表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
帰路  作者: まるだまる
50/406

49 歓迎親睦会編9

 車からの荷物の積み下ろしも終わり、オーナー、店長とその家族、太一らが合流した。

 オーナーがテーブル前に行くと、他の人らも自然とテーブルに集まっていく。

 オーナー側の左側は、店長とその家族、春那さん、美咲、愛、アリカの順に並んでいる。

 右側には高槻夫妻、裕美さん、奈津美さん、涼子さん、綾乃、太一の順。

 俺の隣は、太一とアリカになった。

 愛は俺の隣を狙っていたようだが、「あんたはここ!」とアリカの妨害にあい泣く泣く美咲とアリカの間になった。

 潤んだ目でずっと俺を見るの止めてくれないか? 恥ずかしいから。


 飲物をテーブルの上に並べ、コンロ番に戻った立花さんと前島さんは、すぐにみんなが食べられるように準備を続けている。

「……始めようか」

 そんな怖い声で言われたら、今から喧嘩でもするのかと言いたくなる。

「では、僭越ながら……」

 店長が周りに視線を投げかけると、それを合図に酒を飲む人は缶ビール。

 飲まない人と未成年はテーブルに置かれたコップに用意されたウーロン茶やジュースを注ぐ。


「それでは、新たに仲間になった木崎明人君の歓迎会、併せて恒例の『てんやわん屋』親睦会を開きたいと思います。みなさんお顔合わせの初めてな方もいますでしょうが、これも何かの縁です。これを機会に仲良くやっていきましょう。では、乾杯!」

