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女子力を鍛える漢のVRトレーニング



振られた。

ら、過去にタイムスリップしてた。


「このデスゲームが終わったら、一緒に暮らそう!」


デスゲームはクリア寸前だった。


「え、ごめんなさい」


しかし、振られた。

それが全てだった。




一世一代の大一番でフラグを立てたのに、失敗した。失敗した失敗した失敗した俺は失敗……。


巻き戻った現在は四月一日のサービス開始初日。世間じゃエイプリルフールとか、新学期や新生活の始まりとか色々言われているが身の回りに話を絞ればトレンド入りしているのはデスゲームなる不穏なワードだろう。

なんでもつい先ほど運営ディレクターが主催するオープニングセレモニーが閉幕し、危機感が無いお気楽なお調子者が度胸試しと称して自傷行為を行いヒットポイントを全損させて、この世から永久追放処分が下されたそうな。彼は最後までこの酔狂なエンターテイメントが運営の遊び心と信じて疑わずに「デスゲームとかネタっしょ、つか痛覚再現ヤバくね?」なんて笑いながらリストカットを実況して最期にセレモニーの舞台上から飛び降りてクシャッとなっていた。まあもしかしたら本当にデスゲームではなくて俺のように二週目への挑戦が残されているのかもしれないが……。


グロテスクな死に様を無駄に注目集めて見せて下すったものだから静まり返っていた現場は大混乱。それも含めてデモンストレーションとかサクラを疑ったりして頑なに信じようとしない派も少なからず居る事だろうが、この一件にて自死を持ってログアウト出来るか確かめようとする軽率な行いは暫くの間慎まれる事になったのだった。


と、此処までは前回の通り。今日から向こう3年ぐらいは毎日ずっとぶっ続けでゲーム三昧の日々が続くことだろう。そんなに慌てなくても明後日月曜日までには普通に日常で暮らしてるなんて事はないから一先ず落ち着こう、ね?


「チェイサー!!」

「ぎょわぁぁぁ!?」

「ペギョエェェ?!」

「ヒャッハー、堪らねぜ!」


悲鳴や怒声が飛び交う喧騒の中をぐるりと見渡せば、あたりは既に乱戦模様のようだ。まったく、血の気の多い連中だ。

俺は混乱に乗じて暴力に訴えかけて憂さ晴らしを始めた連中に対して徹底抗戦の構えを見せてこれに応じた。こちらがそれなりの使い手とみると前後左右御構い無しに襲いかかってきた悪党ども。それをひらりひらりと払い除けてあれよあれよとブチ転ばしておく。うむ、あの日から鍛え上げてきた技術は今も健在だ。先程から徒手空拳のスキル熟練度が引っ切り無しに上昇を始めておりこのゲームのシステムくんが現状のプレイヤースキルに応じて辻褄合わせを行なっている最中のようだが、取り敢えずあの日々が壮絶に長すぎる夢オチだったという事はこの事からも無いと考えて良いだろう。という事は、このまま何もしなくては俺が三年後に振られてしまう未来も確定的なものという事になるわけで、つまりはこんなところで油を売っている場合では無いというわけだ。


「すげぇ!なんだよ、あいつ。あの人数を相手に平然と突っ立ってやがる。リアル格闘家か何かか?」


幸いと言うべきか、こうなった以上考える時間はたくさんある。そもそも何故にどうしてこうなったか、気になる要素は多々あるが今一番考えなくてはならない事はずばり、なぜ振られたのかだ。


「いいや、違う。たぶん何かのチュートリアルに違いない。おそらく重要NPCだろう。下手に敵対するとまずい」



俺は、彼女に振り向いてもらうために出来る限りの事はした。

リアルに帰りたい。悲しそうな表情を見せた時は出来るだけ側で慰めてあげたし、街に連れ出して一緒にショッピングしたり、景色が綺麗な場所に連れて行ってサンドイッチの入ったバスケットなどを持って行ってピクニックしたり。


「助けた方が……」


何より彼女を悲しませる一番の原因であるデスゲームを終わらせる為に、誰よりもゲーム攻略に力を入れていた。眠る時間すら惜しんで、我武者羅に、ひたすらに、なのに、だのに……ッ!


