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帰路  作者: まるだまる
337/406

333 慰安旅行編11

 太一はひとしきり話し終えると、ふうと大きな息をついた。


「この話すんのはかなり悩んだんだぜ?」


 太一が夢溢れるサッカー少年だったこと。

 中学時代の嫌な思い出。

 暴力からかばってくれた先輩の仇討ちとサッカーへの決別。

 

 孤立した一年。


 長谷川との出会いと交流。

 助けてくれた先輩への償い。

 先輩の願いを叶えるために今の生きざまを選んだ。


 これが太一の身に起きたことなのか?

 そうだとしたら、俺は太一を誤解していたことになる。


 ちゃらんぽらんで、遊んでばかりいて、人に気遣い、誰とでも仲がいい。

 俺が知ってる太一はそう言った男だった。


「綾乃が言ってたのも本当だ。中学3年の頃は長谷川が家に帰ったあと、家に居づらくてな、それも自業自得なんだけど。家族がこんな俺にすんげえ気を遣っているのが分かっちまったんだ。んで、家から出てブラブラして、たまに全然知らないやつと喧嘩もしてた。ぼこぼこに負けたこともあるぞ。あいつらやれたから俺は強いって勘違いしてたからな。上には上がいるってね」

 

 本当に馬鹿だった、そう太一は呟く。

 空っぽという言葉があれほど似合う時期はなかったそうだ。

 サッカーへの思いを自ら捨ててできた穴。

 それはとてつもなく大きな穴だったようだ。


 その穴を埋めてくれたのが長谷川。 

 あいつには感謝してもし足りないと太一は言う。

 幼馴染である先輩の頼みだったからって行動に移したのは長谷川だ。

 その時の太一の状況を思うに相当勇気がいったことだと思う。


「喧嘩した次の日にゃ、長谷川にこれでもかってくらい怒られまくった。今でもあいつと一緒にたまに先輩に会いに行くんだけどさ。ひどいんだぜ? 俺の悪口ばっかり言いやがる。相変わらず頭が悪いだの、エロい視線を女子に向けてるだの、体育とか完全に手抜きしてるとかよ、昔ほど鍛えてねえっつの」


 何だろうか、太一が長谷川のことを話すたびに強烈な違和感を感じる。

 俺はこの感情を知ってる。多分、直感で理解してる。

 でも、それは以前聞いた太一の言葉と矛盾する答えだ。


「……その顔は何かに気付いたって顔だな。まあ、もう今更だ。……俺はお前に嘘をついていることがいくつかある」  

「……嘘ってなんだ?」


「お前も薄々感づいてるだろ? 一つは俺が愛ちゃんを好きだって言ったことだ。だけど、最初っから嘘ってわけでもねえ。惹かれたのは本当の話だし、実際に可愛いとも思ってる。あんな子が彼女だったらいいなと思う。でもな、やっぱ違ったんだわ。好きの度合いが違ったんだ。俺は愛ちゃんのこと、人として好きなだけだった」


「何でそんな嘘言ったんだ?」


 太一はばふんとベッドに身を投げ出して天井を見上げる。


「羨ましかったんだろうな。……あと、お前がもてて悔しかったかな? お前ら見てるとなんか眩しくて……俺もその場所へ行きたかったって感じでよ。愛ちゃんとなら、そんな関係ができるんじゃないかって期待しちまった」


 俺の中での矛盾は瓦解した。

 そうなると、俺が今感じたものが太一の本音なのか?

 

「……太一、お前は長谷川のことが好きなのか?」


「それは人としてか?」


「いや、……恋愛対象として」


 それを聞いて太一はいつもみたいな幼さを残したような笑顔を返してきた。


「確かに恋愛対象として好きだったけど、駄目だった」


「駄目だったって、言ったのか?」


「いいや、言ってねえ。気付くのも遅かったし、言う前にあいつの好きな相手が分かっちまったからな」


「長谷川に好きな奴がいたのか?」


 でも、そう考えると何で太一の面倒をずっと見てきた?

