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帰路  作者: まるだまる
345/406

341 慰安旅行編19

 賑やかな時間、楽しい時間というのは、あっという間に過ぎていく。

 慰安旅行三日目――最終日、夕方には家へと戻る予定だ。


 朝が来て目が覚める。

 昨日よりは時間が過ぎているのか、外は明るい。

 太一は相変わらず大の字になって寝ているけれど、普段もこんな感じなのだろう。

 あとで叩き起こしにくるとしよう。


 運動着に着替え、身支度を整えて部屋を出る。


 下に降りると、春那さんが運動着姿で待っていた。

 今日も一緒に走ってくれるようだ。二人で前日のように会話しながらの心地よい砂浜ランニング。

 軽く汗を流す。

 今日も快晴になりそうだ。


 走り終ったあと、春那さんからまた一緒にお風呂に入ろうとお誘いがあったが、丁重にお断りした。

「今日も一緒に入ろうよ~」

 春那さんは自分の体をふりふりと揺すりながら強請ってきた。

 今日も我儘を言いたいらしい。

 こういう春那さんは普段と違う態度なので可愛いなと思ってしまった。

 

 しかしまさか、また乱入してくるとは思わなかった。

 しかも、今日は完全に見られた。

 美咲と違って、春那さんの反応は親指をぐっと挙げて「合格!」だった。

 どこ見ていったか教えてもらおうか?


 結局、また春那さんと混浴してしまった。


 二人で湯船に浸かり、ゆったりしたあと、朝食作りで先に上がる春那さんを見送る。

 あの体に巻いているタオルの下って、実は水着を着てんじゃないのかな?

 ちょっと堂々とし過ぎだ。   


 暫くしてから風呂を出て、食堂に行くと春那さん愛と二人で朝食の準備にかかっていた。

 今日は洋風なようで、ベーンエッグ、ウィンナー、ポテトサラダ、コーンスープ、それとライス。

 一応パンも用意しているみたいだ。俺はライスでお願いします。

 

 今日はさほど手間がかからないようで、手伝いは問題ないと言われた。

 じゃあ、美咲を先に起こしに行くことにしよう。

 晃のことだからもう起きているに違いない。


 美咲の部屋をノック。すると、晃が顔を覗かせる。

「おはようございます。美咲はどうですか?」

「明人君おはよう……今日は駄目、これてこずるかも、全く反応しない」

「拒否型じゃないのか……早目に来て正解だったかな」


 中に入れてもらうと、卵にまでは至らないがしっかり枕を抱きかかえ、布団にくるまった美咲が部屋の隅っこにいた。……落ちたのか。柵付きじゃないから落ちるとは思ってたけど。

 美咲に近づき体を揺さぶる。反応がない。

 頭をわしゃわしゃしたり、突いてみたり、反応がない。

 もう一度揺すってみると、反応があった。 


「……お? おお、お? 地震だ。春ちゃん地震だよ」


 夢見てるな。

 今日は春那さんと一緒にいるのか。

 

「は、春ちゃん、おっぱいが凄く揺れてるよ!」


 俺も見てみたいんだけど。

 しかし、今日もすさまじい寝言だな。

 

「晃さん、美咲って昔からこんなの?」

「うん。可愛いでしょ?」


 駄目だこいつ。

 こいつに聞いた俺が間違いだった。

   

「修学旅行とかどうしてたんだろ?」

「それは大丈夫だよ。美咲が警戒してる時はこうならないから。寝相もいいし」

「警戒?」

「この子、人見知り激しいからずっと人を警戒してるのよ。でも、その分ちゃんと休めてないから疲れちゃうんだよね」


 ということは、この状況とか家の状況というのは、美咲にとって安心できる環境ということか。


「そう思うと、今は居心地がいいんだろうね」


 美咲は口をうにゃうにゃ動かして言葉になってない寝言を呟いてる。


「見て見て、春ちゃん……私も大きくなったんだよ。Fカップぅ」

「何でドラえもん風に言った?」

「可愛いよね?」


 晃が美咲を見てハアハア荒い息を吐きながら言った。

 美咲限定とはいえ、この変態をどうにかしてやりたいな。


「そういえば、昨日春那さんから怒られたって美咲から聞いたけど、何したんです?」

「美咲の初めてを貰おうかと襲ってた」

「あんたいっぺん死んで来い。もう美咲に近づくな」

「ちょっと待って。勘違いしないで。普段からそんなことばかり考えてるわけじゃないの。あの時はたまたま美咲があまりに可愛いことしてたから衝動的に襲いたくなったの。もう大丈夫だから、本当に大丈夫だから」

