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帰路  作者: まるだまる
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336 慰安旅行編14

 春那さんと愛の頑張りに感謝して朝食をいただく。

 私服を着ているのは春那さんと愛と俺の三人だけであとは浴衣姿のままだ。

 

 食事中に響が、

「明人君がその服装で起こしに来て良かったわ。もし浴衣で来てたらとんでもないことになってたと思うの」


 とんでもないって、どんな目にあっていたんだろう? 


 それから太一に、

「太一君にお願いがあるんだけど。今日の夜、明人君の浴衣姿を撮って、撮ったあとすぐ私にそれを送ってほしいの」

「ああ、そんなんでいいならいいぞ。俺のは?」

「すぐに削除するけどいい?」

「ひでえ!」


 まあ、太一なので気にするのは止めよう。


 あのあと太一と長谷川はどこに消えてたんだろう。

 俺が起きた時は太一も部屋にいたし、長谷川も自分の部屋である涼子さんたちの部屋にいた。

 それにあの女子会もどうなったのか気になる。


 実はあれは夢だったと思いたいが、俺の部屋には俺が簀巻にされた証拠の品が揃っていた。

 響と晃が瞬殺されて床に伏してて、美咲は怯えて猫みたいに威嚇していたし。

 生き残っていたアリカと綾乃VS愛の勝負はどうなったのだろうか。

 起こして回ったときには、それぞれの部屋にいたから、ちゃんとお開きにはなったのだろう。

 

 しかし、昨日は敵対していた感じなのに、もう普段の関係に戻っている。

 一種のじゃれ合いみたいなものなのだろうか。

 だとしたら、人を瞬殺するような野蛮な遊びは止めてほしい。

 巻き込まれるのは大抵俺なので。


 ✫ 

 

 いよいよ二日目。ここらで前島さんの応援を本格化させたい。

 何処か二人きりになれるような場所がないか、学生メンバーで海岸付近を散策することにした。

まず、目指したのは海岸の北側にある小さな山。頂上まで三〇分ほどでたどり着ける小さな山だ。

 頂上には海神を祀る祠があると聞き、行ってみることにした。


 この山は海岸側からも道路側からも登れるようでそれぞれ頂上にたどり着けるらしい。

 俺たちは二手に分かれて登ることにした。

 

 俺、響、愛、アリカの四人は海側から。

 美咲、晃、太一、綾乃、長谷川の五人は道路側から登ることになった。 


 道路側から登ると傾斜が緩やかだが頂上まで距離があり、林道を通らなくてはならない。そこは結構薄暗いところらしい。

 逆に俺たちの海側は、まるで崖のようなところに石の階段があってそこから登る。結構傾斜もきついようだ。その分、頂上までの距離は短いようだが、この階段の長さを考えるとうんざりしそうだ。


「うーん。思ったより階段がきつそうか?」

「まあ、急いで登るわけじゃないし、いいんじゃない?」

「じゃんけんで負けた明人君のせいね」


 はい、すいません。

 美咲とじゃんけんして負けたのは俺です。


 ゆっくりと海を眼下に眺めながら登り始める。

 水面に太陽が反射してキラキラして眩しい。

 岩場に当たった波がざざーっと音を立てて引いていくのも見える。


 ロケーションとしてはいい感じだ。

 ただ、思ったよりも風が強く。あまり端にいると風に煽られそうで少し怖い。

 階段を登っている途中、踊り場のような広い場所に出た。


 ベンチも設置されていて、休むにはちょうどいい場所だ。

 ベンチに座ってみると、海が見渡せて、大小八つの島がよく見える。

 ここは撮影スポットとしてもいい感じだった。


 ついでに記念撮影することにした。


 アリカと愛、響のセットにして俺の携帯で撮影。

 そのあと、交互に色々な組み合わせで撮影を続けた。


 残念ながら、他に人がいないので、四人で一緒に撮るのは難しそうだ。

 するとアリカからベンチに集まるように言われた。


「明人はここ座って」

 アリカにベンチの真ん中に座るように言われた。

「愛は明人の右。響は左ね」

 ここぞとばかりに腕にくっついてくる二人。


 アリカは鞄から指示棒のようなものを取り出した。

 先には物を挟めるようなクリップが付いている。


「これ自撮り棒っていうやつ。この旅行で使うと思って買っといたの」

「また、そんな衝動買いして!」

「衝動買いじゃないし! 現に今使えるじゃん」

 

 アリカは自撮り棒に携帯を取付けると、棒の部分を伸ばす。

 おおよそ1mくらいまで伸びるようだ。

 

