表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
帰路  作者: まるだまる
372/406

368 体育祭3

サブタイトル変更しました。

 昼食を終えたあと、太一、長谷川、愛と一緒に観客席に向かう。

 響は生徒会の関係で仕事があるらしく、会長たちとともにどこかへ移動していった。

 川上や柳瀬も会長たちの手伝いするようだ。あいつらもなんだかんだで人はいいよな。


 美咲たちのいる観客席に向かうと、アリカが美咲に抱きかかえられていた。

 アリカも普段のやられ方よりはましだからか、どうやら抗うことを諦めたようで、美咲に抱えられたまま涼子さんや綾乃と世間話している。

 美咲の横で晃がアリカのことをちらちらと羨ましそうに見ているけれど、それはそれで放っておこう。


 愛が美咲の前に行き、両手を差し出す。

「美咲さん、香ちゃん貰っていいですか?」

「はい、どうぞ」

「ありがとうございます」

 美咲が愛にアリカを差し出すと、愛はそのままアリカを受け取り、くるりと振り向かせて後ろからアリカをぎゅっと大事そうに抱きかかえる。

「……あたしはぬいぐるみか」

 と、アリカはぶつぶつ言っているが、愛は気にせずにこにこしていた。

 

「春那さんと伊織さんは?」

「カメラ持ってどっか行ったよ」


 伊織さんと春那さんは昼食を終えてすぐに取材に向かったようだ。

 春那さんにBLあっちの趣味がないのに付き合いがいいものだ。

 伊織さんと春那さん二人は同じ高校の一学年先輩後輩の間柄になる。とはいえ、在学中にお互いの面識はなく、それぞれの妹が仲が良いという関係でしかなかった。春那さんが年上である伊織さんを立てて従順な姿勢をとっているというところだろう。

 

「そういや愛、美咲さんから聞いたんだけど、かけっこで一番取ったってホント?」

 愛に抱きかかえられたままアリカが聞いた。

 どうやらアリカが到着したのはその少し後で、愛の雄姿を見ることが叶わなかったらしい。

「う、うん。明人さんの応援のおかげかな……」

 愛は目を逸らしながらこくこくと頷きながら呟いた。

 流石にご褒美という名の餌に釣られましたとは言えないようだ。

 そんな愛を見てアリカが俺に視線を移す。

「……で? 明人に何をしてもらったの?」

 流石は姉だ。愛のことをよく理解している。

「……は、はぐ」

 言い逃れできないと判断したのか、愛は口よどみながらも素直に答えた。

「ふーん……明人からハグ……ねぇ……」

 アリカの視線がすごく突き刺さるんだが。

 もしかしてまた地獄の門が開くのか?

「……まあ、いいわ。あんたが初めて一番取ったんだから、パパとママも喜ぶでしょ。家に帰ったらお祝いしてもらいましょう」

 どうやらアリカからのお咎めはないようだ。


「動画とか画像はないけど、パパとママ信じてくれるかな?」

「あたしも直接見てないけど、大丈夫でしょ」

「――動画ならあるよ?」

 そう言ったのは戻ってきた春那さんだった。

 伊織さんはいないけど、どこに行ったんだろう?