「本当だろうな?」

「明人君って美咲の保護者的な感じの時、私に敬語使わないよね?」

「当たり前だ。美咲は俺が守る」

「まあ、それがあるから私も明人君を信頼してるんだけど」

  

 油断できんなこの変態は。

 もう少し監視を強めておくか。


「んで、その可愛いことしてたって何ですか?」

「美咲が猫耳着けて遊んでたの」


 なにそれ見たい。


「その猫耳どこにあるんです?」

 

 晃は荷物から猫耳を取り出す。

 猫耳を手に取ってみると意外としっかりした作りだ。


 晃の頭に着けてみる。

 うん、これは違うな。

 なんか晃は犬のほうが似合いそうな気がする。

    

「私の頭に着けてすぐに取った理由を聞かせてもらおうか?」

「晃さんは猫じゃなかった」

「そこ!?」


 美咲は行動的には犬系なんだよな、全力で甘えてくるし。

 どちらかというと晃が猫系か。猫耳似合わないけど。

 何を考えているか分からない時も多いし、まあ、ほとんど美咲のことだろうけど。


 寝てる美咲の頭に着けて見る。

 あ、似合う。これ可愛いな。


「あ、明人君、こ、これ東京に持って帰っていい?」


 晃が横でハアハア言いながらふざけたこと言って興奮してるけど、ほうっておこう。


 よし、美咲を起こして、このまま猫耳を着けておこう。

 四苦八苦はしたものの、何とか美咲を起こすことに成功。

  

「……おっぱい小さくなってる」


 美咲は自分の胸を押さえて、ちょっとショックを受けたような顔をしていた。

 夢の中では春那さんに匹敵するようなサイズだったんだろう。


「……ん!」


 俺に向かって両手を広げる美咲。

 とりあえずハグしろと言いたいのだろう。

 

「おいで」


 美咲は飛び起きると、俺の腕の中へと飛びつく。


「よしよしして」

「はいはい」


 晃はお預けをくらった犬みたいな態度で順番を待つ。

 拳をぎゅっと握りしめているところをみると、何かを我慢しているようだ。

 いつかその拳を俺に向けてくる日があるだろう。


 恒例のハグタイムのあと、晃にバトンパス。

 多分、晃に犬の尻尾が付いていたら、ブンブン振り回していることだろう。

 だけど、昨日の今日で襲ったら流石に俺も許さんぞ?


 美咲は晃に任せて、次に太一を起こしに自分の部屋へ移動。

 今日は、太一が既に起きて着替えている途中だった。


「お、おはようさん。明人はいつも朝早いんだな」

「今日も走ってたからな」

「ああ、そうか。なんだ風呂も入ったのか?」

「ああ、入ってきた」

「また何かあった感じだな。まあ、この時間だと対象は絞られるか」

「また顔に出たか? まあ、ちょっとしたことだ」

「聞かねえことにするわ。あ、そういや、明人の携帯鳴ってたぞ。それで起きた」


 携帯?

 こんな朝早くに誰だ?

 

 携帯を見てみるとメールの着信だった。

 相手は響……なんでこんな朝っぱらから?

 

 もしかして、またアリカにやられてるのか?

 内容を見て見る。


 件名:お願い

 本文:私服に着替えて起こしにきてね。こないとお仕置き♡


「明人、どうした?」

「何か響が起こしに来いって」

「はあ? 起きてるからメールしてきたんだろ?」

「来ないとお仕置きだってよ」

「あいつはするな。まあ、行ってみれば?」

 

 部屋を出て、響がいるアリカたちの部屋へと向かう。

 ドアをノックしても反応なし。

 もう一度ノックすると、ドアが開いたが、人がいない――いた。

 視界の下限ぎりぎりにアリカがぼーっと立っている。

 

 そういえばアリカって低血圧で朝は弱いとか言ってたな。

 今日はもう一つ頭に血が回っていない感じだ。

 浴衣も少し着崩れているし、肝心なところは見えてないけど、もうちょっとちゃんとした方がいい。

 アリカは少しゆらゆらしながら前へ進んでくる。

 

「あ゛~。明人おはよ~」

「おう、おはよう。お前大丈夫か? なんかフラフラしてるぞ?」

「だいじょぶ、だいじょぶ。先に下に行ってる~」

「あ、おい。行くならその格好ちゃんとしろ」

「え゛?」

「ああ、もういい。じっとしてろ」


 アリカの浴衣を整えて、帯も締め直す。


「ほら、できたぞ」

「あ゛~……明人ありがと~。じゃあね~」


 フラフラしながら食堂へと向かっていく。

 なんか手を前に出して歩いてるけど、あれどう見てもゾンビウォークだよな?

