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帰路  作者: まるだまる
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43 歓迎親睦会編3

 客の来ない店で、他愛も無い話を続けていると、裏屋からの扉が開く。

 エプロン姿のアリカが現れた。

 エプロンを着けているところをみると、表屋で勤務するよう言われてきたのだろう。


「あら、アリカちゃん。こっちのお手伝い?」

「もうすぐ裏屋の方は準備にかかるから、表屋に行ってろって言われました」

 アリカはにっこりと美咲に答える。


「準備って……まだ、早いよな?」

「高槻さんバーベキュー好きだから辛抱できないみたい。店長も乗り気だし」

 ……それでいいのか、店長。


「そういや、アリカの妹も来るんだって?」

「そうそう。妹が前からここを見たいって、言ってたのよ」

 俺は空いている椅子を俺と美咲の間に置き、ここに座れと指で示す。

 アリカは頷いて、カウンターの中に入ってきて椅子に座る。


「それで、誘ったのか」

「うん、そういうこと。明人と同じ清高だよ」

「え、明人君と一緒の高校なの?」


 美咲は俺に知っているかと問うような顔を向けてきたが、俺は顔を横に振る。

 学校にいる女子の顔をそんなに知ってるわけもなく。

 アリカに似た女の子なんて見たこともない。

 アリカのように小さければ、視界に入らなかっただけかもしれないけれど。


「そうなんです。清高に今年入ったばっかりですよ」

「一年生か。妹はアリカに似てるのか?」

「妹はあたしと全然似てないよ。それにあたしより背が高いし……」

 こらこら、人生の敗北者みたいな顔してんじゃねえよ。

 コメントに困るじゃないか。


「アリカちゃんの妹さん、名前なんていうの?」

「愛っていうんですよ」

 苗字が愛里なのに愛って名前か。

 逆から読んでも愛里愛だな。

「親はどうせ苗字は変わるから、気にしなかったって言ってましたね」

 いや、そこは気にしようよ。結婚しなかったらそのままだぞ。


「なんか名前に思い入れでもあったのかな? それとも字画がいいとか?」

「愛は愛情に包まれますようにって、親は言ってましたね」

 アリカはさっきから敬語とタメ口を使い分けている。器用な奴だ。

「アリカは、自分の名前の由来聞いたことあるのか?」

「んー。美しくて好ましい人になるようにってママが言ってた。名前に使うとそういう意味にもなるらしいの」

 自分のことを美化しているようで恥ずかしいのか、誤魔化すように聞いてくる。


「そういう明人は?」

「俺は、周りを照らす明るい人になれますようにって聞いたな」

「へー、なんかあんたの髪の未来を象徴してそうね。美咲さんは?」

 おい、俺の髪の未来をそっち方面に固めないでくれ。親父だって薄く無いぞ。

 もしかして、俺が気付いてないだけで薄いのか? 薄いのか?

 大事な事なので二回聞きたくなってしまった。


「私が産まれた病院の桜が綺麗に咲いてたんだって、それにちなんでお父さんが名づけたらしいよ」

 なんか美咲にしっくりくる。お父さんグッジョブだ。

「桜ってことは、美咲さんも四月生まれですか?」


「「も?」」


 俺と美咲の声が重なる。

「あたしも四月なんですよ。誕生日、四月十日なんです」

「うわっ⁉」

「まじか⁉」

 美咲と俺はそれぞれに驚嘆の声を上げる。


「うわー、明人君これ凄くない?」

 アリカの話を聞いて、美咲は少し興奮したように言う。

「ですね。偶然とはいえ、これは凄い」

 アリカは俺達が驚いてるのを不思議そうに眺めている。

「え、なんで? なにが凄いの?」

「私の誕生日、四月十二日」

「俺の誕生日、四月八日。しかも今、誕生日順に並んで座ってる」

「あ、ほんとだ!」

 アリカじゃなくて美咲が言った。

「えー、みんな誕生日近いんだ!」

 少し興奮気味に言うアリカ。

 確かに誕生日が近いのは、奇遇といえば奇遇で、できすぎと言えばできすぎだ。


「星座占いとかも一緒だね。あ、明人君は男だから、ちょこっと違うかな」

「星座占いも男女の違いはあるでしょー。美咲さんとあたしは一緒ですね」

 女の子はオカルトめいたものにはしゃぎやすい傾向にあるのか、美咲とアリカは俺を置き去りにきゃっきゃうふふと盛り上がっている。

 女子会のノリ止めてください。ボッチは嫌です。


「星座だけの占いだと大雑把過ぎだろ」

 ボッチになるのは嫌なので話に食い込んでいく。

「んー、そうだね。あとは血液型とか、あとなんだっけ、ほら、白色彗星みたいなの」

 美咲はどこの宇宙帝国の話をしてるんだ?

 しかも相当古いぞ、それ。

 占いの話だから、似たような言葉なのだろうけれど、俺には正解が分からない。


「…………それ一白水星じゃ?」 

 アリカが悩んだ様子で答えを引っ張ってくると、美咲はポンと手を叩いた。

「あ、それだ!」

「全然違うし……彗星関係ないじゃないですか。ヘールボップ彗星とか思い出したわ」

「彗星ってのは合ってるじゃない!」

 開き直って胸を張る美咲。それなんか無理があると思う。

「美咲さん。水星って水の星って書くんですよ?」

 アリカがぼそっと美咲に突っ込むと、「え?」と目を丸くする美咲。

 どうやら美咲の脳内変換では水星じゃなく彗星のままだったらしい。

「そ、それくらいわかってるよ? やだなあ、アリカちゃんたら、ははは……」

 誤魔化すように視線を逸らす美咲。

 明らかに勘違いしていただろ。誤魔化そうとしても無駄だぞ。


「明人君とアリカちゃん、血液型なに?」

 話を元に戻そうとする美咲。いじめてもしょうがないので答えておく。

「俺はA型です」

「あー、明人君が言う前からA型だってわかっちゃった」 

 アリカもうんうんと頷いた。何それ、俺そんなにA型の性格してる?

