52 歓迎親睦会編12
奈津美さん達と話していた美咲が、トコトコと俺達の所に歩いてきた。
「明人君、奈津美さんが、ちょっと来てだって」
俺は自分に指差すと、美咲はうんうんと頷く。
「ちょっと、いってくる。あれ、美咲さんは?」
「んー、なんか私と交代だって。愛ちゃん、綾乃ちゃん、お話しよー」
にっこりと笑顔で二人に挨拶を送る。
綾乃は緊張しているのか、髪をくしくしと撫で、愛はにっこりと笑顔で返していた。
美咲らから離れ奈津美さんの所に向かうと、椅子を差し出され座るよう促された。
俺の正面には奈津美さん、左側には裕美さん、春那さんは右側に座っている。
何だか囲まれているんだけれど、何を聞かれるんだ俺?
出された椅子に座ると、奈津美さんが「んんっ」と咳払いした。
「えっと……なんでしょうか?」
「単刀直入に聞くで? あの中の誰が本命やねん?」
奈津美さんは、ずずいっと顔を近づけて聞いてくる。
「さっきの巨乳ちゃんか?」と奈津美さん
「はい?」
「実はアリカちゃんとか?」と裕美さん
「はい?」
「やはり美咲か?」
春那さんまで立て続けに聞いてくる。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! 何の話ですか?」
俺が慌てて言うと、三人はニヤニヤとしながら、お互い目配せあう。
「決まってるやろ。彼女にしたい子は誰やって聞いてんねん」
奈津美さんは、さらっと聞いてきた。
「い、いや、今はそんなの考えてないですけど?」
俺は正直に今の気持ちを言ってみる。
「ふむ。明人君はまだ心の整理がついていないのか」
春那さんは腕を組んだまま、何かを考え込んで、視線を空に向ける。
すると、何かを思いついたようでポンと手を叩く。
奈津美さんと裕美さんに、ちょいちょいと手招きすると、ヒソヒソと話を始めた。
話がまとまったのか、三人は俺を見て、ニヤリと笑う。嫌な予感しかしない。
春那さんが椅子から立ち上がり、ぼそっと呟く。
「まあ、君も実感したほうがいいかもしれないな」
「な、何をでしょう?」
「女の柔肌をだよ」
春那さんは、そう言って俺の頭をぎゅうっと胸に抱いた。
むにゅうと、柔らかくて弾力のあるものが俺の顔を包み込む。
これが伝説のFクラスの感触……服越しとはいえ、温かくて気持ちいい。
春那さんの心臓の音が、小さくトクントクンと心地よく肌に伝わってくる。
……ああ、もう、何も考えたくない。このままでいたい。
『――ザッザッザッザッザッザッザッザッザ』
夢心地でいると、なにやら背後から音が聞こえてくる。
うるさいな。せっかく、人がいい気持ちでいるんだから、静かにしてくれ。
「明人君? 何やってるのかな?」と誰かの声。
「楽しそうね? 明人」とさっきの声とは、また違った声。
ほっといてくれと、文句を言おうとして、春那さんの胸に抱かれたまま振り返る。
そこには満面の笑みを浮かべた美咲とアリカがいた。
美咲とアリカの背後に、なぜか風神、雷神の姿が見えて、一瞬で血の気が引いた。
春那さんが俺からぱっと離れる。
――俺のベストプレイスが!
すると俺の右腕に美咲の右腕、左腕にはアリカの左腕ががっちりと組まれる。
「明人君。ちょっと、向こうでお話あるの」
「美咲さん、奇遇ですねー。あたしもなんですよ。さあ、きなさい!」
「えええええええええええ?」
ぐいっと引っ張り挙げられると、そのまま引きずられ、拉致されてしまった。
二人が歩みを止めると、そこに置いてあった小さな椅子に座らされる。
二人がずずいっと顔を寄せてくると、恐怖の時間が始まった。
「なにエロイ顔してデレデレしてんの? バカじゃないの?」
「どうしてあんなことしてたのかな? ねえ、どうして? ねえ、ねえ?」
アリカからは説教をくらい、美咲からは質問攻めされる。
正直、罵声を浴びせるアリカよりも美咲が怖かった……。
ちらりと悪役三人衆――お姉さま軍団を見ると、うむうむと満足げに頷いていた。
ひどい、ひどすぎる。
「――なに、よそみしてんのよ!」
アリカから雷光めいた一喝が落ちる。
「――すんません」
俺は謝ることしか、できなかった。
お説教と質問タイムから開放され、二人の後を追い、俺はふらふらと元の場所に戻って来た。
さっき座っていた小さな椅子を太一の横に置いて座る。
「お前、羨ましすぎるぞ。春那さんのおっぱいどう――ぐあ!」
太一が興奮した様子で聞いてきたが、瞬時に反応した綾乃が首筋にエルボーを入れる。
食らった太一は、上半身とともに、腕はだらんと膝を抱え込むように倒れこむ。
「お兄ちゃん、恥ずかしい事言わないでよ!」
綾乃は真っ赤になって言った。お兄ちゃん、ぴくぴく痙攣してるぞ?
「はは……」
乾いた笑いしか出ない俺だった。
太一の事はともかく、俺の情けない姿も愛に見られたから、目が覚めるかも知れない。
そう期待して愛を見やると、愛は目をキラキラさせていた。
「明人さん、大きい胸の人が好きなんですね。愛も、おっぱい大きいですよ?」
愛は、俺の予想とは次元の違う所を、暴走特急のように走っていた。
見てはいけないと思いつつも、つい視線が愛の胸に引き寄せられてしまう。
視界の片隅にギランと光るアリカの目とにっこりと笑う美咲の目が映る。
二人の眼が俺を射殺さんとばかりに向けられていた。
殺気を感じて視線を逸らすが、背中を流れる嫌な汗は止まりそうになかった。
身の危険を何度も感じつつ、美咲も交えた冷や汗まじりの歓談は続いた。
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