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帰路  作者: まるだまる
397/406

392 文化祭1

 俺の中では修学旅行が二学期の最大イベントだったんだが、川上と柳瀬は違うらしい。

 奴らにとって文化祭こそが最大のイベントなのだという。


 去年を振り返ってみても、うちの高校の文化祭って大したことやってない気がするんだが?

 各学年に飲食系の出店が二つくらい、あとは体育館でバンドやら演劇、外の空き地でダンス。

 思い出せるのはそれぐらいか。

 去年の俺はバイトを理由に放課後手伝いを避けてたから余計に気まずかったんだよな。

 太一が俺の分まで働いてくれてたのを後で知って謝ったら、友達なんだから当たり前だろと怒られて、太一から次はお前が俺がやばいときに助けろって言われたっけ。あれから俺と太一はずっと親友だ。


 太一との思い出は記憶にしっかりと残っているけれど、そもそもうちのクラスって何をやってたっけ?肝心かなめの文化祭の催し物はクラスイベントとして盛り上がりがあまりなかった気がする。

 

「それは甘いぞ木崎君」

「まだ何も言ってないんだが?」

「ふっ、考えていることくらいお見通しよ」

「まあ、とりあえず。明人が分かるように説明してやれよ」


 話のきっかけは今日のHRで文化祭でクラスが行う催しについて話し合いがあったこと。

 飲食系は各学年から二組までの制限あり。去年はカレーの店が大人気だった。

 定番で言うならお化け屋敷。毎年どこかしらが選ぶようだ。

 まずクラスから第一希望と第二希望を出してもらい教員たちが持ち寄る。

 ある程度、同じものばかりにならないよう教員たちで調整するらしい。


 被っているものがあれば公平にくじ引きし、当たりを引けなかったところはプランを変更して再提出。

 こうして最終的に全クラスの催し物が決まる。


 うちのクラスの第一希望は粉物系の出店。

 お好み焼きとたこ焼きで意見が分かれたが、最終的にたこ焼きを希望することになった。

 第二希望はファッションショー。

 なんだそれと思ったが、中身はコスプレショーだった。

 どうやら修学旅行で俺ら以外にも太秦村でコスプレした奴は多かったらしく、文化祭ネタにいいと思ったようだ。準備が大変すぎるだろ。どうやって衣装用意するんだよ。


 出オチ感満載だ。


「んとね。うちのクラスの出し物はくじ引きで当たればいいけど、いいんちょのくじ運の悪さを考えるとたこ焼きは無理じゃないかなと私は思うわけよ」

「うむ。柳瀬もいいんちょのくじ運の悪さは知っているが、期待すれば期待するほど駄目だ!」

「長谷川くじ運悪いの?」

「……」


 目を合わせろよ。何で目を合わせないんだよ。

 語らずともこの態度で分かるってとこか。


 ああ、今日放課後に集まってくじ引きするんだ。

 それで元気がないわけね、納得。


「んで?」

「ファッションショーは確かに心くすぐられるし、コスプレしてみたいなってのもあるからいいんだけど、文化部に文化祭の手伝いは厳しいのさ」

「のさぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 柳瀬が川上のエコー役なのは分かったけど。


「私らは体がいくつあっても足りない状況下に入る」

「入る」

「今週中に企画が決まるとはいえ、もしコスプレになったら私は逃げる」

「逃げる」

「何故なら部活の方がやばいからだ!」

「だ!」


 これいつまで続くんだ?


「なぁ太一、愛が図書室で待ってる時間になるんだが」

「そうだなそろそろ割愛するぞ。要はこいつら部活の方が準備不足でやばいから、クラスの出し物が何であれ準備は俺らに任せたいと言ってる。準備って修学旅行の班で分かれて分担するだろ」

「ああ、そういうことか。それくらいいいぞ。何の担当になるか分からんが俺と太一と長谷川の三人でもなんとかなるだろうし、たまには手伝いに来れるだろ?」

「木崎君は神だった……」

「神よ……」


 大袈裟な奴らだ。


 愛をあまり待たせるのも悪いので、話の続きはまた後日ということになった。

 太一も捕まえようと思ったが、俺の考えを察したのか逃げられてしまった。


 仕方なく図書室へ向かうと、図書室前の通路で腕四つで掴みあう響と愛の姿があった。

 何してんの君たちは?


