404 文化祭13
愛と響、そして俺が準備にかかる。
それぞれ具材の切り分け、手間がかかりそうなものは愛が処理し、簡単なものは俺と響が用意。
美咲は太一らに協力を仰いで、テーブルやコンロ、食器などを用意。
出汁を入れた大鍋を沸かす間に、文さん用の小鍋も準備。
具材を投入し、灰汁を取りつつ、粗方の用意は終わり。
炊飯器の炊きあがり時間もあと五分を指しており、ほぼ準備は整った。
愛と響がそれぞれの大鍋を見回り、灰汁取りがてら、具材の様子見。
愛が手でOKサインを作ったので、文さんに声をかけ来てもらう。
「やあやあ、どうもありがとう。具材はいっぱい買っておいたから遠慮せずに食べなさい」
文さんはキッチンのテーブルに座り、小鍋を拝む。
小鍋の横に熱燗が置いてあったので、満足そうな顔を浮かべる。
愛は家でもお父さんのお酒を用意しているから、酒飲みに対する気配りはバッチリだ。
「愛ちゃんは気が利く子だねえ。いつでも嫁に来れるね」
それ、文さんも一緒に住んでいる前提じゃないですよね?
それはともかく、全員配置よし。
「それでは、いただきます」
文さんの発したあと、それぞれ「いただきます」と口にし、アリカ、柳瀬、俺、太一がガツガツと食べていき、あとはマイペースに舌鼓を打ち、和気藹々とした雰囲気の中、晩餐が始まった。
ちょこちょこと具材を足しに移動する愛と響。
愛は文さんの酒とかにも気を配っていて、確かにお嫁さん向きだと思う。
「ポン酢もいいけど、胡麻だれもいいなあ」
二種類のタレでそれぞれの味を楽しんでいるのはアリカ。
家だとポン酢らしく、好みや気分で柚子を入れるそうだ。
「うちは、春那さんが胡麻だれ派なんだよ。俺と文さんはポン酢派」
「昼も春那さんだけ違ってない?」
「え、何の話それ?」
昼のらっきょうと福神漬の話を知らないアリカが興味を持ったので話を聞かせる。
「へぇ、春那さんもこだわりあるのねー。意外だわ」
「美咲はこだわりないから、どっちでも食べるぞ」
「それはそれで美咲さんらしい」
賑やかな食事は続き。いよいよ具材がなくなってきた。
「そろそろ、しめですかね。おうどん、麺、雑炊。しめにするならどれがいいですか?」
愛の言葉に全員がピタッと箸を止める。
俺は雑炊一択だ。
「「「うどん!」」」
川上、響、長谷川がうどんを希望。
「「麺」」
太一、アリカ、柳瀬が麺を希望。
俺と同じく「雑炊」と言ったのは美咲だけ。
これは予測できていた。
美咲は麺類よりもご飯が食べたい人なのだ。
美咲の実家が、パスタ料理を経営しているせいで麺類に飽きている。
無言の睨み合いが数秒続き――
「じゃあ席替えしましょう。春那さんが良い物を置いててくれたので」
愛の手により、鍋の中に仕切りが入れられた。
こうすれば確かに締めを分断できるので、邪魔しない。
「こういう仕切りができる商品があるのは知ってましたけど、初めて使いました」
愛がうちにも欲しいなあと言いながら絶賛。
知らない間にこんなものを用意できる春那さんは神だった。
☆
満腹である。満足である。
太一も俺と同様のようだ。
川上、長谷川、美咲は、食べすぎたと言って、お腹周りを気にしている。
アリカと柳瀬は、体重は増えるが太らない体質だし、どうせ数日で戻ると気にしていない。
愛と響は、普段からコントロールしているので、そこまで問題ないらしい。
アリカと柳瀬の考えは危険な気がする。油断しすぎだろ。
美咲と響はほぼ同じ身長。
次いで愛、長谷川、川上が僅かばかりの差で続く。
柳瀬はアリカより大きいが、学校のメンバーの中では一番小さい。
女子の食事量の差は何なのか。
アリカも小さい割に大量に食う。
柳瀬も身体は小さめなのに男並みに食べる。
小柄だと大量に食う仕組みでもあるのか?
