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帰路  作者: まるだまる
352/406

348 家族紹介6

 遅れて太一、綾乃と長谷川が到着した。

 俺は出迎えることができなかったので、代わりに美咲が出迎えに行ってくれた。


 少しして通路から太一と美咲の会話が聞こえる。


「明人は部屋にいるんですか?」

「うん。明人君は今、動けないから」

「動けない?」


 がちゃっとドアが開いて、美咲の後ろに太一の顔が見える。俺の視線と太一の視線が重なる。


「……」

(よう太一、遅かったな。すまんな、こんな格好で)


 太一の目には、うつ伏せ状態になった俺の背中にアリカが乗っていて、俺の顎を掴んで海老反り状態にしているように見えるだろう。


「明人、お前何されてんの?」

(これか? これはキャメルクラッチって言ってプロレス技の一つだ。難を言えば、これくらってると話すことができないくらいだな。俺の背中の上で技をかけてきてるアリカさんが怒ったままで困ってるんだ。ちょっと助けてくれないか?)



「また禄でもないこと言ったか、したんだろ」

(ちょっとアリカさんを高い高いしたら逆鱗に触れたんだ。そろそろ勘弁してもらいたい。首も痛くなってきました)


 どうやら助けてくれそうにないのでギブアップしよう。

 後ろ手でアリカをタップする。


「あんたどこ触ってんのよ!」

「んがぁっ!」


 さらにぎりぎりと仰け反らされた。

 どうやらタップしたのはアリカのお尻だったらしい。

 悪気はないしお尻とは思わなかったんだ。

  

 ようやくキャメルクラッチを解いてもらったが、アリカは不機嫌顔のままだ。

 俺は首と背骨が痛いぞ。

 

  

 流石に9人ともなると俺の部屋は手狭に感じる。

 太一たちも揃ったのでリビングに移動することにした。

 途中、父さんの部屋に寄って、リビングを使って話することを告げておく。そのついでに太一やアリカたちを父さんに紹介した。


 ずらっと揃った人数を見て父さんも軽く驚いていた。

 

 父さんにアリカのことを紹介したときに、愛の姉でもあることを伝えるとーー。


「え、妹じゃなくて、お姉さんなの?」


 父さんは真顔でアリカに聞いてきた。

 アリカは軽く顔がひきつっていたが、頑張って愛想笑いを浮かべていた。父さんに悪気はないんだ、許してやってくれ。


 父さんは俺の友人らの顔が直接見れて満足したようで、みんなにゆっくりしていくように告げ、また部屋に戻っていった。


「明人は親父さん似なんだな」


 そんなことを太一が言った。

 そういや、アリカも父さんの名刺を見てそんなこと言ってたな。


「そうか? 似てるって言われたことなかったから、今までそう思わなかった」

「いやいや、どうみても親子ですよ?」


 綾乃もそう思ったらしい。

 そうか、俺は父さんに似てたのか。

 今度からは誰かに聞かれたらそう答えよう。


 ✫


 リビングに入ると、ソファーでくつろぐルーを見た綾乃が我慢できずに触りに行く。

 ルーは「あんた誰だっけ?」みたいな感じで綾乃をちらっと見るが、綾乃に抱きかかえられても逃げることはしなかった。

 ちなみにクロは綾乃がソファーに向かった途端、キャットタワーの一番高いところに逃げて行った。


 ルーを幸せそうに抱きかかえる綾乃はおいておくとして、今回集めた首謀者である響に話をしてもらうことにした。


「夏休みの間、みんなあまりアルバムにアップロードをしていないことに気が付いたの。この中で一番してるのはアリカで他の人は私も含めて少ないわ。晃さんと長谷川さんもメンバー入りしたことだし、遊園地に行った時みたいに、みんなで確認しあいながらアルバムに載せていきたいと思ったの」

 

「あ~、なるほどな。確かに晃さんと長谷川も仲間なんだから見れた方がいいし、二人ともサバイバルゲームのときとか、慰安旅行のときにも写真撮ってたよな」


 前と同じように、微妙なものは相手に確認してからアルバムに載せていく。


 晃は美咲に、長谷川は太一に登録方法を教えてもらって、てんやわん屋のアルバムメンバーに登録。

 メンバー欄に晃と長谷川の名前が追加された。

 

「これでアルバムが見れるの?」


 晃から聞かれた美咲は頷くと、晃に操作方法を丁寧に教えていく。指を滑らせてアルバムを見ていた晃は、ムッとした顔をしながら俺に詰め寄ってきた。


「何でこれがあることを教えてくれなかったの? お宝がいっぱいあるじゃない」


 そう言って、俺に食ってかかってきた晃は携帯画面を見せる。そこには満開の笑顔を振りまく美咲の姿が写っていた。てっきり美咲がこのアルバムのこと教えてるものだとも思っていたし、教えてなかったとしても食いつくのが分かっているから、あえて言わなかったんだが。