 俺の姿を見た愛がぱっと手を放し、ダッシュして俺の右腕に絡みつく。

 なんか今もろに胸の谷間に腕が埋まった気がしたんですけど。

 両サイドからの圧が凄かった。


「響さんがいじめるんです」

「人聞きの悪いこと言わないでちょうだい」

「何が原因?」

「響さんが教室まで迎えにこいって言うから行ったんです。話ながらここまで来て、明人さんがもうすぐ来るなって思ったから、響さんにさようならってしたら怒りだして」

「帰るんだったら何で教室まで迎えに来させるのよ。今日は私も勉強会に参加って言ったでしょ」

「あーはいはい。理由は分かったから仲良くしようね。愛も意地悪しないの」

「はーい……愛は明人さんと二人きりが良かったです」

「週に何回かは二人きりだろ」


 愛の勉強を見るのは二学期になってからも継続していて、愛も夏休みのリハビリが終わったのか進捗状況としては悪くない範囲にまで戻っている。応用が苦手なのは相変わらずで難しい問題の正解率を上げるところまでは辿り着いていないが、簡単な問題の正解率はいい感じに仕上がってきている。

 何とか二学期の中間試験で赤点を回避させたいが、去年受けた二学期の試験は応用問題が多かった。応用問題に点数のウエイトも重くなり、愛にとってかなり不利な展開だ。


 響と相談した結果、基礎問題はできるようになったので応用中心に勉強していくことにした。

 俺だけだと視野が狭くなるので、響にも見てもらい多角的に愛の特徴を掴む方向で方針を決める。

 具体的には確実にとれるもの、不確実なもの、完全に捨てるものの三つに分けたい。

 

 それが今日でその初日でもあった。

 

 放課後用の愛のノートは既に三冊目を数える。

 愛に教えるときに俺と響がアドバイスやちょっとしたコツなんかを言っていたのだが、愛なりに纏めたのがこのノートだ。意外とマメに作り込んでいるので、家でも活用できているそうだ。


「教科書見ても分からないですけど、これ見ると分かるんです」

「愛さん専用の参考書みたいね」

「俺が見てもよく分からない内容だけどね」


 AAアートとかKWSKといった略語が所々書いてあったり、aとbが殺し合うとか物騒なこと書いている。

 反比例の説明文に魂を吸収するAと吸われるBがいて、Aの魂量が増えると、Bは魂量が減っていく。その量はAが2倍になるとBは1/2になるとか書いてある。反比例の説明に合ってるのかこれ?


 合ってるな。


 いつもなら響と愛に挟まれる形で勉強するのだが、今日は愛を挟み込む形で勉強中。

 愛には過去問をやってもらい、愛の現状の傾向を確認することにした。



 数学は基礎をずっとやり続けているので公式さえ間違わなければ大丈夫そうだ。


 英語はかなり怪しかったけれど、響が丁寧に文法を教えていたので、かなり改善されている。

 スペルミスはなかなか改善されないのでこの分の減点は諦めるところか。


 国語は謎漢字が未だに出没するが、かなり頻度が低下しているので良しとしよう。

 論文とか小説とかを読んだりすると読解力が上がるからオススメなんだけど、愛は長い文章を読むのが苦手だ。文学小説は拒否反応があって、文字数少なめのラノベくらいしか耐えられない。


 そこで響が提案したのはショートストーリー。

 少ないものだと140文字以内のものもあるそうだ。

 これでまず慣れてもらうことになった。


 中学時代のツケは大分返せているようにも見える。

 

 愛の母親である恵さんが、愛は一人で家にいると遊んでばっかりだったが、たまに勉強するようになったと褒めていた。

 見ていないところでも努力してくれていると思うと、こちらもやってよかったという気になる。


 ☆


「おはよう柳瀬」

「お、はよ。木崎君今日はなんだか疲れてるね」

「昨日の夕方から美咲に絡まれまくってな。アリカが試験休みでいないからアリカ成分が足りないとか言って、癒しが欲しいとか帰りにスイーツ買うべきとか、んで朝は朝で愛のせいで響にやられた」

「ああ、お疲れ様。それで昨日の夜、藤原さんとコンビニにいたんだね」

「あれ、お前もいたの?」

「ちょうど行った時に二人が帰って行くところが見えた。声を掛けるのは諦めた」

「なるほどね柳瀬らしい。ところで柳瀬が一人なの珍しいな。川上は?」

「他のクラスへインタビューに行ってる。部活の一環だ」


 インタビュー?

