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帰路  作者: まるだまる
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54 歓迎親睦会編14

 人の入れ代わり立ち代りはあるものの、話は止まらない。

 前島さん、立花さん、俺と太一の男四人になった。

 どんな話を切り出したらいいんだろうかと考えていると、前島さんと立花さんが、

「じゃあ、そろそろ恒例のやるか」

 と、言い出した。


 前島さんと立花さんはダンボールの中から小道具をテーブルの上に並びはじめる。

 テーブルの上に並べたものは、紙皿、紙コップ、割り箸ではなくて、先の細い竹箸。


「今回はチーム戦だな」

 立花さんは俺達を見て言った。

「よし、明人、太一。お前ら二人でグーとパーで分かれろ」

 前島さんの指示に従って、太一とやってみる。

 俺がグーで、太一がパーだ。

 結果、前島さんと太一、立花さんと俺という組み合わせになった。


「なにをやるんですか?」

「今回はこれだ」

 立花さんは紙皿の上にパラパラと小粒の小豆を乗せた。


「お箸を上手に使いましょうゲームだ!」

 すいません。意味がわからないです。


 ルールは簡単。

 二十粒の小豆を一個、一個、箸でつまみ、紙皿から紙コップへ移すだけ。

 移してる最中にコップの外に落としたら落とした粒は皿に戻す。

 これが、このルールらしい。

 勝負は立花さんVS前島さん、俺VS太一、同じチームが二勝した時点で決まる。

 仮に俺が負けて立花さんが勝った場合、決勝で立花さんVS太一になり、チームとしての勝敗を決するようだ。


「負けた個人とチームは、コレを飲む。酒は入ってないから、お前らでもいける」

 前島さんがテーブルの上に置いた紙コップに紫色した謎の液体を注ぐ。

 紫色の時点でおかしいです。

 コップの液体がたまにポコポコと気泡が浮いてきているのは何でしょうか?


「……コレ、なんですか?」

「高槻さん特製の栄養ドリンクだ」

 立花さんは真面目な顔をしていった。

「……これ、飲んで大丈夫なんですか?」

 太一が液体をみて不安そうにいった。

「まあ、死にはしないから安心しろ」



 前島さんの表情は真剣そのものだった。


「個人戦で負けた奴は、コップ一杯だ。チーム負けで、もう一杯だぞ」

 前島さんが言うと、立花さんは気合を入れて「うむ」と頷いた

 立花さんは、長髪を邪魔にならないようにゴムでまとめる。

 気合の証らしい。


「まず、俺らからだ」

 前島さんと立花さんは、お互い邪魔にならない距離で座り、横目で相手を見やる。

「ふっ。今回は俺の勝ちだぞ、前島」

 立花さんは始まる前から勝利宣言をしている。

 箸の使い方によっぽど自信があるのだろうか。


「ああ? やけに自信ありげじゃねえか?」

「お前は結構酒がはいってるから、微妙なコントロールができまい。それに今日は俺にとっても記念すべき日だ。負ける気がしない」

 立花さんは、にやりと笑って胸をはる。


 俺達が準備をしてると、騒ぎに気付いた奈津美さんたち女性陣が集まってくる。

 シミュレーション、もしくは、精神統一をしているのか、選手二人は目を瞑っている。


「用意、スタート!」


 審判役を買って出た奈津美さんの号令で、ゲームが開始された。

 二人の目が同時に『かっ』と開く。

 二人の箸が、ちゃっちゃっと動き、小豆を正確につまんでいく。

 二人とも箸捌きは安定していて、五粒目まではほぼ同時だった。


 前島さんの心に迷いが出たのか、立花さんの様子を一瞬、目で追ってしまった。

 その時、前島さんの箸から小豆がこぼれ落ちる。

 これは大きいタイムロスだ。

 前島さんの焦りが箸先を狂わせ、うまく掴めなくなり、三粒ほどの差ができてしまった。

 立花さんが折り返しの十粒を超えた所で余裕の表情を見せる。


「ふっ。俺の勝利は近いな」

 そういった矢先、今度は立花さんの箸から小豆が飛んでしまった。

 その間に余裕を取り戻した前島さんが追いついた。

「負けん! 負けんぞ!」と前島さん。

「俺こそ、前回の屈辱を果たす!」と立花さん。

 前回、負けたんですね。


『パシッ!』

 ゲームの勝者がコップに最後の一粒を入れて、箸をテーブルに置く音が響く。 


「ウィナー、前島悟!」


 奈津美さんが前島さんの腕を取り大きく上げた。

「うぉっしゃあああああああああああ!」

 前島さんは勝者の咆哮を上げた。


 立花さんはテーブルに突っ伏してぶつぶつと呟いている。

「おかしい……。今日の占いで勝負運、ラブ運は最高のはずなのに……」

 立花さんは現実逃避を始めた模様だ。

 裕美さん、この人で本当にいいんですか?


『ドン』と、立花さんの前に、紫の液体が注がれた紙コップが置かれた。

「さあ、飲め」

 前島さんは勝者の余裕なのか、にやりと笑ってすすめた。

 立花さんは『ゴクリ』と生唾を飲み込むと、コップを手に取り一気に流し込んだ。


「……………………」


 液体を飲みきった立花さんは、俺に向かって親指を立てると、そのまま倒れこんだ。

 もがき苦しみながらのたうち回り、見る見るうちに立花さんの顔面が蒼白になっていく。

 何が入ってるんだ、あの液体?

