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帰路  作者: まるだまる
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51 歓迎親睦会編11

 立花さんの粋なサプライズは、参加者に感動と祝福を与え、歓談に弾みを与えてた。

 食べて飲んで話しているうちに、いつの間にか太陽は沈み、辺りは暗くなっている。

 箸の進みも次第に少なくなっていき、食べる事よりも雑談の方が多くなってきていた。

 俺は一人用の椅子に座り、左に千葉兄妹、右には愛里姉妹がそれぞれベンチに座っている。

 先ほど火花を散らし合っていた綾乃や愛も、慣れ親しんできた様子だった。


「そういや、俺、アリカちゃんに聞きたかったんだけどさ」


 太一は思いついたかのようにポンと手を叩く。

 アリカは「ん?」と首を傾げて太一に顔を向けた。


「アリカってあだ名さ、本人的にはどうなのかなって」

「気に入ってるよ」


 太一に聞かれたアリカはクスっと笑って言った。


「あだ名って難しいよね。周りが言ってるから言ったら、実は本人嫌がっていたとか」


 気配り屋の太一らしい発言だった。


「あー、わかりますー。たまに微妙なのありますよね。愛の場合、『愛ちん』とか」

「私、仲いい子からは『あやのん』って呼ばれてる」


『あやのん』はともかく、『愛ちん』は確かに微妙だ。


「あたし、性格きついし、友達も少ないから、今まであだ名で呼ばれたことってないの」

 アリカが自嘲気味に言う。

 確かに勝気だし、偉そうだよな、こいつ。


「香ちゃん、すぐ怒るからだよー。いつもママ言ってるじゃん。すまいる、すまいるー」

 愛はニコニコとしながら言う。

 確かに笑顔で話すと倍掛けくらい可愛く見える。


「ああ! またキタコレ! 明人さんが愛に微笑んでくれてる!」


 頬を両手で押さえてわけの分からないことをのたまう愛。

 ……この病気さえなかったら、倍掛けのままで可愛かったのに。 


「うるさい!」

 興奮した愛の頭をアリカがぺしっと叩く。


「香ちゃん、また、そうやってすぐ怒る。いつか、きるゆーだよ!」

 はたかれた頭を押さえながら文句を言っているが、内容が物騒すぎる。


「話を戻すね。そもそもは、前島さんがあたしのフルネーム見て、名前だと勘違いしたのよね」


 アリカは当時の事を思い出したのか、懐かしそうに言った。


「『お前、アリカって言うのか? いい名前だな』って言われたの」

「確かにアリカって、名前にもありそうなだもんな」


 俺の言葉に、周りもうんうんと頷く。


「一応、訂正はしたのよ? でも、前島さんはアリカの方が言いやすいから、そう呼ぶって。あたしも、まあ、いいかなって。太一君も綾乃ちゃんもアリカでいいわよ」

 アリカは「ふふ」と笑って言った。

 その笑顔は十分可愛いかった。

 笑うアリカを見ていると、アリカと視線があった。


「なに?」

 と、怪訝そうな顔をして首を傾げるアリカ。


「普段からそうやって笑ってろよ。そうすりゃあ、可愛いんだから」


 ぼっと、一瞬でアリカの顔が真っ赤になる。

 何を慌てているのか、横にぶら下がってる自分の髪をぎゅっと握る。


「な、なに言ってんのよ! ばっかじゃないの?」

 泡食った感じで怒るアリカ。


 太一、綾乃、愛はポカンとした顔をしたかと思うと、三人が三人ともジト目で俺を睨んできた。

 別に変なこと言ってないぞ?


「明人、学校だとわからなかったけど。お前、天然のコマシなんだな……」

「明人さん……私、初めて殺意というものを知った気がします……」

 横にいる太一がジト目のまま、俺を見て失礼な事を呟き、綾乃は綾乃で物騒な事を言っている。


「明人さん、幼女趣味が――あいた!」

 愛の失礼極まりない言葉に、アリカがぺしっと頭をはたく。


「愛、あんた言っていい事と悪い事の区別つけなさい? 誰が幼女よ、誰が!」

「香ちゃん、ぽこぽこ頭叩かないでよ! 愛が馬鹿になったらどうするのよ」

 頭を押さえて涙ぐむ愛。

「あんたは十分、馬鹿よ」 

 アリカはこめかみを押さえ、顔を横に振りながらしみじみと言った。 


 それからしばらく、太一が主に話題を提供し、俺らはそれに答えるといった形で雑談を続けていた。

 太一の話題提供は、話が切れそうなタイミングで、次の話題をひょいと投げ込んできて、話が途絶えない。

 つくづく感心させられる。


「そういえば」

 綾乃が何かを思いついたように口を開く。


「美咲さんって、本当に美人ですよねー。すっごい優しそうだし、スタイルもいいじゃないですか? 私びっくりしちゃった」  


 何を言うかと思えば美咲の事だった。

 確かに、あんな綺麗な顔は滅多にいない。

 春那さんや愛と比べると、美咲の胸は小さいかもしれないが、アリカのようにペタンというわけでもない。

 アリカが一瞬ピクッと反応して俺を睨んでくるが、慌てず自然に視線を逸らす。

 危ない、危ない、勘のいい奴め。 


「美咲さんという方は、愛がお店で会った方ですよね?」


 愛は顎に人差し指を添えて、確認するかのように聞いてくる。

 バーベキューが始まった時から、横にいただろ?


「あんた、明人ばっかり見てて全然見てないんじゃない? ほら、あそこにいるでしょ」


 アリカは、あきれた表情で言い、視線を美咲のいるほうに向ける。

 当の美咲は、奈津美さん達と話しこんでいて、時折、春那さんや奈津美さんに抱きついていた。


「あー、確かに顔はお綺麗ですけど……根が暗そうですね」

「「はあ?」」


 俺とアリカの声が重なった。


「美咲さん、シャレにならないくらい明るいわよ?」

 アリカに先手を打たれたので、うんうんと頷く俺。


「えー、そうなの? 愛これでも人の性格を見抜くほうなんだけどなー」


 愛は自分の説に疑問を抱かれた事が、納得できない様子だった。


「愛ちゃん、俺は?」

 太一がここぞとばかりに聞いてくる。


「言っていいんですか?」

 満面の笑顔で聞き返す愛。


「……やめときます」

 その笑顔の裏を読んでしまったのか、太一は身を引いた。

 多分、太一の判断は正解だろう。


 お読みいただきましてありがとうございます。

 次回もよろしくお願いします。

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