍に駆け寄る。


そこには真っ黒な何かで護られ、無傷の倉橋がいた。


「えっ…なっ…無傷!?」


「私にこの手の攻撃は聞かないって聞きませんでした?」


倉橋を護る黒い影のようなものが彼女の足元を通り男に近付く。


「貴方でも私を殺せなかった。殺せないのに呼んでしまった。」


吐き捨てるような声で言うと、黒い影が男を包み込んだ。


「…ぎゃあああああああああああああぁぁぁ」


影の中で男が断末魔のような悲鳴をあげたが、その声すらも影で遮音されているのか、次第に聞こえなくなった。


影の中で何が起こっているのか、見えなかったが喰われていることは分かった。

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