374 修学旅行4
金曜日――いよいよ週明けから修学旅行となる。
恒例となった放課後を使った勉強会。
生徒会の活動が緩やかになったこともあり、体育祭が終わったあと、響も勉強会に参加。
その響に愛がある約束をこじつけていた。
「いいですか。修学旅行の間は明人さんを貸してあげますから、明人さんに近づく子は排除してくださいよ?」
「明人君が既に愛さんのものだと言ってるのが解せないのだけれど」
「俺に寄ってくる女子なんていないから、そういう心配いらないよ」
「旅行をきっかけに明人さんのこと好きになるかもしれないじゃないですか」
学校で愛と響に囲まれている環境下で、俺に寄ってくる女子はまずいないだろう。
春の時に比べると女子の知り合いは増えたけれど、色恋限定というのなら響と愛だけだ。
愛が俺の腕にすがりつく。
「来週から明人さんがいないと思うと、愛は寂しいのです」
「……」
響が反対側の腕に無言ですがりついた。
どうやら愛の気持ちがわかるらしく、許す代わりに自分も同じ行動に出たようだ。
……かれこれくっつかれて数分が立つんだけど、そろそろ離れて勉強の続きしようよ。
☆
昼食会の時に、川上と柳瀬から修学旅行の班でアプリを使ったグループを組もうと提案された。
これも一応、響対策の一環らしい。
川上からグループへの招待が来て参加する。
俺と響以外は既に話が済んでいるらしく、俺らの参加で全員が揃うようだ。
メンバー一覧を見ると、確かに俺たちの班と牧瀬の班の名前が載っている。
俺たちの参加に、牧瀬メンバーから挨拶が送られてきたので返しておく。
「私たちが使ってるアルバムのチャット機能と同じ感じだわ」
「あー、あれか。ところでなんで俺と太一はあの部屋に入れないんだ?」
「それは女子限定部屋だからよ。あの部屋のマスターは愛さんだから、愛さんが呼ばないと入れないの」
「……女の子同士でしか話せない内容があるのです」
響の言葉を聞いて愛の顔を見ると、愛は俺から目を逸らして言った。
「大した内容ではないのだけれど、気になるのかしら?」
「いや、最初は入れなかったとき、なんでかなーって思っただけだ」
まあ、そこまで気にしてるわけじゃないけど。
ただ単に部屋の名前が『愉快なメス豚たちの小屋』になってたから気になっただけだ。
☆
いよいよ明日から京都へ四泊五日の修学旅行。
京都は日本が誇る観光名所の一つ。
かつては日本の中枢である都であり、寺や神社など様々な歴史的価値のある建築物も多い。
俺も初めて京都に行くので楽しみにしている。
ぜひ、この期間に金閣寺や伏見稲荷なんかの有名どころは目にしたい。
我が校の養護教諭でもある文さんも、引率として一緒に修学旅行に参加する。
そのせいで、晩酌に春那さんから酒を出してもらえなかった。
ギガマックスを飲むからと文さんはわずかな抵抗を試みたが、春那さんが断固として認めなかった。
今は部屋の隅っこでルーに慰めてもらっているが、放っておこう。
春那さんと美咲から、自分たちの経験上、絶対に持って行った方がいいと、モバイルバッテリーを一つずつ渡された。
美咲がくれたのは1回分の充電ができるタイプ。
春那さんのは2回分の充電ができるタイプだった。
スマホや携帯は、撮影以外に時刻表やマップを見たりして、いつもより消耗が激しくなるそうだ。
確かにホテルに戻るまで充電できない。これは俺も盲点だった。
修学旅行準備の最終確認も終わり、あとは部屋に戻って寝るだけだ。
そう思っていたのだが、まだ移動できない。
それというのも――
「いよいよ明日からだね」
俺の背中にへばりつく美咲のせいだ。
部屋から明日持っていく荷物をリビングに置いた途端、背中にへばりつかれた。
俺が4泊5日の修学旅行でいなくなるから、俺成分をストックしておくそうだ。
晃が東京に戻ってからというもの、美咲の構ってちゃんは悪化している。
どうやら晃とべたべたしすぎて誰かにくっついておかないと物足りなくなったようだ。
今度、晃が来た時は注意しておこう。
それよりも気になるのが美咲の横で座って待っている春那さんだ。
美咲の次に俺成分をストックするつもりらしい。
春那さんは武藤さんと寄りを戻したものの、月に一度くらいしか会えないので、俺で寂しさを紛らわせている。
春那さんは欲求不満になると人肌が恋しくなるらしく抱き着いてくる。
ガス抜きせずにため込むとスイッチが入りやすくなるので、ガス抜きした方が良いと武藤さんからは教わっている。俺はその武藤さんから春那さんのガス抜き役を頼まれていた。
俺はいわゆる彼氏公認の慰め役だ。
俺が春那さんに手出ししないと信頼してくれている。
武藤さんの信頼に応えるつもりの俺としては、その役目をしっかりと果す覚悟はある。
