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帰路  作者: まるだまる
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65 噂と嘘1

 白い世界にぽつんと俺がいる。

 ただ白いだけの世界。

 明るいのに光源がわからない。


「なんだ、ここ? また、夢か?」

 上を見ても下を見てもただ白い世界。

 影すら、その姿はなかった。


「明人さん、お待ちしてました」


 不意に後ろから声を掛けられる。

 振り向くとそこには、弁当箱がいた。

 おかしい表現だと思うが、目の前にいるのは確かに弁当箱だ。

 ただ、違うのは愛の顔が真ん中についていて、手足が生えている弁当箱だ。

 リアルな弁当箱の着ぐるみのような感じで、俺にずずいと寄ってくる。


「さあ、明人さん。お弁当食べてください! 私を、た、べ、て」

 愛はニコニコと愛らしい笑顔で、ずんずんと近付いて来る。


 俺は戦略的撤退を試みる事にした。

 簡単に言えば、逃げた。


 愛弁当は地響きを立てながら追いかけてくる。


「キタコレ! 『まてまて~』、『うふふ、捕まえてごらん』ですね? また一つ夢が叶った。愛嬉しいです。わんだほっほー!」

 愛弁当は、わけの分からないことを叫びながら追いかけてくる。

 本人が言いそうな台詞なだけに余計に怖い。

 ひたすら逃げていると、前面の床から何かが生えてきた。


 ――これは髪? いや、頭だ。


「き~ざ~き~、お前は私の敵か~」

 床から現れたのは巨大な坂本先生の顔だった。

 瞳は猫のように細くなっていて、口からは蛇のような舌がチロチロと動いている。

 まるで妖怪のようだった。

 妖怪姿の坂本先生は俺を飲み込もうとしているのか、大きく口を開けて徐々に前に進んできた。


「あはは、明人さん。まてまて~。あはははははは」

 後ろからは愛弁当が距離を詰めてくる。

 前門の坂本妖怪、後門の愛弁当、このままでは挟撃されてしまう。


 坂本妖怪の口に当たるか、当たらないかのぎりぎり手前で右に直角に曲がり、そのまま走り抜ける。

 後ろから追いつきかけていた愛の弁当箱が、坂本妖怪の口に吸い込まれた。

「いや~、愛は明人さんに食べられたいのに~、ふぁっきゅう」

 弁当箱姿の愛はそのまま、坂本妖怪に呑み込まれてしまった。

 坂本妖怪は蛇の如く、丸呑みにした。

 どうやらスプラッタ映像は避けられたようだった。


「き~ざ~き~、こんなうまい弁当貰うだと~、やっぱり敵だ~」

 坂本妖怪はあきらめず、俺を追いかける。

 弁当箱ごと食ったのに味がわかるのかと、突っ込みを入れたかったが今は逃げるほうが先決だ。


「しつこいな。違うって!」

 夢にしてもしつこい。


「ここは私にお任せ!」

 どこからか美咲の声がした。

 走りながら、周りを見てみる。

 黄色い山が見えた。

 いや、違う。アレは……プリン?

 そのプリンには、美咲の顔と手足が生えていた。

 何だ、この夢は?


「明人君。こっちこっち!」

 プリン姿の美咲はプリンをプルプルさせながら手招きして、俺を呼ぶ。

 正直、行きたくなかった。

 あんなプルプルしてる奴に、この妖怪倒せないだろ。

 いや、もしかしたら夢だから、あんな弱そうでも必殺技を持っているかもしれない。

 俺は方向変換して、美咲プリン目指して走る。


 美咲プリンはプルプルさせながら、緊迫感など微塵も感じさせない幸せそうな顔でいた。


「いくわよ~。なーまークリーム!」

 交差させた美咲の腕からふわふわの生クリームが勢いよく飛び出て、坂本妖怪めがけて射出された。

 射出された生クリームは坂本妖怪を直撃。


「あ~ま~い~わ~。生クリーム、マジで甘いわ~」

 誰が感想を言えと言った。

 てか、美咲、ぜんぜん効いてないぞ?


「む! なーまークリームが効かないなんて?」

 美咲プリンは驚愕の表情を浮かべる。

 いや、当たり前だろ。

 他にないのか、他に。


「仕方ない。ここで使うとは思わなかったけど。私の最強にして究極奥義――」

 坂本妖怪めがけて走り出す美咲プリン。


 ――おお、やっぱりあるのか?


