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帰路  作者: まるだまる
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381 修学旅行11

 慌てて呼びに来た柳瀬に連れられて何が何だか分からないまま向かった。


「おい柳瀬、響が消えたのか?」

「違う、東条さんはちゃんといる!」

「じゃあ、もしかしてナンパされたとか?」

「違う違う。話聞いたら分かると思うんだけど、正確にはまだ分かってない。厄介な二次災害も起きてる。これはある意味自業自得だと柳瀬は思うが」

 二次災害と聞いて、それはなんとなく予想が付いた。

 おそらくそれこそ響絡みだろう。


 向かったのはトイレじゃなく、少し外れたところにある雑木林で表通りから見えにくい場所だった。

 響を先頭に固まっている女子たちの前に並んでいるのは、金閣寺の入り口でみんなの声に応えて撮影会をしていた気さくなヤンキー集団だった。


「みんな連れて来たよ!」

「おいおい、これどういう状況よ」

 太一が呆れた顔で言った。


 その場にはヤンキー集団のリーダーが腹を抱えたまま俯せに倒れていて、その周りにいる他のヤンキー集団はものすごい怖い顔をしたまま固まっている。


 話を聞くと、響と長谷川がトイレの前でみんなを待っていると、裏から大声が聞こえてきて、その直後に私服姿の女の子が走り逃げて行く姿を見たらしい。 

 長谷川と響は気になり、この雑木林に様子を見に行った。

 どうやらリーダーが誰かに襲われたらしく、ヤンキーたちが倒れ伏したリーダーに大丈夫かと声を掛けていて、姿を見せた響たちをやった奴の仲間だと勘違いしたようだ。ヤンキーたちが敵意をあらわに近づいてきたので、響が眼力を強めて全員を固めたということらしい。


「響……お前これ遠慮なしにやったろ」 

「私は悪くないわ。だって、この人たちが勘違いしたんですもの」

「ふははははは。これが異能の力だ。思い知ったかヤンキーども」

「おい、誰か柳瀬の口塞いどけ。いらぬ誤解を生む」 

 

 相手に敵意がないことと固めてしまったことの詫びをいれようと、前を出ようとしたら太一に止められた。


「あ~明人、この場は俺が貰うわ。この兄ちゃんらも踏んだり蹴ったりだな。ちょっとみんな離れていてもらえるか。俺がこいつらと話するから。みんなでわーわー言って変な誤解されても困るんでな」

「おい、いきなり襲ってきたらどうすんだ?」 

「そん時は逃げるに決まってんだろ。お前らもその時は逃げろよ。まあ、そういうことにはならねえと思うけどな。それよか、そこの倒れてる兄ちゃん介抱してやってくれ」


 ちらりと長谷川を見ると、大丈夫というように頷いたので、その場は太一に任せることにした。

 

 女子たちには距離を取った位置に移動してもらって、俺と篠原で倒れたままのリーダーを抱き起こす。

 どうやら腹に重い一撃を食らったようで、地面に嘔吐物の残滓があった。

 太一たちから距離を取った場所に移動させ、リーダーを両側から支えながら座らせる。嘔吐したものが付着しているのか、若干、顔からも酸っぱい匂いがする。

 

「やばい、貰いゲロしそう」

「篠原耐えろ。やばかったら竹中と変われ。おい、大丈夫か?」

 軽く肩を揺すってみると、ピクピクとリーダーは反応を示した。

「……うおぇ!」

「うわっ! 吐くなら地面に吐けよ!?」


 リーダーの意識は戻ったものの、すぐには吐き気が治まらないらしく、涙目で嘔吐いている。俺たちにできることと言えば、体を支えてやることと背中をさすってやることくらいしかできなかった。

 ようやくリーダーが嘔吐きが落ち着いてきたころ、太一がヤンキー集団と一緒に俺たちのところへ来た。どうやら硬直も解け、話もうまくいったみたいで、ヤンキーたちの怒っていた表情は消え失せ、逆に申し訳なさそうな顔をしていた。俺たちに介抱されているリーダーを見て、今度は心配そうな顔で駆け寄ってくる。


