74 友達の条件2
通路で立ち話をする生徒を避けて教室へ。
トイレの前を通り抜けようとしたら、ちょうど出てきた女子にぶつかりそうになる。
「ごめん。わるい」
「いえ、大丈夫よ。こっちこそ、ごめんなさい。あら?」
俺の顔をじっと見つめる女子。
俺には見覚えのない女子だ。
だが、相手は俺を噂の事で知っているかもしれない。
高校生にしては顔が大人びて綺麗だった。
美咲というより、春那さんの綺麗さに近い感じがする。
鋭いといったほうがいいような目つき、ぷるっとした唇、さらさらストレートな艶やかな黒髪。
目鼻立ちが左右対称というか整っていて綺麗だった。
制服も着崩しておらず清楚な感じ。
さながら和人形といった感じに見える。
学校にこんな子がいたとは知らなかった。
こういう美人はもてるんだろうなと正直思う。
「すまなかったな」
俺は彼女にもう一度謝ってから教室へと足を進めた。
教室に入ると、クラスの奴らは俺の姿をちらりと見るだけで、仲良しグループ同士の話に戻る。
普段から教室に来てもそれほど会話しないから構わない。
だけど、女子からの虫を見るような視線だけはやめて欲しい。
心が折れそうだ。
自分の机に突っ伏すと、自然とため息をこぼれる。
太一が来るまでひっそりとしておくことにしよう。
しばらくすると通路からドタバタと走る音がする。
また太一か?
「明人さん! これは一体どういう事なんですか?」
「明人! 一体これ、どうなってんだよ?」
入ってきたのは太一と愛。
太一はわかるが、なぜ愛までいる。
その前にどういう事って、どういう事?
二人は息を切らせながら俺の席まで駆け寄ってくる。
ちょっと怖い。
「な、何の話だよ? 説明してくれなきゃわからないだろ」
太一は愛と視線を交えると、「俺が言うよ」と言って頷いた。
太一の話だと、登校してきたときに、愛が女子に絡まれているのを見つけた。
てっきり俺の事で締められていると思い、助けに入ったようだ。
――実際は。
「――はあ? 宣戦布告?」
「そうなんです。何処のクラスの方か知りませんが、愛に宣戦布告をしてきました」
「俺、顔見てびっくりしたよ。あの東条だったから」
「は? 東条? 誰それ?」
俺の言葉にクラスがざわついた。
『あいつ、今、東条知らないって言ったよ?』
『マジかよ。この学校で東条知らない奴、いたのかよ』
『あいつ、女子に興味ないの?』
「もしかして、ホモじゃね? 千葉としか、つるまねえし』
お前ら、ヒソヒソ話のレベル超えてるぞ?
俺は太一と愛の腕を掴むと、二人を引っ張って教室を後にした。
通路にいる人通りを抜けて階段の踊り場へ移動する。
人影もなかったので、そこでもう少し詳しく聞く。
「んで? その東条がなんで愛ちゃんに宣戦布告するんだ?」
「あ、わかってないわ。こいつ」
太一が呆れた顔で言った。
わからないから聞いてるんだ。
「明人さんのことですよ!」
「へ?」
「東条さんって方から『あなたと木崎君つきあってるの?』と聞かれたんで、正直に片思い中ですって答えたんです」
俺は猛烈に感動しているぞ。
そこは正直に言ってもらったほうがいい。
そこらへん、どんどんアピールしてくれ。
「そしたらですね! 『じゃあ、私も狙っていいわね』って言ったんです!」
「俺はそのタイミングで入ったわけなんだけど、どういうことだよ?」
愛と太一が俺に迫るが、身に覚えも無い上に、東条って子の顔すら知らない。
名前も初めて聞いたような気もするぞ。
「あー、さっきも言ったけど、そもそも東条って、誰なんだよ?」
「二年E組、東条響、社長令嬢、成績優秀、運動神経抜群、容姿端麗、現生徒会書記、二年を代表する。いや、学校を代表する美人だぞ?」
太一がすらっと言いのける。
そんな太一を愛は侮蔑の目で見ていた。
「へー、そんなの清高にいるんだ。知らなかったよ」
「じゃあ、なんで明人さんのこと狙ってるんですか?」
愛が噛み付きそうな勢いで迫ってくる。
胸が当たりそうだから、ちょっと離れてくれる?
「俺に聞かないでくれよ。その東条って奴の顔すら知らないんだから」
「――あら、それは残念な話だわ」
声がしたほうを振り返ると、トイレ前でぶつかりそうになった女子がいた。
「あれ、さっきの?」
「二年E組東条響よ。さっきはどうもね。木崎明人君」
「知ってるんじゃないですかああああああ!」
愛は俺にぐにぐにと身体を寄せてくる。
あの、すでに胸が当たってるんですけど。
「違う、違う。今朝トイレ前でぶつかりそうになっただけだ」
「なんてベタな……」
「愛ちゃんも、明人とのきっかけ考えたら、人の事言えないと思うよ?」
愛が一歩引いて俺をジト目でみつめ、太一はそんな愛をジト目で見つめていた。
「えーと、あなた。何ていったかしら?」
東条は太一を指差して言う。
太一は東条に見つめられて、蛇に睨まれたカエルの様に硬直した。
「うーん。やっぱり他の子はこうなるのよね……」
東条は独り言のように言った。
「ねえ、木崎君」
「なんだよ?」
「ふふ、やっぱり。見込んだとおりだったわ。あなた、私と付き合ってくれない?」
「どこに?」
「明人さん。それはベタすぎです」
耐え切れなかったのか、愛が突っ込んでくる。
「ああ、悪かった。それは無理な相談だ。俺は君の事全然知らないし。そもそも、俺の事好きでもないだろ?」
「ええ、正直に言うとそうね。あなたの事そこにいる愛里さんほど好きというわけではないわ」
さらりと東条は言ってのけた。
愛がムッとした表情を浮かべる。
「――でも興味はある。少なくとも、あなたに興味を持ったのは事実よ」
この東条って女、何が言いたいんだ?
『キーンコーンカーンコーンキーンコーンカーンコーン』
「あら、予鈴だわ。また、後でお話しましょう。またね木崎君」
そう言うと東条はE組の方向へ進んでいく。
東条が姿を消すと、太一はようやく硬直から解けたようだった。
「太一、お前なに固まってんだよ?」
「俺にもわかんねーよ? 東条の目を見たらなったんだよ。さっきもそうだ」
「あー、もう、なんなんですか? また愛の計画を増やさなくてはならないじゃないですか」
その計画すべて失敗して欲しい。
なんか頭に暗殺って文字が付きそうだ。
「とりあえず、教室に戻ろう。愛ちゃんも急ぎな!」
「あ、はい。明人さん、また後で~」
愛も自分の教室に向かって駆け出し、俺達も教室へ向かって駆け出した。
急いで教室に戻ると、担任の菅原先生がちょうど教室に入るところだった。
「おはよう、すぐにHR始めるから席に着きなさい」
先生に言われてすぐに席に着く。
朝のHRが進む中、俺の頭の中は疑問だらけ。
東条響……なんで俺に興味を持った?
愛が言ってたように噂の事で俺に興味を持ったのか?
また面倒くさい事になってきたかもしれない。
最近の俺は、嫌な予感だけは当たる。
朝からため息が止まらないスタートになってしまった。
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