53 歓迎親睦会編13
その後、歓談を続けていた俺達の所に、奈津美さんたちが乱入してきた。
歓談の勢いは乱入によって、新たなステージへと移る。
俺はずっと小さい椅子に座ったままだったが、乱入によってポジションに変化が訪れた。
俺の隣には美咲、その横には奈津美さんが座っている。
今はその奈津美さんの高校時代の思い出話を聞いている。
高二の時に、大阪から清和市に引っ越してきたそうで、関西弁が抜けないそうだ。
おかげで友達作りには、いい面も悪い面もあって、苦労したそうである。
裕美さんとは高三の時に同じクラスとなり、それからの付き合いらしい。
後は、前島さんと同棲していることを聞いたり、裕美さんにプロポーズで先を越されたこと、悔しそうにしながらも、嬉しそうに語っていた。
アリカと愛は、立花さんと裕美さんと一緒に話をしている。
アリカの表情をみるかぎり、目をうるうるとさせているので、プロポーズの話でも聞いているのだろう。
春那さんの所に太一と綾乃がいて、何かを質問しているようだ。
太一が何かを口走った途端、綾乃がくるんと一回転し、太一がくの字になって倒れこむ。
太一が余計な事をいったようだった。
倒れこんでいる太一を、ふらふらと現れた前島さんがじーと見つめる。
気付いた太一は顔を上げると、じっと見つめる前島さんに愛想笑いを浮かべた。
「お前どうしたんだ? ん? おー、そうか、そうか。こうして欲しいのか」
前島さんは独り言のように言うと、太一を担ぎ上げる。
担ぎ上げられた太一は、前島さんの両肩でえびぞり状態にされた。
いわゆるプロレス技のアルゼンチンバックブリーカーというやつだが、生で見るのは初めてだった。
太一には悪いが、見ている分には楽しいので、良しとしよう。
太一は、前島さんの手をパンパンと叩き、ギブアップを示す。
降ろされた太一はふらふらしながら「何で俺が?」とぶつぶつ呟いていた。
そういう星の下に生まれたんだ、あきらめろ。
太一を降ろした直後に、前島さんは奈津美さんに「酔っ払いは嫌いやで!」と怒られ、奈津美さんの後ろに座り込み、膝を抱えて反省していた。図体は大きいが、意外と行動が子供じみていてギャップが面白かった。
アリカの隙を窺っていた愛が、この騒動にまぎれて、いつの間にか俺の右横に座っている。
またくっついてくるのかと警戒して、愛の顔をちらりと見ると「えへへ」とはにかんで、俺の顔を見ているだけだった。
こういう可愛い仕草をされると、こっちもドキっとする。
気恥ずかしくなって、目を反対側に顔を向けると、美咲と目が合った。
にっこりと笑う美咲の顔が笑って見えないのはなぜだろう。
「巨乳ちゃんは明人君の事、ホンマ気に入ってるんやな」
奈津美さんは、俺達の状況を見て、にひひと笑って言う。
巨乳ちゃんって、名前で呼んであげてください。
「だって恋愛とかって、待ってても時間過ぎるだけじゃないですか。攻める時はオラオラオラオラぐらいの勢いで自分の気持ちぶつけますよ。そしたら相手がウリリィって答えてくれるかもしれないじゃないですか」
巨乳ちゃんと呼ばれたことを愛は気にせず、奈津美さんに面と向かって言い放つ。
いや、前半意味わかるけど、後半全く意味わかんないぞ?
その相手には、自分の気持ちじゃなくて波紋ぶつけないといけないよね?
奈津美さんは、愛のいい切りっぷりが気に入ったようで大きく笑った。
「巨乳ちゃんのいうとおりや。恋愛は待ったらアカン。待ってたって、なんも変わらん。その点、うちの悟はがんばってたでー、なあ悟」
奈津美さんは、後ろに座る前島さんの頭をいい子、いい子とでもするように撫でる。
撫でられた前島さんは「ばかやろ!」と言って照れているが、少し嬉しそうだった。
「……のろけですか?」
俺がボソッと言うと、
「あは。ばれた?」
奈津美さんはおどけて言った。
「まあ、でも恋愛は待ったらアカンのはホンマやで。みんなも覚えとき」
真面目な顔して奈津美さんは言う。
「……でも、怖くない? 失敗したらどうしようって、怖気つくんじゃないかな」
美咲もまた、真剣な表情で言う。
「あほやな、美咲。怖気ついとる暇あったら女磨きって話や。今で言う女子力やな。それ上げて、相手を虜にするんや。相手に好きって言わすのも、動くことの一つやぞ?」
美咲はその言葉に返事はせず、ただ頷くだけだった。
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