「止めとけって、下手すりゃ死ぬぞ」


何故だっ!何がいけなかった!!

毎日会う度に最初に手渡していた花束がいけなかったのか?

それともキザったらしい口上と共に跪き、手のひらにキスなどしたのがいけなかったのか?

眠れない夜は本を読み聞かせたり、一緒に劇場などを鑑賞して笑いあったり、寒い日は手編みのセーターをプレゼントしたり、暑い日は冷たいジェラートなどを作ったりしていままで一緒に上手い事生活出来ていたじゃないか!

ラスボスである大魔王を一人で倒してヘトヘトになりながら何も知らない彼女にプロポーズもした。ゲームクリアのアイテムであるパズルのピースをプレゼントして一緒に帰ろうって言ったら素っ気ない態度で「あ、はい」なんて……。


ああ、今思い出しても涙が止まらない。悲しみで立つことすらままならない。


「ま、まずいぞ。地面に両膝をついて今にも倒れそうになってる!」


あの日、ゲームが終わった日、終わる筈だった日に彼女は言った。


ーー ……ケーくんは女心が分からない


あんなに帰りたかったリアルに今なら帰れるのに、パズルのピースをもぎ取った彼女は知らない男にギュッと抱きついて、冷たい眼をして横目でサラリとそんな事を言われた俺。一体何がいけなかったのか?


フラッシュモブはやり過ぎだったのか?

毎日プレゼントした摘みたてなバラの花束が鬱陶しかった?

デートに毎回サプライズを用意されるのが疲れるとか?

サンドイッチの具にピクルスを混ぜたのがいけなかった?

ラテアートにこっそりハートマークを織り交ぜたのが露骨過ぎた?

手編みのセーターのサイズがぴったり過ぎたことか?


思い返せば実はあの事が愛想尽かされるきっかけだったとか色々考えてしまう。実はイケメンじゃなかったとか実は体臭が臭いとか実は声がキモいとか実はレズなんですとか考えれば考えるほど自分が知らないだけで嫌われる要素や好かれない要素が幾らでもあったのかもしれない。でもそんなの、分かんねえよ。


しかし、一つだけわかった事がある。



「もうおしまいか?バケモノめ。お前の心臓をえぐり出してやる!」

「……ッ!アァァァァァ!」


鍛え上げた技と技、女の子がキュンとするちょっとした仕草、あざといモテ男テクニック、即ち……



「ぐべぽ?!」

「ああっ!?アニキがやられた!」



壁ドン。それは女の子を壁際に追い詰めて漢らしい強気な姿勢で壁面をドンと叩き相手の冷静さを揺さぶると共に、揺らいでいる平常心へ言葉で強気な要求を叩き込み恋心に直接ダメージを与えるモテ男流の基本テクニックである。また使いどころを間違えると相手に強烈な不快感を与えると共に頭突きや急所狙いなどと言った手痛いカウンターコンボをお見舞いされることになり画面端から場外へ退場。つまりは恋愛圏外へ追いやられて試合終了へと繋がってしまう諸刃の剣でもある。


そして今のように相手が同性の、特に男同士でこの技を掛け合う時は少年漫画的に壁に叩きつけられて蜘蛛の巣状に衝撃がペキペキって広がってカハッてなってるところへの強烈な起き攻めと繋がるわけだ。またこれも「おいどうしたその程度か?」と対戦相手を煽ると覚醒シーンが入り逆転負けが決まるお約束のパティーンに突入する恐れがあるため注意が必要である。そしてそれを見た女子たちがキャーステキーする魅せる壁ドンもモテ男流の応用テクニックとして広く知られている。特に貴腐人の間で人気があるようだが……それはさておき。


なんだかんだと理屈をこね回しても結局、俺には女心が分からなかったらしい。モテ男流のテクニックをひたすらに磨いてきた俺は終ぞそのことに気がつかなかった。なにせモテ男流の真髄は如何にして女の子を自分だけのモノとしてオトせるか?もっと言えば相手を研究して相手の弱いパターンで攻めて、またこちらの弱さも魅せることで相手を油断させてこちらの懐に落とし込む事に長けた流派だったからな。

そう、全てはこちらの掌握下に置くための術でしか無く、しかし彼女には女の子をときめかせる術を幾つ重ねようとも其れだけでは不十分だったという事。ショートケーキや甘い物だけでは女の子は生きていけないと言われれば其れはまさしく道理であった。


嗚呼そうか、俺は恋愛圏外にいつの間にか追いやられていたんだな……。

今、一人の漢が壁に人型を刻んで意識を失いバトルに敗れた。勝者は一人、物言わぬ骸の山に静かに佇むのみ。


ならば俺は、女心を深く知る必要がある。

俺は闘いを通して一つの道を見つけたのだった。


そうと決まれば……?