 

「あ、しまった。響のこと聞くの忘れてた」


 とりあえず、開いたドアから少し中を覗き見る。

 ……見える範囲にはいない。まだベッドにいるということか。


「響、起きてるか? メールしてきたから起きてんだろ?」


 返事が返ってこない。

 部屋の中には響だけしか残っていない。

 起こしに来いと言ってるのは響だから、お邪魔させてもらうか。

 

 部屋にそっと入ってみる。

 一番奥のベッドに響が横になっていた。

 見てみると響は目を閉じていて寝ているように見える。


 メールしたあと、また寝たのか?

 俺が風呂に入っている間の着信だったみたいだしな。

 まあ、響の希望通りに起こすか。


「響、朝だぞ。起こしに来いって言うから起こしに来たぞ」


 軽く揺すりながら声を掛けてみる。


「……う……ん」

 

 響は逃げるように体を横に向ける。

 美咲と違ってすぐに反応したか。

 これが普通なんだよな。


「ほら、起きろ」

「……起こして」

「ん? 起こしてほしいのか?」


 響頭の下に手を入れて、体を支えるようにしてゆっくり起こす。

 ちょっと浴衣がはだけてて胸の谷間がちらっと見える。

 これは駄目だ。見ちゃいけない。


「……明人君はいつもこんな感じで美咲さんを起こすの?」

「あー、まあそうかな? 乱暴なことはしないよ。美咲はこんな簡単に起きてくれないから苦労するけど」

「ふーん。じゃあ、美咲さんが起きたあと抱き着いてくるのも受け止めてるのかしら?」

「それは……」

「隠さなくてもいいわ。昨日、食堂で春那さんや本居先生に抱き着きに行ってたのを見たわ。あれ、美咲さんの習慣なんじゃないかと思って。家族同様の人には抱き着く癖があるとみたの」

「お前よく見てるな?」

「いつも美咲さんはどうしてるの?」

「……ん~、大抵は両手広げて自分からハグを要求してくるか。じっと見てきて俺が両手を広げるのを待つかのどっちかだな。俺がしないとそのうち拗ね始めるから、俺も自主的に開くかな」

「明人君はどんな風にするの?」

「えっと、こんな感じ」

 俺は響に向かって、美咲にするみたいに両手を広げた。 

 すると、響が美咲と同じように胸に飛び込んできた。

「なるほど、確かに飛び込みたくなるわ。……それから美咲さんはどうするの?」


 俺の胸にぴったりくっついて、響は更に続きを求めた。


「俺の背中に手を回して……」

「こうね」


 響がそっと俺の背中に手を回す。


「そのまま胸に顔を埋めて……」

「こうね」

「額をすりすりと胸に擦り付けるかな」

「これは気持ちいいわ。それで明人君はどうするの?」

「……それからは、美咲がハグしてって言えば返すくらいか。最近は頭も撫でろとか言うようになったな」

「じゃあ、同じようにして」

「じゃあ、こうして」

 響の腰に片手を回してゆっくりと抱きしめる。

 響との密着度が高まり、響の心音が何となく分かる。

 随分と早く感じるけれど、実は響も緊張してるのかもしれない。

「こうだな」

 空いた片手で響の頭を優しく撫でる。


「……あ、これ駄目。ぞくぞくする」

「わ、悪い。止めた方がいいか?」

「……止めないで。……続けて」


 響は美咲と背格好が変わらないから、ハグと頭を撫でるのがしやすいな。

 なんか俺の体に回している手に力がぎゅうって入ってるのが分かる。

 力加減が美咲と全然違う。美咲の場合は合図的なものがあるから離れるタイミングも分かるんだよな。

 これいつ終わりだ?

 てか、段々響の息遣いが荒くなってきてるのは気のせいか?

