ギシ
渾身の一作と言いつつ長いだけです。
木々の葉が未だ深緑の頃。静かな幻想郷の義士は悪霊と会い、騒がしい幻想郷の剣士と戦う事に成った。首謀者は剣士の主。断ろうとするも、知り合いの地獄の仏を使うと言い出される。そして必ず連れて来られるのならば合戦は避けれない。渋々承諾をすると既に捕らえられた主が急に現れる。悪霊は気に食わない言い方で任す。結果は引き分け。地獄行きを免れたものの、結果に満足感は無かった。
工具と生活用品、工房と茶の間が入り交じった様な散らかりに散らかり捲った空間の中に技師少女、里香が背の低い椅子に腰を掛けて悩んで居た。
毎週此の曜日は私達は非番で義士、明羅が向こうから偶に同僚でも連れて来る。
毎週来るのだが今日は来ない。何か彼女も動かざるを得ない事件でも有ったのだろうか。喧嘩はして居ない筈だ。技師は新聞を買わない。何時も義士が見せてくれる。
心配に成り、外に出るが姿は見えない。彼女はいまは家に居ない気がして今回は行かなかった。
「相変わらず傷の数が多いね・・・」
「仕方無かろうて。素早い敵が多かったんだ」
「新聞に載らないのは悲しいね。痛いのに」
「此の会社は神社の事しか言わないからな。ほら、新米記者が直々に取材とか」
「何時かの二人が書かれてるけど何やってんだか」
ーー七日後ーー
今週もやはり来なかった、
何時もの服装に厚い上着を一枚羽織ってマフラーも巻いて防寒をしっかりする。ポシェットを持って。
「行くなのです! 」
硬い音が鳴るドアを開ける。
自分の住む北町から義士の住む東町へは空飛ぶ機械に乗って行く事は無い為、歩いて進むと景色がゆっくりと流れる。
義士は時々、森の方で木刀を降って練習をして居るが、真っ直ぐ家へと足を運ぶ。
彼女の家に着く。家自体は小さいが、中は独り暮らしには充分なスペースだ。
荒っぽい音を出す戸を叩く。
「はい、少し待って下さい」
彼女は居た。久し振りに聞く声が聞こえる。
戸が開く音も荒々しい。
背が高く、テープが貼られた丈夫そうな腕、日焼けをしても尚美しい顔、そして縛られた紫色の髪。確かに恩人の義士だ。もしも違う点が有るとするならば、包帯の量と、髪の毛を縛る位置だろう。縛ると言うより長い髪の毛を纏めただけと言った方が正しい。
「あ・・・、里香・・・」
義士にしては弱々しく、心細く、らしく無い。普段の勇ましい姿は何処へやら。
「良いなのです。先週来なかったから凄く心配だったなのです」
しかし、技師は幻滅をする事は無かった。惜しい事で悄気る姿も、自警団として見せる逞しい背中も、稀に見える女性らしく恥じる姿も全て、彼女なのだから。
「話は中でしよう。寒いから上がって」
「お邪魔します」
勿論、靴は揃え、上着は脱ぐ。玄関と居間を仕切るドアを通って炬燵の中に半身を入れる。技師から貰った暖房器具が有れば炬燵は要らないと思うが。
「何が有ったのですか? 」
元々、机上に有った新聞を渡される。紙面に「巨大妖怪出現」。妖怪の事を中心に記事が書かれて、怪我した者の様子、人数は序でにと言わんばかりの文字数だった。あの妖怪は博麗の方の新しい巫女に倒された様だ。
「私と辰彦は先週の夜に妖怪にやられた。この骨折は木々に当たった時にしたみたいだ」
痛い筈の腕を挙げる。義士にとって痛みと骨折自体は日常茶飯事。
とある警察の弟と言った辰彦。彼こそが偶に連れて来られる同僚。正義感は強いのだが、心配性の所為でそんな感じがしない。此の前も自分より明羅を心配し倒した。
「骨折・・・、あ、其れなら私も左の指をやっちゃったんだ。お揃いだよ! ほら! 」
既に治って居るらしい。痣も見えなかった。
「感謝はするがそんなお揃い要らないな・・・」
腕を擦りながら苦い顔をする。
「そうなのですか・・・」
「所で、辰彦さんはどうなのですか? 」
「彼方も同様、骨折で動けない。だが、軽い方と言われた」
「じゃあ早くに復帰出来るのですね」
「まあ大寅さんは治るまで復帰を許さないからどうだか解らないが」
義士を自警団に入れる事を許してくれた大寅。怪我が完治して居ない状態で仕事をしようならば激怒する大漢。情に熱いだけの強い男。
技師は改めて紙面を見る。
「博麗のを見ると私達の事が書かれているよな。其れで私の所にも来たのだが、『覚えてない』と言ってやったさ」
「本当は? 」
「覚えてない」
少し声が震えて居た気がする。
『遠くから女性の叫び声が聞こえたので見に行くと自警団の方が倒れて居ました』
「辰彦も言ってた。私の怒鳴り声が聞こえたって」
