表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
帰路  作者: まるだまる
51/406

50 歓迎親睦会編10

 テーブルに何度か皿が運ばれてきて、一段落がついた頃。

「前島、立花。そろそろ、お前らも食うほうに回れ。俺とかかあで代わるからよ」

 高槻さんが二人に言うと、二人は頭を下げてテーブルに移動してきた。


 涼子さんが、いつの間にかオーナーの横に移動して話していた。

 強面とはいえ、実の兄だからか、オーナーの肩をバシバシ叩きながら楽しそうに話している。

 叩かれているオーナーも苦笑いのような表情を浮かべているが、顔は緩んでいるようにも見える。


 店長はベンチ型の椅子に家族と座って話している。

 店長の表情が、いつもの薄ら笑いより、柔らかい笑顔になっているのが、印象深かった。

 やはり、家族と過ごす時間が楽しいのだろう。


 高槻夫妻に代わってもらった前島さんと立花さんは、それぞれ奈津美さんと裕美さんの横に行くと、椅子に座って、タオルで汗をぬぐっていた。ずっと焼き当番をしてくれていたから暑かっただろう。


「悟、お疲れさん」と言って、奈津美さんは前島さんにビールを手渡す。

「ありがとよ」と言って、嬉しそうに笑う前島さん。

 奈津美さんが前島さんに近寄り、なにやら耳打ちすると、前島さんは顔を赤くする。

 奈津美さんが何を言ったか気になるところだ。


「見せつけんの止めてよねー。一緒に暮らしてるからってさー」

 奈津美さんをツンツンと肘で突きながら裕美さんが言う。

 その横で立花さんは、裕美さんから受け取った取り皿の肉を黙々と食べていた。


「あんたらも、はよ一緒に住んだらええやんか。悪いもんちゃうよ」

 奈津美さんの一言が耳に聞こえたのか高槻さんが反応した。


「お? 裕美。そんな話進めてるのか?」

「もう、お父さん! 人の話に聞耳立てないでよ!」

「俺に言いたいことがあるなら、いつでも言ってこいって言ってるだろ」


 高槻さんの言葉に裕美さんは、少しドキッとしたように、立花さんに視線を移す。

 視線を受け止めた立花さんはこくっと頷いて、親指を立て自分自身に向ける。

 立花さんは持っていた皿をテーブルに置くと、高槻夫妻の所に歩み寄る。

 その後ろを裕美さんが緊張した顔つきでついていっていた。

 その緊張が伝わったのか、二人の行動をみなが注目しはじめた。


「高槻さん。この後で言おうと思ってたんですけど」

 立花さんは動じていないのか、肝っ玉が強いのか、普段と変わらない感じだ。

「おう。一緒に暮らしたいって言うなら構わねえぞ」

 高槻さんは、まるで待っていたかのように言い放つ。

 裕美さんは、緊張していたからか、ほっと息を放つ。


「高槻さんならそう言うと思ってました。でも、俺が言いたいのはそれじゃないんです」

「え?」

 裕美さんは聞いていた予定と違う事に驚いたのか、立花さんの顔を凝視する。

 立花さんは裕美さんをぐいっと傍らに引き寄せると、

「親父さん、裕美を俺に下さい。絶対幸せにします!」

 深々と頭を下げて、高槻さんに言った。

 裕美さんは立花さんから同棲の許可を貰うと聞いていたのだろう。

 状況についていけないのか、驚いたまま立ち尽くしていた。


「裕美、俺いいプロポーズの言葉浮かばなくてさ。俺の嫁さんになってくれ」

 頭を上げた立花さんが硬直してる裕美さんにそう言うと、高槻さんが大笑いした。


「立花。お前順番がバラバラじゃねえか。裕美が断ったらどうするんだ」

「そこだけは絶対の自信があります。なあ、裕美」

 立花さんは高槻さんに言い返し、裕美さんの顔を見つめる。


「――た、立花さんのばかあ!」


 裕美さんは、そう言ってポロポロと泣き出した。 

「――で、返事は?」

 立花さんは静かに言うと、裕美さんは声が出せないのか、こくっと頷いた。

「よし、立花。お前の心意気確かに受けとったぞ。裕美はお前にくれてやる!」

 二人のやり取りを見て、うんうんと頷いた高槻さんは上機嫌でそう言った。

 横にいる高槻夫人も嬉しそうだ。


「裕美おめでとう。やったやんか。同棲どころかプロポーズやなんて、完全に先越されたわ」

 奈津美さんが泣いている裕美さんに駆け寄り、祝福の言葉を送る。

 多分、このやり取りに感動したのだろう。目尻には涙が浮かんでいた。

 周りを見ると、美咲とアリカは涙ぐんでいて、春那さんと愛、綾乃は嬉しそうに二人を見つめていた。


「いや~、いいもの見せてもらいました。二人に祝福を贈るために、もう一度乾杯しましょう」

 店長がそう言うと、みんなそれぞれ器を手に大きく掲げた。

 店長が大きく声をあげる。


「二人のこれからに乾杯!」


「乾杯!」

 

 二回目の乾杯は、一度目の乾杯よりも涙と笑顔で溢れていた。


 お読みいただきましてありがとうございます。

 次回もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=617043992&size=200
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