「済まねえな兄ちゃん。代わるわ。もも、大丈夫か?」


 やたらと図体がでかい坊主頭のヤンキーに代わり、百と呼ばれたリーダーを預ける。

 横に来た太一が俺の肩に手をポンと置く。


「話はついたからもう大丈夫だ。一応、向こうさんから大体何が起きたかも聞いておいた。まあ、これはみんなにも聞いてもらおうか」


 全員集合して、太一がヤンキーたちから聞いた話を聞く。

 トイレでリーダーが私服の女子に声を掛けられ、また写真か逆ナンかと思っていたら、喧嘩を吹っかけて来たらしい。リーダーは女相手に喧嘩できるかと断ったが、相手はしつこく絡んできた。トイレ前で騒ぐのは迷惑だと考えたリーダーは女を説得するためにこの場所に移ったようだ。

 しかし、女は人気のない場所に変えたのは喧嘩を承諾したからだと勘違いしたらしく、いきなり攻撃してきて、話を聞けと訴えるリーダーの声もお構いなしに攻撃をしてきたと。

 リーダーは無防備にも両手を広げ「俺に喧嘩をやる意思はない」と訴えたが、襲撃者は無防備な鳩尾に問答無用の拳を打ち込みリーダーは沈められあの状態になった。

 まさか、無防備な人間に打ち込むと思わなかったヤンキーたちは、呆気にとられその隙にその女に逃げられた。その直後に響たちが現れたので仲間かと思って、喧嘩を売ってきた女がどこに行ったか聞こうとして固められた。


「まあ、あの兄ちゃんらは純粋に二重の被害者で、俺らは単純に巻き込まれたってところだな。今回は響の眼力が逆に役立ったってところだな。無用な騒ぎにならんで済んだ」

「あいつらは運が悪いとしか言いようがねえな」

「あのヤンキーの兄ちゃんらに喧嘩売るなんて凄い度胸だと柳瀬は思う」

「しかも、倒したって……」

「ねえ、東条ならその女と同じことできるんじゃない?」

「牧瀬さん、あなた私のことを何だと思っているの? 精々極めて動けなくするくらいよ」


 それはできる自信があるんだ。

 まあ、響の場合、男相手なら今回みたいに固めてしまえば無害に終わる。

 俺みたいに効果がない奴がいるかもしれないが、響なら何とかしそうな気もする。 


 この後、ヤンキー集団から平謝りと感謝の言葉を受け取り、彼らはその場を後にした。

 百と呼ばれたリーダーがまだ吐き気が残っているようなので可哀想だと思った。


 ちょっとしたトラブルに巻き込まれたものの、それほど時間は取られずに済み、俺たちは予定通り、次の目的地へと移動を開始した。金閣寺から移動した俺たちは竜安寺、仁和寺を見て回り、昼食を終えたあと、最終目的地の太秦映画村に向かっていた。


 ちなみに移動する間は、川上と柳瀬に響を奪い取られていた。


「はい、交代、交代。観光地では私らも我慢してるんだから、乗り物で移動中は東条さんをいただく」

「木崎君も孤独に闇落ちして歪むがよい。柳瀬は期待している。いつ堕ちる?」

「毎回毎回、お前らと一緒にするな」


 しっかりと響を挟み込むように腕を組む二人。

 一昔前の二人なら響にくっつくことなんて、妄想の世界でしかなかっただろう。

 当時は近づくことも話しかけることもタブーで、それでも響に近づきたくて、俺というきっかけを見つけて、川上と柳瀬は行動した。響はそんな二人に一目を置いているようで、愛とは違う付き合い方をしているようだ。響が言うには川上と柳瀬は常に二人揃っての状態でしか遊んだことがないらしく、片方だけと遊んだことがないと聞いた。


 響のいないときに、二人にそれってどうなのか聞いてみると。


「無理。一人だと無理。多分、自分が自分でいられなくなる」

「柳瀬も同じだ。近くに川上がいるから自分を抑えていられる」

「もう響に緊張とかないだろ?」

「木崎君は少し誤解している。私らは東条さんを女として好きだったんだよ?」

「ちなみに柳瀬らは百合属性も持ってるからな。しかも、ちょっぴりエッチだ」


 晃といい、こいつらといい、なんで俺の周りには同性を好きになる奴が多いんだろう。


「私……今でもやばいときあるけど、何度東条さんにチューしたいとか匂いを嗅ぎまわりたいとか思ったことか」

「できることなら東条さんのおっぱいに埋もれてみたい」

「お前ら、自分で何言ってるのか分かってるのか?」

「分かってるわよ。柳瀬、私があんたを止めるから、あんたも私を止めるのよ」

「川上任せろ。柳瀬からも頼むぞ」


 駄目だこいつら、お互いをストッパーにしないと駄目なくらい、とっくに戻れないくらいライン越えてるわ。よく今まで響と遊びに行ったときに破綻しなかったな。 

 そんな裏事情を知ってか知らずか、響は電車から見える京都の街並みを見ながら川上たちとの会話を楽しんでいる。響は基本的にベースが無表情なのは変わらないけれど、初対面の頃に比べたら響の表情が読めるようになってきた。これもまた一つの積み重ねなんだろう。長く接することで見えてなかったものが見えてきたんだと思う。