「これなら四人一緒に撮れるでしょ?」

「それはいいんだが、アリカはどこに?」

「あたしがこれを持ってるから前の方がいいよね。下からこうやって伸ばせば棒も写らないと思うし」


 アリカがしゃがみ込みカメラである携帯を見たまま後ろに下がってくる。

 キョロキョロと愛と響の位置を確認してうんうんと頷く。


「この位置ならいけるかも。三人ともフレームに入ってるし」


 確かに携帯の画面には俺たち三人の姿は見える。

 アリカは頭の天辺しか写っていないけれど。

 

「それはいいんだが、これはこれで微妙だと思うぞ?」

「なんで?」

「お前、自分を入れてないぞ」

「ありゃ?」


 アリカは色々試行錯誤するが、どうも決まらない。

 ポジション的にアリカが俺の膝上に乗れば収まるなと考え着いたのだけれど、この案を口にする勇気は俺になかった。もし言ったら、子ども扱いしたってアリカに殴られる気がする。

 

「あたしが一歩前に出れば」

「それ遠近法利用して自分の背の低さ隠そうとしてないか?」

「……ちっ」


 俺も提案してみる。


「俺がアリカを肩車ってのはどうだ?」 

「……何であたしがあんたに肩車されなくちゃいけないのよ。それに縦に伸びすぎでしょうが。逆にフレームに収まらないわよ。せっかく買ったのにこれ使いたいし、みんなで撮りたいし……」

 

 悩み始めたアリカを愛が後ろから抱き上げる。


「香ちゃんはここ」

  

 愛が示した案でアリカは愛の膝の上ということで解決した。

 撮り終ってから、何か納得できないといった顔をするアリカ。


「……この胸のモヤモヤは何だろう?」


 それは姉としてのプライドなのか、それとも高校生にもなって膝の上に抱かれたことへの悔しさか。

 まあ、とりあえず写真の中のお前は、ちゃんと笑っていたからいいんじゃないか?

 

 ✫


 写真撮影を終えて俺たちはまた階段を登り始めた。

 やっぱ階段きついな。それに時間が経つたびに段々暑くなってきた。

 さっきまで風があったのに、急に無風になったからだろう。

 遮蔽物がないだけに、日差しがちりちりと肌を焦がすようだ。


「もうそろそろ着くかしら?」


 登っていると響が頂上へと続く階段を見上げながら言った。  

 パッと見だけでも二〇段以上残ってる。   


「……あの、愛はそろそろ死にそうなんですけど」

「思ったよりここの階段きついわね。さっきの写真撮ったところまでならマシだったけど」

「そうだな。二人きりになるのにさっきの場所から上は駄目だな。こっちルートは没にしよう」 


 それからようやく頂上にたどり着いた。

 道路側から林道を抜けて登ってきていた美咲たちはすでに到着していて、俺たちを待っていた。

 ベンチに座っていたのは晃と美咲、長谷川。

 太一と綾乃がいないけど、どこ行った?


「あ、やっときた。遅かったね?」

「ごめんごめん。途中で休憩できる場所があって、そこで記念撮影してたんだよ」

「あー、ずるい。私もアリカちゃんと一緒に撮る!」


 へばりつこうとする美咲から逃げるアリカ。

 お前、元気だな?


「そっちはどうだった?」

「道自体は歩きやすかったけど、ここに来るまで特に何もなかったよ」


 晃が教えてくれた。

 うーん、目ぼしいものはこの祠だけか。


 俺たちがいる場所から少し上がったところの開けた場所に、海の方向に面した祠があった。

 祠自体1mにも満たない、思った以上に小さな祠だった。


 周りを見ても、祠から少し下ったところに石碑のようなものや、美咲たちが座っていた大人が三人くらい座れそうなベンチがいくつか、他にあると言えば小さなトイレくらいだ。


 祠まで近づいて祠を背にして海を見てみると、ここからも八つの島がよく見える。

 この祠が八つの島を見守っているように思えた。

 きっとそういう神様が祀られているのだろう。

 

 夕日が沈む頃なんかは、良い雰囲気になりそうだけれど、どちらかというと林道を使った肝試しに向いているような気がする。 


「長谷川、太一と綾乃ちゃんは?」

「千葉ちゃんたちなら待ってる間に林の中に入っていったよ?」


 あいつら何やってるんだ?