 怖すぎる。……あ、動かなくなった。

 動かなくなった立花さんに裕美さんが歩み寄り、合掌している。

 いや、マジで怖いんですけど?


「それでは、そろそろ第二ラウンド始めるでー。練習いいかー?」

 立花さんのことなど、気にしていないかのように、奈津美さんの容赦ない参集命令。

 俺と太一の顔はすでに青ざめていた。

 これは勝たねばならない。

 すでにチームとしても一敗している。

 勝って、次も前島さんに勝たねば、立花さんのようになってしまう。

 太一も俺と同じ気持ちなのだろう。

 ここで勝てば、あいつは飲まなくてもいい。

 だが負ければ、地獄が待っている。

 俺達は軽く練習させてもらってから、やる事になった。

 お互い目に見えない重圧に、自然と箸を持つ手に力が入る。


「それでは二回戦。用意。スタート!」


 奈津美さんの合図で、俺と太一は箸を滑らせていく。

 事前に軽く練習をしたせいか順調に小豆をつかんでいく。

 一個、二個、三個とまずまずの滑り出しだ。


 集中だ。

 集中が途切れたほうが負ける!


 俺と太一は、一進一退を繰り返し、折り返しを越えた。

 いけるか? そう思った瞬間、つかんだ箸先から小豆が離れる。

 幸い、皿の上に戻ったので、大きなロスにはならなかったが、一個差をキープされてしまった。

 俺の皿には三個の小豆、太一は二個。まずい、負けてしまう。


「あ!」


 勝てると思った油断からか、太一が残り二個の一個をつかみ損ね、皿の外に飛ばしてしまう。

 このチャンスを逃さずに集中して、小豆をコップに入れていく。

 ラスト一粒を箸先でつかみ、慎重にコップに入れた。


 間に合ったか?



「ウィナー、木崎明人!」


 奈津美さんが俺の腕を取り大きく上げた。

 太一をみると呆然としていたが、皿の上にはまだ二個の小豆が残っていた。

 どうやら、飛ばしてしまった事で、焦ってしまい掴めなくなったようだった。

 裕美さんが、とくとくっと紙コップに紫の液体を注ぐ。


「はい。がんばってね……。ぐすっ」

 裕美さんはそう言って、涙目になって紙コップを太一に手渡した。


 コップを見つめる太一は、不安げに周りを見渡した後、目を瞑って一気に流し込んだ。

 太一の喉がゴクゴクと動いている。


 ピタっと太一の動きが止まり、その手から紙コップが解き放たれ、地面に落ちた。

「あんっま、にがっ、からっ、あっつ、なんこれ? うば、しらがぴりびりしれきら!」

 太一のろれつが回っていない。

 舌の機能がやられたらしい。

 喉を押さえて、ひーひーいったかと思うと、突如、倒れ伏し動かなくなった。

 裕美さんは、動かなくなった太一に歩み寄り、また合掌した。


「ふふん。明人なかなかやるな。だが、おれは負けんぞ?」

 前島さんが愉快そうに笑いながら言う。

「お、俺も負けません!」

 いや、本当に負けたくないんです。

 アレを飲みたくないんです。


「んじゃ、決勝や! 準備いいかー?」

 俺と前島さんはテーブルに着き、皿とコップの距離を微調整し、準備が整った。

 そして、決勝の幕は開ける。

 緊張からドキドキと俺の心臓の音が高まっていく。

 おそらく、前島さんも同じはずだ。


「決勝戦。用意、スタート!」


 奈津美さんの号令の下、決勝戦が開始された。

 もう何も見えない。

 見えるのは箸の先と小豆とコップだけだ。周りの音も聞こえない。

 俺、こんなに集中してるの生まれて初めてかもしれない。

 時間の感覚もわからない。

 前島さんの動きも全くわからない。

 早いのか遅いのかも、もうわからなかった。

 神の領域に入ったのか、世界の静寂の中で俺だけが動いている感じがした。

 なぜだか、つかもうとする小豆のベストつかみポジションがわかってしまう。

 そのおかげで、つかむ事を失敗することなく、どんどんとコップに移していける。   

 ラスト一個の一粒。

 なぜか小豆が輝いているように見えた。

 コップにコロンと入れ込んだとき、俺の腕が取られ上げられた。


「ウィナー、木崎明人!」


 俺はその時、我に返り周りを見渡した。

 残り一粒の皿を前に悔しそうにしている前島さん。

 笑顔で俺の勝利を喜んでくれている女性陣。

 あえて、言わせてくれ。

 

 小豆つかみで神の領域に入っても、全然嬉しくないわ!


 負けた前島さんは、裕美さんからコップを手渡され、一気に飲み干す。

「ふっふっふ。こんなもの、俺には効かんわ! ――ぐはぁ!」

 強がっていたのは最初だけで、すぐさまのた打ち回っていた。

 そして――前島さんも動かなくなってしまった。

 奈津美さんと裕美さんは、前島さんのそばに歩みより、一緒に合掌していた。


 前島さんと太一が復活したところで、チーム敗北分をもう一杯ずつ飲んでもらった。


 前島さんと太一は肩を組み、それぞれコップを天にかざすと、

「逝くぞ。太一!」

「合点でさ、アニキ!」

 そう言って、二人仲良く逝ってしまった。


 次もやるのか、これ?

 お読みいただきましてありがとうございます。

 次回もよろしくお願いします。

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