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帰路  作者: まるだまる
74/406

73 友達の条件1

 水曜日


『ピピピピピピピピピピピピ』

 目覚まし時計の音がする。手探りで時計を止めようとするが捕まえられない。

 何かに手が当たる。


『にゃ~』

「お前じゃない」


 手に取った猫グローブを横に放り投げる。

 落ちた猫グローブは『にゃ』と一鳴きした。

 仕方なく起き上がり、鳴り喚く目覚まし時計を止めた。


 カーテンを開けると、外の明るさがいつもと違う。

 妙にどんよりとしていた。

 外を見てみると、今にも雨が降りそうな天気。

 黒っぽい雲が遠くに見える。


 行くまでに雨降りそうだ。雨は勘弁して欲しい。

 四月の前半に振ったきり、まともな雨は振っていなかった。

 鞄の中には雨着を入れているので、降られても大丈夫だが、やはり雨だと移動がしづらい。


 一階に降りて、洗面を済ませた後、朝食を取る。

 後片付けをしたあと、テレビの電源を入れた。


 デジタル放送の天気情報を見てみると、今日は雨模様の天気。

 雨量予測はたいしたこと無いが、夜までは降り続けるようだった。

 明日には雨雲も抜けて晴れるようだが、今日一日は嫌な思いをしそうだ。

 バイトの帰りまでに止んでくれればいいが。

  

 玄関を出て鍵を閉め、駐車場を見ても母親の車がなかった。

 昨日は家に帰ってこなかったみたいだ。

 留守電には、なにも入っていなかったから、事故とかではないだろう。


 自転車の籠に雨除けのカバーをかける。

 これが有ると無いじゃ鞄の濡れ方が変わる。

 便利な物は使うほうがいい。


 雨着を着けると、ごわごわして気持ち悪い。

 雨着を着けていると妙に蒸れて気持ち悪いから嫌いだ。

 自転車をゆっくりと漕ぎ出して、学校へと向かった。


 学校へ行く途中、ぽつぽつと雨が降り出した。

 時間がたつごとに落ちてくる粒は大きくなっていく。

 雨着に弾いた雨音がそれを証明していた。

 視界も少しずつ悪くなっていく。


「これは最悪パターンだな。急ぐと危ないしな……」


 自転車で通学の時、困るのが歩行者だ。

 歩行者は傘をさしていて道幅が狭くなる。

 それを避けながら進むのは一苦労なのだ。

 いつもよりも五分ほど余計に時間がかかったが、ようやく学校に着いた。

 駐輪場に自転車を止めて、雨着を脱いだ。


「明人さん。おはようございます」


 現れたのはパステルブルーの傘をさした愛だった。

 手には俺のお弁当を持っている。

 他の手荷物が無いところを見ると、一度荷物は置いてから駐輪場に来たようだ。


「愛ちゃん、おはよう。雨、最悪だわ」

「大変でしたね。愛、今日はバスで来ましたよ」

 降る雨を見ながら少しうんざりとした表情で言う愛。

 俺は鞄を籠から出して、鞄から折り畳みの傘を出した。


「明人さんの鞄、色々入ってるんですね。あ、これどうぞ。今日のお弁当です」

「ありがとう。駐輪場から下駄箱までちょっとあるからね。傘も無いと」


 愛の作ったお弁当を鞄にしまい、俺達は下駄箱に向けて歩き出した。

 傘に雨音があたり、パラパラと音をしていた。


「今日は夜までこんな感じなのかな」

「雨は長いと嫌ですよね。あ、昨日はお誘いありがとうございます。愛、嬉しかったです」

「え、あ、うん。メールでも書いたけど、行きたいとこ考えといて」

「愛は明人さんと一緒なら何処でもいいですよ」


 不意に愛の足がピタッと止まる。


「どうしたの、愛ちゃん?」

「あ、すいません。考え事してました」

「何、考えてたの? 行きたい所でも考えてた?」


 聞いた時、愛の目が薄暗い鈍い光を放っているのに気付いた。


「いや、どうやって邪魔者どもを排除しようかと」

 こ、怖い。マジでやりそうで怖い。


「冗談ですよ。明人さんの迷惑になるようなことは、"極力"しませんから」

 いま極力って言ったよね?

 する気は残ってるんだ?


「仲良くやってください」

「大丈夫ですよ。この間で仲良くなれましたから。あ! ああああああああ!」

 愛は笑顔で答え、俺の顔を見た途端、顔が青ざめ、大声を上げた。

 嫌な予感がする。


「愛としたことが、なんで気付かなかったの。愛大しょっくー」

 何を言っているのか分からないが、何かを悔やんでいるようだった。


「今からでも遅くないです」

 愛はそう言うと、傘を畳んで俺の傘の下に入ってきた。


「えへへー。相合傘ですー。わーい、また一つ憧れの行為ができた」

 愛はドキッとするような笑顔で嬉しそうに言った。


「あ、愛ちゃん。狭いから濡れるって。傘有るんだから使いなよ」

 俺はそう言いながら、咄嗟に愛が濡れないよう傘を愛側に被せるようにした。


「ふふ。そう言って明人さん、愛が濡れないようにしてくれてるじゃないですか。やーっぱり優しい」


 結局、下駄箱までの道のりは相合傘で来てしまった。

 俺、押しに弱いんだな……。

 たった数分間だけど、愛はとても嬉しそうだった。


 下駄箱のある正面ホールについた。


「明人さんありがとうございました。うふふ。後でお弁当箱回収に行きますね。では」

 愛は俺にぺこりと頭を下げ、自分の下駄箱に向かっていった。


 俺も自分の下駄箱で靴を履き替えていると、刺すような視線を感じた。

 さっきの相合傘を見られたせいか?

 俺は視線を探るべく周りを見回す。


 下駄箱の陰に視線の主はいた。

 認めたくなかったが坂本先生だった。


「…………おはようございます。何やってるんですか?」

「おはよう木崎、今日こそ見たわよ。今日は相合傘とはやってくれるじゃない」


 わざわざ見張ってたのか? 


「何わけが分からないこと言ってるんですか?」

「毎朝ここでイベントが起きてるって聞いたから見張ってたのよ!」

 おい、教師。その前にやる事いっぱいあるだろう?


「月曜がお弁当で、昨日がデートの誘い、しかも今日は相合傘だと?」

 うわー、夢で見た坂本妖怪思い出すなー。

 しかもちゃっかり、昨日の情報集めてやがる。


「木崎をこのまま進級させてはいけないような気が、は! それは駄目だわ」

 当たり前だろう。形の上では単なる恋愛行為だ。

 恥ずかしいけれど、やましい部分は無い。

 そんなんで留年させられてたまるか。


「木崎を留年させたら、あの娘と同じ学年になってしまう。本末転倒だわ!」

 おーい、誰かこの教師、保健室に連れて行ってくれないか?


「何とか……、何とかせねば」

 ぶつぶつと独り言を言い出したので、このまま放置しよう。

 坂本先生を置いて、そのまま教室へ逃げ去るように移動した。


 お読みいただきましてありがとうございます。

 次回もよろしくお願いします。

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