「んじゃ、アリカのはわかる?」

 俺が聞くと、顎に手をやり少し考え、

「アリカちゃんはAB型だと思う!」


 アリカを指差して言う。人を指差すのは止めなさい。

「正解、あたしAB型です」

 片手を挙げて答えるアリカ。アリカはB型だと思ったのに外れたか。

「あら、みんな違うのね。私O型だもん」

 美咲がO型と言われると、なんかしっくりときてしまった。

「あー、何となくそんな感じですね」とアリカ。

 ……アリカは絶対大雑把なO型ってところを考えたはずだ。

 アリカの顔がちょっと引きつってるのがいい証拠だな。


「うーん。でも血液型の性格って、なんか微妙なんだよなー」

「まあ、四つにしか大別してないからね」

 頷いて言うアリカ。

「でも、男女の違いもあるから、それなりに信憑性はあるんじゃない?」

 血液型性格判断の信者なのだろうか、美咲は食い下がる。

「明人みたいに型にはまってたら、信憑性は高いと思うんですけどね。あたしはB型に間違えられることが多いもの。美咲さん、あたしがAB型って、よくわかったね」

「勘よ!」

 おい、根拠なさすぎだろ。それ、当てずっぽうって言うぞ。

 だから、そういう時にドヤ顔しなくていいから。

「相性いいのは何と何かな?」

 アリカは顎に手をやり顔を傾げてうーんと考えている。

「俺、相性とか全然知らない」

「あれって見るもので違う気がするけど。よくA型とB型は合わないって言うよね」

 美咲はA型の俺がいるからか、俺の顔をちらりと見て言う。

「太一がB型だけど、そういうの無い気がする」

 俺がそういうと美咲は「信憑性薄くなったー」と悲しそうな顔をした。

「思い込みってのもあるんじゃない? A型だからこう、みたいな」

 アリカは自分のツインテールの片方をクルクルと指に巻きながら言う。

 俺がアリカの指を見ていることに気付いたのか、髪を指から解く。

 べ、別に俺も指に巻いてみたいなって思ったわけじゃないからな。

「それはわかる気がする。無意識にそうしてる場合もあるかもな」

 

 そもそも血液型にしても、星座にしても性格診断自体がどうかと思う。

 血液型に関しては、アリカがいうように四つにしか大別されない。

 星座を加味しても、四型×十二星座と数は増える。

 しかし、生年月日と血液型が同じであれば、同じ性格をしているのかという話になれば同意できない。

 やはり、性格というものは、個人が生まれ持った性格と、その後の生活環境なのではないだろうか。

 同じ家庭環境下の兄弟でも性格が違う事を考えれば、理屈は間違いではないと思う。


 親に完全に依存する赤ん坊の時期。

 幼稚園や保育園で、初めて家族以外の他人と接する時期。

 小学生、中学生、成長するに連れて自分の置かれている環境を認識し、限界があることに気付き始める時期。

 これら個人を取り巻く環境が、性格に影響を及ぼし形成されていくのではないだろうか。

 常に誰かに頼られてきた人ならば、逆に甘える事ができない性格になってしまうかもしれない。

 積極的に生きてきた人間からみると、消極的な人間はイラつく対象になるかもしれない。

 イラついた時に弱者を攻撃する人もいれば、我慢できる人もいる。

 寛容的でいられるのは、性格によって許容される範囲が広いか、狭いかで決められる。

 そんな事を考えていると、人間は誰一人として同じ性格などありえないような気がする。


「あ、明人君、またなんか考えてる!」

 不意に美咲から指摘されて我に返る。   

「あ、性格のこと考えてた」

「明人君、たまに深く考え込んじゃうよね」

 家族と折り合いが悪くなってからの癖だが、これも環境が影響したのだと思う。


「その割には自分を持っていないようだけど?」

 アリカがちくりと嫌味を言う。痛いところ突くんじゃねえよ。

「お前に言われてから結構悩んでるんだぞ」

「あら、それはいい事じゃない。自分を見つめなおすって大事よ」

 アリカはふふんと鼻をならす。くそ、勝ち誇った顔しやがって。


 ――不意にアリカの視線が俺の後方に向けられる。 


「あれ、今の車――高槻さんのだ。買出しに出たのかしら?」

 俺越しに外を走っていた車が見えたのか、アリカは目を細めていた。 

「今日は客も来ないし、俺も準備の方に回りたいな」

「まあまあ、客が来ないのはいつもの事だし。明人君は主賓だから、今日は駄目よ」

 美咲……いつもの事って言ったら駄目だろ。

「ずっと話してるのもなんだから、店内の棚整理でもしますか」

「おー、明人君。ホントに真面目だねー。さすがA型だ」

 いや、血液型関係ないから。

 一応雇われてるんだから仕事しようよ。

 お読みいただきましてありがとうございます。

 次回もよろしくお願いします。

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