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帰路  作者: まるだまる
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3 少年A 3

 金曜日の昼休み。


 いつものように千葉と一緒に学食に行く。昼食がてら面接に行く店の情報を聞いてみるつもりだった。


「木崎、明日の面接は時間とか大丈夫なのか?」


 俺より先に千葉の方から聞いてきた。


「ああ、問題ない。その日もバイトあるけど三時には終わるし」

「そっか。店の方は面接するの夕方以降でも問題ないって言ってくれてるから」

「サンキュ! マジ助かるわ」


 色々と調整してくれた千葉を、両手を合わせて拝む。


「いいって、いいって。しかし木崎よ、お前バイトばっかして楽しいか?」


 少し照れた感じだが、千葉が照れるのを見ても可愛くないのでスルー。


「前に言ったろ? 金がいるんだよ」


 千葉には親との関係があまりよくないので、高校を卒業したら家を出るためにバイトで金を貯めていると、話はしてある。


「そら、わかるけどよ? せっかくの高校生活がもったいなくね?」


 千葉が言いたい事は俺だって分かってる。行きたい所やしてみたい事も沢山ある。

 いわゆる青春とか、恋愛とか、色々な体験をしてみたい。


「……わかってるよ」


 千葉の視線から逃れるように俯きながら答えた。


「おいおーい? 真剣に受け止めんな?」


 千葉はカラカラと笑いながら続けて言う。


「たまには、俺らと遊べって事だ」


 ……本当にコイツはいい奴だ。


「そうだな……明日面接終わったらメール送るわ。どっか行こうぜ?」

「おけおけ。予定も無いし、面接の結果も聞きたいしな」


 千葉は俺に任せろ的な顔で親指を立てる。


「そういや話変わるけど、木崎も浮いた話全然ないよな? まあ、俺もだけど」

「……バイトばっかで、出会いとかきっかけがねーんだよ」


 千葉に不機嫌と分かるように答える。


「バイト先にも女の子くらいいるだろ?」


 俺の不機嫌な声をあっさりとスルーして、ぐいっと顔を近付け『いたら紹介しろ』と言わんばかりだ。バイトは真面目にやらないと駄目だろ。


「あ〜、言わんでも分かるわ。無愛想なお前だもんな。女の子と仲良く会話なんてのないよな。ダメダメ君だな」

「うるせーよ!」


 千葉はいかにも「同志」みたいな顔してニヤニヤしやがって。

 くそ、負けてないけどなにか悔しいぞ。


 千葉の言うようにバイト先には女の子がいる所も確かにあるが、親密な関係には程遠く、必要最小限の挨拶と事務的な対応しかしていない。おそらく相手も俺に興味がないのだろう。


俺自身、恋愛に興味が無いわけではなく、今の生活を思うと積極的になれないだけだ。本やドラマのようにならないのが現実だし、フラグ立てすらしてない俺には、恋愛など月よりも遠い世界の話だ。


「おい、それよりバイト先の情報教えろよ」

「中古屋だって言ったろ?」


 千葉は物足りないような表情を浮かべる。

 女の子のネタでまだまだ俺をいじりたかった様子だ。

 


「それしか情報無いのかよ?」


 情報は沢山あるほうがいいに決まってる。

 通勤距離や周りの立地条件、営業時間とか、簡単に得られる情報はたくさんある。

 雇われたはいいがブラックバイトとかも困るし、潰れそうとかも困る。

 些細なことでも情報は価値があるのだ。


「……俺そこで釣竿買ったわ」


 いやいやいやいや! その情報いらねえよ。しかも、お前情報じゃねえか。世の中には無駄な情報が有ることを思い知らされた。うん、覚えとこう。


「……そうじゃなくてよ。場所とかさ」


 何か言うのも面倒くさい。軽く頭痛がしてくる。


「木崎の家からはちょっと距離あるかな?」

「学校からは?」

「こっからなら、自転車で二、三十分くらいかな?」


 すぐに話をかき回す千葉を相手に昼休みを費やす羽目になったが、千葉が知っている範囲の話は聞けた。頭痛はますます酷くなったけど。


 ☆


 土曜日


 俺はバイト先のファミレスで愛想を振りまきながら、期間限定お奨め商品の紹介をしつつ注文を聞いている。今の姿を千葉が見たら「お前、木崎の偽物だな?」というかもしれない。自分でも分かるくらいに愛想を振りまいているからだ。


ここのバイトは、いつもなら昼から出勤し、休憩をはさんだ後、夜の九時まで勤務だ。


今回は店長から、早朝のパートさんが都合でこれないから、代わりに入ってくれと頼まれたからだ。新しいバイト先の面接も行けるから、こっちとしては都合が良かった。


 お昼のラッシュも抜けて少しばかり緩やかになる。

 時計を見ると、バイトの勤務時間終了が近い。


「木崎君、もう上がっていいよ」


 店長の中村さんから声をかけられた。女だてらにこの店を仕切っている。人当たりもよく頑張り屋さんで好感が持てる人だ。


「はい、上がらせて貰います」

「朝早くからごめんね、次はいつもどおりでいいからね」

「大丈夫です。今日は俺も都合が良かったんで」

「それなら良かった」


 一回りは離れているけれど、ニコッとしながら言う中村さんはとても可愛らしかった。


 更衣室に行き私服に着替え、店長と厨房にいる人たちへ挨拶をしてから店を出る。

 千葉から聞いた中古屋の場所まで、ここからなら自転車でゆっくり行っても三十分くらいで着けるだろう。伝えている時間は四時だから余裕で着くだろう。

 ゆっくりと自転車を漕いで道のりを進めていく。

 お読みいただきましてありがとうございます。

 次回もよろしくお願いします。

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