 晃は文句を言ってスッキリしたのか、「発掘、発掘」と言いながら美咲の写真をチェックし始めた。しばらくはおとなしくしているだろう。


 アルバムに写真がどんどんアップされていく中、ある写真が目に止まる。祠を目指して行ったときに寄った休憩所で、アリカたちと撮った写真だ。愛の膝の上でアリカが可愛らしい笑顔をカメラに向けている。写真のアリカは笑っているけど、あとで納得いかないような顔してたよな。

 しかし、響はこういう時でも無表情なんだけど、もうちょっと笑ってほしいな。


 続きを見ていると俺の写真を誰かがアップした。浴衣姿で太一と話をしている横向きの姿だった。これはいつの時だろう。


「ああっ!?」


 珍しく響が大声をあげた。



 びっくりして見てみると、響は自分の携帯をものすごく近くで見て、なんだか息づかいも荒い様子でみんなに懇願し始めた。


「……お願い、明人君の浴衣姿は全部上げて欲しいの」

「またポスターにするんですか? 愛にもくださいね」

「厳選して作成するわ。愛さんも選ぶの手伝ってちょうだいね。お宝は分かち合いましょう」


 響の願いに反応したのか、俺の写真がどんどんアップされていく。

 おい誰だ、俺が簀巻きにされてる写真とか、砂浜に埋められてるのまで上げたやつ。

 嫌なこと思い出すだろ。


 意外と知らない間に撮られているものだ。俺の浴衣姿の写真だけでも軽く30枚は越えた。

 響は一人ハァハァと息づかいを荒くしながら写真をチェックしている。普段無表情のお前がそうなるのって珍しいよな。でもちょっと怖いから隣に行くのは止めておこう。


 その響の横でアルバムを見ていた愛がなんだかニヤニヤし始めていた。

 このニヤニヤする姿には見覚えがある。

 太一と長谷川を見ているときの顔だ。


 愛の横に行って携帯を見せてもらうとーーそこには、太一に耳打ちする長谷川の姿があった。

 二人の距離はかなり近く、愛がニヤニヤするのも分かる気がする。


「このお二人やっぱり怪しいと思うのですよ。太一さんは愛のことを好きとか言ったのも、実は長谷川先輩の気を引くためではないかと思うのです。あのとき、ご本人も横にいましたし」


 愛は周りに聞こえないように小声で言ってくる。


 長谷川には好きな相手がいるのを知っていて、太一は諦めようとしている。長谷川とは一生友達でいられるように、時間をかけて消化するつもりだと。


 その過程で新たな恋の相手に愛が上がったのだけれど、長谷川のことを諦められずにいる太一は愛に積極的な行動を取らず、挙げ句には慰安旅行のとき愛に知られ、行動を取る前に振られてしまった。


 振り出しに戻っただけだと太一は俺に言ったけれど、長谷川が傍にいることは太一にとってつらいものじゃないのだろうか。あまり変なことを考えていると、太一や長谷川に気付かれるかもしれない。長谷川は太一を捕まえて、アップロードに夢中のようなので今は大丈夫のようだが。



「長谷川先輩も太一さんのこと好きだと思うんです。太一さんだけ他の人と距離感と態度が違うんですよ。もう完全に心開いてる感じがするのです」


 それは二人が相棒関係にあるからだと俺は思う。


 一人静かな綾乃はルーを膝の上に乗せたまま携帯を操作中。

 膝の上でおとなしくしているルーだが、ときおり綾乃の走らせている指を前足で捕まえようとする。

 そんなルーの行動に綾乃はメロメロな顔になり、

「明人さん、この子うちに連れて帰っていいですか?」

 こんなことまで言い出した。


 こらこら、俺が文さんに怒られるだろ。


 写真のアップロードと観賞会が進み、ちょこちょこと長谷川が寄ってくる。


「木崎君これ、偶然撮った写真なんだけど」

「どれ?」


 そこには、俺と春那さんが一緒に写っている。

 一緒に砂浜を走ってる写真だった。


 聞けば長谷川は朝の海で風景写真を撮っていたところ、俺たちを見かけて撮ったそうだ。

 そういえば、長谷川って写真が趣味で、どこぞの写真家に弟子入りしようとしたんだよな。


「長谷川って前に写真家がどうのこうのって聞いたことあるけど、写真が趣味なのか?」

「趣味というより生き甲斐。これで食べていきたいくらい好きだよ」

「そうなんだ?」


 長谷川は部活に入っていない。清高に写真部がないからだろう。

 川上の新聞部だと、長谷川の思っているのとは違うらしく入るのは止めたようだ。


「朝、春那さんと一緒に走ってるんだね」

「ああ、体力つけるつもりで今も走ってる」

「……こういうのも一緒に?」

「どれ? ………お前……あのときいたの?」

「ちょうど戻って来たときだったの」


 長谷川が見せてくれたのは、男湯へ入ろうとする俺の後ろを春那さんが着いてきているように見えるものだった。


「……頼むから消してくれ」

「えー、失敗したのならともかく、これ上手く撮れてるでしょ。ほら、春那さんすごくニコニコしてるし」 

「俺の命に関わるから、頼むからそれだけは上げないでくれ」

「しょうがないなー。――――あっ!? じゃあ、木崎君またあとで、――頑張ってね」


 そそくさと俺から離れる長谷川は太一の横に移動した。

 

