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帰路  作者: まるだまる
62/406

61 変化は突然5

 午後の授業も終わり、HR。

 担任からの長ったらしい連絡事項も終わった。

 いつものように帰り支度をさっさと済ませる。

 太一に声をかけてからバイトに行こうとした。


 ――が、先に太一に話しかけている女子二人がいた。

 確か、川上と柳瀬やなせだ。 

 前に太一に俺と美咲の事を聞いてきた子達。

 あの時の話を信じているなら、俺と美咲が交際関係にあると思っているかもしれない。


「あ、木崎君。ちょうど良かった。もう直接聞くけど、あの一年の愛里愛って子と付き合ってるの?」

 なんで、もうフルネームで知っているんだよ?


「いや、付き合ってないけど……」 

「え、そうなの? じゃあなんで木崎君にお弁当を作ってくるの?」

 食らいついてくる川上の迫力にたじろぐ俺だった。


「あの子の姉ちゃんが、明人と同じ所でバイトしてんだよ」

 横から太一が助け舟をだそうと進言してくる。

「なんでそれが関係あるの?」

 太一の台詞に川上と柳瀬は意味がわからないといった顔をした。

 うん、俺もそう思う。

 余計な説明を増やさなければならなくなる。


「あー、話すと長いんだけど。悪いけど、俺バイトあるからさ」

 ここで必殺、『ごめん時間無いから説明できない』攻撃で話題から避けよう。


「えー、しょうがないか。千葉君から話聞いていいでしょ?」


 俺はちらりと太一を見やると、目で『わかってるな』と念を押した。

 太一もそれを察知したようだ。

 小さく頷き、親指を立てた。


「ああ、そうしてくれ。悪いな。それじゃあ」

 と太一らに別れをつげ、足早に教室を後にする。

 太一うまいことやってくれよ。


 ☆


 駐輪場に着くと、そこに愛がいた。

 どうやら俺を待っていたようだ。


「あ、明人さん。お待ちしてました」

 愛はにっこりと笑って頭を下げる。


「あれ、どうしたの? 部活やってないんだっけ?」

「愛は調理部なので、火曜と木曜の二回しかないんです」

 この高校に調理部なんてあったのか。今まで知らなかった。


「途中までご一緒させてもらっていいですか?」

「あ、ああ、それは構わないけど。遠回りじゃない?」

「五分くらいしか変わりませんし、そっちの方が直接買い物もいけますから」

 と、いうわけで愛と一緒に下校する事になってしまった。


 朝に俺と愛の事を目撃した奴もいるのだろう。

 俺達に視線を向ける奴がちらほらといた。

 二人で学校を出て広い歩道の道を自転車で並走して進む。


「ふふ。こうして帰るのって嬉しいです」


 愛は好きな人と一緒に帰ることは、憧れていた事の一つだったようで、随分と嬉しそうだった。


「明人さん。昨日は興奮しすぎて、変な事ばっかり言いましたけど。これからの愛を見てくださいね」

 愛は可愛い表情で微笑んでいるが、その目には強い意思をしっかりと込めていた。

「う、うん」

 どう答えていいか、わからなくて、曖昧な返事になってしまった。

「絶対、明人さんを愛なしでは、いられない身体にしてあげますから!」

「いや、ない。それないから」


 この同行を利用して、弁当の受け渡しを目立たない場所でする事や、週末に弁当代という形で清算することを取り決めておいた。愛から特に不満は出ず、案外すんなりと受け入れてくれた。


「あの、お昼に言えなかったんですけど」


 大通りの交差点で信号待ちをしている時に、愛は少し言いにくそうにいった。


「ん、なに?」

「お昼一緒に食べるのって駄目ですか?」

「愛ちゃんも友達と食べるでしょ?」

「一緒に食べてるの二人いるんですけど。行っておいでって言うんです」

「んー、どちらかというと、俺はそっちを大事にして欲しいかな」


「駄目、……ですか?」

 上目遣いでうるうると見つめてくる。

 愛にこの顔されると弱い。


「……週末だけってのはどう? その時にお金清算すれば一石二鳥だし」

「うは! やときたこれ! ふらぐびんびんきてますよ!」

 たまにこういう状態になるけれど。

 この子の本性はこっちのような気がしてならない。   


「あ、でも太一がいるけど、それでもいいでしょ?」

「え、あの方もですか? ……まあ、排除すればいいだけなので大丈夫です!」

 黒い、この子、黒いよ。

 また一つ、愛の本性を知ったような気がする。 


 交差点の信号が青に変わり、また俺達は移動を開始する。


 愛と一緒に雑談しながら移動。

 十五分ほどの行程を進み、また、大きな交差点にたどり着く。

 俺はこの信号を渡らなければならないが、愛はここを曲がって途中のスーパーに寄って帰るようだ。


「明人さん。寂しいですがここでお別れです。お弁当楽しみにしててくださいね。腕によりをかけてつくりますから。それでは、また明日」

「ああ、楽しみしとくよ。気をつけてね。それじゃあ、また」

 小さく手を振り、愛はスーパーへと道を進めていった。

 何度も振り返りながら。


 危ないから前見てね。

 

