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帰路  作者: まるだまる
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385 修学旅行15

 休憩を終えたあと、体力と時間の許す限り見て回ろうということになった。

 女子たちが探していたコスメの店も見つかり、ここで響を川上らにバトンパス。

 男子は店に入らず、店の入り口で響対策を取る。

 俺と太一で店正面の入り口を見張っておき、篠原と竹中はもう一つの出入り口を見張ってもらった。

 店の中の対応は牧瀬らにお願いするしかないが、固まるのが牧瀬だけだからなんとかなるだろう。

 

 買い物が終わって出てきたときには、響は真っ直ぐに俺のところへ来たので、空いた手を響に差し出す。

 その時に響が「言わないの?」と聞いてきたので、同じように「俺の許可なく俺の手を離すなよ」と返すと、「はい」という返事と無表情の中で頬が若干緩んでいるのが分かった。


 更に手を差し出すと、響はきょとんとしたが意図が伝わっていないようだ。

「荷物持つよ。そういうのは男の仕事だ。壊さないように気を付けるから任せてくれ」

「ありがとう」と言って響は手にしていた紙袋を渡す。


 えっと、響さん 手は握っているので腕に抱き着かなくてもいいんですよ?

 むっちゃ弾力が伝わってるんですけど!?

 なんか嬉しそうなのは伝わるんだけど、そこまで喜ぶところあった?


「姫様は可愛いのう」

「ほんに、珍しいパターンは愛いのう」


 あいかわらず川上と柳瀬が俺にだけ聞こえるように言うがもう諦めた。


 ☆


 ホテルに辿り着いたのは設定された門限時間ギリギリになってしまった。

 俺たち以外にも結構な数がいたが、門番の体育教師は毎年同じ感じだと笑っていた。

 その教師からこの三日間で迷子になった生徒がそこそこいたことを聞いた。一応、先生方も迷子対策として、エリアごとに散っていて、観光がてら対応していたので大きな問題はなかったようだ。

 エリア決めはくじ引きらしく、ハズレはホテル待機らしい。

 迷子くらい可愛いもので、警察沙汰や門限破りがないだけ優秀なのだそうだ。

 過去にはいたのかな?


 団体での夕食が終わって入浴時間。

 早めに入浴を済ませて、その後の自由時間を長めに取りたい。

 

 同じクラスの男子、兵藤と風呂場で一緒になり雑談。

 兵藤はムラムラコンビを引き受けたクラスの英雄。やはり相当苦労したらしい。

 ナンパや下品な行動が多くて、一緒にいた同じ班の女子たちを宥めるのも大変だったようだ。

 いいかげん頭に来たので女子と結託して何度か置き去りにしたそうだ。

 兵藤は他のクラスに付き合っている子がいるので、彼女に対する言い訳も大変だと溜息をついていた。風呂から上がったあと、彼女とお話しするとのこと。揉めないことを祈っておこう。


 クラスメイトからの俺に対する態度は普通になってきている。

 響にボロカスにされているところを何度も見られているので、若干同情もあるようだ。

 俺のことを憎んでいる様子はムラムラコンビだけ、あいつらとは相容れないのでそれでいい。

 改善されたのは太一や長谷川だけでなく、川上や柳瀬のおかげもあるだろう。


 それは分かる。

 

 俺は川上と柳瀬に呼ばれて女子の部屋に来た。

 太一らの姿が部屋にはなく、てっきり先に呼ばれていると思っていたがいなかった。

 その代わり、うちのクラスの女子が揃っているのはどういうことか。


「はーい。では採点開始ー」

 川上の号令で女子が手にしたフリップボードに書き込みを開始。

「はーい。書けたら上げるー」

 柳瀬が上げられたボードを確認し、スマホをポチポチしている。

 なんか90とか61とか数字がバラバラに上げられているけどなんだこれ?

 赤城さんは81で隣の長谷川は65を上げているな。

 これは点数が高いといい意味なんだろうか。

 

「採点でーす。ちなみに木崎君に分かるようにこれ平均点だから」

 柳瀬が手にしたフリップボードに書き込みされ、みんなに掲示する。


『76点』


 何だこれ?