 春那さんは手にしたビデオカメラを操作してアリカたちに見せる。

 小さなディスプレイにスタート地点に並ぶ愛が映っていた。

「たまたま愛ちゃんを見つけたから、そのまま撮っておいたんだよ」

 春那さんはアリカにビデオカメラを渡す。    

 受け取って再生させるアリカ。

「………………うわ、すごいすごい。あんたぶっちぎりじゃん!」

 アリカに褒められて愛は嬉しそうに「えへへ」と笑った。


「アリカ、あとでデータコピーして渡すよ」

「春那さんありがとうございます! 良かったね愛、パパとママにも見せられるじゃん」

「ちょっと恥ずかしい~」

 愛は口をムニュムニュさせながら手で顔を隠した。


「他の子たちもいくつか撮ってあるよ」

 春那さんはアリカからビデオカメラを受け取るとそう言った。


 撮った動画を見せてもらうと太一や響、長谷川、それと川上や柳瀬まで録画していた。

 どうやら撮影係としてうろついていた春那さんは見知った顔がいたときには撮影していたようだ。

 気が利くというか、痒い所に手が届くというか、こういう時は本当に頼りになる。

 あとでここにいないみんなに教えて、欲しい奴にはデータを渡すことにしよう。


 途中、誰だこれっていう男子も映っていたけれど、この辺は伊織さんが指示したやつなのだろう。

 気のせいか、イケメンばかり映っていた気がする。


 少ししてその伊織さんが帰ってきた。

「あぁ~若い子っていいわ~。なんかすごく生き生きしていて」

 まだ若いのに伊織さんが年寄みたいなことを言う。

「もう何回戦でもOKみたいな子がいっぱい。もうどんぶり五杯はいけそう!」

 それを聞いた美咲の頬がひくひくっと引きつる。

「……お姉ちゃん……ここでは止めて?」

「みーちゃんのけちー」

 

 ☆


 体育祭の午後の部が始まり、中間発表が行われた。


 昼の時点でE組がトップでC組、B組、A組が続き、最下位はD組。トップとの差は30点。

 2位のC組は6点差。我がB組はそのC組と2点差、トップのE組とは8点差となっている。

 4位のA組とうちのB組は10点離れているが、午後の競技次第で順位は入れ替わるだろう。


 中間発表終了後、各組の応援団による応援合戦。


 我がB組連合の応援団長が大きな声で檄を飛ばす。

「へいへいへーい。うちは残念ながら今んとこ三位だ。みんなそれでいいのか?」

 周りから一斉に『嫌だー』と声が上がる。

「そうだろそうだろ。んじゃあ、みんなどうすればいいかわかるよな?」

『頑張る!』

「OK、OK。んじゃあ、他の組にB組気合入ってるとこ見せてやろうぜ! いいかみんな!」 

『おっしゃあ!』

「おれたち?」

『最高!』

「おれたち?」

『最強!』

「他の組には?」

『負けらんねえ!』

「勝つのは?」

『B組!』

「おっしゃあ! 後半飛ばしていくぞ!」 

『おおおおおおおおぉっ!』


 意外にもみんなノリノリで応援合戦に参加していた。

 こういう時はその場のノリに乗っとくに限る。

 

 午後一番の競技は三年生による団体演技。三年生は男女混合で行われる。

 俺の知っている三年生、会長の北野さん、副会長の南さん、柏木さんも息を弾ませながら踊っている。

 なんだか会長はとても楽しそうに踊っているように見える。

 あ、南さんがちょっと遅れた。まあ、ご愛敬のレベルだろう。

 約200名で行われたダンスは上手な人もいれば、テンポのずれた人もいたりするが、全般的にはまとまった演技だったと思う。


 次に行われたのは今年の新メニューである一年生による三輪車レース。

 小さな三輪車をバトン替わりにするものだ。 

 競技条件は緩いらしく、持って走る以外は漕ぐもよし、足で蹴って進むのもよいようだ。

 この競技は一年生全員ではなく、選抜された人が参加するらしい。

 我がB組連合の一年は副団長が参加していた。

 アリカ並みにちっこいから、それが理由で選ばれたのかもしれない。

 

