南極セット(企画用SS400字)
夏椿が咲いた。
彼女の家の近所には、植木に夏椿を選択されている家が多い。
白くてひらひらした、貴婦人のスカートのような花びらが、風に揺れている。
その白さは、容赦なく肌を刺す太陽光の中でも、溶けない。
いつかのニュースが頭の中で再生された。
地球温暖化で南極の氷が溶け、南極に生息するペンギンの個体数が減少している、というもの。
白さ際立つ南極の氷も、夏椿のように強ければいいのに。
彼女はアスファルトに落ちて、なお、白さを保つ花を拾い上げた。
アパートに帰って、彼女はいくつも拾った花をフローリングの上に広げた。
手持ちのコウテイペンギンのぬいぐるみを花の上に置く。
透明なグラスに冷凍庫から出したばかりの氷を入れた。
そこに注ぐのはカルピスの原液。
グラスの縁は汗をかく。
原液はゆっくり氷を溶かしてゆく。
濃いカルピスの幸せな味。
氷に見立てた花に立つペンギン。
現実に混在する幸福と問題は、一時の涼を約束してくれるのだった。