「うむ。思ったよりもかなり良い点だね」

「赤点は無いと柳瀬も予想してたが……これは評価が高い」

「よし、木崎君もう帰っていいよ」


 そして部屋を放り出された。

 今のは何だったんだ?


 部屋に戻ると、太一と因幡、横須賀が頭を寄せ合っていた。

 俺の顔を見るなり太一が聞いてきた。 


「明人もやられたよな。何点だった?」

「え、ああ、さっきの女子のやつか。76点とか言われたけど」

「まじかよ。俺61点だったぞ。基準が分からねえからあれだが」

「木崎君で76点? 僕43点だったんだけど」

 因幡ががっかりしたような様子で言う。

 横須賀にも聞いてみると65点と太一に近い。


 これは何の点数なんだ?


 皆で頭を悩ませていると、兵藤が訪れてきた。


「何か彼女に呼ばれて部屋に行ったら、うちのクラスの女子が大量にいて、いきなり点数を付けられたんだが?」

「俺たちもだ。ところで兵藤は何点だったんだ?」

「平均で87点って言われたけど。俺の彼女もその場にいたんだが、これ何なん?」


 兵藤を部屋の中に招き入れ、お互いの点数を明かす。


「今のところ最高得点は兵藤の87点だな。次が明人の76点。よし因幡、手分けして可能な限り男子を集めるぞ。それか点数だけでも確認しよう。えーと、ムラムラコンビは止めよう。あいつらが来るとややこしくなる」

 

 集めた結果、80点台は兵藤一人、70点台は俺より上に一人と下に一人で計3人、他の大体の男子が60点台、50点未満で低かったのが因幡、井上、松本、野本の4人だけ。ムラムラコンビは呼んでいないし分からないけど、点数が付いていたらここにいる誰よりも低いのが予測できる。


「因幡、思い当たることはあるか?」

「僕、班行動中にみんなとはぐれて迷子になった。待ち合わせ場所で合流できたけど」

「んー、では、井上、松本、野本。お前らは3班だよな。総じて点が低いのは何故だと思う?」

「女子と喧嘩したからかなー。あいつら全然協調性なくてよー」

「あー、やっぱこれあれだな。クラス女子による男子の頼りがい指数じゃないか?」

「ん-それだと、因幡は不当だと思うぞ。男子からすれば頼りがいのあるやつだからな」

「そうだ。因幡を虐める奴がいたらただじゃおかん!」


 因幡は男子にも人気があるからな。

 最弱生物で愛でられているだけじゃない。

 人当たりが良すぎるだけで、しっかりしていないという訳でもない。

 今回の迷子は誰もが可能性のあるレベルだから、マイナス要因だとしても大きすぎるだろ。


「他の三人はともかく、因幡が納得できん。迷子何ぞ誰でもなりえるだろうが」


 なんか男子の勢いが因幡擁護に大きく傾いているような気がする。 


 コンコン――


 ドアがノックされて訪れたのは川上と柳瀬だった。


「やあ、クラス男子諸君。思惑通り大体集まっているね」

「ネタ晴らしに来たよー」

「今回の格付けはエスコート。彼女だろうが、彼女じゃなかろうが、女子に対し紳士的な対応ができたかが得点になる。柳瀬が聞いた範疇では点数が低かったのはリードが足りないってのがほとんどだ」


 今回の場合、同行した女子が乗り物に乗ったとき、飲食店に入ったとき、買い物したとき、相談したとき、移動時などのシチュエーションに対し、男子がどんな行動をとったかで点数化したらしい。

 当事者からの話を聞いて、羨ましいと思ったら満点みたいな感じだったようだ。


「それじゃあ、逆に不満がある。俺らの場合リードしたのに相手が言うこと聞かなかったんだぞ」

「あんたらのは勝手に同意もなしに強引に話を進めたからでしょ。そういうのはリードって言わずに押し付けって言うの。同じことされたら私だって気分が悪いし、あんたらだってそうじゃない?」