いつの間にか俺の周りにはたくさんの人だかりができ、すげぇあいつ何者なんだと謎に包まれた重要キャラクタームーブを知らぬ間に醸し出していたみたいだった。これは目立つ、それは困る。


「あれだけの人数を相手に……あいつは一体何者なんだ?」


ふん、他愛の無い。ファサーとマントを翻し暗がりの方へ立ち去る俺。その背中を追うものは、誰もいなかった……なんて、そんな感じてそのうち然るべきタイミングで現れては頼れる強力なお助けキャラポジションに収まっても前回の二の舞になりそうな事は確定的に明らかなので早い段階で方向性を変えておく必要性がある。

……とりあえず目撃者を全員気絶させて姿をくらまして、其れから考えるか。


「す、すげぇ!是非おいらを仲間に入れて、ぷげら?!」

「な?!野郎、何しやがる!」


十数分後。目撃者は一人残して皆消した。もちろん意識だけだが。

だが、彼女だけは殴れない。そこだけは絶対に譲れない、踏み込んではならない境界線だった。


「……あなたは、なぜ私を残したの?何が、望みなの?」

「いつか俺が女心を理解したその時、きっと会おう」

「は?え、女心??」


シュタッと路地裏に消えた俺は迷路のように張り巡らされた、されど今となっては自分の庭のように慣れ親しんでしまっている、その入り組んだ道のりを順番に辿って次の街までノンストップで駆け抜けるのであった。

数時間後、セレモリーがあった広場で徐々に意識を取り戻し始めたプレイヤー達が、近くで介抱していた彼女に色々問い詰めて、色々大変な事になってしまうことも知らずに……。




路地裏を走り抜けてから数時間後、次の街を超え更にその次の街まで進んでいた俺は道中で様々な女心習得メニューを考えていたのだが、イメージトレーニングだけでは土台無理があると結論を出し、ならば早いところ例のブツを入手しなくてはと先を急いでいた。


「ここを通りたければまず俺様をグベボ?!」


「すまんが盗賊に宝の地図を奪われて、何?もう取り返した?宝も持ってきた?……ふっ、ならば行くがよい。お主ならば娘を救えるかも……え?倒した??何故だぼばぁッ?!」


「また来たな、欲深き冒険者よ。お主に裁きを与える役を仰せつかったグッハッ?!この私の戦闘力を上回るとはなかなかの戦士、そろそろ本気ドバァ?!そ、それだけの強さを得るのがどれほど罪深い事が分かってゴハァ!我を殺すとどうなるかゴベェ!我を倒すとは見事バフッ……約束だ、受け取るが良いッ!」


関所が如く次の街の手前で律儀に待ち構えるボス達の、口上を述べる隙だらけな時間を有効活用して弱点部位に決定的なダメージを次々と叩き込んで行く俺。ギャラリーがいればスタンディングオベーションでそれを讃え今頃は黄色い声援で満ち溢れていたことだろう。モテる男は時間を大事にするものだ。


そうして第三の街、迷宮のボスを倒すと貰えるキーアイテムを無事にゲッツした俺はその前のボスの娘さんから拝借したクエストアイテムと組み合わせてさっそく使ってみる事にした。するとビックリ!どういう訳か小さな女の子になってしまったのだ。


生贄の首輪。本来ならイベント限定NPCだけが所持している筈であろう代物をちょっくら強奪して身につけた俺はちゃっかりTS大変身を遂げた訳だが、恐らくバグなのだろう。一週目でちょっと気を利かせたモテ男が生贄にされる女の子に当時一つしかなかった蘇生アイテムを持たせた結果今までモンスターの攻撃対象とされなかったその子にヘイトが集中してあっさりと死亡してしまった。何故か首輪を落とした状態でな。

