375 修学旅行5
バスはスケジュール通りに駅に到着し、ここから新幹線で京都に向かう。
新幹線は14号車両から16号車両までの指定席。
駅のホームで団体が邪魔にならないように、後部側に設定したようだ。
東京方面から大阪方面の下り線に新幹線が到着。
扉が開いて、学生たちは乗車を急ぐように指示される。
200人もの学生が乗るだけあって、3両にまたいで乗車だ。
俺たちが乗る最後尾の車両とその前の車両は、うちの学校だけで占有。
14号車は、後部側に学生と先生たち、前側に一般のお客が乗っている。
先生方も多数が14号車に乗っており、一般客とのトラブル防止のためだろう。
新幹線の中では班ごとに横一列で座るように決められている。
うちの班は、俺と太一が二人席、長谷川、川上、柳瀬が三人席に座る。
余談であるが、赤城さんがこの車両でも最前列を獲得している。第8班の赤城さんはバスでも最前列に座っていた。流石はマイスターだというしかない。
この修学旅行の期間中、スマホや携帯の使用は移動中に限り許可されている。
主な使用として、カメラ機能を使っての記念撮影を想定しているのだろう。
中には音楽を聞いたり、ゲームしている奴もいるんだけどな。
走り出して少ししてから、長谷川が愛用のカメラを俺らに向けてくる。
やっぱ、こういう時はピースだろう。
川上や柳瀬もスマホでパシャパシャと撮り合いっこしている。
そのうち我が班メンバー全員で入れ代わり立ち代わり写真を撮り始めた。
俺と太一が映っている写真を1枚だけ、てんやわん屋のアルバムにアップしておく。
するとすぐにメッセージが入る。
この食い付きの速さは誰だ?
『美咲のは?』
晃かよ!
お前は大学始まってるはずだろ。
何で即座に反応するんだよ。
とりあえずスルーしておこう。
気を取り直して、前の席にいる女子に5人が揃っているところを撮ってもらう。
3人席に5人が強引に集まったからちょっと狭かった。
これもてんやわん屋のアルバムにアップしておいた。
写真撮影を終え元の席へ。
太一と雑談していると、美咲からメッセージが届いた。
『帰ってきてからお仕置き2回』
何故に!?
よくよくみると、俺が上げたもの以外に数枚上がっている。
おそらく、長谷川か太一が上げたものだろう。
そこには俺が川上と柳瀬に挟まれた状態の写真が1枚あった。
俺の背中に柳瀬がしがみついていて、川上が俺の前から抱き着こうとしているようにも見える。
ああ、これ柳瀬が川上のお菓子を奪って逃げて、川上が追いかけた時のだ。
柳瀬のやつ、俺を盾にしやがったんだ。
これは誤解を解いておきたい案件だ。
事の詳細をメッセージにしたため、美咲に送る。
帰ってきた返事は『却下』だった。
何故に!?
理由はちゃんと説明したのに通じなかった。
何でだよ。まだ京都についてすらいないのに。
美咲はため込むとやばいんだよ。
軽いうちに済ませておかないと、お仕置きの残酷度が跳ね上がる。
帰ったらすぐに機嫌を取ることにしよう。
そんな気持ちには関係なく、俺たちを乗せた新幹線は京都駅に近づく。
しばらくして到着を知らせる車内放送が入る。
窓から見える塔のようなものが京都タワーだろうか。
ビルの上にあるように見えるけれど、俺の目がおかしいのかもしれない。
京都駅に到着、人数が人数なので降りるのも大変だった。
新幹線乗り場から構内を移動し階段を下ると、お土産屋さんが並ぶ広い場所に出た。
ここで点呼をして異常がないのを確認。
待っている間だけで京都が世界的にも人気のある観光名所なのだと実感がわく。
その理由に、駅の構内のそこらかしこに外国人を見かけたからだ。
人種を問わず多種多様な外国人がたくさんいた。
日本人の団体かと思いきや、中国か韓国から来たと思われる旅行客もいた。
やっぱり、アジア系だと見分けがつきにくい。
見る人が見たらすぐわかるという人もいるけれど、俺にはよく分からなかった。
京都駅内を移動し、駅を出てすぐに大階段が目に入る。
大階段の天井にガラスのようなアーチ状の屋根と無数の骨組みが見える。
天から射す日の光が大階段に陰影を浮かばせている。
時間によって色々な表情が浮かぶのだろう。
誘導していた菅原先生が階段を上っていくよう指示している。
どうやらここでクラスごとの集合写真を撮影するようだ。
階段の上の方で写真撮影だったので、ちょっと登るのに疲れた。
これ何段ぐらいあるのだろう。よくもまあ、これだけ長い階段を駅ビルの中に作ったものだ。
大階段の両サイドに見える建物の中にテナントがたくさんあるらしい。
大階段からでも建物の中の通路を移動する人の姿が見えた。
クラス写真の撮影が終わり、俺たちが大階段を降りるとき、入れ替わりで登ってくるE組の中に響の姿を見つけた。
前側に竹中と篠原、二人の後を響が続き、響のすぐ後を牧瀬と宇田が続く。
響を中心に要塞のような陣形を形成。
あの陣形はフォートレスだな。
うむ、特訓した甲斐があった。
その調子で響を守ってくれ。
京都駅はもっと古風なイメージだと思っていたが、思っていたよりも近代的で本当に京都にいるのか違和感を感じるところもあった。
そんなことを感じながら、駅前のバスターミナルに出る。
そこから上を見上げると新幹線から見えた京都タワーがあった。
やっぱりビルの上に建っているのか、ビルからにょっきり生えているように見える。
今回の団体行動で京都タワー見学はないけれど、可能であれば登ってみたいとは思う。
その後、駅前からバスに乗車し、駅から比較的近い東本願寺を団体で見学。
ガイドブックを見ると、1602年に教如上人が徳川家康から土地を与えられ東本願寺を建てたとある。歴史上の有名人が出てきたのは驚きだった。こういうところが歴史の面白さだと思う。
御影堂門をくぐると御影堂があり、畳でいうと927枚分もの広さを誇る世界最大級の木造の建物とある。ものすごく広い建物らしいが、俺らが見れるのはごく一部だけだった。
中に安置されていたのは親鸞聖人の木像。
南側には本堂と呼ばれる阿弥陀堂があり、阿弥陀如来が安置されている。阿弥陀如来って、あみだくじとは関係ないのかな?
