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灰の魔女と9人の子供たち  作者: 鈴生り けいな
第1章 檻の中の商品たち
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第4話 『異人の少年』

 人買いたちが出て行って、地下には商品だけが残された。


 ラズリシアは檻と檻とを区切る壁に寄りかかって座った。地面があまりにも冷たくて、なんだか湿ってもいて、不快だった。それで少年は、隣で同じように気持ち悪そうにしている女の子を持ち上げて、自分の膝の上へ乗せてやった。


「■■■・・・」


 少年を見上げて、女の子ははにかみながら何かを言った。

 おそらく、礼を言ったのだろう。ラズリシアは笑って、女の子の頭を撫でた。


 地下室の冷気はラズリシアの着るぼろの服など容易にすり抜けて、少年の肌を容赦なく刺した。だが、彼に寄りかかっている女の子のおかげで、寒さに震えることはなかった。


 代わりに彼の心を泡立たせたのは、同居人たちのぶしつけな視線である。


 5人の、少年少女たち・・・。

 格子をくぐった時の、あの大部分が諦念に染まった、10個の目。

 そのうちいくつかは、すでにこちらを向いてはいなかったが、まだ自分たちを見ている、数人の、訝し気な、何か奇妙なものを見る眼差し・・・それが少年の後ろ頸のあたりをふつふつとさせる。


 なかでも、ラズリシア達をじっと瞬きもせずに見つめる少年がいて、その瞳は二人に対する興味と関心を少しも隠そうとしていない。それが一等、ラズリシアを落ち着かなくさせていた。


「・・・ちょっと、いいかな?」

「・・・!」


 だからこそ、ラズリシアはその少年に注意を向けていた。

 そのせいで、別の人間が側まで近寄っていたのに、まるで気がつかなかった。


「・・・・・・・・・・・・なに」


 声をかけてきたのは、少しばかり年上の異人の少年だった。

 すすけた黒い髪に、異人の特徴である黄色味がかった肌がまず目についた。背はそこまで高くない。肉付きは、こんな境遇なら当たり前だが、よくない。(なぜか膝の上の女の子は違ったが)。

 眦の下がった優しげな瞳に、自然に浮かんでいるように見えるほほえみを顔にくっつけていて、ここの重苦しい雰囲気に似合わない、温和な人柄がにじみでた様相だった。相対していて、ラズリシアはなんだか変な汗が出てきた。


「いや、隣いいかな?」

「・・・なんで」

「君たちと話したくて」


 ラズリシアは、膝の上で固まっている亜人の子を抱き寄せた。女の子が、今度は違う理由で固まったのに気づかずに、隣に立ってこちらを見下ろしている異人の少年に、改めて言った。


「なんで」

「不思議じゃないか。人間と亜人が、まるで兄妹のように寄り添っているなんて」


 兄妹のよう・・・。

 俺とこの子が?


「・・・ほんとにそう見えるか?」

「え?いや、まあ・・・少なくとも、僕にはそう見えたよ」


 複雑だ。

 なんとも複雑な気分だ。

 ラズリシアはどんな顔をしていいのかわからなくて、微妙で歪な表情になった。


 うれしいという気持ちは、ないではない。けれども、なんだか気持ちの悪い感もある。

 どちらの感情も、どこから来たものか判然としていない。なんだろう。うん。なんだろう・・・。


「・・・もしかして、何か気に障ることだったかな?だとしたら、ごめん」

「・・・え、いや・・・べつに、そうじゃない」


 異人の少年が、申し訳なさげにこちらを見ている。彼はいつの間にか座っていて、ラズリシアと同じ目線になっていた。


「べつに・・・あやまるひつようは、ない」


 内心の動揺は棚上げにして、ラズリシアは言った。

 すると、異人の彼はほっとした様子で、またあの柔和なほほえみを浮かべた。そして、何故だか、その髪と同じ真っ暗な瞳を星が散ったように輝かせて、二人の前に手をさしだした。


「僕はフェルド。えっと、ね」


 異人の少年・・・フェルドは、初めて言葉を詰まらせて、恥ずかし気にうつむいた。

 そうしながらも、これもまたこの場にそぐわない、興奮した、ワクワクとした様子で、吐き出すようにして言った。


「僕と、友達になってくれ!」


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