 好きな相手がいるのに……。


「何で好きな奴がいるのに俺の相手をしてたかって気になってるだろ。昔のお前と違って、今はすぐに顔に出るの気が付いていないだろ。まあ、いい傾向なんだけどな」


「はぐらかすな。そこまで分かってんなら、ちゃんと言え」


「長谷川の好きな相手って、俺をかばって怪我した先輩なんだよ。好きな相手からの頼みだ。長谷川が勇気出して俺に近づいたのも分かるってもんだ……。それに気付いたから言えずじまいで俺の恋は終わった」


 太一はそれに気付いたから、長谷川を諦めたのか。

 でも、今までの太一の話を聞いていても……


「そのとおりだよ。困ったことにまだ諦めきれてねえんだな、これが。愛ちゃんが俺の中で浮上したときは忘れられるかもって期待があったんだが駄目だった。こればっかりはしょうがねえって思ってる。あいつを困らせたくない。あいつと一生友達でいるために少しずつ消化する」


「それでいいのか?」


 いいんだよ、と太一は笑って言った。

 

「もう一つ嘘ついてたっていうか、今まであんまり言わなかったことな。俺が学校に残ってる理由だ。あれは長谷川と活動するためだ。お互い依頼ごととか仲裁とかあっちこっちでしててな。協力して処理してたんだよ。幸い、お前はバイトがあるからってすぐに学校から帰ってたからな。その分、俺らは早く合流してそれぞれ処理することを話し合うことができた。お前の耳に入らないように、なるべく一緒の行動は避けて動いてたから、他の奴が見ても俺が一人でうろついてるようにも見えただろうな」


 二年に進級したとき同じクラスになったのに、太一は長谷川と話ししているのをあまり見たことがない。

 これにも理由があってその理由が俺だった。


「お前を学校で一人にしたら駄目だって、俺と長谷川は判断したんだよ」

 

 進級したばかりの頃は、まだ俺が危うい状態で、そんな状態の時に俺たちの間に長谷川が介入すると築き上げたものが無に帰ると判断したらしい。だから二人で話をして、俺の前では必要最低限の話以外しないようにしていたそうだ。

 

「長谷川と俺が今みたいな感じで一緒にいたら、お前が離れていくだろうって思ったんだよ。だから、俺らは時期を待った」


 しばらく様子を見た結果、太一は俺の状況が大きく改善されていると見て、長谷川の介入を検討していた。

 タイミングを窺っていた時にイベントと絶好の機会が重なった。

 川上が俺に平手したときがそうだったようで、太一と長谷川はそのタイミングを逃さず、今のグループで校外学習の班となり、今では仲良しグループとして完成した。

 一石二鳥どころじゃないくらいの多重の成果だったらしい。

 


「お前ら、なんでそこまでできるんだ?」


「変われるって信じてるからだよ。まあ、俺の場合は自分自身の体験があるから信じれるんだけどな」


「なんで俺だったんだ? 他にはいなかったってことか?」


「たまたまだ。俺が見つけたのがたまたまお前だったってだけだ。他にもポツポツいるぜ? まあ、長谷川がほとんど処理したけどな。それにまだ、俺らが見つけられないだけで他にもいるかもしれねえ」


「そんな人の気苦労とかトラウマとか、背負い込むことにお前らに何か得することってあるのか?」


「見返りなんか求めてねえよ。困ったことが解消されたら、一緒に「よかった」って笑えたらそれでいい」


「利用されたりしないのか?」


「おいおい、俺と長谷川を甘く見るなよ? 嘘とか悪だくみとか通用しないから。協力や助力は惜しまねえが利用、悪用はされねえよ。相手の顔見れば、俺らを利用しようって企みはすぐ分かんだよ。言っとくけど長谷川は俺より悪意の察知が早えし、それに疑り深いぞ?」


「そうなのか?」


「ほら、俺が生徒会の手伝いしただろ? あれも長谷川が会長らの真意を確かめるつもりで着いてきてたんだよ。俺が頻繁に手伝いしてたもんだから、俺を利用してるだけかもしれないって疑ってたからな。まあ、誤解は解けたけど」