 店長の乾杯の音頭にみんなで大きく「乾杯!」と唱和して始まった。 


 立花さんと前島さんは、缶ビールを一口だけ飲むと、すぐさま焼いてあった肉や野菜を皿に盛っていく。

 前島さんは皿をテーブルに運び、立花さんは次の材料をコンロに乗せて焼いていく。 

 かなり大きなサイズのコンロなので、皿に盛られた量は多かった。


 グイーっと缶ビールを一気に飲み干し、上機嫌なのは奈津美さん。

「ぷはーっ。これのために生きてるっちゅう感じやね!」

 なにやら親父くさいのは気のせいじゃないだろう。


「奈津美、酔っ払いすぎて腹出して寝ても知らねえぞ」

 前島さんは言いながら、焼きあがった肉や野菜の盛った皿を置く。

「悟がちゃんと世話してくれるんやろ?」

 と、にんまり笑っていう奈津美さん。

「こんなとこで言うな、ばかやろ!」  

 みんなの注目を浴びてしまった前島さんは照れて、次の皿を盛りにコンロに戻っていってしまった。

 みんなの視線が妙に温かく見えたのは気のせいじゃないだろう。


 目の前に置かれた皿から思い思いに箸をつけていき、肉や野菜を味わう。

 肉を味わってみると、とても柔らかくて、口の中で溶けていくような感じがした。

 これなら小さい子でも、十分味わえるだろう。


 横でも、千葉兄妹が「この肉、うま!」と言って頬張っている。

 随分と高そうな肉だけれど、オーナーがすべて負担してくれたようだ。

 時に経営者として大盤振る舞いが必要なのだろう。素直に感謝だ。

 オーナーを見てみると、店長と何やら話しているが、よく見ると笑ったような感じをするときがある。

 表情からは苦笑いしているようにも見えて、見分けにくいが、多分あっているだろう。


 アリカの隙をついた愛が、瞬時に俺の傍らに寄り、肉を箸でつまんで口に寄せてくる。


「んふ。明人さん。はい、お肉どうぞ。あーん」

「じ、自分で食べるからいいよ。愛ちゃんもしっかり食べなよ」

「ああん! 明人さん。愛に気を使ってくれるなんて……なんて優しい」

 愛は感動したかのように身を震わせて、俺の肩にくっついてくる。


 ――ゾクゾクゾクと、背中に悪寒が走る。


 周りを見渡すと、綾乃、太一、アリカ、美咲が俺達を睨んでいる。

 奈津美さん、裕美さん、春那さんのお姉さま軍団はその光景を見てニヤニヤとしていた。

 なに、このアウェーな感じ。


 横にいる太一がぼそっと「裏切り者」と呟く。

 いや、まて。望んでこうなってるわけじゃない。

 それよか助けろ。


 太一の横で綾乃が「よし!」と謎の気合をいれている。

 綾乃は自分の取り皿に肉をぱぱっと盛ると、俺と愛のところに近付いてくる。


「明人さん。昨日のお礼ちゃんとしてないから。だから……、その……、はい、あーん」

 綾乃が先ほど持った皿の肉を箸でつまみ俺の口に寄せてくる。


 俺の横から紅蓮の炎が上がる気配。

 横をみると愛が頬を引きつらせている。


「あら? 明人さんには、愛が食べさせてあげるから、あなたはいいわよ?」

「いえいえ、昨日、私の家でお手伝いしてもらったんです。その礼はしないと」


 お互い微笑みは崩さない。

 視線同士がぶつかり合って、空気摩擦でも起こしているようだ。

 二人の間に火花が見える。


「あ、あの、二人とも。俺、自分で食べるからさ……」


 状況を打開すべく、提言するも、


「いえいえ、何をおっしゃいますやら、明人さんには、この愛が、はい、どうぞ!」

「いえいえ、私のをどうぞ!」


 愛と綾乃は箸で肉をつまむとずずいっと、俺に寄ってくる。


 愛を立てれば綾乃が立たず、その逆もまたしかり。

 これ困ったぞ。……どうしよう。


「……愛」

「……綾ちゃん」


 愛の後ろにアリカ、綾乃の後ろに涼子さん。

 名前を呼ばれた二人は青ざめて、恐る恐る後ろを振り返る。


「あんた、まだわかってないの?」

「明人君困ってるでしょ? お母さん怒っちゃうわよ?」

 アリカは冷めた表情で言い、涼子さんは、にこやかに言う。


 愛と綾乃はこれは本気でまずいと感じたのか、俺から一歩、距離をとる。


「仲良く食べましょうねー」と涼子さんは綾乃の頭を撫でる。

 頭を撫でられている綾乃はこくっと頷いて、元の位置に戻っていった。

 愛はアリカに袖を引っ張られ、なかば強引に元の位置に連れ戻される。


「なあなあ、明人」

 太一が俺の肘を突いてくる。

 太一は、アリカと愛の方をちらりと見て聞いてきた。


「あの子、学校の駐輪場にいた子だよな?」


 俺よりも愛を見た時間は少ないはずなのに、短時間での事をよく覚えている。

 愛のしぐさや、愛の表情を見ている様子から、随分と愛のことが気になっている様子だ。

 簡単に経緯を言うと、「なんで、そんなんで?」と太一は頭をひねっていた。

 それは俺が言いたい。


「おい、アリカ。愛ちゃんってさ、思い込み激しいのか?」

 右隣にいるアリカに聞いてみると、

「はひ?」

 タイミング悪く、アリカはちょうど肉を咥えたところだった。

 アリカは一瞬考えるような顔をすると、肉を口の中に放り込み、もぐもぐと口を動かす。

 俺と太一が見守る中、もぐもぐと口の中の肉を処理している。

 数秒の後、ごくんと口の中の肉をようやく飲み込む。


 アリカはよく噛んで食べる子だった。


「ふう……普段はそうでもないんだけど。今回に関しては激しいわね」

 答えるアリカの背後で、愛がちらちらと様子を窺っている。


「なんで、あんたみたいなのがいいのか、全然わからないけど」

 アリカは、あきれた表情でいう。

 それは俺に言ったって、しょうがないだろ


「んで、明人はどうなんだよ?」

 太一が答えにくい事をさらっと聞いてくる。


「……好意は嬉しいけどよ。好きとか付き合うってのは、今はないわ」

「「今は?」」

 太一とアリカの声が重なる。


「そりゃ、いつかは彼女欲しいよ。でも、付き合うなら俺も好きでないと駄目だろ」

「はー、お前、そういうとこまで生真面目っていうか。バカだろ?」 

 俺の答えに太一は、あきれた表情で返す。


 いや、お前も彼女いないだろ。なんで上から目線なんだ。

 アリカは俺の答えに納得したのかわからないが、目を細めて「ふーん」とだけ呟いた。



 お読みいただきましてありがとうございます。

 次回もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=617043992&size=200
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