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帰路  作者: まるだまる
94/406

93 昼食は賑やかに2

 教室で自分の椅子に座ってぼーっとしていると太一が教室に入ってきた。

 自分の鞄を置いた後、俺のところに来ると挨拶をしてくる。

「明人おはよう。あのさ、今日の昼なんだけど」

「おはよう。響から聞いたぞ。一緒に飯食うんだろ?」

 俺がそう返すと、太一はニヤッと笑って『そっか、あいつから聞いたか』と言った。


「今日は愛ちゃんも一緒だぞ」

「え、なんで?」

 太一は目を丸くする。


「あれ、言ってなかったか? 週末は弁当の清算とあわせて一緒に食べる約束なんだよ」

「聞いてねーよ。うーん。愛ちゃんに悪いことしたかな」

「朝の様子じゃ、お前に怒ってたな」

「うえ、マジか? 何でこう上手くいかないんだろ。まあ、いいや」


 いいのかよ⁉

 こいつのお気楽さには脱帽する。

 それが太一のいいところでもあるのだが。


「ところで、昨日の特訓全敗だったって?」

「ああ、綾乃の部屋で色々試したんだけどな。やっぱ、目と目をしっかり合わせると駄目だな。意識をぼやかしてみたりもしたんだけど、響が視線を強めたらそれも駄目だった」

「本当に特殊能力みたいになってるな」

「響が言うには、成人、つまり大人には効果が無いらしいぞ」

「何?」

 だとしたら美咲や涼子さんがならなかったのはそのせいか?


「明人、響はもしかしたら覇気の使い手かもしれん」

「海賊の漫画じゃあるまいし、それなら大人だろうが関係ないだろう」

 響と視線を合わせたら固まってしまう。

 範囲は未成年か……そしてほぼ男か。

 まだ、解明するにしてもよくわからないな。

 

