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帰路  作者: まるだまる
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48 歓迎親睦会編8

「こっちはもういいのかな?」

 春那さんは店の中を見回して聞いてくる。

「もう、終わりです」

「それじゃあ、一緒に行こうか。高槻さんもそろそろ着くころだ」

 春那さんは美咲の頭にポンと手を乗せて言うと、美咲は無言で頷くだけだった。


 店じまいを終えた俺達は、三人で裏屋に向かった。

 春那さんに連れられて、バーベキューをする裏屋のガレージ前へ。

 ガレージ前には、すでに炭火を起こしている大きなコンロが二つ並んである。

 そのコンロの手前側に、大きなテーブルが二つあり、紙コップや紙皿が置かれている。

 夕方からの冷えにも気を遣っているようで、ハロゲンヒーターも三台置いてある。

 椅子もシングルタイプやベンチタイプと、様々な種類がテーブル周りに置いてあり、今日の参加人数分あるようだ。


 テーブルの向こう側では、椅子に座ったアリカと愛がいる。

 アリカが説教している様子で、愛はしゅんとした表情で、アリカの話を聞いて俯いていた。

 視界に入ったのか愛はちらりと俺の姿を見た途端、席を立とうとしたがアリカが腕を掴んで止める。

 少しばかり可哀想だ。いいかげん勘弁してやれよ。


 コンロの所には前島さんと立花さんがいる。

 それぞれコンロの当番をしているようだ。


「おっす、明人。店閉めてきたようだな。今日はたっぷり食えよ!」

 そばに行くと前島さんが楽しそうに言ってきた。


「早めに肉取らないと、前島に全部取られちまうぞ」

 立花さんが前島さんの肩を叩きながら言う。


「うるせえよ。春ちゃんも美咲ちゃんもしっかり食べろよ。お前ら体細いからよ。食わねえと身体もたねえぞ」

 前島さんは機嫌良さそうにガハハと笑う。


 その時、一台のワゴンがガレージ前に近付いてきて止まった。

 運転していたのは高槻さんだ。助手席にいるのは奥さんだろう。

 高槻さんは車から降り、後ろのドアを開けると、若い女性二人が降りてきた。 

 娘さんかと思ったが、その内の一人がペコペコと高槻さんに頭を下げている。


「あ、前島さん、奈津美さんたち来たよ」


 その姿をみた美咲が前島さんに言うと、前島さんは突っ走っていった。

 立花さんは「やれやれ、相変わらずベタ惚れしてるな」と呟く。

 前島さんは、先ほど頭をペコペコさせていた女性に近付き声をかけている。

 見ているこっちが恥ずかしくなりそうなくらいデレデレしていた。

 高槻さんは車の後ろから、大きなクーラーボックスを二つ降ろしている。

 高槻さんの横にいるもう一人の若い女性がこっちを見て叫ぶ。


「立花さん、手伝ってー!」

「はいはい」と呟いて、立花さんは車に近寄って行った。


「前島さんと話しているのが加茂川奈津美さん。立花さんを呼んだのが、高槻さんの娘さんで裕美さんよ。今日、言ってた彼女さんよ」

 美咲が二人を見ながら教えてくれた。 

 

「立花さん、高槻さんの娘さんと付き合ってるんですか?」

「うん。私がここに勤め始めたときには、もう付き合ってたよ」

 同じ職場に彼女の父親がいるのは、嫌じゃないのかな?


「あ、明人君。今、一緒の職場に彼女の父親がいるの、嫌じゃないのかなって思った?」

「え? なんでわかるんですか?」

 美咲って、マジで人の心が読めるんじゃないだろうな?


