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帰路  作者: まるだまる
82/406

81 交渉の場はファミレス1

 木曜日


 待ち合わせの時間は九時。今の時間は午前八時三〇分。

 ゆっくり出たつもりが、思ったより早くついてしまった。

 東条の来る方法は聞いていないが、何で来るのだろうか。

 美咲と太一らはバスで来ると言っていた。

 アリカらは近所だから問題はない。


 広いテーブルだけでもキープしておくか。

 ファミレスの店内に入ると中村さんがいた。


「いらっしゃ――あれ、木崎君?」

「おはようございます。今日、ちょっとここ使わせてもらいます」

「あら、今日はお客様なのね。どうぞ、ゆっくりしていって」


 後から来る人数を告げ、大きなテーブルを希望すると中村さんが首を傾げた。


「あれ? さっき来たお客さんもそんなこと言ってたような。あそこの女の子よ」


 中村さんは奥側にある広めのテーブル席を指差す。  

 その席に座っていたの東条だった。

 私服だと制服と違って印象がまた違う。肩でカットされたブラウス。胸元に小さなリボンがついているのがみえる。

 外見がいいからか嫌でも目立っていた。


「あれ、東条だ。随分と早いな」

「やっぱりお連れさん? 店に入って来たのは五分前くらいよ」

「そうですか。ありがとうございます。後、五人来ますんで、お願いします」


 中村さんに言って、俺は東条の座ってるテーブルに移動した。

 東条も俺が来たことに気付いたようで、こっちを見つめている。

 安堵の表情を浮かべているように見えるのは気のせいか。


「東条おはよう。随分と早いな」

「明人君、おはよう。あなたも早いわね」


 やはり東条は俺のことを名前で呼んでいる。


 後から来る人のことを考えて奥側に座る。

 結果、東条の向かい側に座ることなった。


「思ったより早くついただけだ。俺も下の名前で呼んだ方がいいか?」


 念のため、東条自身にも聞いておこう。


「好きにしていいわ。私は自分であなた達を名前で呼ぼうと決めたもの」


 東条は気にもしていないように澄ました顔で言う。

 同級生で言うとアリカもだけど、あいつのはあだ名だからな。


「あだ名とかないの?」

「言われたことないわね。高校に入ってから友達いないし」

「中学のときは?」

「中学のときは友達二人いたけど、苗字で呼び合ってたから」


 二人ってのも、また微妙だな。


「東条」

「何?」

「響」

「だから何?」


 表情がまったく変わらない。本当にどっちでもいいようだった。 


「人を呼んでおいて用件言わないのは失礼よ?」

「すまん。どっちが反応いいか見ただけだ」

「馬鹿らしい。どっちも私の名前じゃない」


 クールな奴だ。


 こいつ自分がどうでもいいと思うことは、本当にどうでもいいんだな。

 てことは、昨日俺達が誘ったときの嬉しそうな顔は本物か。


「あら、太一君達来たみたいよ」


 東条の視線が入り口付近に移る。

 入り口側を見ると、太一、綾乃、美咲が一緒にいた。

 どうやらバスで一緒だったみたいだな。


「太一と目を合わせないように注意しとけよ」

「分かってるわ。それに今日はペンを忘れたもの」


 立ち上がって、店内を見ている三人に手を振る。

 俺に気付いた三人は俺達のもとにやってきた。


「おっはよー。明人。随分と早いな」

 と柄物Tシャツにカーゴパンツ姿の太一。

「明人さん、おはようございます」

 綾乃はダボダボのキャラTシャツ、肩からキャミかタンクトップが見える。

「明人君。おはよう」 

 バイトのときとあまり変わらないシンプルなロングTシャツに薄い上着の美咲。


「おはよう。思ったより早く来たな」


 俺も挨拶を返したが、三人の視線は俺より東条に向かっていた。


「おはようございます。東条響です。よろしくお願いします」


 東条は立ち上がり、美咲と綾乃に向かって頭を下げる。


「お、おはようございます。藤原美咲です。こちらこそ、よろしくお願いします」

「おはようございます。千葉綾乃です。よろしくお願いします」


 挨拶が終わるとぐいっと美咲に袖を引っ張られる。


「あ、明人君。すっごい美人さんじゃない」


 美咲も負けてないだろ。まあ、確かに美人だけど。

 綾乃は放心状態で東条と美咲を見つめている。


「お兄ちゃん。眼福過ぎて、私おかしくなりそう」


 まあ両方奇麗な顔してるからなー。

 綾乃に見つめられた東条は綾乃をじっと見つめ返した。

 綾乃の身体がピクッと動く。


「後はアリカたちだな。座って待っとこう」

「綾乃?」


 綾乃に声をかける太一だが、綾乃がピクリともしない。

 まさか、固まった?


