34 千葉家来訪2
部屋にはベッドと机が一体になっているシステムデスクが置いてある。上の部分がベッドになっていて、その下の空間に机と本棚が入っているタイプだ。
狭い部屋ではかなり効率のいい物だ。これのおかげで六畳位ある綾乃の部屋は、さらに広く使えている状態だ。
ベッド下の本棚には、彼女の集めた漫画や小説なのであろう本が大量に置いてある。ただ、すでに置き場所が不足していて、あふれた本は机の上にまで侵攻していた。
あふれた本のために買った収納棚が今日の俺達の相手のようだ。
部屋の中央に置いてある大きな箱がそれだろう。
早速、俺と太一は作業にかかる。
まず箱を開けて内容物の確認。これは問題なし。
……思ったよりパーツが多い。
ちゃんと順番とか考えて分けておかないと、失敗したら手伝いにきた甲斐がなくなる。
といっても、それほど組み立て自体は複雑ではなく、順番さえ守れば問題はなさげだ。工具もドライバーがあれば組み立てられる。贅沢を言えばゴムハンマーくらいあれば、木枠を入れるのには便利だろう。
太一が工具を取りに行くと言って、部屋を出て行く。
「あの……難しそうですか?」
綾乃は心配そうに聞いてきた。
「いいや、難しくはないよ。パーツが多いから、時間はそれなりにかかると思うけど」
「道具持って来たぞ。電動ドライバーもあるから楽だろ」
太一は手に電動ドライバーと先端が変えられるラチェット型のドライバーを二本持ってきた。
「揃いがいいな」
「親父が日曜大工好きだからな」
「んじゃ、始めようか」
俺と太一は箱の中から板を取り出して、種類別に分けた。
役割分担も俺が部材を支え、太一は固定していく事に決めた。
俺が側板と底板を支えている間に、太一は電動ドライバーを使って固定していく。
中間の板と天板を取り付けたところで、まず枠組みができあがる。
「やっぱ、支えがいると楽だなー。明人呼んで正解だったわ」
作業の手応えに満足しているかのように太一は言う。
太一の横で綾乃も満足そうな顔でうんうんと頷き、組み立てを見守っている。
「これなら俺がバイト行くまでには十分終わるな」
俺の言葉に綾乃が反応する。
「兄からも聞いてましたけど、明人さん、毎日バイトしてるんですよね?」
「ああ、そうだよ」
「いいなー、私も高校になったらバイトしたいんです。欲しいグッズとか高いし、種類も多いから、お小遣いじゃすぐに買えないこと多くて」
「バイトしてたら確かにお金は貯まるけど、その分、自分の時間は無くなっちゃうよ。でも、自分が欲しいものを自分で働いて手に入れたいって考えは偉いね」
俺が感心して言うと綾乃は少し頬を染めて、照れ隠しか前髪をくしくしと撫でる。
「あー、明人。俺のいる前で妹を誘惑しないでくれるか? さわやか光線出してんじゃねえよ」
太一がジト目をして言ってくる。さわやか光線ってなんだよ、わからないぞ。
「どこが誘惑してんだよ! 誰もそんなつもりで言ってねえよ」
「明人さん、誰かとお付き合いしてないんですか?」
「え? 一度も付き合ったことなんてないよ。さっきも言ったろ? 自分の時間が無いから、そういう機会も無いし。まあ、そもそも女の子にもてた事ないから、時間あっても出来たかどうかわかんないけどね」
自嘲気味に質問に答えると、綾乃は驚いた顔を見せた。
「えー!? 明人さんもてた事無いって嘘でしょ? 兄なら分かりますけど」
いや、本当にもてた事無いし、それよりお兄ちゃんいじるの止めてあげようか。
なんか太一の顔が可哀想な事になってるよ?
「ほんと、ほんと。もてた事無いって。学校の女子とまったく交流無いし、あるって言ったらバイト先くらいだよ」
「えー、私だったら、明人さんみたいな人が彼氏だったらいいなーって思いますけど?」
そう言った綾乃は、ふと我に返ったように照れだし「そういう意味じゃないです」と慌てて訂正する。そこは勘違いしないから安心して欲しい、お世辞として受け止めておこう。
「そう言ってくれると救われるね。俺も綾乃ちゃんみたいな子が彼女だったらいいなって思うよ」
一応、お世辞のお礼とばかりに返す。
綾乃は顔を紅潮させて、照れた時の癖なのか、前髪をくしくしと撫でる速度も上がっていた。
「綾乃なんて彼女にしたら大変だぞ? 兄の俺が言うんだから――いえ、何も無いです」
綾乃の眼光が鋭くなり、その背後にドス黒いオーラを感じたのであろうか、太一は話を途中で止めた。
眼力だけで太一を黙らせるなんて、綾乃ちゃん、マジ怖い。
お読みいただきましてありがとうございます。
次回もよろしくお願いします。