不思議だ。
食事の片付けを終えたあと、ちょっと長めの休憩タイム。
川上と柳瀬に捕まっているアリカだが、楽しそうなので放置。
響と愛は、俺の横の奪い合いで徒手格闘を始めてしまったので放置。
長谷川と太一は、テレビ番組を見ているので、これまた放置。
そして俺はというと――美咲に捕まっていた。
体が空いたので、今のうちにと女子たちの寝床部屋で布団を敷いていると、美咲が入ってきた。手伝いかなと思っていると、俺の背中に抱きついてくる。
「後で相手するって言った」
「言ってない」
「目で言った」
どうやら我慢できなくなったらしい。
「ハグとよしよしを要望する」
「はいはい」
ここで美咲を相手に粘るのは愚策。
俺も経験を積んでいる。
美咲と正面から向かい合い、両手を広げてウエルカム状態で待つ。
美咲はすっぽりと俺の手の中へと入ると、身体に抱きつく。
俺は毎朝美咲にしているように、片手で腰を抱いて、頭をよしよしと撫でる。
美咲は頭をグリグリと俺の胸に押し当てている。
いつもグリグリするけど、何なんだろうか?
美咲が、俺の身体をギュッと抱きしめ、ふっと力を抜く。
美咲が満足した証だ。
美咲が俺の身体から離れると、いきなりストマッククローをしてきた。
「愛ちゃんと響ちゃんに囲まれてデレデレしてたでしょ」
いきなり黒美咲を降臨させるの止めてもらっていいですか?
不意打ちは、まだ反応しきれないんだよ、俺。
☆
いや、ひどい目に会った。
美咲は、どこでストマッククローなんて覚えたんだ。
「おかえり。美咲さんは?」
いたわ――アリカ、お前だわ。
てんやわん屋でバイトしてるときに、美咲の目の前で俺相手に何度か披露したよな。
どうしてくれるんだ、美咲のやつ覚えちまったじゃねえか。
いや、アリカは悪くない。
覚えた美咲が悪い。
「美咲は風呂の用意してる。人数も多いから順番に入ってってもらうぞ」
「複数で入ればいいんじゃない。ここ広いから一緒でも構わない人ならだけど」
「香ちゃん、久しぶりに一緒に入る?」
うちの風呂だと、十分に広さはあるので、二人くらいいけるか。
「誰とでも構わんが任せる」
女子たちが集まり、ああでもない、こうでもないと、静かな論議が始まる。
俺の予想だと、川上と柳瀬、アリカと愛が濃厚。
残りの響と長谷川がペアというのは、あまり組み合わせ的にない気がする。
そうなると響と長谷川は、一人で入るかも知れない。
結果――
「よろしく」
「ちょっとまって、なんで柳瀬さん?」
「愛里姉さんと裸の付き合い。いぇーい」
「お笑いコンビみたいな言い方止めて?」
どういう話し合いが行われたか、詳細は不明だがアリカと柳瀬、長谷川と川上、響と愛のペアで入ることになったらしい。俺も太一と一緒に入ったほうがいいのか?
☆
風呂の順番待ちの間、待ち組は勉強を再開。
何かをやっていると時間が経つのも早い
一番手のアリカと柳瀬が帰ってきた。
入れ替わりで二番手の長谷川と川上が風呂へ向かう。
意外と入浴は楽しかったようで、アリカと柳瀬が仲良くなっていた。
「香ちゃんがこんなにすぐに仲良くなるなんて珍しい」
「だって、この子話聞かないんだもん。今までにいないタイプ」
「いぇーい。仲良くなれた」
まあ、柳瀬だし。
うちのメンツで一番カオスな発言するやつだからな。
柳瀬は、絶対に厨二病を患っていたと思う。
残滓の気配がする。
戻ってきたばかりのアリカに、聞きたかった文化祭の話を振ってみる。
「うちのロボ研、あんまり芳しくないというか、お客が少なくて暇だった。実演自体は、ほぼ成功したから満足だけど。良かったことって、一部の企業の人からアドバイスを貰えたくらい。部長と交代で他のところも見て回ったけど、車系はOBも多いから盛況だったわ」
「今回はちゃんと動いたんだね。去年はひっくり返ったまま、もがいてたもんね」
愛がロボットの真似をしながら、もの凄くカクカクとした動きをしている。
「今年のは、ちゃんと自分で復活できるように組んだからね」
「んで、失敗したところは?」
「復活するときに、組んでいないはずのでんぐり返りをしてたのよね。アレはなんでだろうって、部長と二人で首を捻ったわ」
「柳瀬は、愛里姉さんが巨大ロボットに乗って操作するところを見てみたい」
「乗らないから、そんなデカいの作れないから、そんなの作るのに百億で済めば安いかも」
「え、そんなにするの?」
「結構なお値段するのよね。今あたしらが使っているロボットの制作費だけでも、部品から自作した持ち寄り品ばっかだけど、それでも総額10万は余裕で超えてる。もし外注したら100万は余裕でいくね」
「あんな何の役にも立ちそうにない、がらくたが……」
今の愛の発言は流石にひどいと思う。
いいのか? お姉ちゃん珍しく凹んでるぞ?