 ☆


 その日の昼休み。


 多少雲はあるが雨が振るような気配はまったく無い。

 俺と太一は予定通り体育館脇の木陰へと移動した。

 しばらくすると愛と響が現れる。途中で一緒になったのだろう。

 何だか愛が少し不機嫌そうなのは気のせいか。

 愛の太一を見る目が恨みがましいように見える。

 太一が家からわざわざ持ってきたシートを広げて、そこに四人で座った。


「ちょいと狭いけど、勘弁してくれよ」


 スカートが汚れないようにとの配慮だが、相変わらずの気遣いで感心する。

 太一の正面に響が来るとまずいので、俺と太一が正面に向き合い、俺の横に愛、太一の横に響が座った。

 これだと響の目で固まることは油断さえしなければ無いだろう。

 愛的にはこのポジションに満足しているようで嬉しそうだった。


「二人揃って同じお弁当だとまるで夫婦ね」

 響が俺と愛の弁当を見て言った。


 作っているのが愛だから、中身が一緒なのは当然なのだ。

 その言葉を聞いて愛が興奮した。


「いやーん。夫婦だなんて。明人さん式は和式がいいですか、洋式ですか?」

「愛ちゃん、飛びすぎ飛びすぎ。とりあえず落ち着こう」

 俺の言葉で、愛の興奮を抑えることにはとりあえず成功した。


「響の弁当は随分と豪勢だな」

 太一が響のお弁当を見て言った。

 見ると、いわゆるお重というもので、量も多いし、種類も豊富だった。


「うちのお抱えシェフが作ってくれてるから、いつも食べきれないから困るのだけれど」

「マジでブルジョアだな。お前」

「私がブルジョアじゃないわ。父がお金を持ってるだけよ」

 響は淡々と無表情で言った。


「それじゃあとりあえず、いただきますか」

 太一の言葉を皮切りにそれぞれ『いただきます』と合唱。

 日本人だなと思う瞬間だ。


 今日の愛の作った弁当は、焼き魚でサバの味噌焼き。

 ご飯との相性が抜群だった。

 今日も太一とおかずのトレードをした。

 愛は露骨に嫌そうな顔で太一の表情を見ていた。


「うーん。美味い。愛ちゃん本当に料理上手だよね」

 太一が愛の料理を褒める。


「太一さん。いつもそうやって交換してたんですか?」

 愛は褒められた事よりもそっちの方が気になった様子だ。


「え、うん」

 太一の返事に愛は何か小さく呟いていた。


 耳を澄ますと、

『今度から別の容器にいれて、毒でも盛っておこうかな』

 いや、それ犯罪だから。危ない思考だから。   


「響のも何か交換してくれよ」

「交換じゃなくていいわよ。好きなの取っていいわ。どうせ食べきれないし」

 響はお重を持たずに小皿に移して一つずつ味わう。

 なんだか上品な食べ方に見えた。


「俺も少し貰うぞ」

 俺と太一がそれぞれ箸を伸ばす。

 俺は筍を箸に取り、太一は肉団子みたいなものを箸に取った。

 口に入れてみると、出汁がしっかりして柔らかく美味しい。

 太一が食べた肉団子もどうやら美味かったようだ。


「インスタントのものと違うなー」

 満足げに太一が言った。


「響さん。愛も少しいただいてよろしいですか?」

「遠慮しないでいいわよ。どうぞ」

 愛も箸を伸ばして俺と同じ筍を選んだ。


 愛は口に入れた後、しっかりと味わっている。

「ふむふむ。昆布とかつお。お酒も少し使った感じ。醤油が独特ですね。市販品じゃない感じ」

 さすが料理が上手いだけあるのか。

 愛は味付けを分析していた。


「愛、今度挑戦してみます。醤油が難しいかもしれないですね。味は少しきつくなる気がしますけど」

 愛の料理に関して姿勢は貪欲なくらい勉強家なんだなと思った。


「愛さんは将来何になりたいの? 料理関係に道を進めたいのかしら?」

「出来ればそうしたいと思ってます。でも本当は……」

 そう言いながらチラリと俺を見る。嫌な予感がするのは気のせいじゃないだろう。


「あら、明人君のお嫁さんがいいって感じね」

 響も愛の視線に気付いたのか、淡々と言った。

 愛がキャーキャーと頬に手を当てて照れている。

 とりあえず放っておこう。


「明人君と太一君は?」

「俺は進学も視野に入れてるけど。就職でもいいと思ってる」

「俺、勉強嫌いだけど、親は大学に行けって言ってる」

「私は二人に何になりたいかを聞いたのだけれど?」

 響は淡々と無表情に言い、俺と太一は無言になった。


「……正直、何になりたいか決まってない。何がしたいのかも分からない」

 俺が響の問いかけに答えた。

「……だったら愛の旦那様に」

 横で愛がぼそぼそと呟いているが無視しておこう。


「俺もだな。明人と一緒。何がしたいか全然分からん。自分のことなのにな」

「前にアリカにも似たようなこと言われたよ。その時も全然答えられなかった」

 響の表情がピクっと反応した。


「あの子は変わらないのね。少し安心したわ」

「響は何がしたいんだ?」

「私は自分の力で企業を起こしてみたい。大学には行くつもりだけどね」 

「どんな企業?」

「ロボットに関わる企業。特に医療や介護方面ね」

「……それって香ちゃんと同じじゃ」

 愛がロボットと聞いて反応した。

「違うわ。あの子の夢はロボット作ること。私はロボットを使って世界にアピールして普及させられる会社を興す。目的は違うわ」

 響とアリカ。中学時代、友達だったときにこういう話をしたのだろう。

 お互い夢や目標を語り合って、実現させるために努力してきたのだろう。

 なんだ、こいつら。

 付き合いがなくなったとはいえ、根っこで繋がってるんじゃないか。


「明人君や太一君は何が出来るかって考えてるのね。何かをしようとしているのかじゃなくて。考え方を変えれば出てくるかもね」

 響からの重い言葉だった。

 いや、言うなら俺らを思っての言葉だろう。

 気の持ちようで物の見方は変わる。

 太一にも何かが伝わったのか、真剣な表情をしていた。


「ご飯時に話す内容じゃ無かったわね。失礼したわ。ご飯を楽しみましょう」

「あ、ああ、そうだな」

 俺達は、そのまま昼食と雑談を続けた。


 さっきの話題には触れもせずに。

 俺は最後に響が言った事に何かが見えそうな気がしていた。

 でもそれがなんなのか、今の俺にはわからなかった。

 お読みいただきましてありがとうございます。

 次回もよろしくお願いします。

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