プロローグ 『ラズリシア』
初投稿です。どうぞよろしくお願いします。
「重い」
ラズリシアはつぶやいて、首にかかった鉄輪を撫でた。
くすんだ茶の髪、同じ色の瞳は鬱々としている。程よく焼けた肌や、節くれだった指から、一目で農民の子供だとわかる。
今しがた、親に売られたばかりの少年である。
ラズリシアは、ちらと後ろを見てみた。
生まれてからの八年を過ごした家が見える。その前に並ぶ、自分の家族の姿が見える。
父が渋面を作ってこちらをにらんでいる。その手には数枚の銀貨が握られている。
ほかのみんなも、父と同じような顔だ。母だけが泣いていて、兄に支えられている。悲しいと思う。けど、どうでもいいとも思う。
彼らの背後を見やる。家の屋根の向こうに山が見える。ラズリシアにとって、庭といえるほどに慣れ親しんだ場所だ。
冬になって、木々の葉はすべて枯れ落ちてしまっている。乾いた枝のみが広がる、寒々しい景観。
けれども、それを望んだラズリシアの胸の内には、柔らかなぬくもりが満ちた。
「アルーサ」
思わずといった調子で、ラズリシアはつぶやいた。
それは、今あの山にいるはずの、最愛の妹の名前だった。