「ひっくり返って人を笑わせたなら、それはそれで役目を果たしてる。伸びしろありだ」
「……柳瀬さん、ありがと、またがんばる」
意外と相性が良い柳瀬とアリカだった。
柳瀬がアリカに勉強を教わっていると、長谷川と川上が戻って来た。
入れ替わりで愛と響が風呂に向かう。
「いんちょ、胸でかい。ブラ外したらバイーンって効果音付きで出てきたんだけど」
「そうか、いいもの見れたな川上。柳瀬も見たかったぞ」
どうして川上と柳瀬は俺がすぐ近くにいるのにそういう話をするかな。
そういう話は、俺の聞こえないところでしてほしい。
長谷川を見れなくなる。
そのまま、柳瀬と一緒にアリカから勉強を教えてもらう川上。
「おおー!? 分かりやすい」
「愛里姉さんやるね!」
「その呼び方止めて?」
どうやら、アリカと川上、柳瀬は相性がいいようだ。
少しして、玄関口からガチャッと音がする。
春那さんが帰ってきたみたいだ
リビングに入ってきた春那さんは、俺らの顔を一瞥すると、
「ただいま。誰かお風呂に入っているのかい。何かバシバシ叩く音が通路まで聞こえてきたけど」
またやってんのか、あの二人は。
風呂ぐらい大人しく入れんのか。
「なんだ二人ずつ入ってるのか。じゃあ、次は?」
「春那さん先でもいいですよ」
「じゃあ。私と明人君か」
「おかしいでしょ?」
止めましょうよ。帰ってきて早速そういう事言うの。
アリカの背中に黒い雷神が生えてるし、美咲の背中にも黒い風神が生えてるじゃないですか。
アレ、俺にしか見えてないらしくて、アレがいるときの二人はヤバいんですよ。
ほら、左右から掴まれた。
この後、俺は美咲とアリカに拉致られて少しばかり記憶をなくした。
どうやら相当怖かったらしい。
俺が意識を取り戻した頃、ちょうど愛と響が風呂から戻ってきた。
「明人さん聞いてくださいよ。響さんが愛のおっぱい揉んだんですよ」
「愛さんこそ、人のおっぱい持ち上げたでしょ。私やられたらやり返す主義だから」
どうでもいいわ。
「巨乳VS巨乳」
「柳瀬、止めなさい」
川上が常識人で助かるな。
「ボインVSボインの方がいいと思う」
「そっちもあり。やるな川上」
「千葉ちゃんはどっちがありだと思う?」
「どっちの響きも捨てがたい」
常識のある人は俺の仲間にいないらしい。
しばらく論争が続いたが、決着はつかなかった。
次に俺と太一で風呂に行く。
リビングを出るときに柳瀬が「BLの世界が今ここに!?」と叫んでいたがスルーしておく。
美咲が一瞬、ビクッとしたのは伊織さんのせいだろう。
まあ、太一と一緒に入って、何もなかったのだが、やっぱり少し気まずかった。
「春ちゃん久しぶりに一緒に入ろう」
俺達と入れ替わりに、食事を終えたばかりの春那さんが、美咲に手を引かれて連れて行かれる。
みんなが二人で入っていたので、美咲も誰かと一緒に入りたかったのだろう。
美咲が晃と一緒に入るのは、春那さんが絶対阻止していたからな。
俺も、春那さんの隙を見て忍び込もうとした晃をふん縛ったことが何度もある。
美咲を性的な目で見る晃が100%悪い。
交代で風呂に行っている間も、勉強会は続く。
かなり、いい感じに出来上がってきているので、維持したいところだ。
美咲がいない間に、二回目の模擬試験。
全く同じ問題をやってみる。
愛にポカミスが発生したものの、またもや赤点回避は成功。
川上、長谷川、柳瀬も、二度目だけあって余裕で回避成功。
太一がギリギリ赤点を取り、もう少し地力を上げる必要があった。
答え合わせと、間違えたポイントを整理していると、美咲たちが帰ってきた。
「明人君、春ちゃんが凶暴になってる。なんか前より身体に色気が出てるというか。おっぱいとか、腰のクビレとか、お尻もキュッと上がってるのとか、とにかくすっごいの」
どうして君たちは、俺にそういう事を言うのかな?
