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帰路  作者: まるだまる
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55 歓迎親睦会編15

 楽しい時間というのは短く感じるもので、気付けばもう九時前だった。

 店長とその家族は九時には帰ると聞いていたので、もうすぐ宴はお開きとなる。

 店長らを見ると千佳が店長に抱っこされて、心地良さそうに眠っていた。

 疲れて眠ってしまったのだろう。


「……明人」

 横から声に体がビクッとなる。

 声をかけられたから驚いたのではなく、声色に驚いた。


「……オーナー。不意に声かけられると、びっくりするんですけど?」

 いつの間にか、俺の横に来ていたオーナーが声をかけてきたのだった。

「……すまん」

 オーナーは鼻頭をポリポリと掻いて、すまなさそうに言う。

「……慣れたか?」

「はい、多少は慣れました。人もいい人ばっかですし、助かってます」

「……そうか」

 オーナーは俺の言葉を聞くと、「ふっ」と笑った。

 普段は怖い顔してるのに、なんだかとても優しそうな笑顔に見えた。


「……明人、お前が締めろ」

「はい?」

「……締めの乾杯だ」

「え? そんなのどうやるんですか? よくわからないんですけど?」

 俺が周りを見渡すと、周りのみんなはわかっていたかのように、テーブルについていた。


「明人君。うちの恒例の一つなの。歓迎会の主役が締めの乾杯するんだよ」

 美咲がちょこちょことやってきて教えてくれた。

 その手には俺の分のコップも持ってきていた。

「マジですか? そんなの教えておいてくださいよ!」

「言わないから面白いんじゃない。あたしの時だってやったんだからね!」

 アリカが早くやれと言わんばかりに叫ぶ。

「……さあ、やれ」

 オーナーの低くドスの聞いた声に押され、美咲からコップを受け取る。

 店長の胸に眠る千佳以外が俺に注目している。


 俺はコップを掲げると、

「……歓迎会ありがとうございました。親睦会楽しかったです! これからもよろしくお願いしまっす! お疲れ様でした――乾杯!」


「お疲れ様――乾杯!」


 俺の大きな声にみんなが唱和して、この歓迎会を兼ねた親睦会は終わった。


 ☆


 後片付けをしていると、オーナーと高槻さんに店長が頭を下げていた。


「すいません、オーナー、高槻さん。今日は、俺ほとんど手伝わずで」

「前も言ったろ? 家族といる時間の方が大事だって、気にすんな」

 高槻さんが、店長の背中を軽くポンポンと叩いて言った。

「……気にするな」

 オーナーも、さっき俺に見せたような笑った顔を見せていた。

 店長はもう一度頭を下げてから、俺たちに向かって声を上げた。


「みんな、今日はちょっとお先に帰らせてもらうね~。また、明日」

 店長は、俺達に軽く手を挙げそう言うと、奥さんと一緒に帰っていった。

 店長の胸に眠る千佳の表情が、ずっと安らかな表情をしていたのが印象的だった。


 後片付けも終わり、それぞれが帰る準備に移っていた。


 太一ら千葉家族は、オーナーの車に便乗させてもらうそうで、ここでお別れだ。

 春那さんは、裕美さんたちと二次会に行くそうで、高槻さんの車に乗せていってもらうようだ。

 明日も仕事なのに大丈夫なのかな?


 美咲に一緒に行かないのかと聞いたが、お酒が飲めないから行かないらしい。

 アリカと愛は、両親に電話したようで、迎えが来るまでここで待つらしい。

 俺と美咲はその話を聞いて、一緒に待つ事にした。


「別に一緒に待っててくれなくてもいいのに……」


 アリカが申し訳無さそうに呟く。

 その点、愛は無邪気に喜んでクルクル回っている。


「うふっうふふん。明人さん、やーっぱり優しい。愛、びっくちゃーんす」


 俺達は電気の消えたてんやわん屋の前で、雑談しながらアリカらの両親の迎えを待っていた。

 話というより、愛からの質問攻めと言った方がいいかもしれなかったが……。


 愛から俺が何組にいるのかとか、昼食はどうしてるとか、やたらと学校関係の事を聞かれた。

 その質問に答えるたび、美咲とアリカの目がジト目になっていくのが怖かった。


「明人さん、アドレス交換してください!」

「え……」

「ダメですか? 愛とアドレス交換してくれないんですか?」

 愛が涙目ながら携帯を握りしめ言ってきたので、断る理由(勇気)もない俺は、交換に応じた。

 赤外線送信をすると、愛の携帯が『ピロリン』と鳴った。


「にひひ、明人さんのアドレス、げーっと。おうち帰ったら早速……。うふ、うふ」

 愛は何かを思いついたようで、ニヤニヤしていた。ちょっと、怖いです。

 愛からの赤外線送信を受信して、俺の携帯が『ボウーン』となる。

 この音変えたいんだけど、どうやるんだろうか?


 愛は美咲ともアドレス交換。

 共通点ないけどノリか?


「美咲さんは、どうやって帰るんですか?」

 愛が俺と美咲を交互に見て聞いてくる。


「私は、歩いて帰るの」

「明人さんもですか?」

「俺、自転車だけど、帰り道一緒だから一緒に――」

「――え? 明人さんと美咲さん、一緒に帰ってるんですか?」


 俺と美咲はお互い顔を見合わせた後、二人揃って頷いた。


「えー! 美咲さん羨ましすぎる!」

「え……」


 言われた美咲は固まったが、一瞬、俺の方に目線が移ったのは見逃さなかった。


「女性が一人で歩いて帰ってたら危ないだろ? ボディガードみたいなもんだ」

 俺が言うと、愛は顔をぶんぶんと振って、足を地団駄していた。


「愛も一緒に帰りたいですー」

「わがままいわない!」

『ぺしっ』と愛の頭をはたくアリカ。 

「香ちゃ~ん。愛も明人さんと一緒に帰りたいよ~」

 アリカに抱きついて、おねだりする愛。


「もうすぐパパとママ迎えに来るんだから、わがまま言わないの!」

「香ちゃんのばかー。さのばびっちだよー」

 この子からでる英語は危険すぎる。

 どういうモノに影響受けてんだろ?


 俺らが待っていた駐車場前に一台のミニバンが入ってきた。


『パパアー』とミニバンはクラクションを鳴らす。

「おお、パパ、今日も駄洒落に生きてるね」と愛。

「恥ずかしいから、そういうこと言わないの」とアリカ。

 平和そうな家族である。


「じゃあね、明人、美咲さん。また明日」

「寂しいですが、ここでお別れですー。また明日」


 そう言って車に乗り込んでいくアリカと愛。

 アリカはわかるが、愛の『また明日』を考えると、明日の学校が怖い。

 運転席と助手席から、頭を下げる両親の姿がみえたが、二人とも優しそうな感じがした。

 走り出した車の後部座席から、アリカと愛が手を振っていたので、俺達も手を振って見送った。


 お読みいただきましてありがとうございます。

 次回もよろしくお願いします。


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