そんなこんなで更にイケメソぶりを発揮せんと黄泉がえりを果たした女の子に対し「これで君が生贄にされる心配はないと」震え声で足りない男の甲斐性見せながら首輪を自分で装着した俺は何故かその女の子に大変身。首輪の鍵をドロップした鍵で解除すると元に戻れたわけだが、今回は鍵を使わないでこのままいかせてもらおう。女心を学ぶためにな。


「さあ、これで君は自由だ。家にお帰り」

「……でも私にはもう、帰る場所なんてないんです。贄として捨てられましたから」


そうでなくても、俺があんたの家の主人をぶち転がしちゃってるしな。


「なら、一緒に来るか?」

「いいんですか?」


そして、前回にはなかったパターン。女の子生存ルートに突入して仲間に出来るっぽい。


「これから先、君の様に理不尽な死を待つだけの人々を前にする機会が度々訪れるだろう。彼らを救いたいと思うのなら、ついてくるといい」


とはいったものの、今回俺は積極的にゲームの攻略を進める気がないのだが。

何はともあれ一先ずのところは次の街を目指す俺。ついてくる女の子。


「そういやあんた、名は?」

「ミアです」


新たにミアを仲間に引き入れた俺が目指すものは……えっと、なんだ?

まずは形から入るということでTSするところから始めてみたのだが、これからどうやって女心を身に着けるべきか?

姿だけ真似ても、隣を歩くミアの佇まいを見たらなんかこう、女の子らしさが欠けているというか。


「ところでミアよ。今の俺の姿恰好をみて、何か思うことは無いのか?」

「え? あ、格好良くて素敵だと思いますよ?」


か、格好良い……か?


「や、ほら。自分とそっくりな見た目の奴が目の前にいる件に関してさ」

「王都じゃ結構見かけますよ?女王様にそっくりな踊り子さんとか、王様の影武者さんとか」


影武者を結構な頻度で見かけたらだめでしょ。

まあテクスチャの使いまわしはゲームじゃ良くあることだし、気にするだけ無駄か?


と、思っていたのだが、次の街のショーウィンドウに照り返された自分の姿をみて唖然とした。

あれ、なんか違うぞと。


右を見れば、なんかおとなしそうな普通の村娘のミアちゃんが不思議そうに横目で俺を見つめていて、

その見つめる先の俺はと言うと、目の前に映るやさぐれた感じの剣呑としたオーラを放つ反骨精神あふれる女の子とガン飛ばしあっていて。まるで上品な飼い猫と餌を狩る野良猫ぐらい違うというか。


……俺のモテ男流テクニックでこの女をオトせるか?たぶん尻に敷かれて終わるだろう。女心をつかむというより気の合う友人の感覚が近いか。


つまり、俺の擬態は不十分ということだ。女心を知るためには女を磨く必要がある。そのためには……



「頼む、ミアさん。いや、ミア様。俺に女の磨き方を、女子力の身に着け方を教えてくれ」

「え? えええ~!!」



俺は、いやワタシは、まずは普通の女らしさを身に着ける必要があるみたいだ。

そしてワタシが隣のミア様のように自然なふるまいができるようになったとき、女心をしることだろう。

その時まで、待ってろよ。







どぅーなっとふぃにっしゅ。ふぃにっしゅひーむ。



女子力(物理)で影ながら夫を支える良妻を演じるため、家事手伝いのスキルに磨きをかける生産職のトラッパー的なのが書きたかった的な。




「お裁縫は乙女の基本です(鋼糸で網を縫いながら)」

「すげぇや主人公ちゃん。ボスがところてん突きみたいにサイコロ状に刻まれてらぁ!」



「お料理は乙女の基本です。(ポイズンクッキング)」

「あ、俺今日は外食ですませるから……」



「お洗濯は乙女の基本です。(ブレインウォッシュ)」

「俺も主人公ちゃんの洗濯板で清められたい……」



「お掃除は乙女の基本です。(死体処理的な意味で)」

「やだ、掃除したばかりなのに部屋がトマトケチャップ塗れ!」



だいたいこんな感じで脳みそ筋肉な女子力を書きたかった的な。

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