 第一走者は全員女の子。うちの副団長もいる。

 他のクラスの女の子は恥ずかしそうにしているのに、副団長だけは「まだかまだか」と気合が入ってる様子。どうやら勝負事には熱くなる性分らしい。


 競技者がスタートラインに一列に並び、スターターの教員がピストルを掲げる。

「パン!」

 ピストルの音と同時に漕ぎ出すが、ほとんどの子がうまく漕げず、すぐに諦めて足で蹴って走り出す。

 そんな中、一人器用に漕ぎ進み、ぶっちぎりの走りを見せるのがうちの副団長だった。

「うは、すげぇなあの子!」

 俺の横で太一が声を上げる。

「ひなー頑張れー。あともうちょいだよ」

 我がB組の応援席にいる一年生の友達らしき子から応援が飛ぶ。

 名字なのか名前なのか分からんが、どうやら愛称は「ひな」というらしい。


 ひなと呼ばれる一年の副団長はそのまま一位をキープし、次の走者にバトンパス。

 バトン代わりの三輪車を受け渡した後、応援席に向かって小さい体を目いっぱい使って手を振る副団長。

 自分は頑張ったアピールしてるようだ。正直、可愛らしいと思った。

 一番手は頑張ったのだが、続く二番手で追いつかれ、三番手で転倒するハプニングにも見舞われ、最終的にB組の成績は三位に終わってしまった。みんな頑張ったのに残念だ。

    

 二年生の団体競技は大縄跳びだ。

 ぶっちゃけ団体演技の練習ばかりしてたので、各クラスともに体育の授業で一時間しか練習していない。

 二列に並んで総勢40名による大縄跳び。

 後ろの列になればなるほど、回し役が見えないので引っ掛かりやすいだろう。

 一定のリズムで引っ掛からない程度に小さく飛ぶのが長く続けるコツだと、体育教師が授業では言っていた。 

 

 競技は二組同時に行い、順番は中間発表の順位順に行われた。

 最初の順番はE組とC組だ。

 C組が適当に並んでいるように見えるのに対し、E組は真ん中に背の高いグループを集めている。

 どうやら作戦を立ててきたようだった。


 教員による大縄跳びの空回しが行われ、一定のリズムを刻む。

「いいかい? 一回目と二回目さえ乗り切れば後はリズム、リズムだからね!」

 そんな声を張り上げてるのはE組の牧瀬だった。

 あいつも勝負事は熱くなるタイプだったのか。


 C組はというと、みんなのほほんとして教員が大縄を回してる姿すら見ていない奴もいる。

 温度差が激しいな。


 放送部がアナウンスで『スタート』と声をかけ、大縄がぐるんと回る。

『1、2、3、4、5、6――』と、回数が徐々にカウントアップ。

 E組とC組の対決は、意外とC組が粘ったもののE組に敗れた。

 C組13回に対し、E組は21回の成績を残した。 


 次は俺たちB組とA組。 

 ちなみに俺たちに作戦なんてものはない。

 縄が来たら跳ぶくらいにしか考えてない。

 今更作戦を立てようものなら混乱するのが目に見えてるし、仕切るような奴もいないからだが。

 ちなみに最前列マイスターである赤城さんがここでも最前列だったのは言うまでもない。


 先ほどと同じように放送席からの『スタート』の声に大縄がぐるんと回ってくる。

 無事に一回目はクリアー、一回目で引っ掛かって終わるのは避けたかったのでほっとする。

『1、2、3、4、5、6――』

 回数が徐々にカウントアップされてリズムを崩さないように軽く足を上げて飛び越える。

 視界の隅に映るA組も粘っているのが分かる。

『――15、16、17、じゅうは――おおっと! ここでA組引っ掛かりました。残念』

 A組が失敗したが、そんなのに構っていられない。

 ぴょこん、ぴょこんと、リズムを崩さないようにみんなが息を合わせ跳んでいる。

『――20、21、22――あーっと惜しい! 記録更新かと思いきやここで引っ掛かった!』

 どうやら後ろの方が引っ掛かったらしい。惜しいな、もうちょいだったのに。

 これでB組はE組と同じ21回で同数首位となる。

 あとはD組次第だったのだが、誰かが緊張していたのか、まさかの1回目で引っ掛かり終了。


 E組との同点決勝は行われず、大縄跳び競技はあっさりと終ってしまった。 

   

 お読みいただきましてありがとうございます。

 次回もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=617043992&size=200
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