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帰路  作者: まるだまる
394/406

389 修学旅行19

 はい。明人です。


 修学旅行から我が家に帰ってきました。

 ちょっと残念なお知らせです。


 命の危機です。完全に油断してた。

 後ろから美咲にチョークスリーパーで首を絞められています。

 

 バイトから帰ってきた美咲を出迎えて、食事ができているから早く食べなと背中を向けた途端、美咲が俺の背中におぶさるように抱き着いてきた。美咲と対面したらすぐに抱き着いてきたり、ハグを求めてきたりするだろうと予測していたので、これ自体は問題なかった。


「まずお仕置きからだね」


 さっきのお帰りの声は美咲の声だったけれど、今の声は黒美咲さんだ。


 いきなり首絞めとか殺意高すぎだろ。

 美咲はため込むと厄介な方向にシフトするのを忘れてた。

 選択肢はもっと他にあると思うんだ。

 殺意が高くなる、または、残忍な方法を選択するのニ択は止めていただきたい。


「何だろうね? あの証拠写真の群れはいったい何だろうね? 腕組むとかだけじゃなかったよね? 何でかな? どうしてかな? 分かんないから聞きたいんだけど。何でなの?」


 何の写真のことを言っているのか分からないので答えようがない。

 必死で美咲の腕をタップするが、絞まりはするが緩む気配が感じられない。

 まだ完全には極まっていないが、時間の問題な気がする。


「それと――すんすん。明人君から響ちゃんはともかく愛ちゃんの匂いが微かにするの何でかな?」


 俺、風呂入ったんだけど?

 確かに学校で愛が背中にへばりついていたけどさ。

 前から不思議だったんだけど、何で美咲は匂いで人の識別ができるの?


「さあ吐け!」

「うきゅー」


 久しぶりに落ちました。


 ☆


 目が覚めると、床に倒れた俺の胸の上に美咲が覆い被さっていた。

 

「美咲?」

「あっ、明人君起きた? ごめんね、つい我を忘れて」


 いつものことだから、慣れたくないけど慣れたわ。

 落ちた俺に対して美咲も前ほど慌てていないから、慣れたんだろう。慣れて欲しくないけど。

 それにしても落ちたのは久しぶりだな。

 近頃は上手く躱していたんだが、油断しすぎな証拠だ。


「んで、この状況は?」

「殺ったかと思って心臓が動いているか確かめてた」

「嫌な確認方法だな」

「まあ、そんなことはいいんだよ明人君。ほら起きて、起きて」


 俺の手をグイっと引っ張って起こすと、美咲は大きく手を広げた。

 これは俺が予想していたものだろう。


 俺は立ち上がって手を広げた。

 勢いよく俺の胸の中へと飛び込んできて甘える美咲。

 よしよしと頭を撫でると嬉しそうにする。


「うへへへ。4日ぶりの明人君だ。帰ってきた、帰ってきた」

「はいはい、またあとでな。せっかく作った料理が冷めたんじゃないかな。とりあえず飯にしなよ」

「あとちょっとだけ。あ、そうだ。まだ言ってなかった」


 多分これだろう。


「「ただいま」」


 美咲はくすくすと笑い、ちょっとだけ強く抱きしめてきた。


 ☆


 食事が終わり入浴を済ませた美咲が俺の背中にピッタリへばりついている。

 修学旅行の前夜よりも密着度が高い。

 美咲も風呂を済ませた後でブラを付けていないのか、背中にいつもと違う柔らかい感触が伝わる。

 久しぶりだからか、いつもよりも気になってしまう。


 駄目だ、駄目だ、駄目だ、考えちゃ駄目だ。

 美咲相手に考えてはいけない。意識の外に放り出せ。

 

 その美咲は手にスマホを持ち、俺の背中越しに器用に操作しながら、俺に見せる。

 証拠写真を見せるので言い訳があるなら話を聞いてやるそうだ。

 