 しばらくして、太一と綾乃が戻ってきた。

 手にカブトムシを捕まえて。

 それは光沢を帯びた黒茶色の体に、立派な角を生やしたオスのカブトムシだった。

 へー、こんな小さな山でもいるもんなんだ。


「探したらいるもんだな。木の穴の中を覗いてみたら中にいたわ」

「木の上にリスっぽいのもいましたよ」

「これがカブトムシ……生で初めて見たわ」


 響が興味を持ったようだ。

 響は知識はあるが、実体験や遊びの経験が少ない。

 俺たちとの付き合いの中で、そういった経験を増やしてほしいものだ。 

 

「このカブトムシって随分と小さいのね」

「その言い方だと他のは見たことあるのか?」

 

 聞くと、響は手でこれくらいと大きさを示しながら。


「以前、おじい様が飼っていたヘラクレスオオカブトなら見せてもらったことがあるの」 

 

 なにそれ、羨ましい。俺も生で見たい。

 

 アリカと響が興味津々でカブトムシを見る中、カブトムシから距離を置いた奴らがいる。

 愛と晃は虫が苦手なようで近づこうともしない。

 美咲は興味があるようだけれど、少しだけ距離を開けて見ている。

 

 その中で思いっきり離れすぎだろって言うぐらい距離を取る長谷川。 

 それを見た太一は顔をにやつかせながらカブトムシを持ったまま長谷川へと近づく。 

 長谷川は両手を前に出して太一が近寄ってくるのを阻止しようとする。


「千葉ちゃん? それは良くない考えだと思うの」

「何がだよ? せっかく捕まえたから長谷川にも見せてやろうと思ったんじゃないか」

「気持ちは嬉しいけどね。もうそこで十分だから」

「ちゃんと手に取って――」


 と、言いながら長谷川に向かってダッシュで駆け寄る太一。

 同時に、太一の動きを読んでいたのか長谷川もダッシュで逃げる。


「来ないでって言ってるでしょ! いやああああああああっ」


 必死な形相で逃げ回る長谷川を執拗に追いかける太一だった。


「ほほほ~れ、ほれほ~れ」

「いやああっ、馬鹿、こっち来ないでってば!」


 そんな二人の姿を見て愛はまたまたニヤニヤしていた。

  

 

「来るなって言ってるでしょうが!」

「あがっ!」


 振り向きざまの回し蹴りで太一を一撃で倒した長谷川。

 綾乃ばりの格闘センスだ。意外と潜在能力は高いのかもしれない。

 

 太一は倒された拍子にカブトムシを離してしまい、カブトムシは今がチャンスとばかりに逃げてしまった。 

 

 追いかけられた長谷川は、お仕置きとばかりに太一を足蹴にする。


「このっ、このっ、このっ!」

「いたい。いたいいたい。ごめんって、俺が悪かったって」


 長谷川は相変わらず、太一に容赦ないらしい。

 気が付けば、何故か一緒になって綾乃も足蹴りに参加していた。

 いつもなら太一を足蹴にするのは綾乃のポジションだったから、何となく蹴りたくなったんだろう。

 

 

 太一へお仕置きが落ち着いたところで、祠の周りに集まり、みんなと記念撮影。

 撮影の前後にアリカが祠へ手を合わしていた。

 意外と信心深いのか? 


「ふふふ、これで写真に変なものが写らないはず」


 心霊写真対策だったのか。

 アリカはお化けとかホラー物とか一切駄目だもんな。


 愛から聞いた話だと、レンタルDVDショップに行っても、ホラーコーナーには一歩も近づかないらしい。一緒に行ってホラー物を借りようとすると、棚に戻すかその場で半殺しにあうかの選択をさせられるそうだ。相当、苦手なんだな。皆で一緒に行った遊園地でもホラーハウス出たあとに泣いてたしな。


「もうこれで大丈夫……大丈夫。……大丈夫だよね?」


 祠をちらっと見ながら言うアリカ。神様信じろよ。

 そんな態度のアリカが可愛いなあと思って、アリカの頭を撫で繰り回す。


「……明人、なんであんたがあたしの頭を撫でてるのか、理由が分からないんだけど?」

「お前、可愛いなあ」

「素直に喜べない気がするのはなんでかしら? それ、子供扱いしてない?」

「してない、してない。素直に受け止め――げふっ!?」


 左右の両わき腹に深々と刺さる手刀。

 もう感触で誰の手か分かるようになってきたな。

 右は響で、左は美咲だな。


「今のは聞き間違いかしら? アリカの事……可愛いって……言った?」

「あははは。明人君は誰の許可をもらってアリカちゃんを口説こうとしてるのかな?」

「私には可愛いとか言ってくれないわよね?」


 完全に油断していた。

 俺のすぐ近くには狩人たちがいたのに。

 

 太一の次は、俺がやられるターンだったか。

 

 お読みいただきましてありがとうございます。

 次回もよろしくお願いします。

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