忘れてきたモノ
気付くとここにいた。
辺りはとても暗くて、空気も流れていない。
雑音もない、メロディーもない。
目をつぶっているのか?とも考えたがどうやらそうではないらしい。
とりあえず足を前にだしてみる。
今は自分の足で立っていてちゃんと動けるらしいとわかる。
今度は手を振ってみる。
手も動く。その時後手に何かがあたった。
少しためらったが後ろに振り返って見る。
今まで向いていたのが前だとするならば、たぶん後ろなのだろう。
振り返ってみるが何もない。
そっと手のあたった辺りをもう一度確かめてみる。
何も見えないが膜がはってあり壁のようになっている。
手には触れるものの、何故かそれが近くにあるように感じられない。
その壁ずたいに歩いてみる。
すこし歩くと角があり、四角い形にぐるっと囲まれている何かだとわかった。
あちこち調べてみたが何もみつからない。
どーにもならないと思い、あきらめてその場にすわりこんだ。
それからどれぐらいの時間がたっただろうか。
いやそこに時間なんてものはないのかもしれない。
ふと壁の膜の中に何かの存在がかすかに感じられた。
普段は怖がりの僕だったが何故か怖くはなかった。
そこに誰かいるの?
呼び掛けてみるが返事はない。
深呼吸をしてもう一度呼び掛けてみる。
返事はない。
壁に顔を近づけ目を凝らしてみると、
人の肌のようなものがぼんやりと見えてきた。
そこで何をしているの?
やっぱり返事は無い。
しかし声をかけるたび、肌の色は濃くなり、何となく全体が見えてきた。
ようやくその存在が子供であったのだとわかった。
子供が裸で座っている…
体を縮めて、足を抱えた子供。
そして腕の隙間からこちらをじっと見つめている。
もう一度声をかけようとしたその時、遠くで憂鬱な音が聞こえた。