 何を頑張るのか想像がついた。

 リビングに舞い降りた慣れ親しんだ気配で気が付いた。

 間違いない、これは殺気だ。


 特に美咲、アリカ、それにさっき迄一人で興奮していた響の狩人たちから発せられている。狩人たちは携帯をじっと見詰めたまま、禍々しい気を出していた。


 気のせいだと思いたいのだが、美咲の背中に黒い風神、アリカの背中に黒い雷神、響の背中には黒い龍神が見える。美咲とアリカのは前に見たから知っていたけど、響のもいつの間にか進化していたらしい。


 今、この三人に目を合わせたら殺される気がした。


 道理で長谷川が俺からそそくさと離れたはずだ。

 そっと俺は自分の携帯でアップされた写真の一覧を見てみる。


 そこには先ほど長谷川が見せてくれた写真がアップされていた。

 どうやら長谷川が操作を間違えて上げてしまったらしい。

 これはこの場を離れた方がいいだろう。逃走ルートを考えよう。

 

「……愛、俺と一緒にみんなのお茶を用意しないか?」

「はい、喜んで!」


 よし、我ながら違和感なくこの場を離れられるぞ。


 しかし、そうは問屋が卸さずーー響の前を通過するときに、響に右手を掴まれた。


「明人君、これはどういうことかしら?」


 響が見せる携帯の画面に、先ほど長谷川に見せられた写真が写っている。

 やっぱり、それ見てたの?


「明人君と春那さんが今から一緒にお風呂に入ろうとしてるように見えるんだけれど?」


 響の言葉に愛が携帯の画面に食いつく。

 愛は響から携帯を奪い取ると、画面をじーっと見る。 


「……春那さんって朝食作る前にお風呂入ってたって言ってました。……明人さんもそのあとで来て……お風呂入ってたって…………もしかして二人で混浴してたんですか!?」

「してないから!」


 嘘です。してました。

 一緒にお風呂に浸かってました。


 でも、春那さんの裸は見てないぞ?

 大事なところはしっかり隠されていたし、逆に俺は見られたけれど。

 見られたと言えば、美咲にも大事なところを見られたんだった。

 今の今まで忘れてたな。 


 太一と長谷川が二人揃って俺のことをジト目で見てくる。

 こいつらには、今の言い訳は通用しなかっただろう。

 

 あのところで響さん、そろそろ手を離してもらっていいでしょうか。

 圧迫されてるからか、掴まれている手首から先が紫色に変わって、痺れてきてるんですけど。


「躾の時間だわ」


 ゆらりと立ち上がる三つの影。

 アリカさん目が血走ってますけど、今日はレディじゃなかったのかよ?

 美咲は美咲でいつもの氷の笑顔で近づくの止めてもらっていいですか? 

 

「「「話を聞かせてもらいましょうか?」」」


 



「――!?」

「おう、明人起きたか?」

「俺、どれくらい気絶してた?」

「5分もたってないぞ」


 どうやら狩人たちからの攻撃で少しの間だけ気絶してたようだ。 

 囲まれてから少しばかりの記憶はあやふやだが、どうやら恐怖で記憶が飛んだらしい。脇腹に痛みが残ってるので、やられたのはやられたのだろう。


 周りを見回すと、アリカが魂の抜けたような状態でソファーにいる。太一が言うには美咲が襲ったらしい。響と愛は気絶した俺を介抱する役を取り合ってる最中だそうだ。お互い顔を近づけて威嚇しあっている。

美咲と晃は仲良く写真を見ていて、長谷川と綾乃は一緒にルーを愛でていた。


「お前は相変わらず自分で火種を撒いているよな?」

「わざとじゃねえし」


 俺が起きたのを見た美咲が寄ってくる。


「明人君起きた? まだし足りないから、もっかい逝こうか?」


 美咲はまだし足りなかったらしい。

 目が据わってるからどうやら本気のようだ。


「……ちなみに明人がやられてる真っ最中に親父さんが陰から覗いててな。うんうんと満足そうな顔して戻って行ったぞ。あれは仲良くやってるなーって思った感じだったから問題ないと思うけど」


 父さん、あの現場がそう見えたのか。

 太一の言葉を聞いて美咲がわなわなと震え始め、がくっと膝をついた。


「――お、お父様に見られてた。明人君にあんな非道なことをしてるところを見られた」


 ふーん、非道なことしてるって自覚あるんだ?

 ふーん。


「……終わった。……何もかも終わった。明人君――」

「一緒に死なないぞ?」

「私、これからお父様にどうやって接すればいいの?」

 

 知らんがな。そういうので縋りつかれても困るんですけど。

 美咲も見られて困るなら拷問ぽいこと止めてください。


 この件が起きてから、美咲は父さんの前で完全におとなしい生き物になってしまった。

 お読みいただきましてありがとうございます。

 次回もよろしくお願いします。


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