「う……」


 野本が反論するが正論をぶつけられて黙ってしまった。

 口で女子に勝てると思うな。こういう時は認めた方が楽なんだ。


「一応、説明しておくと因幡ちゃんの点数が低かったのは、逆に杜里さんらにエスコートされてたからだね。女子系男子の性というか可愛がられすぎ。まあ、面子に面倒見のいい赤城さんがいたから余計にそうなった部分もあるんだけど、その辺は柳瀬も同情する」

「貶めるのが目的じゃないから、こうして欲しかったとか、そんな風にされて羨ましいっていう可愛い女子の願望の結果なのよ。反省してっていうものでもないし、次の機会には活用して欲しいってくらいだよ。と、言いたいところだったんだけど……」


 うん? 最後に言葉を濁し始めたな。

 こういう時はろくでもないことが起きているに違いない。


「話がおかしくなってる言い方だな?」 

「その通りだ木崎君……この各付けが他のクラスに飛び火している。兵藤君の彼女に誤解がないようにと混ぜたのが仇になった。自分の彼氏が高得点だったのが相当嬉しかったらしい。既に他のクラスも男子の格付けが行われている。しかも、この評価は我々が想定していたよりもやばい感じになってる」

「それで、ここにわざわざ説明来た理由というのも、今回の件、今日だけで収束しない気がするのでネタ晴らしすることにしたってのが建前。男子の格付け、ハードルが上がったっぽいからごめんねって言うのが本音。頑張れ男子、柳瀬は草葉の陰から見守っておく」


 男子一同の顔が軽く青ざめてる。

 これ女子は評価の中身を知ってるから、絶対評価の高い奴と比較するだろう。

 せめてどういった行動が評価が高かったのかくらい教えて欲しい。

 彼女がいない奴はまだ救いはあるが、彼女持ちだとやばいんじゃないか?

 その点、兵藤は高評価だから安心できるだろう。

 これは聞いておいた方がいいかもしれない。


「はい」


 俺より先に手を上げたのは同室の横須賀。


「はいどうぞ」

「えっと、ここにいない村川と村山も点数あるの?」

「あいつらは呼んでいないけど採点だけはしてる。聞きたい?」


 ほぼ男子全員が頷く。

 いや、そいつらのことより評価の中身を聞いた方がいいと思うぞ。


 川上が「村川」と言いながら、手で顔を隠すよう指を四本立てる。

 柳瀬が「村山」と言いながら俺たちに向かって手を広げる。

 なんでわざわざポーズを決めるんだろう。


「ちなみに指一本1点だ」

「女子、絶対嫌悪ありきで点数付けたろ! 自業自得なのは分かるがひどすぎないか!?」

「あいつらは救いようがないからね。一緒に行動してた兵藤くんならわかるはず」

「あいつらの件に関してだけは女子の評価が正しい。断言できる」


 振られた兵藤がぼそりと言った。

 兵藤は風呂場でもムラムラコンビの愚痴を言ってたもんな。

 鬱憤がたまっているんだろう。


「ちなみに柳瀬は二人の行動を聞いて、エスコート云々というより、人としてどうかと思った。詳しい話は兵藤くんに聞いた方が分かると思う。ちなみにこの修学旅行中の行動だけを評価している点はあえて言っておく」


 ちなみに唯一頷かなかった因幡は「そっかー、ちゃんとエスコートしなくちゃだな。杜ちゃんに悪いことしたなー。次は気を付けよう」と、一人で反省している。

 見ているとほんわかするが、こういうところが可愛いと言われるんだろう。

 いつまでも純粋でいて欲しいと思う。


 後から聞いた話だが、他のクラスにも80点台が数人出たがトップは兵藤のままらしい。

 この騒動は自分のクラスの男子だけでなく、他のクラスの男子を評価するところまで行きついたらしく、点数が見直された。そこでも兵藤がトップをキープしたと川上から教えてもらった。兵藤の株が爆上げのようだ。同じ班である田所さんと滝沢さんの兵藤アピールが良かったのだろう。


 次の日の朝食時、自分の班の女子に椅子を引いてやる男子が続出したが、気の迷いだと思いたい。

お読みいただきありがとうございました。

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