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帰路  作者: まるだまる
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6 てんやわん屋3

 何、このネーミングセンスゼロの店の名は? 絶対適当につけただろ。

 美咲さんは、顔がヒクヒクした俺を放置したまま、店内に足を進めていく。

 気を取り直して店内に入ってみると、コンビニの二倍くらいの面積。種類ごとに陳列してある商品が目に止まった。


「裏屋で買い取ったものを陳列して、販売してるんだよ」


 美咲さんはご機嫌な顔をしてそう言った。

 商品が同じのものは一個、二個しかないが、種類が豊富だ。

 ……これ聞かれたら答えられるかな?


「大丈夫よ。すぐに慣れるわ」


 俺の不安を察知したのか、美咲さんは綺麗な笑顔で慰めてくれた。


「……話終わったか?」

「ひっ!」


 オーナーが突然後ろから声をかけてきて、驚きと恐怖に体が一瞬すくみ、声に出てしまった。


「脅かさないで下さい。びっくりしたじゃないですか!」

「……すまん」


 反射的に文句を言ってしまったが、オーナーは素直に謝ってくれた。なるほど、美咲さんはこうやって慣れてきたのかもしれない。


「もう、オーナー! 足音立てずに近づくの止めてくださいよ」


 実は、声が聞こえた瞬間、美咲さんの体もびくっとなっているのに俺は気づいていた。言ったら何かいじくられそうだったので、何も言わずにいたけれど。オーナーの声って、低くて太いから本能的恐怖を感じるから分かるけどね。


「えーと、まだ店の中見せてるだけですよ。オーナー」

「……少し出る」

「はい、今日は戻られます?」

「……いや、わからん」


 もうちょっと会話のキャッチボールしようよ。

 オーナーはそのまま、店の奥にある扉から出て行く。

 扉は裏屋に行く扉である事を美咲さんが教えてくれた。


「オーナーっていつも店にいるんですか?」

「週に数回かな? 気まぐれなの。一応、店長もいるし」

「え? 店長いるんですか? 挨拶したいんですけど」


 てっきりオーナーが店長兼務してると思っていたが、そうではないのか。


「今日はお休みなの。次に来た時で大丈夫だよ」


 美咲さんがにこやかに言った。


 その後、美咲さんから大体の仕事をかいつまんで教えて貰った。


「後は、実際に慣れてもらった方がいいね」

「ありがとうございます」

「あ、そうそう。更衣室教えるね」


 店の右奥にある小部屋が従業員用部屋らしい。

 中に入ると窓も無く、小さなテーブルと椅子が二脚置いてあり、ここで食事とか出来そうだ。壁際にロッカーが並べてありそこで着替えるみたいだな。


「うちはユニフォーム無いから気軽だよ」


 美咲さんがエプロン姿でいることを考えると、俺も私服の方が良いな。学生服でエプロンとか嫌だし。


「あれ? 従業員用の更衣室って、男女共用じゃないですよね?」


 今までのバイトの経験上、男女別の更衣室がない所もあった。そういう場合は中に仕切りがされたりするものだが、この部屋を見る限り、仕切りもない。別の場所にもあるのかと思って聞いてみた。


「え? ここ、私も使ってるよ?」

「あ、エプロンだけしかつけてないからですか?」

「たまに着替えるよ。あら、着替え見たいの?」


 美咲さんがニヤニヤしながらすすっと近寄ってくる。


「そういうこと言ってませんから!」


 この人、絶対俺をからかいたいだけだ。そういえばこの人何歳くらいなんだろ? 明らかに俺よりは年上ぽいけど、女性に年齢聞くのって失礼だよな……。


「……何か聞きたいことできた?」


 美咲さんは俺の心でも読んでるのか? やたらと察知が早い。


「あの失礼だとは思うんですけど……美咲さんっていくつなんですか?」

「あ、なんだ、ふふ。私は二十になったばかりだよ」

「二十歳ですか?」

「そうヤラハタよ!」

「誰も聞いてねぇ!」


 やらずのハタチ――つまり処女。拳をぐっと握りながら胸を張って、処女宣言するな。


「明人君たら……初対面の人にここまで告白させるなんて……」


 モジモジしながら俺を見つめる。俺にどうしろというんですかあなたは? 言われたほうが顔赤くなるわ。


「それは置いといて。俺も十七になったばかりです」


 スルーしたことに対し軽く舌打ちされたような気がする。この人と一緒に仕事するの大丈夫なのかと心配になってきた。


「明人君も四月生まれなの?」

「そうです。「も」ってことは美咲さんもですか?」

「私は十二日生まれなの」

「あ、近いですね、俺は八日です。星座も一緒ですね」

「何かと気が合うかもだね。改めてだけどこれからよろしくね」


 美咲さんはそういうと、今まで以上の笑顔で言った。この人は俺の心臓を破壊する気だな。


「こちらこそ、よろしくお願いします」

「やっぱり明人君。いい感じ」


 急にそんなこと言われると、心臓が反復横飛びしてるかのようにドキドキする。


「え? 何がです?」

「ふふ。いい子って事だよ」


 何か含まれているような気がしたが、とりあえず好印象は持ってもらえたみたいだ。人間関係はバイトだろうが正社員だろうが発生しやすいから、印象が大事だ。

 美咲さんに、月曜日の夕方からバイトに入ることを伝え、美咲さんも店長に伝言しておくと言ってくれた。


「んじゃ、月曜日待ってるね」

「はい! よろしくお願いします」


 こうして俺は新たなバイト先を手に入れた。

 お読みいただきましてありがとうございます。

 次回もよろしくお願いします。

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