「以前、美咲も今言ったことを私に聞いたんだ。明人君もそう考えたと思ったんだろう」

 前島さん達の代わりにコンロを見ていた春那さんが、美咲の代弁するかのように言う。


 春那さんの話によると、四年前のバーベキューで裕美さんが立花さんに惚れ、一年かけて攻略したそうだ。

 春那さんの歓迎会の時に付き合い始めたことを公言したらしい。

 すげえな。女の人からアタックされるって、どんな風にされたんだろう。

 一緒に仕事する時にでも聞いてみようかな。


「裕美さんの友人が奈津美さんでね。その時のバーベキューにお招きしてたんだよ。そこで前島さんが奈津美さんに一目惚れしてね。あの時の前島さんは面白かったよ」

 春那さんは、当時の事を思い出したのか愉快そうに笑う。


「前島さんと奈津美さんは二年前くらいだよね? 私来た時もう付き合ってたし」

「ああ、そうだよ」

 美咲の質問に、赤々とした炭を火掻きでならしながら答える春那。

 コンロから炭が弾けたのか、パチパチと音がした。


「きゃー! 春那ちゃん、美咲ちゃん。ご無沙汰~。元気してたー」

 明るい感じの声をかけてきたのは、こっちに走ってきた裕美さんだった。

「ご無沙汰してます。裕美さん」と春那さん。

「裕美さん、ご無沙汰です」と美咲。

 裕美さんはにっこりと笑うと俺に視線を向けてくる。

「あなたが明人君ね? 父から聞いてるわ。高槻裕美です。今日はよろしくね」

 性格も明るそうで、高槻さんの娘らしい屈託のない笑顔で挨拶してきた。


 話しかけてきた裕美さんは、背の丈は美咲とほぼ変わらない。

 目鼻立ちはすっきりとしていて、可愛いというより綺麗な部類か。

 見た感じ二十代半ばといった感じだ。

 ボブヘアーがよく似合っていて、可愛らしさと元気さが伝わってくる。


「初めまして、木崎明人です。今日はよろしくお願いします」

「ふむふむ。わりかしいい男じゃない。立花さんには負けるけど」

 いや、あなた、自分の彼氏好き過ぎるでしょ。

 褒められてる気がしないぞ。


「裕美! あんた何、逃げてんねん! 自分の荷物くらい持ち!」

 唐突に後ろから関西弁で怒鳴ってきたのは奈津美さんだった。

 怒っている本人には悪いが、全く迫力がない。

 裕美さんより一回り小さいせいか、プルプルと震えている姿が小型犬を連想させる。

 

 奈津美さんのボブヘアーが、裕美さんよりもふわふわした感じのせいだろうか。

 裕美さんと比べると奈津美さんは可愛い系だな。

 随分と背も低いけれど、綾乃より少し低目な感じがした。


「あ、ごめん、ごめん。前島さんと立花さんいるから、いいかなーって」

「あんた、彼氏に甘えすぎやで。大事にせな振られるで? はい、あんたの」

 奈津美さんはそう言って、裕美さんの鞄を手渡す。


 奈津美さんは俺達に視線を移すと、笑顔に変えて挨拶してくる。


「おーす! 久しぶりー、春那、美咲、元気してた?」

「お久しぶりです。相変わらずですね」と春那。

「うきゃー、奈津美さん久しぶりー」と言って抱きつく美咲。

 奈津美さんの小柄な身体に覆いかぶさるように抱きつく美咲だが、奈津美さんはびくともせずに美咲を支え、美咲の頭を撫でる。

「えと、君が明人君やな? うち、加茂川奈津美。今日はよろしく!」

 美咲に抱きつかれて頬ずりされてるのも構わず、俺に挨拶を送る奈津美さん。

 美咲の扱いに随分と慣れている様子。

 美咲の懐き様が気になるところだが、快活な感じがする人だ。


「初めまして、木崎明人です。今日はよろしくお願いします」

「うむ! 見た感じええ感じの子やね。うちのことは下の名前で呼び」

 ニカッと笑う。なんか感じが気持ちのいい人だ。


「奈津美さん、去年みたいにお手伝い来て下さいよ」

 美咲が頬ずりしたまま言う。


「あれは臨時やったからな。社長から言われて派遣されただけやし」

 そう返す奈津美だが、二人の会話が何のことかわからない。


 春那さんが奈津美さんの事を教えてくれた。

 普段の奈津美さんはオーナーの経営する会社の社員だそうで、マネジメント部に所属しているそうだ。

 店長の事情で長期不在になったときに、オーナーからの指示で一ヶ月間だけ店長代理を務めたらしい。

 店長代理の期間で随分と美咲は懐いてしまったそうだ。


「たった一ヶ月だったけど、美咲は相当影響受けたよ……」

 春那さんが当時の事を思い出したのか、美咲さんを見てしみじみ呟く。


「裕美さん、奈津美さん! お久しぶりです! ほら愛、ご挨拶!」

 俺達が話しているのに気付いたアリカが、愛を連れて走りよって来る。

 奈津美さんたちの前に来て、二人揃って挨拶を交わす。


「なんや、今日は挨拶のオンパレードやな。元気やった?」と、奈津美さん。

「この子がアリカちゃんの妹さん? 可愛いねー」と、裕美さん

 言われた愛は恐縮した様子で顔を赤くした。


 その愛は性懲りもなく、姉にばれないように、じわじわと俺の方に寄ってこようとしている。

 傍から見ていて「だるまさんがころんだ」を思い出した。

 その行動に不自然さを感じたのか、奈津美さんが俺に聞いてくる。


「ん、なんや? その子、明人君のコレか?」

 と、愛を見て小指を立てる。


「「「違います!」」」


 声が三つ重なる。

 一つは俺、もう一つは美咲、最後の一つはアリカだった。

 その声に裕美さん、奈津美さん、春那さんは、目を一瞬丸くしていたが、そのままニヤニヤしはじめた。


 愛は愛で「コレか?」といわれた瞬間、目をキラキラさせ、否定された途端、この世の終わりみたいな顔をしていた。

 色々と忙しい子だ。


「春那……こんな面白い事、うちらに報告無いってどういうことやねん?」

 奈津美さんは美咲を身体から離して、春那さんをツンツンと突く。

「ああ、すいません。つい楽しみを独り占めしたくて」

「……そうね。ちょっと後で世間話でもしましょうか」

 裕美さんの一言に三人は視線を合わせると、三人はうんうんと頷きあう。


 ドラマの悪役三人衆みたいに見えるのは気のせいだろうか。


 お読みいただきましてありがとうございます。

 次回もよろしくお願いします。

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