 俺が頭を傾げたところで太一と長谷川が揃って教室に入ってきた。


「おっはよーさん」

「……おはよう」

「おはよう二人とも。いいんちょどうだったというか、やはりというか」

「結果は知ってるよね。柳瀬さんたち二人とも耳が早いから」

「うむ。うちがたこ焼き落選したのは知ってる」

「だから千葉ちゃん代わりに行ってきてって言ったのに!」

「俺に八つ当たりするな! 俺がやっても外れ引いたかもしれないだろ」


 あー、駄目だったのか。


「んじゃあ、うちはファッションショー?」

「実はそれも被ってて、……負けました」


 つまり練り直しと。

 あー、これは長谷川的には辛いわな。

  

「今日のHRは議題が決まりだな。他に何があるかな」

「体育館と外の予定は売り切れだから、クラス内のイベントしか駄目だよ」


 ありゃま。ますます選択肢が狭くなるか。

 こればっかりは仕方がない。

 みんなからの提案を期待しよう。


「ただいまーっと、おはよう!」


 他のクラスへインタビューに行っていた川上が帰ってきた。

 挨拶を済ませたあと、何でインタビューしてるか聞いてみた。


「今年の部活の出し物が、文化祭ドキュメンタリーなのよ」 

「なのよ」

「新聞部と放送部の合同で行う史上初の試み」

「試み」


 これまた規模の大きい話が出て来たな。

 つまりは、文化祭企画のスタートから文化祭前日までインタビューや映像記録を残しておいて、編集したやつを展示したり動画を流したりするのか。これかなり人手を使わないと厳しいな。


「元々は新聞部と放送部を合併させようって話が去年くらいからあったのよ。一緒にやること多かったから違和感もないしね。お互いできる事を増やしてマスメディア部って名前が今一番の候補かな」

「柳瀬はいいが他の放送部員は吸収されるように感じてるぞ」

「その話はとりあえず置いといて。ということで忙しいって理由はこれなの」

「あー、分かった。そっちの手伝いはできそうにないからクラスの方は任せとけ」

「ありがと、助かる!」

 

 朝のHRという短い時間で企画を捻出というのは厳しいもので決定打が出ず決まらなかった。

 どうしても他のクラスとイベント的に被るようなものばかりが出てくる。

 演劇やダンスも体育館や外でやる予定があるし、お化け屋敷は響のクラスがするそうだし、男装女装のコスプレもある。既にくじ引きで負けたのでファッションショーからコスプレに変えるのはいいとしても被りは間違いない。縁日の出店はいい案だと思ったが、これも三年が同じ企画を出して通っていた。


「いいんちょ。もう駄目、みんな固定観念がありすぎて似たようなのしかでない。何か企画ない?」

「えっと、他のクラスからも色々写真のデータを提供してもらって、こっちで勝手にタイトルを付けて展示するのはどうかなと。あ、当然提供者にタイトルの了承を得てから展示ね」

「あれ、それ新聞部が毎年やってない?」

「うん、それのパクリ」

「いいんちょ正直すぎる!?」

「ちょっと待った。今年の新聞部は新企画で動くからその企画はやらない。部員の私が言うんだから間違いない」

「じゃあパクろう」

「いいんちょ言い方。オブラートに包んで!?」

「あれ結構毎年人気だって聞いてるよ」

「いいじゃん。人気があったんなら今年は俺らが代わりにやって、来年は新聞部にお返しすればいいじゃん」

「通路の壁に貼るのもありだよね?」

「おー、ありよりのあり」

「天井は止めとけ。首おかしくなるぞ」

「それ絶対しないし、見ないわー」

「水着姿もありだよな!」

「男子限定ね」

「ないわー」


 これはもう決定ぽいな。

 ポンポンとアイデアが出てくるなんて、みんなの勢いが凄いな。

 意外とうちのクラスは文化祭を楽しみにしてたみたいだ。

 今年は俺もちゃんと手伝うぞ。


「はいはい。んじゃあ写真展示で申請しておくね。おそらくこれは決定になるから川上は新聞部から写真の提供してもらえるように下調整しておいて」

「はーい。分かりました」

「はい、では話を切り替えて手短に。今月末中間試験だからね。文化祭の準備は試験一週間前から禁止になるからみんなそのつもりでね」

「聞きたくなかった」

「菅原先生、文化祭に彼氏さん呼ぶんですか。あ、婚約者でしたね」

「絶対呼びません」


 E組の妖怪に見られるのが怖いんだろうな。

  

お読みいただきありがとうございました

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