春那さんも照れて――あ、この人、みんなの前でちょっと辱められて喜んでるわ。
格好良かった頃の春那さんを俺に返してほしい。
美咲たちが出たあとは、風呂上がり女子の肌ケア談義で花が咲く。
女子たちは、かなり真剣な様子で語り合っていた。
そのあと、春那さんによるお肌の手入れ勉強会も開かれた。
大事なことなので、暖かく見守っておく。
0時まで勉強会を続けたが、太一と愛が生きる屍になり、柳瀬が何やら呪いの言葉を吐き始めたのでお開きにすることにした。俺と太一は俺の部屋へ、女子たちは用意した寝床部屋へ移ってもらう。
寝る前に太一と少しばかり長谷川とのことを話ししたが、進展はないようだったので寝ることにした。
途中、女子たちの部屋から何やら歓声が聞こえたが、気にするのは野暮だろう。
☆
早朝、春那さんと日課の運動。
シャワーを軽く浴びたあと、自分の部屋を覗いたが、太一はグースカとまだ眠っている。
時間的にも早いので、まだ寝かせておくことにした。
いつものごとく、美咲の部屋に向かう。
柳瀬達がいるから、美咲は緊張していつものような状態ではないだろう。
前回の時も、普通に起きてきたし。
一応、美咲の部屋をノックしてみるが返事はない。
まさかと思って、ドアをそっと開けてみると、ベッドの上に卵ができていた。
……つまり、柳瀬たちに慣れて、緊張を感じなくなったってことか。
美咲の成長を喜ぶべきなのか、悲しむべきなのか。
今の気持ちを一言で表すのならば――それはそれで面倒くさい!
とりあえず、一旦放置する。後で回収しにこよう。
通路に出たところで、エプロン姿の愛と遭遇。
「明人さん、おはようございます」
「おはよう」
「春那さん、もう朝ごはんの準備していますか?」
「ああ、今作ってると思う。手伝ってくれるのかい?」
「はい、お任せです」
寝る前はだいぶ疲れていたようだったが、回復したらしい。
「あ、こらアリカ。そっち行ったら駄目よ」
響の声がしたので振り向くと、寝ぼけた顔のアリカがドアの前に立っていた。
完全に寝惚けているようで、ゾンビみたいに手を上げて近づいてくる。
「あ゛あ゛あ゛」
おい変な声出すなよ、怖いよアリカ。
「明人君、アリカが変なところに行かないように捕まえておいてね。まだ他の二人を起こしているから」
響がドアから顔を出して言った。
ドアの隙間から、長谷川が川上の身体を揺らして起こそうとしているのが見える。
響の言葉に従い、身体でアリカの行く手を塞ぐ。
アリカは構わず前進してきて、俺の身体にぶつかる。
ずりっ。
マジかよ。力負けして押されるんだけど。
このまま押されるのもまずい。
ふと、いい方法を思いつく。
アリカの足を払うように抱きかかえ、お姫様抱っこする。
こっちの方が多少動かれても安定して抑えておける。
アリカは体重も軽いから、全然苦にならない。
「あ゛あ゛あ゛あ゛」
だから、怖いよ。
赤ん坊みたいにあやしたら大人しくなるかな。
軽くユラユラと揺すってみることにした。
「よしよーし」
「ゔあ……す〜」
即寝した!?
「明人君は何をしているのかしら?」
いつの間にか部屋から出ていた響が両手を上げて、今から手術しますって感じで手刀を用意している。
どうやら選択を間違えたらしい。
「いや、一応聞いてくれ。抑えようとしたんだが力負けして、これのほうが確実だと」
「言っていることは理解したわ。でも駄目。止められない」
「ちょっ、待て。ぐふっ!?」
アリカを抱っこした状態で逃げることもできず、脇腹に手刀がめり込む。
アリカを落としそうになるが、グッと堪える。
「偉いわ明人君。アリカを落とさずによく耐えたわ」
なんか久しぶりにドSな響を見た気がするな。
「でも、やっぱり気に入らないわね」
響はそう言うと、寝ているアリカのおでこを指で弾いた。
「痛っ、な、なになに、何事…………なんで、明人があたしを抱っこしてんの?」
衝撃と痛みで覚醒したアリカが、俺の顔をマジマジと見て言った。
「お前が寝惚けて歩き回ってたからだ」
茹でダコみたいに真っ赤になったアリカが暴れる。
こら、暴れるな。下ろすまで待て。