「なんか長谷川のイメージと全然つながらないんだけど」


 正直な感想を言ってみた。

 

「あいつは嘘つきだからな。俺が知る中じゃ一番の嘘つきはあいつだ」

 

 そう太一が言いきったあと、コンコンと誰かが部屋のドアを外からノックした。


「――いったん話は中断だ。何か聞きたいことがあったらあとで言え。今更もう隠し事はしないからよ」


 そう言って太一は「はいはーい、夜這いですかー?」とお調子者らしい声を上げながらドアを開けた。


「長谷川!? お前、何しに来てんの?」


「千葉ちゃん、助けて。……あれ、私じゃ無理」


 太一の相棒、長谷川は涙ぐみながら太一に訴えた。


 ★


 長谷川から救援要請を受けて、俺と太一はアリカたちの部屋へ向かった

 学生メンバーの女子たちは、他の部屋よりも少し広いアリカたちの部屋に集合していた。


 何がどうしてこうなった?


 まず響が床にうつぶせに倒れている。この時点でおかしい。 

 それと晃も床に倒れてる。

 こいつを倒せるのって、この中にいるのか?


 他のメンバーの綾乃とアリカが、愛を相手にお互いギリギリまで顔を近づけ合って威嚇しあっている。

 一触即発な雰囲気にすんごい怖いんですけど。

  

 美咲は部屋の隅っこで一人布団にくるまってじーっとこっちの様子を窺っている。

 ちょっと近づいたら猫みたいに威嚇された。

 どうやら興奮しているようだ。

 

 

「……長谷川、状況を説明してくれ」


「えーと、女子会の乗りで集まったんだけど。そのうち胸の話題になりまして」


 あー、この組み合わせはつるぺたチームとボインチームか。

 ああ、確かにそうだな。


「それで、愛ちゃんと響さんと私が……まあ、大きいチームで、向こう側がその……寂しいというか、ひっ!?」


 アリカ、綾乃が長谷川に向かってぎろりと睨む。

 寂しいって言ったら駄目だろ。


「……控えめなチームになったわけなんだけど、美咲さんがどっちに属するかで揉めてしまいまして、取り合いが始まって、そしたら美咲さんが急にああいう状態になっちゃって」


 まだ猫みたいに威嚇している美咲を指差す。

 多分こいつらが怖い顔して迫ってきたんだろう。

 怖かったんだな。相当、怖かったんだろうな。

 

「それから論議をしていたんだけど、響さんが……自分の胸をさらけ出して……「これがおっぱいって言うの。あなた方のはちっぱい」って言った瞬間、あの三人に瞬殺されて……」


 誰に毒されたか見当は付くが、響も変なことを覚え始めたな。

 しかし晃、アリカ、綾乃の三人がかりか。

 単体ではスペックが響が上とはいえ、流石に瞬殺されるか。

 

「響さんをやられて、愛ちゃんが怒っちゃって晃さんを瞬殺したの」

 

 晃をやったのは愛なのか……。

 あの子の潜在能力って未知数なだけにあり得るか。

 能力全開だと響を上回るって、響自身に言わせるくらいだしな。


 それで、にらみ合いが始まって、止められないと判断した長谷川は助けを求めてきたのか。

 

 あのな、俺と太一はすんごい真面目な話をしてたんだよ。

 つまんないことで呼び出すな。


「明人さん! 正直に言ってもらっていいですか?」


 愛が怒った顔でずんずんと近づいてきて言った。


「胸は大きい方がいいですよね?」


 あれ、どうしよう。これ完全に詰んだんじゃね?


 ふと横を見ると、一緒にいたはずの長谷川と太一の姿が既に部屋の中にない。

 あいつら逃げやがった!?


 どうしよう。


 アリカと綾乃がどこかの戦闘民族みたいに闘気をまとっているように見えるし。

 愛は愛で自分の胸を下から持ち上げて、「ほら、これですよね」と激しく主張。

 

 いっそ、俺も瞬殺してもらっていいですか?   

 お読みいただきましてありがとうございます。

 次回もよろしくお願いします。

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