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帰路  作者: まるだまる
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78 雨上がりのドタバタ2

 店内にいても雨の音がわかるくらい強く屋根を打ちつけている。

 客もこの天気では、わざわざ中古屋に足を運ぶこともないだろう。

 退屈な時間がしばらく続きそうだ。

 

 ――そう思っていたときが俺にもありました。


「お仕置きだあああああああ!」


「ちょ! マジでしまってるって? うきゅー」

 俺は後ろから美咲に首を絞められていた。


 何故こうなったのか……。



 時間を戻すこと10分前。

 美咲に東条のことを話したことから始まった。


「あのさ、今度遊びに行く時なんですけど」

「うん、どうしたの?」

「学校の他の友達も連れて行きたいんだけど、いいかな?」

「ふーん。太一君とは違う友達か。私は全然かまわないよ」


 美咲は気にしていないように言った。


「違うクラスなんだけど、友達になったばっかなんです。明日、そいつ紹介しますね」

「へー、そうなんだ。名前、なんていうの?」

「東条響っていうんです」

「東条……響君か。格好いい名前だね」


 響君?

 美咲は大きな勘違いをしているようだ。

 確かに東条の性別を言ってはいない。

 響って名前で分かると思っていた。 

 今のうちに誤解は解いておこう。


「……東条って、女なんですけど?」

「はい?」


 美咲の目が点になる。

 聞き間違えたと自分に言い聞かせるかのように、首を横に振る。

 聞き間違えてないから。


「明日、紹介する東条響は女の子です」

「あっはっは。やだなー、明人君。そんなはず……マジ?」


 片手をぶんぶん振っておばさんみたいに笑ったかと思うと、ずずいっと顔を寄せてくる。

 顔が近い、近い。


「いや、マジなんですけど」

「どうして?」


 美咲の目が血走ってるように見える。


「と、東条は生まれたときから女だからです」

「違う。そうじゃなくて。なんで友達になったの? 違うクラスなんでしょ?」


 何故か興奮した様子の美咲に学校で起きた出来事を話した。


 朝に起きた、愛と東条との経緯をまず話す。

「それは愛ちゃんじゃなくても勘違いするよー」

 美咲も笑った。

 そうだろうな、やっぱり。


 最初に東条を誘ったのは太一だったということも話す。

 太一が誘ったことを言うと、美咲の表情が柔らかくなったような気がした。


「――へー。そんな事あったんだ。じゃあまだ、明人君も東条さんのこと全然知らないんだね」

「知らないけど、悪い奴には見えなかったですよ」


 まあ、そうなる。

 今回の遊びに行くことで東条の様子が見たいってのもある。

 今のところわかってるのは説明下手なところと、Sの気質を持っているということだけだ。


 太一が誘った時、東条の顔は嬉しそうだった。

 あの顔見たら、今更駄目だなんて言えない。

 太一が固まったら困るけど、目を合わせることを注意すれば大丈夫だろう。


「東条を見てると、美咲もこんな感じだったのかなって思いましたよ」

「え、どういう意味?」


 美咲はキョトンとした顔をした。


「東条って、学校を代表するくらいの美人って言われてるらしいから」


 太一から聞いた言葉を引用して説明する。

 確かに美人は美人だからな。

 自分で言っておきながら頷いていると、美咲の眉毛がピクリと動いた。


「明人君。今、なんて?」

「え、美咲もこんな感じだったのかなって」

「違う。その後」

「東条が学校で一番美人って言われてるってところ?」

「ほほー。東条さんって、そんなに美人さんなんだ?」


 ――ゾクゾクゾクゾクゾク。 

 美咲の顔はにこやかなのに、この背筋を走る悪寒は何だ?


「た、確かに顔は綺麗です。春那さんみたいな綺麗さっていうのかな」

「また…………」


 俺がそう言うと、美咲はうつむいてぶつぶつと呟き始めた。

 何を言ってるのか全然聞こえない。


 突然含んだ笑い声を発する美咲。


「ふふふふふ」

「美咲?」


 俺が覗き込むと、美咲は顔を上げ視線を入り口に向けて指差した。


「明人君。入り口にずぶぬれのアライグマさんが!」


 なんで入り口にアライグマが?

 振り返って入り口を見るが何もいない。


 いないじゃないかと文句を言おうとした瞬間、後ろから首に腕を巻かれた。

 巻きついた腕は俺の頚動脈をしっかりと捉えている。

 巻きついた腕に徐々に力が込めらていく。


「お仕置きだあああああああ!」


「ちょ! マジでしまってるって? うきゅー」 


 ――こうして今に至っている。


「相手が美人だからって、またデレデレしてたんでしょう!」

「ちょ、ちょ! くるち~」


 やばい。これ、落ちる、落ちる、落ち――。

 意識が薄れそうになった時、横から声がした。


「――やれやれ、君達は仲がいいね~」


 横からの誰かの声に美咲の手が緩んだ、今がチャンス。

 美咲の腕を掴み、振りほどくのに成功する。

 店長の助け舟に救われた。

 危なく落ちるところだった。


「……おしい。あと少しだったのに」


 美咲は残念そうな顔で手をわきわきとさせている。

 マジで落とす気だったな?


 急に解けたからフラフラするけれど、店長に礼は言っておこう。


「店長助かりました。ところで、どうしたんです?」


 店長は店内を見回しながら、相変わらずの客のいなさに薄ら笑いを浮かべている。

 薄ら笑いはいつものことか。


「いや、特に用事はないよ~。ちょっと様子を見にきただけ」

「たまたまですか?」

「明人君。セクハラぽいわ」

「だから、そういうこと言ってねぇ!」


 前にも言っただろ、それ。


「君達は天気に関係なく元気だね~。んじゃ、俺戻るからよろしく~」


 薄ら笑いを浮かべたまま、店長は裏屋へと戻っていった。

 何しにきたんだ。本当に様子を見に来ただけか?


「ふっふっふ。明日が非常に楽しみだわ。東条さんどれぐらい綺麗なのかしら」


 美咲は表情を歪ませて笑っている。どこの悪役令嬢だよ。

 せっかく綺麗な顔なのに、台無しになるからやめなさい。

 お読みいただきましてありがとうございます。

 次回もよろしくお願いします。

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