 

「……響?」

「……はぁはぁ、駄目。明人君もう私駄目」

「何が?」

「押し倒していい?」

「はい?」


 響に袖を持たれたと分かったが、くるっと響の体を軸に位置が入れ替わる。

 今、どうやった?

 そのまま、俺に体重をかけてきて言葉通り、ベッドに押し倒してきた。

 俺の上に馬乗りなる響。

 響さん、浴衣の隙間から胸の谷間がすっごく見えてます。


「明人君、この状態で抱きしめて」

 響は俺の体に覆いかぶさり、そのまま俺に抱き着いてきた。

「ひ、響? そろそろ止めよう。もう朝飯だし、皆も起きてるし」

「駄目。こんなチャンス滅多にないんだから、ちゃんとさっきみたいに抱きしめて」

「これで終わりな?」

 ゆっくりとまた響の背中に手を回し、片方の手で頭も撫でる。

 響は心地よさそうな顔で俺の胸元に顔を埋めてすりすりしている。

 ときおり体をびくっと震わせて、小さく喘ぐような声を出す。


 駄目だ。これは完全に駄目だ。

 もう限界だ。


 響がぴくっと動きを止めた。

 響は太ももに違和感を感じたのだろう。

 

「……嬉しい。明人君も欲情してるのね?」


 ああ、とうとうばれた。

 これは恥ずかしすぎるぞ。


「ひ、響これ以上はまずい。止めよう」

「駄目。もうちょっとだけ」


 そう言って、俺の首筋に軽く吸い付く響。

 ちゅっと小さな音が耳に響くと同時にぞわぞわぞわとした感触が身を襲う。


「明人君可愛い」

 

 おいドSが出てるぞ。虐めるな。

 しかし、さっきから身動きが取れないのはどういうことだ。

 

「おい、響。何で俺は動けないんだ?」 

「私が極めてるからよ?」


 ああ、こいつ合気道ならってたんだった。

 そんな技もあんのかよ。

 

「もうちょっと堪能させてね。本当なら一つになりたいのだけれど、付き合ってもいないのに安売りはできないから」

「いや、もう充分です! これ以上はマジでやばいです。って言ってる傍から首筋吸うな!」

「待った甲斐があったわ。最近少し明人君とはマンネリ気味だったから」


 もうこれはマジで大声で叫ぶしか手がない!

 だが、叫ぼうかと大きく息を吸った瞬間、響が俺の体の上から身を離した。

 

「え?」

「残念だけど、もう時間切れね。流石にこれ以上は時間を掛けられないわ。明人君食事に行きましょう」

「え?」


 何、その変わり身の早さは一体何なの?


「はい。起きて」


 響はそっと手を差し出す。

 俺は身を起こしたが、立つことができずにいる。

 

「あら、ごめんなさい。気が利かなかったわね。今はちょっと立ち辛いわよね?」


 くそう、もう完全にばれてるだけに何も言えん。


「そうだ、私のお願いを聞いてくれた明人君にご褒美あげなくちゃ」

「ご褒美?」

「ええ、ご褒美♡」


 響はそっと俺の横に座る。

 

「明人君こっち向いて」


 またキスするつもりじゃないだろうな。

 警戒しながら横を向く。

 響は俺が完全に顔を向けたのを確認すると、浴衣の胸元を掴んでパッと広げて閉じた。


 ほんのちょっとだけだけど、そこには雪のような白い肌とたわわに実った果実が見えた。 


「はい、ご褒美終わり」


 …………今のって…………生おっぱいですよね!?


「今のをネタにしてもいいわよ。じゃあ、先に食堂に行くわね」


 そう言って響は部屋を出ていった。

 俺はというと収まる物が収まらない。


 頭の中で数学の公式をたくさん思い浮かべる。

 雑念を今の記憶を追い出すために。

 心の写真館にはしっかり額縁にでも入れて飾っておこう。

 とりあえず今は忘れないと。


 ようやく収まり部屋から出ようとドアを開けるとそこに響がいた。


「なんで一人にしてあげたのにしないの?」

「お前、聞き耳立ててんじゃねえよ!」

「嫌だわ。そういうつもりでここにいたんじゃないの」

「じゃあ、どういうつもりだよ」

「食堂はどう行けばいいのかしら?」


 お前、家の中でも迷うの?


 お読みいただきましてありがとうございます。

 次回もよろしくお願いします。

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