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帰路  作者: まるだまる
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42 歓迎親睦会編2

 開店前のてんやわん屋にたどり着いた。

 美咲の姿が見えないけれど、俺の方が先に着いたようだ。

 

 更衣室で身支度を整えてレジへ向かうと、裏の扉から美咲が入ってきた。

 まだ来ていないと思ってたけど、裏屋に行ってたのか。


「あ……明人君来てたんだ。やほほ」


 俺の顔を見て右手を挙げて挨拶。

 昨日の電話の事があったので美咲の表情が気になったけれど、いつもと変わらない様子。

 美咲自身は気にしていないようだ。


「こんちわ。今ちょうど来たばっかりですよ」

「それじゃあ、開店準備しよっかー」

 二人で手分けして開店準備に取り掛かる。

 看板を表に出したり、各所の電気を点けるのに、時間と手間がかかることなく終わる。


 開店の時間になり、二人してレジカウンターで椅子に座りお客を待つ。

 横に座った美咲の顔をちらりと見る。

 美咲はニコニコとしていて、機嫌は上々のようだ。

 俺が見ていることに気付き、「ん?」と俺を見る。


「明人君どしたの?」

 少しからかってみようかな……。


「美咲さん、ちょっと耳貸して」

 こちらを向いた美咲に近付き、耳元で囁く。


「美咲、昨日、春那さんに何言われたの?」

 不意に美咲と呼び捨てで呼ばれ、まるで蒸気を吹き上げるように一瞬で美咲の顔全体が赤く染まる。

 まあ、想像通りだったけれど。


「うにゃあああああああああ! 明人君ソレ反則だああああああ!」

 耳たぶまで真っ赤にして、悶えながら涙目で俺を指差す。


「たまには俺からもいじらないと。てか、マジで何言われたの?」

「う、……な、内緒!」

 美咲は口の前に小さく指でバツを作って、何を言われたか教えてくれなかった。

 教えてくれないと、余計気になるじゃないか。

 バーベキューの時にでも、春那さんに聞いてみよう。

 

「春ちゃんに聞こうとしても、駄目だからね!」

 くそ、ばれてる。相変わらず察知が早い。 

「はいはい、わかりました。もう聞きませんよ」


 美咲は荒れた息を整えると、ちょこんと椅子に座る。

 表情も段々落ち着いてきているようだ。

 落ち着いた美咲はいつものように話しかけてくる。


「ねえ、明人君。今日のバーベキュー楽しみだね」

「そうですねー。 俺、バーベキューすごく久しぶりですよ」

「前はいつだったの?」

 首を傾げながら顔を覗き込むように聞いてくる。


「俺が中学の頃ですね。親父が単身赴任ばっかなんで、機会が無かったんです」


 中学までの頃はまだ家族って感じで過ごしていた。

 反抗期らしい反抗期など俺自身も感じることなく、いい親子関係を築けていたと思う。

 今となっては、家族というコミュニティがいかに脆く、不安定な存在である事を俺は知ってしまったけれど。 


 俺の心中など知らない美咲は溢れんばかりの笑顔を向けてくる。


「あら、それじゃあ今日は楽しまないとね」

「そうですね」

「はっ! べ、別に明人君とご飯食べられるからって嬉しくなんかないんだからね!」

 美咲は思いついたが吉日とばかりにツンデレキャラを演じる。


「……そのキャラはもういいです」

「明人君が冷たい……。なに? 逆にツンデレなの? それもいいって思っちゃう私は何? M?」


 俺の冷たい目線と言葉に、がくりとうなだれる美咲は明らかに俺に聞こえる声でぶつぶつと呟いている。

 相手にすると疲れるので、聞こえない振りをした。

 こういう場合は別の話をするに限る。


「そういえばですよ。バーベキューに太一のお母さんと妹が来ることになったんですよ」

「え、太一君もそうなの? それだと今回は前回より人が多いわね」

「太一もって?」

「アリカちゃんも妹さんを連れてくるって、昨日言ってた」

 アリカに妹がいたのか。見た目は幼いけれど、確かにお姉ちゃんってキャラもある。

 あの偉そうな態度はそうやって培われたのかもしれない。 


「へー。他の人たちも呼んでるんですかね?」

「私は呼んでないけど。高槻さんは奥さんと娘さんが来るよ」

 美咲は答えながら、来るであろう人数を指で数えている。


「前島さんと立花さんはまだ独身ですよね」

「あ、でも、二人とも彼女いるし。それに――あ、数わかんなくなった」   

 いや、数わからなくなったって、まだそれほど数多くないだろ。


「店長のご家族はくるんでしょうか?」


 店長が家族と別居している話を聞いてから、気になっていたことだった。

 美咲の話では、前のバーベキューの時には仲睦まじそうにしていたらしい。

 夫婦生活が完全に破綻しているわけではなさそうだ。


 何か事情があるようだが、店長に直接聞く勇気が無い。

 店長にはこういう機会を利用して、家族と交流を深めて欲しいと切に願う。

 俺が取り戻せないものを他の人には無いようにと俺の願望なのかもしれない。


「あ、それも昨日聞いたよ。奥さんと娘さん来れるんだって。店長嬉しそうだった」


 その話を聞いて心からほっとする。


「ホント、よかったです」 

「今日は初めて会う人が多そうだから。ちょっと緊張しちゃうな」

 手を胸に当てて呟く美咲。


「らしくないですね」

「やっぱり初めて会うのは緊張するよー。明人君の時だって緊張してたもん」


 美咲は俺の言葉に少しムッとして口を尖らせながら言う。


「初めてのときは緊張するってのは、わかるんですけど」

「けど、なーに?」

 俺の顔を覗き込みながら続きを聞いてくる。


「俺との時、全く緊張してるように見えませんでしたよ」 

「ふっふっふ、そこはホレ、私の演技力で」

 右手を胸に当て、左手は空を仰ぐようなポーズで答える美咲。

 ポーズ決めてドヤ顔するの止めてください。


「うわー、大根くせー」

「えー、明人君それは失礼じゃないかな?」


 お読みいただきましてありがとうございます。

 次回もよろしくお願いします。

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