 

「次は撮影所前だ。そこで降りるからな。話に夢中で乗り過ごさずちゃんとついて来いよ」 

「分かってるって。心配性な男だよ、まったく」

「こういう奴のどこがいいのか柳瀬には理解不能だ」

「分かったら明人君のこと好きになるかもよ?」

「「それはない」」


 即答かよ。


 太秦映画村は京都の撮影所から派生してできたアミューズメントパークだとか。

 名所見物ばかりだけでなく遊びの要素も取り入れたいと、川上と柳瀬からの意見でここが候補地になった。遊園地みたいなアミューズメントパークだと京都から遠い所ばかりで、移動だけでかなり時間を取られ現地での時間が短くなってしまう。それだと修学旅行じゃないプライベートな旅行で行った方がいいと個人的にも思う。

 この話に食い付いたのは意外なことに響だった。

 川上と柳瀬の太秦映画村のアピールにふんふんと興味津々に話を聞いていた。 

「この二人の意見に乗るわ。私も是非ここに行ってみたい」

 他のところではみんなの意見を聞いているだけだった響がアピールしたことで、同じ班の牧瀬たちも乗り気になり、太秦映画村へ行くことが決まった。


 真っ先に向かったのは施設内にあるフォトスタジオ。

 響が太秦映画村を希望した理由もこれで、俺に和装をさせたいためだった。


「もしかして、これのためだけにここに来たがったのか?」

 この姿は坂本龍馬らしいのだけれど、いまいちピンとこない。一応、刀は持たされているがどこかの将軍様や新選組みたいな姿でないし、わかりにくいんじゃないだろうか。


「そう、これが見たかったの。いい? 川上さん、柳瀬さん、絶対に私を離さないでね。今、私を離したら明人君に襲い掛かるのは確実よ」


 そう言いながらも興奮した様子で俺に近づいてこようとする響を、川上が後ろから羽交い絞めにし、前から柳瀬が響に抱き着くように押さえつけている。ちょっと柳瀬の顔がにやついているけれど、あれ絶対響の胸に顔を埋めてるよな。川上なんて、後ろから響の首元の匂いを嗅いでるような気さえする。


「明人、かつらとかは付けないのか? ちょんまげ付けろよ、ちょんまげ」

 俺の横で平安時代の頃の貴族のような恰好をしている太一が言った。

 流石にそれはちょっと勇気がいるし。衣装だけで勘弁してくれ。

 ところで坂本龍馬ってちょんまげだったっけ?


「千葉ちゃんだって付けてないじゃん」

 お、長谷川は町娘か。かつらまで被ってるし。


「ばーか。俺は烏帽子被ってるからいいんだよ。おう長谷川あれやろうぜ。あーれーってやつ」

「ぶん殴るよ? 服脱げるじゃん」


 篠原は新選組、竹中は侍の格好をしていて、牧瀬は十二単衣、宇田は舞妓の格好を選んでいた。

 俺は響から懇願されて、坂本龍馬と同心の二つを撮影した。


 ちなみに響は花魁の格好して、柳瀬は銭形平次みたいな衣装を選んで、川上は鹿鳴館の衣装を選んでいた。正直、響の花魁は見応えがあった。ワンポイントメイクしてくれたスタッフさんも響のことは本格的にメイクしたいってべた褒めしてたからな。


 響が花魁姿で記念撮影している間、着替え終わった川上と柳瀬が俺の横でこそこそと話し合っていた。

 どうしてお前らは俺に聞こえる所で話をする? 


「川上……コスプレって面白い」

「だね。みんなを巻き込んで色々なキャラにやってみるのありだね。計画を練ってみようか」

「うちの班なら乗りがいいからいける気がする」

「木崎君を巻き込めば成功率は高いと見た」


 川上と柳瀬が何かに目覚めたようだ。

 俺に被害がありませんようにと願いたいが、既に俺は狙われているらしい。

 どうせ巻き込まれるなら美咲やアリカ、愛たちも一緒に巻き込まれてもらおう。

 多分、その方が絶対楽しいと思うんだよ。

 お読みいただきましてありがとうございます。

 次回もよろしくお願いします。

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