本当は怒りっぽい性格では無い。何時か人食い妖怪が現れた時だってずっと冷静だった。昔のだって気が荒れてただけかも知れない。
其の気の荒れが辰彦の聞いた怒鳴り声だとしたら。
「現場に言ったら何時もの弾幕では作れない傷が木に付けられて居た」
今思えば昔のイビルアイΣとふらわ~戦車の大きな魔砲はあの時だけだった。
「・・・解らない」
義士はきっと怯えて居る。自分に。自分の力に。どうにも成らない事を言って居るのは自らを落ち着かせる為。不安なのは此方も同じ。得体の知れない謎の力を持つ事は不安なのだ。
「私に何が有るって言うんだ! 」
「・・・明羅、朝食べた? 」
鳥肌を立たせ、苛立つ彼女に聞く。
「食べてない」
義士は言ってから気付く。
「あの、気を使わなくて良いかr(」
「良くない。モーニング兼ランチにしよう」
技師の方が炬燵の中から出る。
「あn( 」
「そーだよねー、休みだからって少し遅くまで寝てて私が今来たから作る暇無かったよねー。キッチン借りるよー」
棚の中を調べる。
「何も、無いです・・・」
「・・・どうやって生きてたの」
純粋な素朴な疑問だったが胸に偉く深く突き刺さった。
「辰彦が来てくれてた。何時もならもう来る筈だが」
「転んで動けないとか」
「有り得ると言うのが怖い所だな」
「じゃあ行きますよ」
「何処に」
「辰彦さんの家。後で冴月神社に行きます」
新聞の下の広告を見せながら言う。
黄金の巫女が居るあの神社。
「そういえばそうだったな」
「さ、外に出よ」
技士は何時の間に着替えを済ませて居た。
戸を開けると出ると既に辰彦が袋を抱えた侭立って居た。
「あ、辰彦さん」
「何だ其の紙袋」
「丁度外に出る所だったんすね。じゃあ置いて貰って何処か食べに行きましょう」
最初は違和感が有ったものの、ずっと傍に居ると個性と見えて来て自然と馴染む。今では普通に受け答えする。
「肉は余り食べないが・・・」
「私達も外で食べようとしてたのです」
「息ピッタリじゃないっすか。行きましょ」
饂飩屋で昼を済ませた。冴月神社の神田に行くと開演前に関わらず、既に人は集まって居た。
「あ、此処空いてますよ」
「お前も来い」
「そうするっす」
ふと何となく後ろから殺気が漂って来る。昔のあの生埋めされかけた時の其れと似た。
義士は意を決する。
「・・・二人共、田圃に落ちる時も死ぬ時も一緒だぞ」
此の時、義士は精神的にも社会的にも肉体的にも本気で死ぬ覚悟で居たと言う。
「どうしたんすか」
「気持ち悪い」
引かれてまで決意を表明したのだが直ぐに大声と共に殺気は消え去った。
式神も含む氏子の団体が赤い鉢巻き、褌一つで幼子を担いで下りて来る。神田の中で幼児を藁で泥を塗って厄払いをする。
どんな感じで見ているのかと技師は義士を見ると光景をいとおしそうに眺めて居た。見た事が無かった。
終わると子供達を置いて又、足を泥沼の中に入れる。騎馬隊を作ると合図と同時に真ん中へ突進する。
辰彦は興奮して居た。そう言えば彼は心配性だが今日は怪我の様子を聞いただけで他は何も言わなかった。心配症の他に併発して居るのだろうか。
「やっぱ心が救われる気がするっす」
「そうだな」
二人を見て居ると天の邪鬼的に意地悪をしたくも成るのと同時に懸念も生まれる。
「どうした、里香」
「いえ・・・」
「さっき、『死ぬ時は一緒だ』って明羅が言ったっすよね。俺等は何が何でも一緒っすよ」
「私ならもう大丈夫だ。厄払いされたからな」
「ほら、『心配は信用じゃない』っすよ」
誰かからの受け売りの様な言葉を言われる。
「其れは何だ」
「家に行く途中で・・・」
辰彦は二人の後ろの存在に気付く。あれは彼の姉だ。
「御免、先に帰って下さい」
結局二人だけで帰って来た。無言で。
「えっと、又来週」
「うん、来週なのです」
「里香」
急に名前を呼ばれる。
「どうしました」
「私は村を守る。勿論里香も全力で死守するから」
此れは庭師と戦った後にも言った言葉だった。
「・・・はい」
どんな返事をして良いか解らず小さく言った。此れも其の時に言った気がする。
「だから、あの、辰彦と付き合えとか言うなよな? 」
バレテタ。図星だ。もう冷や汗が出るレベルだろう。
「ははは・・・、御免なさい」
照れながら言う。
「「・・・」」
謎の沈黙。だが其れが楽と感じる。気まずくは無い。
「「じゃあ」」
義士を見て居ると本当に大丈夫だと思う。声を揃えて別れた。
麟:よくよく考えてみれば私出てない?
3千文字いったの初めて。
明羅さんと里香でした。