 愛の背中を見送っているうちに、交差点の信号が青に変わり俺も道を進める。

 ここからてんやわん屋まで、それほど遠くない距離だ。


 程なくして、郵便局を通り過ぎ、てんやわん屋の看板が見えてくる。

 店前についたが、駐車場には一台の車もなく相変わらずの閑古鳥のようだ。

 店の横に回りいつもの場所に自転車を置いて、横の入り口から鍵を開けて入る。

 

 レジには美咲が椅子に座って店番をしていた。

 俺が入ってきたことに気付いた美咲は、立ち上がって手を振る。


「あ、明人君来たねー」

「こんちわー。すぐ着替えて入りますねー」

 更衣室で着替え、ロッカーに荷物をしまいレジに向かう。

 レジにいる美咲は妙にニコニコしていて、椅子に座ったまま俺に振り返る。

 俺が来たことで退屈な時間が終わったと思っているのだろうか。


「明人君、お話があるんだけど?」

「なんです?」

「愛ちゃんにお弁当作って貰ったって、ホント?」

「――な、なんでそれを⁉」

「どうして、そうなったのかな?」 

 美咲はニコニコと表情を変えずに聞いてくる。


「いや、あの、俺が頼んだわけじゃないんですけど――」   

 話していいものか、少し躊躇したが、学校であったことを掻い摘んで話してみた。



「――という事で、今度から弁当作ってもらうことになったんですよ」

『……ずるい』

 美咲が小さく呟いた。

 それは何に対しての呟きだったのか、わからなかった。


「ところで、なんでこの事知ってるんですか?」

「アリカちゃんからメールで聞いたの」


 あいつめ、余計な事を……。


「お弁当美味しかった?」

「……美味しかったですよ」

「……そうなんだ?」

 美咲は、ぼーっとした表情で答えたきり、黙りこんでしまった。


 ………………。



 沈黙に耐えかねた俺は、美咲に問いかける。


「普段、食事はどうしてるんです?」

「私、料理できないから、お昼はお弁当買ったり、外で食べたりかな。家では春ちゃんが作ってくれてるし。作り置きもしてくれてるから、家でチンするだけだし……」


 言うにつれて、美咲の表情が段々と暗くなっていく。

 聞くの間違えたか?


「実家でも?」

「お母さんが作れないときは、姉が作ってくれてたから……。私、駄目だよね」

 しまった。藪蛇だった。


「今時、料理できる女の子って、そんなに多くないでしょ?」

「そうなのかな……」

「仮に今はできなかったとしても、やればできるようになりますよ。誰だって最初はできなくて当然だし。春那さんに教わったらどうです?」

「そっか、そうだよね。春ちゃんに教えてもらえばいいんだよね」


 美咲は、自分に言い聞かせるように答える。


「春ちゃんがお休みの時に教えてもらうね。私、ちょっとはできるようになりたいから」

「いいじゃないですか。前向きで」


「……あ、あのさ。も、もし私が――やっぱ、いい」

「余計に気になるでしょ。なんです?」


「あ、あの、もし私が料理したの持ってきたら、味見してくれる?」

 言いにくそうにモジモジとして下を向いて呟くように言う美咲。

「そりゃあ、喜んでしますよ」


 俺がそういうと、美咲は顔をパッと上げて俺の顔を見つめた。


「でも、美味しくなかったら正直に言いますよ?」

「むー、採点は甘めにお願いします」

 口を尖らせて言う美咲だったが、その表情は嬉しそうだった。


「それじゃあ、上達しないでしょ?」

 俺は笑って答えると、

「ふふ。そうだね」

 美咲も笑って答えた。


 いつもの美咲に戻ったような感じがした。


 美咲は、椅子に座ったまま、くるりと背中を向けると独り言を呟いた。

「ふふふ。実験体も手に入れたことだし、私が完全体になる日が近いわね」   


 すいません。実験体って俺のことですか?

 それに完全体って、意味がわからないんですけど?


 また、俺の方にくるりと向きを変えると、

「さて、それでは――罰です。ハグしなさい!」

 両手を広げて訴える美咲。


「何の罰か、全くわかりませんけど?」

「む、座ってたらハグしづらいか、はい、どうぞ」

 そう言って、椅子から立ち上がり両手を広げる。


「いや、話聞いてる? 誰もそう言ってないから!」


「明人君はわがままだな~」


 そう言うと、俺に背中を向けて、

「後ろからがいいなんて。少し恥ずかしい……」

 美咲は身体を自分の両腕で抱くようにして言った。


「誰も言ってねええええええええええええ!」


 やっぱり美咲は美咲で、いつもの美咲だった。


 お読みいただきましてありがとうございます。

 次回もよろしくお願いします。

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