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目覚めると全裸 前編

全裸おっさんという、誰得な男が主人公なお話です。

 感じたのは焼ける様な腹部の熱。

 次いでやって来る激しい痛み。

 

 何事かと下を向くと、俺の腹から剣が突き出ていた。

 だくだくと血が流れ、立っていられず崩れ落ちる様に膝をつく。



「ガハッ!……テッド、何故……だ……」



 振り向いた先に居たのは、長年パーティを組んでいた男、テッド。

 神に祝福された様なその端正な顔を醜く歪め、信じられない事を口にした。


「これでこの剣は俺のもんだっ! ヒヒッ。そうだ、コレは俺にこそ相応しいんだよ!」


 テッドが手にするのは、煌めき輝く一振りの剣。銘を【聖剣レッドノア】という、さっき見つけたばかりの剣だ。それは俺の腹部を貫き、そして今、命を刈り取ろうと振りかざされていた。


「じゃァなトーマ! この剣もアイツらも、俺が大事に使ってやるよ!」



 そして振り下ろされる聖剣。それは見事なまでに俺を両断し──。



 こうして、俺は二度目の死を迎えた。




 ◆◆◆




 俺の名はトーマ。トーマ・アルウォール。それがこの世界での名前だ。

 それ以前に使っていた名前は、土方斗真(ひじかたとうま)。そう、俺はもともと日本人だ。


 15歳の頃、友人の運転するバイクの後ろに座っていた俺は、運転を誤った事故により死んだ……らしい。

 

 と言うのも、事故にあった次の瞬間、目の前にいたのは真実の口……わかるか? あのデパートとかにある、口に手を突っ込んだら手相を占ってくれるあれだ。あの顔にそっくりなオッサンが立っていたんだ。



 そいつは自分の事を神だと言い、異世界の知識があり、剣や魔法に興味のある俺を、その世界に転生させたらどうなるか実験がしたいと言い出した。


 いわゆる異世界転生だな。引き換えに俺は、人や物の情報を見抜く、【剔抉(てっけつ)の神眼】と呼ばれるスキルを得た。

 まぁ、なんのことは無い。この神が俺の目を仲介に世の中を見る、出歯亀上等な隠しカメラみたいなもんだ。


 そうして俺はこの世界、アルワースに転生した。トーマ・アルウォールとして。



 幼少期こそ、俺は神童と持て囃された。なにせ現代日本の知識と、神眼があるんだ。幸い生まれもそこそこ上流階級だった事もあって、伸び伸びと成長したね。


 だが、順風満帆な人生に躓きを感じだしたのは、冒険者になって数年たった頃。


 男なら誰もが憧れる、冒険者という職業。様々なダンジョンに潜り、貴重な資源や一攫千金を目指す。あるいは魔物を倒し、レベルを上げる。


 当然俺も冒険者になった。レベルを上げ、いつか英雄に……なんて夢も見ていた。



 だが、神眼をもってしても、俺は英雄になんかなれなかった。相手の情報が見れたところで、届かなければ意味は無い。

 一流の冒険者と呼ばれる存在は、俺より強く、速く、そして賢かった。並々ならぬ努力も、才能もあった。



 結果俺は、ちょっと魔物の弱点を見抜く事の出来る、便利な冒険者にしかなれなかった。

 冒険者としての等級も、銀等級──真ん中より下位の、何処にでもいる冒険者程度だ。レベルも20そこそこで頭打ちとなった。金等級や白金等級、ましてやその上の宝石名を名乗る英雄になんか、まるで届かなかった。


 そうこうしている内に、気が付けば今年で30歳だ。もう、ここから劇的な伸びを見せる事は無いだろう。



 そうして俺は、同じ銀等級である馴染みの冒険者、テッドとサーヤ、そしてアリアの三人と、いつものようにここ、大陸の中でも小国バルツの外れ、小都市ラビリスに管理される、〈龍谷の洞窟〉で身の丈にあった魔物を倒し、素材や魔石なんかを集めていた。



 テッドはラビリスについて最初に知り合った仲間だ。顔立ちが非常に整っており、若く、人気者だったテッドだが、何故かソロで洞窟に潜っていた。

 ギルドでパーティを募集したところ、それに食いついてきたという訳だ。それ以来、ずっと一緒である。



 サーヤとアリアは冒険者としては珍しい、姉妹でのパーティだった。姉のサーヤと妹のアリア。17歳と15歳と言ってたかな。だが、成長は妹の方が優れていたらしく、良く逆に見られている。端的に言うと、ロリな姉とボインな妹だ。ショートヘアの高い位置でツインテールを作っている髪形も、見た目の幼さに拍車をかけている。