「ほらほら、これが証拠写真その1」


 これは初日だな。新幹線の中で撮られた俺が川上と柳瀬に挟まれているやつだ。

 これは俺も美咲に見られたらまずいと思ったやつだから納得。 


「それで、これが証拠写真その23」


 2日目か。響と伏見稲荷で一緒に撮ったツーショット写真だな。

 これは俺も響との距離が近くてドキドキしたやつだ。


「えーと、これが証拠写真その36」


 これは3日目だな。これ俺と響と関ヶ原が腕を組んで歩いているだけだ。

 後ろ姿だから太一か長谷川が撮った写真だろう。


「今の36のどこが?」

「私の知らない子だもん。学生服も着てないから。この子誰?」

「関ヶ原って言ってな。響とアリカが同じ中学で仲良かったんだって」

「ふむ。んじゃあ、これはお仕置き対象に残しておこう」


 えー、これでお仕置き対象になるのは納得がいかん。


「んで、えーと証拠写真そのほにゃらら」


 ほにゃららは何だ。ほにゃららは。

 もう何枚目か分らなくなってるじゃねえか。


 写っているのは牧瀬と響のツーショット。

 えーと、これはどこだ? 背景に高層ビルが写り込んでいるから2日目の鴨川辺りを散策したときか、4日目の四条河原町を練り歩いたときだと思うが。

 あれ、俺いなくない? 

 この写真に俺が写ってなくない?


「これの何処に俺がいる?」

「えっとね。こうやって拡大するとー」


 いたわ。隅っこに俺が写ってるわ。

 こんなのよく見つけたな。そっちの方が凄いわ。


 写真の端っこに俺が両手を上げていて、俺の腰辺りに左右から川上と柳瀬がへばりついている。

 これ何の時だったっけ? 全然思い出せん。

 川上と柳瀬は何だかんだと俺の近くにいることが多かったし、男の体に触ることを何とも思っていないからな。実際、俺だけじゃなくて太一にも似たようなものだ。

 この写真の様子からすると、俺が二人の攻勢に降参している感じなんだが……似たようなこと何度もあったから分からんな。


「これ何でこうなったの?」

「ごめん。マジで覚えてない」

「んじゃあ、これはお仕置きと」


 勘弁してほしい。


 次の写真は俺と響、竹中と宇田が話をしているところ。

 これは渡月橋が見えるから嵐山公園で撮ったときのだな。 


「よく写ってるけど、この女の子は?」

「ああ、そいつは響と同じ班の子で宇田っていうんだ。今回、自由行動で一緒に行動してた」

「なるほど、だから写ってるのも多いんだね。でも、なんだろう。この子から私と同じ匂いがするのは気のせいかな?」


 合ってるよ。


 篠原や竹中、それに牧瀬からも聞いたけど、宇田には黒宇田がいるらしい。

 普段は全くおとなしいのに、怒ったときには殺意の高さがやばいそうだ。

 しかも怒るポイントが幼馴染でも分かりづらいという。

 一度拝見したが、笑顔なのに目が笑ってないのは美咲と同じだったからな。

 

「宇田の横にいる男が竹中っていうんだけど、この旅行でカップルになった」

「へー。修学旅行でカップル成立。本当にあるんだね」

「そこそこあったよ。えっと一枚前の写真もう一回見せて。そうそれ。牧瀬は分かるだろ?」


 美咲がうんうんと頷いているのが、背中に伝わる柔らかい感触で分かる。

 今のはちょっとダイレクトにきたな。

 危ない危ない。また意識の外に放り出すようにしないと。


「牧瀬の横にいるのが篠原な。この二人も付き合いだした」

「えと、牧瀬さんたちは幼馴染なんだよね?」

「うん、そう。小学校の頃からだって。だから格好悪いところや駄目なところも知ってるって」

「それでも付き合いたいって思ったのか。うーん。私は男の子の幼馴染がいないから分からないなぁ。まあ、これはいいや。んじゃあ、次の証拠写真を――」


 美咲が見せてくる証拠写真に一枚一枚説明と言い訳を繰り返す。

 中には本当に思い出せないものもあったが、一部は証拠を取り下げてもらえた。


「明人君と太一君のツーショットも多いね」

「そうだな。記念撮影したときはほとんど一緒に撮ってた気がする。長谷川が撮ってくれてた」

「深雪ちゃんか。太一君とすごく仲いいよね。カップルにならなかったの?」

「そういうのはなかったな。いつもと一緒だったよ。でも、俺と川上と柳瀬で二人の写真は結構撮ったな。そうしないと長谷川の写ってるのが少なかったから」

 

 長谷川は撮ってばっかりだったからな。

 その撮っている姿を撮影したり、太一をぼこぼこにしているところを撮ったりしてたんだよな。

 女子の集会では川上、柳瀬が長谷川を撮ったりしてた。

 長谷川本人が言うには自分が被写体になるのは苦手なんだそうだけど。 


 俺たちが撮ったものと長谷川の撮ったものでは、見た感じが全然違う。

 同じ構図で撮っても、見比べたら長谷川の撮った写真の方が断然良く撮れてるのだ。

 カメラが趣味なだけあって、俺たちが持たない知識を活用しているのだろう。


 美咲と俺の証拠検分を続けていると、玄関からガチャガチャと音がした。

 