東本願寺を回って、少し気になったのは本堂である阿弥陀堂より、御影堂のほうが大きかったことだ。理由があるか後で調べてみることにしよう。
昼食は豆腐と京野菜をふんだんに使った料理が出てきたが、肉系が少なくて残念だった。
昼食後は、東寺と三十三間堂を回る。
ガイドブックを見てみると、桓武天皇だの、空海だの、聞き覚えのある名前がまた出てきた。
東寺を見学。
この中では休憩も兼ねて、各班ごとで見学することになった。
長谷川はカメラで色々撮影。趣味がカメラだけあって、いつもより活き活きとしているように見える。太一が言うには病気みたいなものだから放っておいた方がいいらしい。
川上と柳瀬はゴシップネタが生まれていないか、学生の動きにアンテナを伸ばしているようだ。
俺と太一は普通に見学。
個人的に境内にある五重塔が圧巻だった。
当時の技術でよく作れたものだと感心する。
「見つけたわ」
知った声に振り向くと、響が牧瀬と宇田に挟まれて、腕を組まれた状態で立っていた。
竹中や篠原はその後ろに着いてきていた。
おお、今度はサンドウィッチか。
ちゃんとやってるのは素晴らしいぞ。
「木崎君お願い。ちょっと預かって。私らトイレ行きたいの」
牧瀬と宇田が響を俺に差し出す。
我慢でもしていたのか、俺が響を受け取ると、二人は小走りでトイレに向かっていった。
流石に竹中や篠原に預けることを躊躇したらしい。
男二人が固まるリスクを避けて、俺らを探したってところか。
まあ、良い判断だと思う。
少し離れてゴシップネタを探していた川上と柳瀬が、響のいることに気付き近寄ってくる。
俺から響を奪い取り、すぐさまサンドウィッチ状態を作った。
長谷川も寄ってきて、響と川上、柳瀬のサンドウィッチ状態をカメラで撮影する。
俺や太一、竹中や篠原も加わり、五重塔を背景に記念撮影。
トイレから牧瀬と宇田が戻ってきたところで、更に撮影を重ねた。
どうせなら10人全員でと、近くにいたクラスメイトに撮影を頼む。
複数枚撮ってもらって、その場で確認。
「東条もうちょい笑いなよ。相変わらずの無表情じゃん」
牧瀬が写真の画像を見て言った。
写っている響がいつもと変りない無表情に見えたのだろう。
写真を覗き込むうちのメンバー。
「ん~? これ響照れてるだろ」
「柳瀬も同意、これは照れてる」
「特に目とかね」
「私もそう見えるけど。ね、千葉ちゃん」
「だな」
響が基本無表情なのは事実なんだけど、全く無表情ってわけじゃないんだよ。
ほんのちょっとずつ変化があって、見逃しやすいけどな。
今回の写真は分かりやすい範疇だぞ。
「あんたらおかしい。全然分かんないんだけど。なんか悔しいから、この旅行中で見分けてやる」
悔しそうに言う牧瀬の言葉に俺らは笑ってしまった。
お読みいただきましてありがとうございます。
修学旅行のクラスの班編成。(名前は五十音順)
男女の区別も分かるようにしておきます。
第1班 川上さん、木崎くん、千葉くん、長谷川さん、柳瀬さん。
第2班 楠さん、槌田さん、住吉くん、猫山さん、山田くん。
第3班 井上くん、仁王さん、松本くん、峰家さん、野本くん。
第4班 尾上さん、遠山さん、藤川くん、中林くん、渡部さん。
第5班 江口さん、近藤くん、佐倉さん、竹岡くん、三木さん。
第6班 沢口くん、清水さん、瀬川くん、辻本さん、沼田くん。
第7班 滝沢さん、田所さん、兵藤くん、村川くん、村山くん。
第8班 赤城さん、因幡くん、島田さん、杜里さん、横須賀くん。