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帰路  作者: まるだまる
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45 歓迎親睦会編5

 春那さんが裏屋に行ってからすぐに、本日第一号の客が来店する。

 けれどお目当てのものが無かったのか、しばらく店内をうろついて何も買わずに出て行ってしまった。

 今日、売り上げ無いけどいいのか?



「そろそろ、家を出た頃かなー」

 店の時計を見ながらアリカが呟く。


「あ? ああ、妹か。気になるなら電話してみろよ。携帯は?」

「ちょっと取ってくるわ」


 アリカはぴょんと椅子から立ち上がり裏屋に向かう。

 俺も太一がいつごろ来るか確認するために自分の携帯を取りに行く。

 俺が更衣室から出ると、ちょうどアリカも戻ってきていた。


「メール着てたわ。今から出るって」

「足は?」

「バスかな。帰りはパパが迎えに来てくれるから。今日はママとデート行ってるし」

「アリカちゃんのご両親、今でもデートするんだ」

 美咲が少し驚き気味に聞く。


「うちの親、子供の前でもラブラブっていうか。外で一緒にいると恥ずかしいくらいなんです」

「えー、いい事じゃない。年をとってもラブラブなんて」


 俺は両親のそういう姿を見た事がない。

 そもそも、両親自体があまり会話をしないから、家族が全員揃っても家の中は静かだ。

 今思えば、父親が家にいても、何か他人行儀な感じがいつもしていた。

 母親が父親に対して敬語で話しているのが、そう思う原因かもしれない。

 うちの両親は見合い結婚だったと聞いたことがあるが、それも関係しているのだろうか。

 俺が幼い時に父親が「お前に兄弟がいればな」と呟いた事があった。

 その時は何も考えてなかったが、あれはどういう意味だったんだろう。

 今となっては聞くこともできない。


 父親は単身赴任先から家に帰ってきても、俺の姿を見て何一つ声をかけてこない。

 そこに俺がいないかのように家で過ごし、知らないうちにまた赴任先へと戻る。

 それが俺が高校に入ってから見る父親の姿だった。

 これはもう家族じゃない。俺の中で結論づけてしまっていた。


 太一の家で感じたあの温かい空気こそが、俺の求める家族像だった。


「明人? どうしたの? なんか難しい顔してる」

 怪訝そうな顔をして、アリカが俺の顔を覗き込んでいた。

「あ、悪い。考え事してた」

「え? うちの親がラブラブって話、嫌だった?」

 アリカが俺の表情を見ながら不安げな顔をしている。

 何かまずい事を言ったかと思ったのだろう。

 アリカのせいじゃないから、そんな顔するなよ。


「考えたのはアリカの話じゃないよ。両親がラブラブってのは、俺もいいことだと思うぞ。うちの両親にも見習わせたいくらいだ」

 俺が言うとアリカは少しほっとしたような顔をしたが、そんなに難しそうな顔をしていたのだろうか。

 俺はちらりと美咲の方に視線を向ける。

 美咲も何かいいたげな顔をしていたが、口を開く事はなかった。


「親父がさ、単身赴任中なんだけど。そういや、帰ってこないなって思っただけだよ」

 俺はとっさに嘘じゃない事実だけを伝える。

「あんたのお父さん忙しいのね」

「みたいだな。あー、そうだ。携帯持ってきてるなら、ついでにアド交換しようぜ」

 このまま家族の話をしていて、ボロが出る事を恐れた俺は別の話を振った。

「え? な、なんで?」

 アリカの肌が段々と赤みを帯びていく。

 照れるような事じゃないだろ。


「いや、お前も表屋で働くだろ。連絡取りたい時あったら困るし。ほれ送るぞ」

 俺はポチポチと携帯を操作して、赤外線の準備をする。

「あ、う、うん」

 アリカもポチポチと携帯を操作して俺に向けてきたので送信する。

『ピロリン』と音が鳴り、アリカの携帯に俺のアドレスが受信されたようだ。


「うん、登録した。次、あたしの送る」

 受信操作をすると『ボウーン』と変な音が鳴り、アリカのアドレスを受信した。

 毎回思うけど、このデフォルト音やっぱ、おかしい。作った会社の意図がわからん。


「まあ、あんまり使う事ないだろうけど。何かあったとき用だ」

「わ、わかってると思うけど。いたずらしたり、別の人に教えたりしないでよ」

「それはこっちの台詞だ」

 

 店の時計を見ると、まもなく四時。


「アリカ、今日は妹と一緒に帰るのか?」

「うん。あたしも今日はバスで来たから」

「家遠いのか?」

「あたし? あたし清和西警察署の近くだよ」

 清和西警察署――それって俺がバイトしてたファミレスの近くだ。


「え、んじゃ、そんなに遠くないね。何でバイク?」

 美咲も気になったのか横から聞いてくる。

「前から乗りたかったんですよ。パパもバイク持ってるし。その影響ですね」

「アリカがバイクに乗ってるの見てさ、俺も乗りたくなったよ」

「あたしは普通二輪で免許とったけど、原付なら一日で取れるよ」

 このちっこい身体で普通二輪の免許を取るのは大変だったと思う。


 免許を取ったという事は、アリカはあの教習所に通ったのだろうか。

「教習所行って取ったのか?」

「うん。去年の夏休み前から通って、夏休みの前半で取れたよ。合宿っていう手もあったけど、それはパパが駄目だっていうから」

 アリカがパパとかママって言うのは、何度聞いてもしっくり来る。


「俺、今日午前中に教習所に行ってたんだよ。入校手続き聞いただけだけど」

「え、明人君、免許取りに行く事にしたの?」

 美咲が驚いたように聞いてくる。

「昨日帰りがけに言ったでしょ。どんなもんかなって思って、今日聞いてきました」

 俺がそういうと美咲の顔がまたにやけだしていた。

 おいおい、何思い出してんだ。病気出てるぞ。


「バイクいいよー。パパが高校のうちは原付で我慢しろっていうから、そうしてるけど。卒業したらバイト代貯めといて、大きいの買うの」

 少し残念そうに言うアリカだが、親の言うことをちゃんと聞いてるのは偉いと思う。

「俺も夏休み目標に通おうかな」

「そうね。夏休みだったら、免許取りに行くのに学校休まなくてもいいし」

 アリカはバイク仲間が増える事が嬉しいのか微笑む。

「二人乗りとかできるから大きいのがいいんだよなー」

「あ、明人。あのね、二人乗りは免許取ってから一年経たないと違反になるよ」

 俺の言葉を聞いて、アリカは言いにくそうに言ってきた。

「え、そうなの? 俺てっきり、すぐ乗せてもいいものだと思ってた」

「あたしも教習所でそれ知ってがっくり来た」

「んじゃ、……夏に免許とっても来年の夏まで乗せられないのか」

「うん、そういうこと」

「でも、取らないといつまでも乗せられないから。取る方向で考える」

 俺はそう言ってちらりと美咲の方を見ると、うんうんと頷いていた。

 

 ……頷くのはいいんだけど、顔をぐにぐにしながら頷くのやめようね?



 お読みいただきましてありがとうございます。

 次回もよろしくお願いします。

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