難点と言えば、春那さんに抱きつかれると必ず美咲のお仕置きがセットで発生することか。
できれば回数を少なくしてもらいたい。
「美咲、そろそろ代わってくれないか? 明人君が寝るのが遅くなるだろう」
春那さんが言うと、美咲は意外と素直に場所を明け渡す。
最近の春那さんは美咲に対して遠慮することなく言うようになった。
美咲も春那さんが寂しさを紛らわすためだと理解しているからか、素直に明け渡すことが多い。
美咲と入れ替わりで後ろから抱き着いて、背中にすりすりしている春那さん。
背中の真ん中くらいにぐにゅっと大きな肉塊が当たり、ぐにゅぐにゅとした弾力を感じる。
相変わらずの兵器振りにどうしても意識がそっちに取られる。
だが、俺の表情を少しでも見逃さないように隣で監視している美咲が怖い。
そのおかげでなんとか平静を保てている。
「……なんだか今日は物足りない。明人君の温かみをもっと感じたいから一緒に寝よう」
「……却下で」
「この間は一緒に寝てくれたじゃないか。絡み合ったじゃないか」
「誤解されるような言い方は止めてください」
これ以上は止めてほしい。
美咲の笑顔が変な方向に深くなっているのでマジで止めてほしい。
多分だけど、快楽殺人鬼って、こんな感じで笑うんじゃないかと思ってしまった。
春那さんから解放されたあと、例外なく美咲のお仕置きが待っていた。
俺、明日から修学旅行なんですけど。
☆
生徒の集合時間は6時半と早く、距離のある学生は家族が送ってきてくれたようだ。
俺も文さんの車に乗せてもらって来たのだが、引率教師の集合時間は6時であり、おかげで少しばかり他の生徒よりも早く学校に到着していた。
集合時間が近づき、続々と生徒が集まってくる。
我が班のメンバーである川上、柳瀬の順に到着し、少し遅れて長谷川、太一が揃った。
太一は長谷川に叩き起こされたらしく、ブツブツ文句を言っていた。
近くには牧瀬らの班もいる。
牧瀬の班は女子3人と男子2人と俺らと同じ構成。
男子は竹中と篠原――なかなかのイケメン君だ。
見たことがあるなと思ってたら、春那さんが撮った体育祭の動画に写っていた二人だった。(伊織さんが何度もごちそうさまって言ってた)
女子は牧瀬、宇田とレベルが高めのイケジョが揃っている。
一応、実験で響と視線を合わせてもらうと宇田は固まらなかった。
おそらく宇田がこの旅行中の世話役になるだろう。
竹中と篠原は、周りに気を遣うタイプらしく、俺らにも協力的で非常に助かる。
響対策フォーメーションの練習にも進んで参加してくれた。
川上と柳瀬の調査でも高評価だ。(牧瀬、宇田の存在により対象外だそうだが)
イケメンなのに鼻に括らず、いい奴オーラで溢れてる。これが真のリア充か。
牧瀬の班は元々幼馴染グループらしく、中学どころか小学生のころからの付き合いらしい。
お互いに愛称「マキ」「タケ」「シノ」「ウタ」と呼び合っていた。
宇田だけそのままなんだな。
前に牧瀬はクラスでも目立つグループにいると聞いたことがあるが、なんとなく納得。
イケメン、イケジョに幼馴染集団ともなれば、クラスでも目立つ存在だろう。
ちなみに男女の関係というものは今のところないらしい。
修学旅行に参加する生徒は集合時間に誰一人遅れることなく揃う。
人員点呼の後、京都駅までの簡単なスケジュールを聞く。
学校からバス、新幹線と乗り継ぎ、京都駅まで移動。
昼食は京都に着いてからとる予定だ。
流石に200人が一緒に移動となると先生方も大変だろう。
食事の時間は少し短い気がする。
説明が終わったところで、バスに乗車。
決まった順に席についていく。
うちのグループは、提出が早かったので今回は第一班。
一班から順に後ろの席になっているので、さっさと乗車する。
バスに酔いやすい長谷川と柳瀬を窓際に配置。
酔った時の面倒見役として、柳瀬の横に川上、長谷川の横に太一が座る。
残る俺はど真ん中で、うちの班がバスに乗るときは毎回この形だ。
お互い分かっているので座るのも早い。
全員がバスに乗車したところで、再度人員点呼。
異常がないことを先生たちが確認し、バスは出発した。
やっべ、マジで京都楽しみなんだけど。
お読みいただきましてありがとうございます。
2019.9.20追記
2年B組
担任 菅原咲さん
赤城さん
因幡くん
井上くん
江口さん
尾上さん
川上さん
木崎くん
楠さん
近藤くん
佐倉さん
沢口くん
島田さん
清水さん
住吉くん
瀬川くん
滝沢さん
竹岡くん
田所さん
千葉くん
鎚田さん
辻本さん
遠山さん
長谷川さん
兵藤くん
藤川くん
峰家さん
中林くん
仁王さん
沼田くん
猫山さん
野本くん
松本くん
三木さん
村川くん
村山くん
杜里さん
山田くん
柳瀬さん
横須賀くん
渡部さん
出てこない人もいるかも。