「うわ、明人。綾乃のやつ固まってるぞ」


 マジか、千葉家どうなってんだ?


「明人君が言ってたのって、これなんだ?」

 美咲が興味深げに綾乃を見ている。


 固まった綾乃は目だけは自由に動くようで、きょろきょろと目が泳ぎまくっていた。


「これ、どうしよう?」

 太一が固まった綾乃を見て頭を抱える。

「困ったわね。今日ペンを持ってきてないわ」

 東条がボソッと呟く。誰もそんなこと聞いてねえ。


「東条悪い、ちょっとトイレにでも行って席外してくれないか?」

「そうね。そうするわ」

 東条は美咲に一礼するとトイレに向かっていった。


「美咲さんは平気みたいだな。何で綾乃は駄目なんだ?」

「東条自身も言ってたからな。たまに女の子もなるって」

 綾乃の身体がピクピクと動き出した。


「ぷはっ。何これ! 金縛りってこんなの?」

 綾乃は自由に身体を動かせるようになって不思議がっていた。


 やはり東条の姿が消えると効果が消えるようだ。

 太一と綾乃にもう一度注意しておこう。


「明人君。私ちょっとトイレ」

 美咲はそう言うとトイレに向かって行った。

 東条のことが気になったのだろうか。

 美咲の姿がトイレに消える。


 

 ちょうどその時、入り口に白いパーカー姿のアリカと薄い黄色のワンピース姿の愛がみえた。 

 中村さんが声をかけていて、俺達の方を指差している。

 中村さんが二人を案内して俺達の所へ連れてきた。


「木崎君、お連れさん来たわよ。これで人数揃ったわね」

「ありがとうございます。注文決まったらベル押しますね」

「ごゆっくりどうぞ」


 中村さんは、俺達に一礼すると、またレジの方へ戻っていった。

 愛は深々と頭を下げ、アリカは軽く片手を上げる。


「明人さん。おはようございます」

「みんな、おはよう。あれ、美咲さんまだ?」

「おはよう。美咲さん今トイレ行ってる。言ってた友達もトイレだ」

「あ、そうなんだ」

 

 とりあえず席についてもらおう。

 奥から詰めてもらって、座っていってもらう。 

 一番奥に綾乃それから太一。

 愛は俺の隣に座りたがったが、アリカに叱られ綾乃の正面になった。

 東条の隣と前は俺か美咲の方がいいだろう。

 美咲と東条が一緒に戻って来た。


「おまたせー。あ、アリカちゃん、愛ちゃんおはよう。もう来てたんだね」

「「おはようございます」」

 

 愛から少しは聞いているかもしれないが、アリカには東条を紹介しておいた方がいいだろう。

 紹介しようとした途端、アリカは美咲の後ろにいる東条をみて驚いて立ち上がった。


「と、東条! なんであんたがここにいるの?」

「あら、愛里。久しぶりね。元気してた?」


 ポカンとする俺達。


「どゆこと?」


 愛が首を傾げている。

 実の妹でも理解できない状況に俺達がわかるはずがない。


 東条とアリカに話を聞いてみると、二人は中学時代の友達だったそうだ。

 一年から三年まで同じクラスだったらしい。

 学校だけの付き合いではあったが、仲良くというより腐れ縁みたいな関係だったようだ。


「明人の友達って言うから男だと思ってたのに、何であんたなの?」

「ひどい言い方ね。愛里の言い方だと、男じゃないと嫌だと聞こえるのだけれど?」

「だ、誰もそんなこと言ってない! あんた全然変わってないわね!」


 おまえら、ホントに友達だったのか?


「愛ちゃんから聞いてなかったのか?」

「なんも聞いてないわよ」


 愛をじろりと睨むアリカ。

 当の愛は俺を見て目をキラキラさせているだけだった。


「東条も東条だな。お前愛ちゃんの事知ってたんじゃないか?」

「ええ、知ってたわよ。でも私と直接面識ないから言う必要ないと思ったのよ」


 東条さん、それは駄目でしょう。


「これはアリカに紹介する手間省けたな。というより、東条のことアリカが一番詳しいわ」

「愛里なんであなた、アリカって呼ばれてるの?」

「バイト先でのあだ名なのよ」

「あら、そう。では、私もそう呼ばせてもらうわね」

「好きにして。あ、東条の言葉いちいち気にしない方がいいわよ。これで普通だから」


 アリカは俺達に向かって手をパタパタさせて言った。

 お読みいただきましてありがとうございます。

 次回もよろしくお願いします。

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