「ただいま」


 春那さんが仕事を終えて帰ってきた。

 少しお疲れのようだが、相変わらずの色気漂う姿につい目が奪われる。

 リビングに入ってきた春那さんは、俺にへばりつく美咲の姿を見て、くすっと笑う。

 

「明人君お帰り。早速大変だね」

「ただいまです。春那さんもお帰りなさい。お仕事お疲れさまでした」


 スタスタと俺の前に来ると、美咲に向かって代われと手を払う仕草をする。

 美咲は、えーまだ足りないのにと不満をこぼしながらも俺の背中を明け渡す。

 俺の後ろに回り込んだ春那さんは、後ろから俺をぎゅうと抱きしめてくる。


「ふ~、落ち着くぅ。やっぱり明人君がいるといないじゃ全然違う」


 はい、最強の双丘が俺の背中に降臨しました。

 四日ぶりですけど、やはりすごいですね。

 

「じ~」


 うん、真横から俺の表情を少しでも見逃さないように美咲が見張っている。

 少しでも緩んだ顔を見せたら、命の危機が再びになる。

 鋼の心で、冷静に、穏やかに、川の流れのように、無心で、グニュっ、うはっ、やべえ美咲がピクッてした。

 あの春那さんお願いだからすりすりするの止めてもらっていいですか。

 その振動が最強の双丘を通じてぐにゅんぐにゅんと伝わってくるんです。意識が外せない!


 あー、これ追加のお仕置き決定だろうな。

 美咲が笑ってるや。


 俺を堪能した春那さんはその後、入浴へ。

 残された俺は黒美咲からのお仕置きなう。


 脇腹とか、喉元とか、笑いながら手刀で突くの止めてください。

 それといつの間に関節技とか覚えたの、マジで痛いんですけど。 

 お仕置きを終えた美咲はすっきりとした顔で「お休み」と告げる。

 俺も床に倒れたまま「お休み」と返しておく。

 これ回復するまでしばらく動けないやつだ。

 俺を放置して美咲は部屋へ戻っていった。


 風呂から上がった春那さんが酷い有様だねと介抱してくれたけど、今回の美咲のお仕置きはあなたのせいでもあるんですからね。

 少しばかり春那さんと修学旅行での話をして、俺も部屋へと切り上げる。

 春那さんはこの後、文さんの部屋で京都地酒のご相伴に預かるらしい。

 文さんが酔い潰れてなければいいですけどね。


 部屋に戻った俺は寝る前にいつものやり取りを始める。

 ちょっと遅くなったけど、アリカはまだ起きてるかな?

 試験勉強してるかもしれないな。


 最近はメールではなくSNSでのやり取り。

 俺と響は修学旅行まで使っていなかったけど、アリカと愛は元々家族で使っていたそうだ。

 今回の修学旅行で俺らが使用し始めたことをきっかけに、アリカたちともフレンド登録した。オンタイムでタイムラグのないやり取りができるし、既読とかも分かるので便利だ。


 家でこの話をしたときに、俺だけが我が家で使っていなかったことが判明した。

 もっと早く教えてほしかった。

 

 えーと、何から打ち始めたものか。『ただいま』でいいか。

 送るとすぐに既読が着いた。


『遅い! お帰り』

『遅くに悪い。愛から聞いているかもだけど、明日、土産を持って家にいくぞ』

『わざわざ持ってこなくても』

『いいんだよ。アリカの顔も見たいからな』

『……まあ、いいけど』


 熊の後ろに「しょうがねえな」と文字が描かれたスタンプがきた。

 アリカ本当に熊が好きだな。


『時間はいつがいい?』

『10時くらいなら大丈夫じゃないかな。ちょい待ってて』


 また、熊のスタンプで今回の文字は「待ってろ」だった。

 この熊、表情も偉そうだ。


 少し待つ。


『11時で。パパがお昼も食べてけって』

『11時了解。ごちなりやす。響も行くのは聞いてるか?』

『愛から聞いてる。夕方までなら明人に合わせるって言ってたって』

『分かった。響にも連絡入れとく』


 それから少しだけやり取りして、お互いにおやすみの挨拶をして終了。

 アリカも今日はもう勉強をやめて寝るようだ。

 

 ホテルのベッドに慣れたせいかな。なんか寝にくいな。 

お読みいただきありがとうございました。

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