「--フライングボディーアターック!」

「しょぼすぎだろおおおおおおおおお!」


 プルプルしながら宙を舞う美咲プリン。

 迎え撃つ坂本妖怪。


「ぱくん」

「あれ?」

 美咲は坂本妖怪の口の中にすっぽり入ってしまった。

「あれ?」じゃねえよ。


「あほかあああああああああああああああ!」


「い~た~だ~き~ま~す~」

「そうはさせない!」

 美咲プリンの身体が光り輝く。

 眩しい光が美咲プリンを中心に広がり、やがて収束する。


「とう!」

 光が収束するとポンと煙を立てる。

 煙がはれた後には、小さな美咲プリンがたくさん現れていた。

  


「「「いくぞー!」」」

 小さな美咲プリンたちは坂本妖怪にまとわり着いていく。


「は~な~れ~ろ~。リア充は嫌いだ~」

 坂本妖怪はまとわりつかれて、鬱陶しそうに顔を振る。

 振り乱した髪が小さな美咲プリン数体を叩き落とす。


「「「まけないぞー。かかれー」」」


 小さな美咲プリンたちは、叩き落されても、すぐに立ち上がり、坂本妖怪へとまとわりついていく。

 一進一退の攻防が続く。

 払われても、叩き落されても、小さな美咲プリンたちは立ち向かっていった。

 しかし、しがみついてもポコポコと叩くだけで決定打が無い。


「「「カラメルソード!」」」


 しがみついた小さな美咲プリンたちは一斉に叫ぶ。

 それぞれの手に艶のある小さな黒い剣を生み出した。 


「「「そーれ!」」」

 小さな美咲プリンたちは、暴れもがく坂本妖怪にカラメルソードを突き立てる。


「ぐぎゃああああああああ! 彼氏が欲しいいいいいいいいいいいい……」

 坂本妖怪は聞いた相手が悲しくなるような雄叫びを上げて霧散した。


「「「やったー、大勝利!」」」


 小さな美咲たちは剣を掲げて、勝利の雄叫びを上げる

 小さな美咲たちは一人の小さな美咲めがけて集まりだす。


 集まった美咲たちは『ボン!』と煙をたてると、元の大きさの美咲プリンになった。

 俺は美咲プリンの元に走り寄る。


「明人君、やったよ!」

「なんで最初から武器を使わないの?」

「ヒーローにはピンチが必要なの!」

 美咲はプルプルしながら自信たっぷりに答えた。

 聞いた俺が馬鹿でした。


「ああ、私にかかった呪いが解ける?」

 いつ呪いにかかったのか知らないが、美咲の体が虹色の光の帯に包まれる。

 虹色の帯は美咲を完全に包み込み、まるで卵みたいになった。

 リボンが解けるかのように、ゆっくりと上から螺旋状に地面に虹色の帯が解けていく。


 美咲の髪が見えた。

 するすると虹の帯は解けていき、美咲の顔が見えた。

 次に美咲の肩が見える。

 さっきまで体に覆っていたプリンの姿ではない。

 白い肌の肩口から鎖骨のラインがとても綺麗だった。

 え? 白い肌?  


「--ちょ、ちょいまった! 美咲お前、その下、裸だろ!」

 慌てて言った俺が目にしたのは、いつもと同じ部屋の風景だった。


「あ、あれ?」


 周りを見渡してみると俺の部屋。

 時計を見ると、まだアラームが鳴る時間まで二十分もある。

「わけわかんない夢だったなー。……もうちょいだったのに」

 独りごちて、ベッドにまた転がる。


 昨夜、家に着いて晩飯を食った後、美咲がくれたプリンを食べた。

 久々のプリンは、少し俺には甘すぎたけど、美味しかった。

 裏屋での初仕事に疲れたのか、眠気に襲われてさっさと寝ることにした。

 その結果、この夢見だ。

 影響受けすぎだろ俺。


 そういえば、昨日の夜に携帯を充電していない。

 鞄の中に入れたままだった。

 学校に行くまでの間、充電しておこうと携帯を鞄から取り出す。

 チカチカと着信通知のLEDが点灯している。

 中を見ると、太一と愛からのメールだった。


 愛のメールは、弁当の件と一緒に帰ったことが嬉しかったようで、そのお礼メールだった。

「返事してないけど。学校で謝っとくか」

 もう一つの太一のメールには、『すまん』のただ三文字。

 何をした?

 思い浮かんだのは、クラスの女子、川上と柳瀬の顔。

 学校に行くのが、非常に足が重くなりそうな朝の出来事だった。

 お読みいただきましてありがとうございます。

 次回もよろしくお願いします。

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