 逆にアリアは腰まで伸ばしたストレートという事もあって、年齢以上に大人びて見える。



 この二人は洞窟内で困っていた所を助けて以来、一緒に行動するようになった。一回りも歳の離れている俺の事も何かと気にかけてくれる、良い娘達である。



 そしてこの日もいつもと同じ様に、魔物を狩りつつ、テッドと俺が馬鹿な事を言い、それをサーヤとアリアが諌める。そんな風に洞窟を進んでいる時だった。

 いつもいつも同じルートを進み、そして帰る。そんな日常に飽きていた俺とテッドは、調子に乗って下層へと足を踏み入れる。


 危険な奴は俺の目で判断して逃げれば良い。そう思っていた俺達だが、少し進んだ先で俺が偶然目にしたのは隠された道。

 ここ、〈龍谷の洞窟〉はすでに探索され尽くした洞窟だ。正直めぼしい物は出て来ない。その洞窟で、目の前に未踏の道がある。

 仲間に告げ、迷う事なく俺は一歩踏み出した。一攫千金を夢見て。そして見つけたんだ、祀られるように突き刺さる一本の剣……聖剣レッドノアを。



 当然俺達は舞い上がり、テッドがそれを引き抜いた。それは見るからに特別な品で、誰が見ても羨む様な剣だった。



 俺は神眼を使い、それが聖剣レッドノアである事を告げる。売るか使うか意見は別れたが、ひとまず持って帰ろうと上層へ登る階段に差し掛かった頃、テッドに呼び止められた。サーヤとアリアは『先に行くよ』と、すでに登っている。


 恐らく売ろうと言った俺を説得するつもりだろう、そう思い少し離れたところで、腹部に熱を感じた。



 後は知っての通りだ。テッドが二人にどう説明するのかはわからないが、死んだ俺には確認する手段はなかった──。




 ◆◆◆




 次に気付いたのは、どれだけ時間が経った頃だろう。


 時間の感覚はないが、俺は不意に目覚めた。


 二度目の死だ。また神とやらの所かと思ったが、目に見える景色は最後に見た洞窟。


 そして、両断された俺の身体だったもの……。



 ──あれは、俺だよな。じゃあ、俺は何だ?



 いわゆるお化け、幽霊の類いだろうか。慌てて手を前に出し確認する。


 ……透けている。


 そのまま目線を下に下ろすが、足は生えていた。ただ、透けて、地面も一緒に見えているが。



 ──いや、落ち着け。落ち着くんだトーマ。こういう時はあれだ、素数を数えると幸せになれるって誰かが言ってた。1、3、5、7……。


 改めて身体を見てみる。うん、中年の割りには引き締まった腹筋と、地面が見えるな。


『〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!』


 俺としては叫んだつもりなんだが、肉体の無いこの身体では当然声が出るはずもなく、より一層、自分が生者では無いことを示していた。



 それからしばらく呆然としていたが、ハッと死の直前を思い出す。テッドはなんと言っていた? そうだ、剣もアイツラも自分が使うと、そう言っていた。


 欲に目がくらんだテッドが、何をしでかすかわからない。そう思った俺はいても立っても居られず、自分の死体もロクに確認せずに、上層へと飛んでいった。



 幸いこの身体の利点は地上を歩く必要がない……そう、飛べるのだ。歩く感覚と同じ様に、飛び方がわかる。

 そして、壁や床、天井なんかは素通りする事が出来るらしい。代わりに物体を掴むことは出来ないが。


 真上に飛んで外へ出たいが、まだテッドたちが洞窟内にいるかも知れない。


 一直線に洞窟を逆走し、そのまま街へ飛んで行く。テッド達がどこにいるかわからないが、洞窟で見かけなかったという事はギルドか酒場か。


 街の住人に見つからないよう上空を飛ぶ。目当てのギルドはすぐに見つかった。

 まずはギルドの屋根から頭だけを出して中を見る……いないな。

 次に向かったのは馴染みの酒場。



 そこで目にしたのは──。



「ほら、どうした。早く注げよサーヤ! 酒が切れてるだろう」


「は、はい。すみませんテッド様!」


 最後に一緒だった時とは違い、銀等級の俺達では、けして手が出ないような装備に身を包んだテッドが、サーヤを使用人の様に使っている姿、そして──



「アリア、ここに居る客に言ってやれ! お前は何だ? お前のご主人様は誰だ?」


「はい……私は、テッド様の……下僕です。テッド様の為に尽くす……女です」


「ハハハ! そうだ、お前は俺の女だ! ハハハハッ!」



 そう酒場中の客に告げる、アリアの姿だった──。



ここまでお読み頂きありがとうございましたm(_ _)m


壁や床をすり抜けられる代わりに、基本全裸な。って言われても、多分困る……いや、案外慣れるかもしれない。


よろしければ下の評価ボタンやブクマをポチっと押して頂けると、とっても嬉しいです!!

また、感想や指摘などありましたら感想欄よりお気軽にどうぞ!むしろ突っ込みが欲しい……。

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