表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
帰路  作者: まるだまる
58/406

57 変化は突然1

 ……これは、夢?


 手をつないで川沿いを歩く、親子連れをぼんやり眺めていた。

 ――あの子供は、まだ幼稚園のころの俺だ。


 手をつないでいるのは、まだ若い頃の父親だった。

 そういえば小さい時よくこうやって川沿いを散歩していたっけ。


 小さな俺は親父に一生懸命身振り手振りで何かを話している。

 サイレントムービーみたいに音は聞こえなくて、内容は全くわからなかった。

 親父は幼い俺に微笑みを浮かべて頷いている。


 歩くのを止めた親父と幼い俺は川縁に座って、何やら話をしはじめていた。

 しばらく話しているうちに、幼い俺が表情を曇らせる。

 親父はそっと幼い俺の頭に手を置き、微笑みながら笑った。

 親父の笑顔を見て、幼い俺は無邪気に笑って返していた。


 これは俺の幼い時の記憶が、見せている夢なのだろうか。


 そう思った途端、周りの風景が白くなっていく事に気づいた。

 まるで映像が早送りされるかのように、周りの景色も流れていく。


 ――白い世界。


 なにもない。


 天と地の区別もなく、ただ白い世界。


 またここも、音がない世界のようだ。

 静寂と白い世界に一つの影が現れる。


 影はまた別の俺だった。


 そこにいたのは、忘れもしない合格発表の日の俺だ。


 あるかもしれない。

 希望を捨てちゃいけない。

 頑張れたはずだ。


 そう思って、見に行って現実に負けた時の俺だ。

 張り出された合格番号に俺の番号が載っていなくて、呆然としていた。

 虚ろな目で一点を見つめている。

 あの時の俺は、こんな表情をしていたのか。


 突然、白い世界に黒い亀裂が入り、白い空間が音もなく崩れ落ちる。

 

 崩れ落ちた世界は闇に包まれる。

 闇に小さなスポットライトが二つ照らされた。

 照らされた一つにいたのは、椅子に座り拳を握り締めて我慢している俺の姿。

 もう一つの照らされたスポットには、椅子に座った母親が俺に何かをまくし立てている。

 母親の横では腕を組んだ親父が黙り込んでいた。


 ――これは、あの日の夜だ。


 家族のコミュニティが無くなった夜だ。


 見たくない、見たくない、見たくない。


 目よ覚めろ。


 覚めてくれ!


 強く願った途端、世界は変化しはじめた。


 スポットライトが消え暗闇へと堕ちる。

 すると暗闇の中に小さな光点が幾つも現れた。


 その光点は様々な色を放ち、客観的に見ている俺を中心に回り始める。

 まるでプラネタリウムにでもいるような感覚だった。


 光点はいつしか光を紡ぐ線となり、CGでも駆使されたように映像が造形されていく。

 

 ……今度は何を見せられるんだ?

 そんな不安が俺の心をよぎる。


 今度の俺はなぜか、空から地面を見ている。

 空中カメラのような感覚だ。


 普段よりも大きく見える月に、ある種の恐怖さえも感じさせられた。


 大きな月の光は町並みを照らしている。

 そんな中、住宅街を歩く二つの影が見えた。


 あれは――俺と美咲だ。


 突然、引力に引きずり落とされるように地表に視点が移る。

 自転車を押す俺と傍らにいる美咲が、会話しながら帰っていた。


 これは……いつの時だろう?


 ここも音が無い世界で、話の内容がわからなかった。


 美咲の表情がムスっとして、俺の袖口をつかんでいた。



 これは――美咲の呼び方を変えた日の夜だ。



 押し問答をしている俺と美咲を、やや後ろから見ている。

 傍から見た感じ恋人同士の痴話喧嘩にも見えた。


 美咲がつかんだ袖を離して手を差し出す。


 ああ、そうだ。


 俺、この時、握手しようとしたんだった。


 無音の世界で、目の前にいる俺の口が「美咲――」と動いたのがわかった。

 美咲は満面の笑顔になって、その場でぴょんぴょんと飛び跳ねる。

 数回、言葉を交わすと美咲は小さく駆け出す。


 くるりと振り返り、電灯の明かりと月の光に照らされて、美咲はとびっきりのまぶしい顔で笑っていた。


 そうだ。


 俺、この時の美咲の笑顔に――――――


「――え?」


 俺の目に映ったのは見慣れた天井だった。

 そのまま、周りを見渡すと閉めたカーテンの隙間から光がこぼれていた。


「……俺の部屋だ。あれ、身体がある?」

 俺は身体をさすり、夢から覚めて、現実に戻ってきたことを実感した。

 まだ少しぼや~っとしていたが、へんな夢を見たせいか。


 時計を見てみると、後三分ほどでアラームがなる時刻だった。

 アラームのスイッチをオフにしておき、一階に行って洗面をすませ、朝食を作る。

 朝食をすませ、学校へ行く準備も整った。

 学校が終わったあとに向かうバイトの用意も鞄に入れて、玄関へ。


 いつものように自転車に鞄を放り込み、ゆっくりと漕ぎはじめた。

 行く途中、夢の事を思い出そうとしたが、曖昧な感じにもやがかかる。

 何か、夢の中で大事な事がわかったような気がしたのに、それが何か思い出せなかった。


 お読みいただきましてありがとうございます。

 次回もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=617043992&size=200
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